公認心理師 2022-136

事例の家族関係を説明する家族療法概念を選択する問題です。

家族と関わるカウンセラーが出会いやすい状況と言えますね。

問136 15歳の男子A、中学3年生。Aは、不登校状態のため友人と疎遠になり、話し相手は母親Bのみである。長年単身赴任をしている父親C は、赴任先からたまに帰宅すると、Aの不登校についてAとBを厳しく叱り、母子は口をそろえてCの無理解をなじる。高校進学を控えるAに対して、Cは全日制高校への進学を勧めるが、AとBは、Cと言い争った末に、通信制高校への出願を決めた。
 家族システム論の観点から、Aとその家族関係を説明する心理学概念として、最も適切なものを1つ選べ。
① 連合
② 自己分化
③ 遊離家族
④ 親役割代行
⑤ 情緒的遮断

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解答のポイント

家族療法で示されている各概念について理解している。

選択肢の解説

① 連合
③ 遊離家族

フィラデルフィア児童相談所長のMinuchinが行った家族療法は「構造派」と称されています。

ミニューチンがスラム街などの貧困家庭のセラピーに従事したという事から、非言語的・実効的なアプローチを特色とし、拒食症に対するアプローチとして非常に評価が高いです。

システムを構造として捉える点が特徴的で、家族は全体で独立したシステムを形成しているが、その内部に更にサブシステムを持つと捉えます。

構造派では、家族とは、役割や機能によって明確に組織されており普遍的な構造であり、症状は家族構造の不適切なバランスによって生じると捉え、非機能的な家族構造である「境界線」「提携」「権力」の三つに介入し、適切な家族構造の再構成を行っていきます。

  • 境界線:家族と外部との境界および個人と個人の境界の持ち方。
  • 提携:提携には敵対関係を含む二者間の「連合」と、敵対関係を含まない「同盟」がある。
  • 権力:特に親ではなく子どもが権力を握っている場合を問題にした。

上記のそれぞれで家族の問題が示されておりますから、詳しく以下で見ていきましょう。

家族成員の誰と誰が、どのシステム内でどのようにふるまうかを規定する「隠れたルール」によって境界は設定されます。

境界や境界が規定するサブシステムは、時とともに変化し、外的な状況によっても影響を受けて変化します。

境界の特徴としては、固いか柔らかいか、曖昧か閉鎖的、あるいは開放的かなどの分類がなされています。

サブシステムの間の境界が明瞭な家族は、いわゆる正常に機能している家族と理解されます(境界線は明瞭でも、両サブシステムの間のコミュニケーションは断絶せず、十分に維持されている)。

この境界が曖昧な場合は「纏綿状態」「纏綿家族」「もつれ家族」と称され、家族成員が互いに密着している状態と捉えます。

境界の曖昧な家族はあらゆる問題に関して、すべての成員が引き込まれてしまい混乱が生じがちになっている状態と言えます。

逆に境界が硬直している場合には、すなわち家族成員間の交流が遮断されている場合には「遊離状態」「遊離家族」などと呼ばれ、家族は互いを支えあうことをしないとされています(祖父母とその息子家族がまったく関わり合いがない状態などですね)。

また、連合とは家族成員が目的のために結びつくことを指しますが、問題のある家族の場合は、「母子連合・父親の孤立」「母子・父子連合・夫婦の断絶」などが指摘されており、本問の事例の状態は「母子連合・父親の孤立」の典型例であると言えます(よって、本問を家族システム論から捉えれば、連合の状態であると見なすのが妥当です)。

夫婦間の連合はある程度健全なものとされており、必要であると見なされています(もちろん、それも行き過ぎて、両親揃って子どもを非難するという形になるとダメでしょうが。だからこそ「ある程度」という文言が入っているわけで)。

構造学派では、母子の共生的サブシステムを解体して、新たに両親のあいだに連合関係(両親連合)をつくりあげることが、治療的に有効だと主張しているのも、上記のような考えがあってのことですね。

最後の「権力」とは、家族内のヒエラルキーのことを指しており、健康な家族では親子の間に適切なヒエラルキーが存在し、問題の多い家族ではそれが逆転しているとされています。

子どもに何かしらの問題があり、親がそれへの対処に明け暮れている場合、いつの間にか子どもがヒエラルキーの最上位になっていることがありますが、そういう状態を不健康な家族状態であると見なしています。

構造派のアプローチとしては、家族システムにセラピストが溶け込む過程(ジョイニング)を重視し、サブシステムの境界に働きかけ構造変革を促すなどがあります。

他にも、トラッキング(セラピストが家族に今まで通りにコミュニケーションや行動を続けるように支持し、家族にそのような交流の流れに逆らわず従っていくこと)、アコモデーション(セラピストが家族メンバーと友好な関係で面接が進められるよう、家族のもつ神話や文化にあわせて順応する過程をいう)、マイム(セラピストが家族の言語、非言語的行動を取り入れてジョイニングを促進すること)なども有名ですね。

以上のことから、本事例の母子間のつながりを見れば「遊離家族」ではないことがわかると思います。

これに対して、「Aは、不登校状態のため友人と疎遠になり、話し相手は母親Bのみ」「長年単身赴任をしている父親Cは…Aの不登校についてAとBを厳しく叱り、母子は口をそろえてCの無理解をなじる」「高校進学を控えるAに対して、Cは全日制高校への進学を勧めるが、AとBは、Cと言い争った末に、通信制高校への出願を決めた」というのは、明確に母子連合・父親の孤立という状態にあることがわかります。

こちらは「提携」における「連合」のもっとも典型的な状態の一つとされています。

よって、選択肢③は不適切と判断でき、選択肢①が適切と判断できます。

② 自己分化
④ 親役割代行
⑤ 情緒的遮断

ワシントン国立精神衛生研究所のBowenによる「多世代派」が提出されています(望遠鏡(ボーエン)で遠くまで見通している(多世代)ようなイメージ)。

ボーエンは「自己分化」という概念のセラピーの中心に据えており、「感情と理性が独立して機能している」「内的プロセスが外的刺激に過度に翻弄されない状態」のことを自己分化した状態として、これを目指すことを重視しています。

すなわち多世代学派では、治療目標を構成員の個別化と自律性の促進に置いており、個人の「自己分化」と呼ばれる知性と情緒性の分化が達成されているか否かを重視しているということになりますね。

自己分化度が高いと、個人の個別性が確立され、他者との関係性もバランスの取れたものになるとされますが、それが低いと、過度に感情的(感情で巻き込んで融合的になっていく)or知性的(宿題やらなくて困るのは子ども自身ですから、みたいな感じ)になってしまいます。

選択肢②の「自己分化」は上記を指していますが、本事例において感情と理性の独立やそれらのバランスの悪さが中心的な話題になっている様子はありません(もちろん、自己分化という概念自体は広いものなので、その視点で問題を指摘することはできるが、むしろ他の概念で説明した方がわかりやすい)。

多世代学派で特徴的なのがジェノグラムの活用で、「多世代」と呼ばれるのは、こうした家族の歴史を見ていく中で、世代を超えて受け継がれていくもの(=世代間伝達)があると見なすためです。

ちなみにジェノグラムとは上記のようなものですね(視覚的に把握するのに便利ですから、その場でさっと書けると役立ちますよ。線の書き方などで、関係性も反映させることが可能です)。

この学派は、もともと統合失調症の家族研究をしたボーエンが、家族療法を体系化したもので、ボーエンの理論には以下の8つの基本概念があります(これらは、個人・核家族・多世代にわたる拡大家族・社会という次元で展開します)。

  1. 三角関係化:
    2人で構成される感情システムが不安定で、第3者を引き込むことで安定を構成する。妻が夫の悪口を子どもに言う、など。
  2. 核家族の感情過程:
    夫婦間で緊張がある時、家族システムの安定のため以下の方法を採る。
    ①感情遊離 ②夫婦衝突 ③配偶者の不適応 ④子の損傷
  3. 家族投影過程:
    両親の自己分化レベルが子どもたちにも伝えられる過程。多くの場合、長子になる。
  4. 分化の尺度:
    感情システム・知性システムの分化尺度(0~100で示される)。
    低分化なほどストレスの影響を受けやすい。
  5. 多世代伝達過程:
    家族投影過程の拡大版で、子から孫へ、孫からひ孫へと多世代に伝達。
    伝達の過程で分化度は、子<親となる(統合失調症では8~10世代とした)。
  6. 感情的切断:
    子が親との感情的結びつきを切り、親の感情的融合から身を守ること。
  7. 同胞での位置:
    同胞の位置が、その個人の分化度に重要な影響を与える。
    実際の位置のみでなく、機能的位置も重要。
  8. 社会的感情過程:
    こうした家族システム理論が、社会システムにも該当する。

上記の6に該当する「感情的切断」とは、選択肢⑤の「情緒的遮断」のことを指しており、不安の高い親に情緒的に巻き込まれた子どもが、物理的・情緒的に関わりをもたないように関係を遮断することを意味します。

情緒的遮断には以下のようなパターンがあります。

  1. 密着している家族メンバーとの接触を回避する:これは無視するとか、会う機会を減らす等。
  2. 合法的家出:通学、通勤圏外の学校や職場のある場所に引っ越す等。
  3. 同一化できる集団に寄与して家族を捨てる:不良集団に入る等。

情緒的遮断の問題は、本来親に甘えたりサポートを求めたい時にそれができなかったことにより現在のパートナーに情緒的依存を過度に求めるなど、「家族関係の中で経験するはずの感情体験が不足していることによって起こる種々の問題」が生じることであると言えます。

本問の事例においては「情緒的遮断」が強く生じていると見なせる情報はありませんね。

多世代学派のもう一人の担い手(もしくは精神分析的家族療法の担い手でもある)であるBoszormenyi-Nagyは、転移に代わる概念として「忠誠心」に注目し、セラピストの姿勢としては多方向の「肩入れ」を心がけようと推奨しました。

ボゾルメニ・ナージの流れを「文脈派」と呼びますが、文脈派においてはこうした「忠誠心」に加え、「親役割代行」「破壊的権利付与」の3つを関係系理解を深めてくれる概念として提唱しています。

文脈派の描く家族は、家族と構成員一人ひとりを危害や傷つきから守るため、幾重にも張り巡らせた網目(=個人)の中で暮らす人々の集まりであり、こうした個人を家族集団に結びつける心理的絆が「忠誠心」であるとされています。

自他ともに信頼し感謝していると理解し納得もしている健康な忠誠心を、文脈派では「目に見える忠誠心」と呼びます。

一方で、離別や死別、貧困、怠慢な育児など、偶然・必然の結果、養育者から愛情や慈しみが十分与えられず傷つきを多く受けたという場合、私たちはこの世に産み落とされた事実に対して何らかの忠誠心を抱き、それによって家族と強く結びつけられます。

こうした忠誠心は、本人からも否認され、利用され搾取された否定的経験と受けとめられ、二度と繰り返さないための教訓となったり、他者の感情への無関心さなどに変わって、本人や周囲に影響を及ぼす不健康な忠誠心であり、これを「見えない忠誠心」と呼びます。

また、「引き裂かれた忠誠心」というのも不健康な忠誠心として挙げられており、例えば、両親が反目状態にあるとき、その間に置かれた子どもはどちらにつくかという葛藤状態に置かれ、駆け引きゲームのような人間関係になってしまいますが、そういう状態を指します。

第2の概念として「親役割代行」がありますが、これは親子関係の逆転現象を捉えた概念です。

子どもが小さい時期には、親が与えて子どもが受け取る関係が基本だが、この構造が逆転している場合を指します(親の問題で、子どもが自分自身を慰めようとしたり、親子関係が逆転したかのように子どもである自分が父母を気遣おうとするなど)。

こうした親の役割を子どもが代行するという現象は、一度や二度なら気にするには及びませんが、関係の逆転が幾度も繰り返し起こる親子の日常は、やはり不健康な在り様だと捉えてよいでしょう。

また、親役割代行をしてきた子どもが成長し、成人期が迫り自立がテーマになる時期になると「親を見捨てるような罪悪感」にかられ、結婚などの新しい関係に進みづらくなってしまうという問題が指摘されています。

この問題によって、親子ともに共依存的な状況になる危険性もあるわけですね。

選択肢④の「親役割代行」は上記を指していますが、本事例では子どもが親の役割を代行している様子は見られませんね。

第3の概念として「破壊的権利付与」があり、これは他者に対して破壊的に振るまってよい権利が与えられたと感じること/もしくは感じた状態を指します。

こうした「破壊的に振るまってよいという権利意識」は、世代間伝達する可能性が高い現象であるとされています(現世代の振る舞いを観察することで、世代間に受け継がれる虐待や精神支配などの傾向を垣間見ることができる)。

上記のように、自己分化、親役割代行、情緒的遮断は多世代学派およびその系譜にある学派の概念ですが、本問の事例には当てはめづらいと考えられます。

よって、選択肢②、選択肢④および選択肢⑤は不適切と判断できます。

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