公認心理師 2022-18

心理療法・技法の特徴を踏まえ、説明文に該当するものを選択する問題です。

忘れた頃に森田療法がやってきますね。

問18 自分自身で一定の手順に従い、段階的に練習を進めることによって、心身の機能を調整する方法として、最も適切なものを1つ選べ。
① 森田療法
② 自律訓練法
③ シェイピング
④ スモールステップ
⑤ セルフ・モニタリング

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解答のポイント

各心理療法・技法の特徴を理解している。

選択肢の解説

① 森田療法

森田療法は、精神科医の森田正馬(1874-1938)により、20世紀初頭に考案された、もとは森田神経質を対象とした日本独自の心理療法です。

森田神経質とは、自己内省的・完全主義的な傾向に加え、よりよく生きたいという生の欲望を有する、生得的・先天的な素質としてのヒポコンドリー性基調(神経質で心気的な素質)に、環境要因が加わり、心身の感覚や情緒的反応に注意が集まる傾向です。

そして注意が集まるほど、心身の感覚や情緒的反応が強く感じられ、悪循環(これを精神交互作用と呼びます)が起こり、この状態を「森田神経質」と呼び、森田療法の主な治療対象とされました。

森田療法の入院治療は以下の4段階で進められます。

  1. 絶対臥褥期:
    4日から1週間、患者を個室に隔離し、食事、排便以外はとにかく何もせずに徹底的に横になっていることを命ぜられる。
    この目的は臥褥中の精神状態を診断の補助とするだけでなく、安静によって心身の疲労を調整する。また患者は、横になっていると浮かんでくる様々な考えや感情に対して、なるべくそのままにして、あるがままに受け入れることが求められる。
  2. 軽作業期:
    1~2週間、隔離は持続し、対人的な交流は禁じられるが、臥褥は7~8時間に制限され、それ以外の時間は起床する。昼間は必ず戸外に出て空気と日光に触れるが、無意味に散歩する、体操をするなど、気分を紛らわすことなどはやらない。
  3. 作業期:
    1週間程度で、庭造り、大工仕事、手芸など、やや重い作業を行うが、対人交流は禁止される。
  4. 社会復帰期:
    1~2週間の生活訓練が行われ、必要に応じて外出もする。複雑な実生活をすることになるため、時には病院から学校や職場に通うこともあり、退院準備期間でもある。

なお、原法では全治療期間は40日間とされていますが、症状の軽重によって変化します。

最近では、2~3か月を適当とすることも多く、それ以上に及ぶこともあります。

症状の原因や理論を追求しないという不問性を特徴とした治療の中で、患者の注意は症状そのものから、今ここにある現実へと移り、「あるがまま」という心理的な構えで物事に向き合うようになっていきます。

森田療法における「あるがまま」とは、気分や感情にとらわれず、今自分がやるべき事を実行していく、目的本意の姿勢を示しています。

「今日は気分が悪いから、気分が晴れてからにしよう」「不安だから会社や学校に行けない」「この不安さえなければ良いのに」など、神経症者が陥りがちな逃避行動やその姿勢を戒めたものです。

すなわち、気分や感情は、天気と同じように自分でコントロールできるものではなく、時間が経つと自然に落ち着いてくるものと捉えます。

よって森田療法では、神経症者は、不安な感情や症状はそのままにして、今日すべき仕事や目の前にある家事などを気分や感情にとらわれずに、目的本意で行うということが「あるがまま」の姿勢だとされています。

森田療法は現在、外来療法や、日記・通信療法、自助グループの発展という応用範囲の広がりを見せ、治療対象も森田神経質に留まらず、多くの対象領域へ適用が見られます。

上記を踏まえると、森田療法は「一定の手順に従い、段階的に練習を進める」と言えなくもないのですが、そこに治療者の介在は前提とされているため「自分自身で」という点は当てはまらないと考えられます。

また、森田療法は「心身の機能を調整する方法」と限定されるわけではなく、古くは「森田神経質」の改善を目指したものであり、現在では治療対象が広がって入るものの「森田神経質っぽい人である」という前提はそれほど薄れていないだろうと思います。

ですから「自己内省的・完全主義的な傾向に加え、よりよく生きたいという生の欲望を有する、生得的・先天的な素質としてのヒポコンドリー性基調(神経質で心気的な素質)に、環境要因が加わり、心身の感覚や情緒的反応に注意が集まる傾向」を対象の基本にしつつ、治療の選択肢として考えていくことが重要ですね。

以上より、森田療法は本問の「自分自身で一定の手順に従い、段階的に練習を進めることによって、心身の機能を調整する方法」には当てはまらないと言えます。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② 自律訓練法

自律訓練法は、ドイツの神経科医シュルツによって開発された、心身の機能の自律的な調整を促進するためのトレーニング法です。

19世紀末の自己催眠を活用したフォクトの予防的休息法が基礎となっており、疾患の治療法としてだけでなく、心身のコンディションを整える健康増進法や能力開発法とし、スポーツ・教育・産業などの領域でも広く活用されています。

基本となる標準練習と、各個人に応じた言語公式を用いる自律性修正法、イメージ想起を活用する黙想練習、自己の内的世界を言語表出する自律性中和法などから成り立っています。

これらの技法には、能動的な制御をせずに自己を観察(自己モニタリング)することを通して、心身の機能の自律的な正常化を促進するという共通点があります。

基本となる標準練習は、安静練習、四肢重感練習、四肢温感練習、心臓調整練習、呼吸調整練習、腹部温感練習、額部涼感練習の7段階からなりますが、特に、腕や脚の筋肉が弛緩した感覚をモニタリングする四肢重感練習と、末梢の血液循環が良くなって手足が暖かくなった感覚をモニタリングする四肢温感練習が基盤となり、この2つの練習には適用上の制限が少なく、不安や緊張の軽減に効果があります(ちなみに訓練は一つずつ行っていくのが基本です)。

以下のような自己暗示の言葉を使っていきます。

 第1公式(四肢の重感):手足が重たい
 第2公式(四肢の温感):手足が温かい
 第3公式(心臓調整) :心臓が静かに打っている
 第4公式(呼吸調整) :楽に呼吸している
 第5公式(腹部温感) :お腹が温かい
 第6公式(額涼感)  :額が心地よく涼しい

なお、疾病によっては公式を省くこともあり得ます(心臓疾患は3を省く等)。

練習を通して心身共に深い休息状態が得られ、機能の調整と回復が促進されるので、心身医学的治療法として緊張性頭痛、本態性高血圧、睡眠障害や疼痛、不安などの慢性的な症状の緩和に用いられます。

また、特定の疾患に限らず、予防やQOLの向上などを目的とした適用が可能です。

標準練習の具体的なやり方は、まず、楽な姿勢で椅子に座り(ベッドに寝る場合もある)、目を閉じて身体感覚に注意をむけます。

四肢の練習であれば、段階を追って「腕が重たい」「脚が温かい」などの公式と呼ばれる短文を心の中で繰り返しながら、腕や脚の感覚を順にモニタリングしていきます。

その際に大切なのは、自然に心身の状態の変化が生じるのを待つ受動的態度を保つことです。

このようなリラックスした態度で注意を向けるやり方を「受動的注意」と呼びます。

練習は一度に長く続けず、1~2分経ったら消去動作と呼ばれる軽運動を行って目を開けることを2、3回繰り返します。

毎日練習を継続すると、数週間で四肢の重感や温感が得られるようになります。

練習をつけて実施者本人や指導者が経過を確認することが重要であり、集団での実施も可能です。

以上を踏まえると、「一定の手順に従い、段階的に練習を進める」という点は明確に当てはまることがわかりますね(7段階を一つずつやっていく)。

また、目的として「心身の機能を調整する」というのも該当し、そのための方法であることが明示されています。

もしかしたら引っかかる人がいるとすれば「自分自身で」というポイントかもしれませんが、自律訓練法は「自分自身で行う」のが前提であり、その記録についてカウンセラー等が確認することはあるかもしれませんが、それは確認のみであり、実施自体は当人が行うものです。

そもそも「自律」訓練法なわけですから、その実施も「自律的」に行っていかねば論理矛盾が生じるのはわかりますね。

カウンセリングの中で方法の適否を見立て、良い効果が得られると見なすことができれば自律訓練法のやり方を説明し(最初はカウンセリング内で実践することもあり得る)、日常生活の中で実践してもらうことになります。

以上より、自律訓練法は本問の「自分自身で一定の手順に従い、段階的に練習を進めることによって、心身の機能を調整する方法」に当てはまると言えますね。

よって、選択肢②が適切と判断できます。

③ シェイピング
④ スモールステップ

シェイピングとは、複雑で新しい行動を獲得させるために、標的行動を小段階(=スモールステップ)に分けて達成が容易なものから順に形成していく方法です。

オペラント条件づけでは、対象にある反応が見られたときに報酬を与えて「強化」をしていき、条件刺激と条件反応の連合を強めていきます(スキナーの提唱したプログラム学習の基礎をなすのがシェイピングです)。

ただ、目標行動が複雑な場合、そうした行動が一度に生起されることが期待しにくくなります。

例えば、イヌに「三回まわってワン」を覚えさせたいときに、その行動が自然環境下で一度に生じることは非常に少ないわけです(生起頻度が少ないと強化できないので学習が成立しなくなる)。

ですから、そういう時に「1回まわる」→報酬で強化→「2回まわる」→報酬で強化→…→「吠える」→強化、といった具合の手順を踏むわけですね(言い換えれば、生起頻度が高い・容易なものから強化していくわけですが、これが「スモールステップ」と称されるわけですね)。

このようにシェイピングでは、通常は最初に単純な反応が要求され、その反応をより複雑で洗練されたものにしていくために、強化の基準を徐々に厳しく変化させていきます(それを可能にするために、小さい段階(スモールステップ)を積み重ねていくわけです)。

強化の操作を重視し、行動それ自体を変化させていく過程と言えますね。

シェイピングを成功させるための留意点として、①標的行動を正確に明確化する、②すでに達成できている行動を確認し、シェイピングされるべき行動を選択する、③大きすぎず小さすぎないステップのサイズを設定する、などが挙げられます。

以上を踏まえると、シェイピングやスモールステップでは「一定の手順に従い、段階的に練習を進める」という点では当てはまりますが、「自分自身で」「心身の機能を調整する方法」とは言えないことがわかります。

シェイピングやスモールステップでは、他に治療者がいることが前提となっているので「自分自身で」というのは適切な表現ではありません(ごく稀に、知的に優れたクライエントが似たようなことをしていますが、それはクライエント独自の工夫であって日常的な知恵という感じです。言い換えれば、多くの心理学の「技法」は、こうした多くの人が行っている「工夫」を切り出して名前を付けたに過ぎないものも多いのです)。

また、シェイピングやスモールステップを用いる場合、何を目標にするかはクライエントの問題によって様々でしょうから(犬なら三回まわってワンになったりね)、「心身の機能を調整する方法」と限定はされませんね。

よって、シェイピングやスモールステップは本問の「自分自身で一定の手順に従い、段階的に練習を進めることによって、心身の機能を調整する方法」には当てはまらないと言えます。

以上より、選択肢③および選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ セルフ・モニタリング

セルフモニタリングとは、クライエントが自分の認知や感情、行動などを観察し、自分自身に関するデータを得て、それらを検討するという一連の流れを指します。

認知行動療法においてクライエントが身につける基本的な技法とされ、問題把握、評価、変容などの方法として治療過程の様々な段階で使われることになります。

認知行動療法では、クライエントが自身の認知や感情に気づき、それを言語化できることを特に重視していますから、その実践においては、初期からクライエントにセルフモニタリングを促すことが多いです。

セルフ・モニタリングを行うことで、治療の効果を治療外の場面に広げやすくなるという効果も期待できますね。

セルフ・モニタリングは一定の手順があるわけではなく、クライエントの問題によってモニタリングする事柄は変わってきます。

もちろん、一定のシートを用いて実施される場合がほとんどでしょうから「一定の手順に従い」と言えなくもないわけですが、これはあくまでもカウンセラー側の効率の要因であって(クライエントに合わせてシートもオリジナルで作成されても良いわけです)、「セルフ・モニタリング」という技法の特徴ではありません。

セルフ・モニタリングの結果、何かしらについて「段階的に練習」することはあり得ますが、それは「セルフ・モニタリング」という技法の範囲外のお話ですね。

また「セルフ・モニタリング」自体に、「心身の機能を調整する」という方向づけはありませんし、「自分自身で」という点も当てはまらないと言えます。

以上より、セルフ・モニタリングは本問の「自分自身で一定の手順に従い、段階的に練習を進めることによって、心身の機能を調整する方法」には当てはまらないと言えます。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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