公認心理師 2022-39

ACTの説明になっていない選択肢を選ぶ問題です。

過去問の解説がそのまま使えましたね。

出題の可能性が予期できる内容でしたし、ぜひ取っておきたい問題と言えるでしょう。

問39 アクセプタンス&コミットメント・セラピー〈ACT〉の説明として、誤っているものを1つ選べ。
① 第3世代の行動療法と呼ばれる。
② 「今、この瞬間」との接触を強調する。
③ 心理的柔軟性を促進させることを目指す。
④ 理論的背景として対人関係理論に基づいている。
⑤ 価値に基づいた行動を積み重ねていくことを重視する。

関連する過去問

公認心理師 2021-96

解答のポイント

ACTについて大まかに把握している。

選択肢の解説

① 第3世代の行動療法と呼ばれる。
② 「今、この瞬間」との接触を強調する。
③ 心理的柔軟性を促進させることを目指す。
⑤ 価値に基づいた行動を積み重ねていくことを重視する。

これらはすべてACTの説明になっています。

ACTは第三世代の行動療法の一つであり、マインドフルネスを活用した行動療法の総称となります。

公認心理師 2021-96」で解説してある内容で、ここで挙げた選択肢の説明が可能なので転記しておきます。

クライエントが豊かで充実した意義のある人生を送るために、避けられない苦痛は受け容れながら、自らの人生を進められるよう援助するセラピーがACT(アクト)になります。

ACTは、行動分析学や関係フレーム理論(ざっくり言えば「実際経験していないのに、学習が成立することを説明する理論」のこと)を理論的基盤として、スキナーの徹底的行動主義を再検討し、機能的・文脈的要素を強調したものとして、Hayesによって提唱されました。

Hayesらが提唱した言語行動の行動分析理論に基づいて、行動活性化とアクセプタンスを並立させており、個人的な印象としてはマインドフルネスの宗教的な要素をできる限り除いた感じがします。

「思考はコントロールできないが、行動はコントロールできる」という立場を取っており、他の第三世代の行動療法のやり方の中で、いちばん行動に焦点を当てている感じがありますね。

ACTはプラセボや、不安症やうつ病、依存症に対する一般的な治療よりも優れていると報告されていますが、まだ比較的新しいアプローチなので、現時点ではそうした効果に関する研究を集約している段階という感じもしますね。

ACTの「アクセプタンス」と「コミットメント」について少し触れておきましょう。

ACTでは、「問題・苦悩・ネガティブな感情」は生きている以上あって当たり前であり、それらを解決・管理・対処することを手放し受け入れる(アクセプタンス)ことが重要で、その姿勢こそが変化へのパワーを生む、と考えます。

また、苦悩・問題を抱えたままでも「高次の価値」「自分が人生で本当に実現したいこと」を発見・強化・行動していく「コミットメント」の姿勢を持つことで幸福になれる、と考えるのがACTの立場です。

ACTでは、人間は言語を使用するが故に、悩みや不安などの心理的苦痛を抱えることは当然であるが、そのような苦痛をなくそうとコントロールしすぎることによって問題に発展すると考えます。

そして、人間の機能と適応に関する統合的なモデルとして、心理的柔軟性モデルが採用されており、これは、心理的な健康は「今この瞬間への柔軟な注意」「価値」「コミットされた行為」「文脈としての自己」「脱フュージョン」「アクセプタンス」という6つのコア・プロセスによって心理的柔軟性が生じた状態であるとされます。

それぞれは以下の通りです。

  1. 今この瞬間への柔軟な注意:「いま、ここ」に注意を向ける
  2. 価値:自分にとって一番大切なことを明らかにする
  3. コミットされた行為:価値に従った目標をセッティングし、確実に実行する
  4. 文脈としての自己:超越的な自己の感覚とつながる
  5. 脱フュージョン:思考やイメージ、記憶を「本物である」と思い込んでしまう傾向を低減する方略を学ぶ
  6. アクセプタンス:望ましくない私的経験(思考、感覚、衝動)でも追い払おうとせず、やってきて去っていくままにする

ACTにおいて精神病理は、これら6つが適切に機能していない(非柔軟な注意、価値の混乱、行為の欠如または衝動性、概念としての自己に対する執着、認知的フュージョン、体験の回避)心理的非柔軟性が生じた状態と見なします。

特に、言語の字義通りの内容に囚われ、頭の中で生じる不快な思考や感情に巻き込まれる「認知的フュージョン」と、それらとの接触を拒み、コントロールしようともがく「体験の回避」が精神病理の中核とされています。

ACTは、心理的に柔軟でない状態のクライエントに対して、アクセプタンスとマインドフルネスのプロセス、そしてコミットメントと行動活性化のプロセスを用いて、心理的柔軟性を生み出すことを目指します。

その際、巻き込まれている思考や感情の内容を言語的に検討するのではなく、メタファや体験的エクササイズを通して、思考や感情の行動への影響力を弱め、「今ここ」での体験に触れることで、実際の環境に合わせて柔軟に行動できるように援助するアプローチと言えます。

以上のように、ここで挙げた選択肢はACTの説明として正しいものであることがわかります。

よって、選択肢①~選択肢③および選択肢⑤は正しいと判断でき、除外することになります。

④ 理論的背景として対人関係理論に基づいている。

ハリー・スタック・サリヴァンの対人関係理論に基づいているのは「対人関係療法」になりますね。

対人関係療法は、KlermanやWeissmanらによって1960年代末から実施されてきた治療法のことで、重要な他者との現在の関係に焦点を当てて、症状と対人関係問題の関連性を理解し、その問題への対処法を見つけることで、症状に対処できるようになることを目指します。

これは、重度の非妄想性うつ状態と診断された成人に対する外来治療法として開発された短期の心理療法であり、ハリー・スタック・サリヴァンの精神医学における対人関係理論に由来します。

多くの実験的研究により、対人関係療法がうつに有効だと示されています。

本来は成人の個人療法として開発されましたが、若年成人や老年期、双極性障害・過食症・産後うつ・夫婦カウンセリングなどにも使用できるように修正を加えられてきています。

対人関係療法は精神力動理論に基礎を持つが、短期であること、そして課題・構造化面接・評価ツールを用いるという点において、現代の認知行動学的方法も用いています。

対人関係療法では、うつ病をはじめとする精神疾患や精神症状の原因は多様であるという前提のもと、困難の「原因」や「背景」については解釈を行わず、「解決」に焦点を当てて治療を始めます。

実用性を最重視し、相談者の対人関係を読み解いたり解釈したりすることは、症状の改善や再発予防につながる現実的なスキルが生み出されると思われる場合にのみ許容されます。

対人関係療法の特徴としては、技法ではなく戦略を重視すること、クライエントのパーソナリティ・認知・内的世界は認識するが治療焦点とはしないこと、現在の具体的な対人関係に取り組むこと、「解決」に焦点化すること、期間限定であること、などが挙げられます。

治療プロセスの初期段階では、病歴の聴取や診断、投薬の必要性の評価などに加えて、クライエントに「病者の役割」を与え(問題が生じているのは自分のせいではなく病気のせいであり、解決のためには本人の対処が必要であるという基本的理解を共有する)、対人関係における4つの問題領域と症状に関連付けます。

4つの問題領域とは、悲哀(重要な他者の他界)、対人関係上の役割を巡る不和(クライエントと重要な他者が互いの役割に対して抱いている期待のずれ)、役割の変化(役割の変化を伴うような生活上の変化やライフイベント)、そして対人関係の欠如(他の3つの問題領域に全く当てはまらない場合)になります。

対人関係フォーミュレーションを通して、症状と特に強く関連する主な領域を選択し、治療で扱う問題領域と治療目標についてクライエントと治療契約を結びます。

その後、非指示的探索、感情の励まし、明確化、コミュニケーション分析、決定分析、ロールプレイ、治療関係の利用などの技法を用いて、症状に対処する方法を獲得し、再発予防のために話し合います。

これらの治療プロセス全体を通して、セラピストは対人関係問題領域に焦点を当て続けつつも、クライエントの代弁者としての温かい立場を保ち、共同作業を進めていくことが求められます。

上記の通り、対人関係療法は、重度の非妄想性うつ状態と診断された成人に対する外来治療法として開発された短期の心理療法であり、ハリー・スタック・サリヴァンの精神医学における対人関係理論に由来します。

以上より、選択肢④がACTの説明として誤っており、こちらを選択することになります。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です