ある特徴が示されており、その特徴に合致する心理療法を選択する問題です。
最近いろんな心理療法が出てきていますが、「完全な新作」というのは今の時代、出てこないと思ってよいでしょうね。
古臭い言い方ですけど、やはり「温故知新」って大切ですよと常に思っています。
問96 パーソナリティ障害に適用するため、認知行動療法を拡張し、そこにアタッチメント理論、ゲシュタルト療法、力動的アプローチなどを組み込んだ統合的な心理療法として、最も適切なものを1つ選べ。
① スキーマ療法
② 対人関係療法
③ 動機づけ面接
④ 問題解決療法
⑤ アクセプタンス&コミットメント・セラピー〈ACT〉
解答のポイント
各心理療法の特徴を理解している。
選択肢の解説
本問の解説に関しては、以下の辞典からの引用が多いです。
やっぱり新しい辞典だと、比較的新しい心理療法についても詳しく載っていますね。
① スキーマ療法
スキーマ療法は、パーソナリティ障害などによって慢性的な心理的障害を呈する治療困難な患者を治療するために、伝統的な認知行動療法を拡張し、アタッチメント理論、ゲシュタルト療法、構成主義、対象関係論、精神分析といった各学派の要素を認知行動療法に融合した心理療法(Young,2003)です。
ジェフェリー・ヤングにより開発された、パーソナリティ障害およびDSM-Ⅰ軸障害の治療法であり、他の治療法(例えば伝統的な認知行動療法)などに効果を示さない、もしくは再発するケースに用いられています。
深刻なパーソナリティ上の問題の中核には、自分自身と他者との関係性に関する非機能的なパターンである早期不適応的スキーマ(「私のことなど誰も理解してくれない」などの非機能的信念を含む、認知、感情、記憶、身体感覚から構成される)があるとします。
このスキーマは、幼少期や思春期の内に形成されると考えられています。
18あるとされる、この早期不適応的スキーマは以下の通りです。
第一領域:切断と拒否(人とのかかわりが断絶されること)
①見捨てられスキーマ
②不信・虐待スキーマ
③情緒的剥奪(「愛されない」「分かってもらえない」)スキーマ
④欠如・恥スキーマ
⑤孤立スキーマ
第二領域:自立性とパフォーマンスの障害(「できない自分」にしかなれないこと)
⑥無能・依存スキーマ
⑦「この世は何があるかわからないし、自分はそれにいとも簡単にやられてしまう」スキーマ
⑧巻き込まれスキーマ
⑨失敗スキーマ
第三領域:他者へとの方向性(他人を優先し、自己を抑えること)
⑩征服スキーマ
⑪自己犠牲スキーマ
⑫「ほめられたい」「評価されたい」スキーマ
第四領域:過度の警告と禁止(物事を悲観し、自分や他人を追い詰めること)
⑬否定・悲観スキーマ
⑭感情抑制スキーマ
⑮完璧主義的「べき」スキーマ
⑯「できなければ罰せられるべき」スキーマ
第五領域:壊れた限界(自分勝手になりすぎること)
⑰「俺様」「女王様」スキーマ
⑱「自分をコントロールできない」スキーマ
このうち最も有害なものとして、見捨てられスキーマ、不信・虐待スキーマ、情緒的剥奪スキーマ、欠如・恥スキーマが挙げられています。
これらのスキーマの発生起源は…
- 他者との安全なアタッチメント
- 自律性、有能性、アイデンティティの感覚
- 妥当な要求と感情を表現する自由
- 自発的行動と遊び
- 現実的な制約と自己制御
…といった人間の根源的な欲求(中核的感情欲求と呼ぶ)が、虐待などの不適切な養育によって満たされなかったことにあると仮定しています。
早期不適応的スキーマは、恐怖、不安などの強烈な感情を引き起こすため、患者は「服従(スキーマを真実であると認め、言いなりになる)」、「回避(スキーマが活性化するのを避ける)」、「過剰補償(スキーマと正反対のことが真実であるかのように振る舞う)」といった不適応的なコーピングスタイルを採ります。
これらを背景にして生じる具体的な対処行動(例えば、自傷行動など)をコーピング行動と呼び、そのとき活性化されているスキーマやスキーマの作用のことを、スキーマモードと呼びます。
スキーマモードは、適応的なモードと不適応的なモードに大別され、誰もがその両方を有するが、パーソナリティ障害の場合は心理的に健康な人に比べて不適応モードの時間が長く、程度が強いとされています。
スキーマ療法の目的は、患者が自分自身の中核的感情欲求を満たすための適応的な方法を見出す手助けをすることにあります。
治療は、アセスメントと教育の段階と変化の段階に分かれ、両段階で様々な認知的技法、体験的技法が用いられます。
前者の段階では、認知的アセスメント、心理教育、スキーマ療法のモデルに基づいた事例概念化(ケースフォーミュレーション)が行われます。
後者の段階では、早期不適応的スキーマの妥当性の検証と再検討、イメージ技法やロールプレイなどによる中核的感情欲求の充足、コーピングスタイルの変容、スキーマモードに焦点を当てた介入である「モードワーク」などが行われます。
治療では、患者が自らのスキーマや中核的感情欲求などに対する感情的理解を深めることが重視されます。
このように、スキーマ療法はヤングによって創始された、伝統的な認知行動療法を拡張し、アタッチメント理論、ゲシュタルト療法、構成主義、対象関係論、精神分析(ここら辺が力動的アプローチと呼ばれていますね)といった各学派の要素を認知行動療法に融合した心理療法であることがわかります。
以上より、選択肢①が「パーソナリティ障害に適用するため、認知行動療法を拡張し、そこにアタッチメント理論、ゲシュタルト療法、力動的アプローチなどを組み込んだ統合的な心理療法」に合致すると判断できます。
② 対人関係療法
対人関係療法は、KlermanやWeissmanらによって1960年代末から実施されてきた治療法のことで、重要な他者との現在の関係に焦点を当てて、症状と対人関係問題の関連性を理解し、その問題への対処法を見つけることで、症状に対処できるようになることを目指します。
これは、重度の非妄想性うつ状態と診断された成人に対する外来治療法として開発された短期の心理療法であり、ハリー・スタック・サリヴァンの精神医学における対人関係理論に由来します。
多くの実験的研究により、対人関係療法がうつに有効だと示されています。
本来は成人の個人療法として開発されましたが、若年成人や老年期、双極性障害・過食症・産後うつ・夫婦カウンセリングなどにも使用できるように修正を加えられてきています。
対人関係療法は精神力動理論に基礎を持つが、短期であること、そして課題・構造化面接・評価ツールを用いるという点において、現代の認知行動学的方法も用いています。
対人関係療法では、うつ病をはじめとする精神疾患や精神症状の原因は多様であるという前提のもと、困難の「原因」や「背景」については解釈を行わず、「解決」に焦点を当てて治療を始めます。
実用性を最重視し、相談者の対人関係を読み解いたり解釈したりすることは、症状の改善や再発予防につながる現実的なスキルが生み出されると思われる場合にのみ許容されます。
対人関係療法の特徴としては、技法ではなく戦略を重視すること、クライエントのパーソナリティ・認知・内的世界は認識するが治療焦点とはしないこと、現在の具体的な対人関係に取り組むこと、「解決」に焦点化すること、期間限定であること、などが挙げられます。
治療プロセスの初期段階では、病歴の聴取や診断、投薬の必要性の評価などに加えて、クライエントに「病者の役割」を与え(問題が生じているのは自分のせいではなく病気のせいであり、解決のためには本人の対処が必要であるという基本的理解を共有する)、対人関係における4つの問題領域と症状に関連付けます。
4つの問題領域とは、悲哀(重要な他者の他界)、対人関係上の役割を巡る不和(クライエントと重要な他者が互いの役割に対して抱いている期待のずれ)、役割の変化(役割の変化を伴うような生活上の変化やライフイベント)、そして対人関係の欠如(他の3つの問題領域に全く当てはまらない場合)になります。
対人関係フォーミュレーションを通して、症状と特に強く関連する主な領域を選択し、治療で扱う問題領域と治療目標についてクライエントと治療契約を結びます。
その後、非指示的探索、感情の励まし、明確化、コミュニケーション分析、決定分析、ロールプレイ、治療関係の利用などの技法を用いて、症状に対処する方法を獲得し、再発予防のために話し合います。
これらの治療プロセス全体を通して、セラピストは対人関係問題領域に焦点を当て続けつつも、クライエントの代弁者としての温かい立場を保ち、共同作業を進めていくことが求められます。
上記の通り、対人関係療法は、重度の非妄想性うつ状態と診断された成人に対する外来治療法として開発された短期の心理療法であり、ハリー・スタック・サリヴァンの精神医学における対人関係理論に由来します。
ちなみに私は、以下の書籍くらいしか読んでいないので、知識程度の理解ですね。
以上より、選択肢②は「パーソナリティ障害に適用するため、認知行動療法を拡張し、そこにアタッチメント理論、ゲシュタルト療法、力動的アプローチなどを組み込んだ統合的な心理療法」に合致しないと判断できます。
③ 動機づけ面接
動機づけ面接に関しては「公認心理師 2020-116」で解説していますから、こちらを転載しながら解説していきましょう。
動機づけ面接は、アメリカのMillerとイギリスのRollnickによって開発された対人援助理論で、変化に対するその人自身への動機づけとコミットメント(約束)を強めるための協働的な会話スタイルです。
クライエントの中にある準備性(レディネス)、両価性、抵抗の感情を探り、それらを解決できるように援助することでクライエントの行動変容を促すことを目的とした指示的かつクライエント中心的なカウンセリングスタイルを有しています。
アルコールに関する問題を抱えるクライエントへの面接技法を研究する中で、良い結果が得られたカウンセラーの面談スタイルを実証的に解析することで、アルコール依存症の治療法として開発され、体系化されたという経緯があります。
クライエントが語ってくれる会話を通して、カウンセラーの「正したい反射」を抑え、行動変容に伴う両価性である「変わりたい、一方で、変わりたくない」というクライエントの気持ちや状況を丁寧に引き出し、禁煙や飲酒など、標的とする行動や変化に関する発言を強化することで、クライエント自らが気づき行動に繋がる、というプロセスを支えます。
欧米では、これまでアルコール依存症をはじめとする多くのランダム化比較試験によって動機づけ面接の効果が検証されており、結果には多少のばらつきはありものの、アルコールや薬物乱用をはじめ、健康増進行動、治療アドヒアランスなどの領域での有効性が示されています。
また、セルフヘルプワークや認知療法、ストレスマネジメントなどの他の治療法と組み合わせる
ことにより、その効果はより大きくなるとされています。
動機づけ面接法には、初回面接から有益であり、また支援過程全体を通して使用される4つの具体的な方法があり、この4つの方法を織り合わせることにより動機づけ面接という織物が出来上がっていきます。
4つの方法はクライエント中心療法に由来していますが、動機づけ面接では、クライエントが自分の両価性を探索し、変化への動機を明確にすることを援助するという特別な目的があります。
この4つの方法は、略語でOARS(Open question:開かれた質問、Affirming:是認、Reflecting:振り返り・反映、Summarizing:要約)と表されます。
動機づけ面接では、これら4つを通して、チェインジ・トーク(変化についての話)を引き出していきます。
このように動機づけ面接は、アルコールに関する問題を抱えるクライエントへの面接技法を研究する中で、良い結果が得られた治療者の面談スタイルを実証的に解析することで、アルコール依存症の治療法として開発され、体系化された療法です。
対象としては、上記の通りアルコール依存症者が中心ですが、治療エビデンスが蓄積され、疾患や領域を問わず、対人援助場面において最も推奨される面接法の1つとして注目されています。
以上より、選択肢③は「パーソナリティ障害に適用するため、認知行動療法を拡張し、そこにアタッチメント理論、ゲシュタルト療法、力動的アプローチなどを組み込んだ統合的な心理療法」に合致しないと判断できます。
④ 問題解決療法
問題解決療法は、産業や教育領域で広がった問題解決訓練プログラムを臨床場面に応用した心理療法です。
気分障害や不安症群などの精神障害、その他の様々な心理社会的問題を抱える人たちを対象に、問題解決を促進する態度や信念を育成し、適切な問題解決スキルを習得してもらうことで、問題解決を目指します。
プログラムのもととなる「社会的問題解決の規範モデル」では、問題への志向性、すなわち問題に対する態度や信念と、問題解決方法の適切性によって、結果が決まると仮定します。
問題への志向性には、問題の存在を認めるかどうか、原因を何だと捉えるかなどがあります。
適切な問題解決方法には、①問題の定義と定式化、②代替的な解決策の案出、③意思決定、④解決策の実施と効果検証、という4つのスキルの実践が含まれ、各スキルを高める方法が体系化されています。
精神障害の背景にあると考えられる生育歴や個人の病因を理解したり、洞察したりすることによる治療を目指すのではなく、社会的コンピテンス、すなわち多様な社会資源を用いる能力、目標達成のために多様な選択肢を用いる能力などを促進することによって、治療を行うアプローチです。
このように問題解決療法は、心理社会的問題を抱える人たちを対象に、問題解決を促進する態度や信念を育成し、適切な問題解決スキルを習得してもらうことで、問題解決を目指すアプローチですね。
以上より、選択肢④は「パーソナリティ障害に適用するため、認知行動療法を拡張し、そこにアタッチメント理論、ゲシュタルト療法、力動的アプローチなどを組み込んだ統合的な心理療法」に合致しないと判断できます。
⑤ アクセプタンス&コミットメント・セラピー〈ACT〉
こちらについては「公認心理師 2021-54」で既に詳しく述べていますから、そちらを転載しましょう。
クライエントが豊かで充実した意義のある人生を送るために、避けられない苦痛は受け容れながら、自らの人生を進められるよう援助するセラピーがACT(アクト)になります。
ACTは、行動分析学や関係フレーム理論(ざっくり言えば「実際経験していないのに、学習が成立することを説明する理論」のこと)を理論的基盤として、スキナーの徹底的行動主義を再検討し、機能的・文脈的要素を強調したものとして、Hayesによって提唱されました。
Hayesらが提唱した言語行動の行動分析理論に基づいて、行動活性化とアクセプタンスを並立させており、個人的な印象としてはマインドフルネスの宗教的な要素をできる限り除いた感じがします。
「思考はコントロールできないが、行動はコントロールできる」という立場を取っており、他の第三世代のやり方の中で、いちばん行動に焦点を当てている感じがありますね。
ACTはプラセボや、不安症やうつ病、依存症に対する一般的な治療よりも優れていると報告されていますが、まだ比較的新しいアプローチなので、現時点ではそうした効果に関する研究を集約している段階という感じもしますね。
ACTの「アクセプタンス」と「コミットメント」について少し触れておきましょう。
ACTでは、「問題・苦悩・ネガティブな感情」は生きている以上あって当たり前であり、それらを解決・管理・対処することを手放し受け入れる(アクセプタンス)ことが重要で、その姿勢こそが変化へのパワーを生む、と考えます。
また、苦悩・問題を抱えたままでも「高次の価値」「自分が人生で本当に実現したいこと」を発見・強化・行動していく「コミットメント」の姿勢を持つことで幸福になれる、と考えるのがACTの立場です。
ACTでは、人間は言語を使用するが故に、悩みや不安などの心理的苦痛を抱えることは当然であるが、そのような苦痛をなくそうとコントロールしすぎることによって問題に発展すると考えます。
そして、人間の機能と適応に関する統合的なモデルとして、心理的柔軟性モデルが採用されており、これは、心理的な健康は「今この瞬間への柔軟な注意」「価値」「コミットされた行為」「文脈としての自己」「脱フュージョン」「アクセプタンス」という6つのコア・プロセスによって心理的柔軟性が生じた状態であるとされます。
それぞれは以下の通りです。
- 今この瞬間への柔軟な注意:「いま、ここ」に注意を向ける
- 価値:自分にとって一番大切なことを明らかにする
- コミットされた行為:価値に従った目標をセッティングし、確実に実行する
- 文脈としての自己:超越的な自己の感覚とつながる
- 脱フュージョン:思考やイメージ、記憶を「本物である」と思い込んでしまう傾向を低減する方略を学ぶ
- アクセプタンス:望ましくない私的経験(思考、感覚、衝動)でも追い払おうとせず、やってきて去っていくままにする
ACTにおいて精神病理は、これら6つが適切に機能していない(非柔軟な注意、価値の混乱、行為の欠如または衝動性、概念としての自己に対する執着、認知的フュージョン、体験の回避)心理的非柔軟性が生じた状態と見なします。
特に、言語の字義通りの内容に囚われ、頭の中で生じる不快な思考や感情に巻き込まれる「認知的フュージョン」と、それらとの接触を拒み、コントロールしようともがく「体験の回避」が精神病理の中核とされています。
ACTは、心理的に柔軟でない状態のクライエントに対して、アクセプタンスとマインドフルネスのプロセス、そしてコミットメントと行動活性化のプロセスを用いて、心理的柔軟性を生み出すことを目指します。
その際、巻き込まれている思考や感情の内容を言語的に検討するのではなく、メタファや体験的エクササイズを通して、思考や感情の行動への影響力を弱め、「今ここ」での体験に触れることで、実際の環境に合わせて柔軟に行動できるように援助するアプローチと言えます。
上記の通り、ACTは、行動分析学や関係フレーム理論(ざっくり言えば「実際経験していないのに、学習が成立することを説明する理論」のこと)を理論的基盤として、スキナーの徹底的行動主義を再検討し、機能的・文脈的要素を強調したもので、不安症やうつ病、依存症に対する一般的な治療よりも優れているとされています。
以上より、選択肢⑤は「パーソナリティ障害に適用するため、認知行動療法を拡張し、そこにアタッチメント理論、ゲシュタルト療法、力動的アプローチなどを組み込んだ統合的な心理療法」に合致しないと判断できます。