認知行動療法に影響を与えた人物と理論又は技法との組合せとして、正しいものを1つ選ぶ問題です。
オーソドックスな問題形式ではありますが、それなりの知識量が求められるタイプの問題です。
「正しいもの」を選択するわけですから、全部で9個の人物+理論・技法について知っていることが求められています。
例えば、D.Meichenbaumはどういった理論・技法の人なのか+学習性無力感理論は誰が提出したのかということまで理解していて欲しいわけです。
正解を選ぶ力よりも、不正解を除外できる力の方が大切だと思います。
全ての領域で正解をピンポイントで選ぶのは難しい話なので、「これは確実に違うな」というものを多く除外して少しでも正答を選ぶ確率を上げましょう。
時々、「試験は運だから」と言う人がいますが、まったく勉強していない人に運は働いてくれません(「私、全然勉強してないけど受かったよ」と言う人がいるかもしれませんが、それは「そのように見せたい」という気持ちが多分に入っていると思ってよいかもしれませんよ)。
上記のように、しっかりと勉強して正答を選ぶ確率を上げることで「運が働きやすくする」ことが大切です。
除外する力が低いと1/5で選択することになりますが、多くを除外できれば1/2までもっていくことができるわけですからね。
そういう状況で正答を選ぶことを「運がよい」と言うのです。
解答のポイント
認知行動療法と関連する理論家とその理論・技法との組合せを理解していること。
選択肢の解説
『①A.T.Beck ― 条件づけ理論』
ベックは認知療法を創始した精神科医です。
もともと精神分析を学んでいましたが、うつ病の精神分析療法を通して認知の在り方がうつなどの情動状態と深くかかわっていることを明らかにし、短期間の構造化された面接で被適応的な認知を修正することを目指しました。
それにより、うつ病やパニック障害などの精神疾患を治療することを目的とした認知療法を提唱しました。
認知療法は、その後、認知行動療法モデルとして行動療法の流れと統合されていますね。
認知療法では、人が成長するにつれ固定的な「自己スキーマ」が形成され、それに基づいて歪んだ思考方法や考えが自然に浮かぶ「自動思考」が起こっており、そうした「認知の歪み」に焦点を当てて、認知を修正することで症状が改善されると捉えます。
自動思考やその他の認知に認められる特徴的な誤りを「推論の誤り」と呼びます。
他にもベックは、ベック抑うつ尺度(BDI)という質問紙も作成しています。
認知療法ではこうした質問紙を用いて、うつ病の改善度を客観的に捉える工夫が行われています。
一方、条件づけ理論は学習を生じさせるための操作および学習過程そのものに関する理論になります。
条件づけと言えば、古典的条件づけとオペラント条件づけですが、前者の代表はパブロフであり後者の代表はスキナーですね。
行動療法の理論モデルとしては、以下があります。
- 新行動SR仲介理論モデル(Wolpe、Eysenck):
系統的脱感作(逆制止、不安階層表、漸進的弛緩法)、エクスポージャー・フラッディング(フラッディングは最初から最大強度でいきます) - 応用行動分析モデル(Skinner):
正負の強化法、トークンエコノミー、タイムアウト、バイオフィードバック法、シェイピング - 社会学習理論モデル(Bandura):
モデリング、セルフモニタリング - 認知行動療法モデル(Beck、Ellis):
合理情動(論理)療法、思考修正法、認知再構成法。「第2世代の行動療法」とも呼ばれる
上記のうち、新行動SR仲介理論モデルは古典的条件づけ、応用行動分析モデルはオペラント条件づけを背景にした理論モデルとなります。
上記からも認知行動療法の理論とは異なることがわかりますね。
以上より、選択肢①は誤りと判断できます。
『②D.Meichenbaum ― 学習性無力感理論』
ベックとエリスは、それぞれ精神分析学を学んだ精神科医と心理学者であり、マイケンバウムは行動療法を行っていた心理学者です。
彼等の共通点は、外的な出来事が感情や身体反応を直接引き起こすのではなく、そうした出来事をどのように認知するかによって身体反応や感情、行動が異なってくるとし、精神疾患やそれに対する心理療法における「認知」の役割を重視した点にあります。
マイケンバウムが提唱した技法としては「自己教示法」が有名で、自らの言葉で自分自身に教示を与えることにより、それが刺激となって自分の行動を変容させる方法です。
またPTSDの治療に中程度の支持が得られている心理療法として「ストレス免疫訓練法」があり、こちらもマイケンバウムが提唱しました。
ストレス免疫訓練法は、ストレス・モデルの教授=学習に始まり(教育の段階)、リラクセーション法や社会的スキルの獲得といった行動的対処、および否定的な自己陳述の修正といった認知的対処の方策を治療セッションのなかで獲得し(リハーサルの段階)、それらを実生活のなかで実践することができるための援助を行う(適用訓練の段階)という多段階のプログラムが構成されている技法です。
一方で「学習性無力感」を提唱したのは、Seligmanです。
セリグマンは、制御不能の電気ショックを与えられ続けた犬が、そこから抜け出せる状況におかれても電気ショックから逃れようとしなかった状態を「電気ショックが逃避不能であり自分の行動が無力であることを学習した」として、学習性無力感と呼びました。
この学習性無力感の獲得は、動物の食欲・性欲の減退の他、潰瘍の形成や体重の現象、脳内の化学物質の変化など、生理的過程への波及を含む幅広い影響を生じさせることが明らかになっています。
セリグマンは、人間の抑うつの形成にも同様のメカニズムがあることを指摘しています。
抑うつ者は、喪失体験や仕事の失敗、重い病気と直面し、自分が無力であることを学習するということです。
人をうつにするには、自分のやっていることが無意味であるという行為を延々とさせるというやり方があります。
拷問の一つとして、穴を掘り、その穴を埋めるという行為をさせ続けるというのがありますが、これによってすぐに人はうつになってしまうとのことです。
以上より、選択肢②は誤りと判断できます。
『③G.A.Kelly ― 論理情動行動療法』
ケリーは物理学と数学の学士を取得後、教育社会学の修士課程を修了、その後心理学への系統を深めました。
学生の頃に、当時隆盛だったS-R理論の考え方に疑問を抱き、環境刺激による一般的な行動の変化よりも、体験の捉え方の個人差や、人それぞれの行為そのもの、あるいは行為を行った理由を説明することが重要であると考えるようになりました。
彼の主な業績はパーソナル・コンストラクト理論の構築とグリッド・テストの考案です。
パーソナル・コンストラクト理論では、人が外界を認識するために用いている見方(コンストラクト)の個人差がパーソナリティに他ならないと考え、認知システムの独自性を強調した理論です。
パーソナル・コンストラクト理論では、今までの動機づけ理論の考え方を放棄し、自分に起こることを予測することで動機づけがなされるとしました。
人間は事象を予測し統制しようし、その予測するための機構がコンストラクトとなります。
コンストラクトが通用しない事態(予測ができない事態)で不安が喚起されると考えます。
この理論は複雑なので、必要なときに詳しく解説します)
グリッド・テストはパーソナル・コンストラクト理論に基づいて開発された面接調査手法です。
刺激(エレメント)を提示し、比較させ、類似点あるいは相違点を自由に回答させ、コンストラクトを自身の言葉で回答させる手法です。
コンストラクトの測定法であると、現時点ではざっくりと把握しておきましょう。
上記の通り、ケリーはパーソナリティ理論における認知論の基盤を築いた人物と言えます。
領域で言えば、社会心理学や認知心理学の理論と言えますね。
対して、論理情動行動療法はエリスによって提唱されました。
エリスは当初、ホーナイ派の精神分析家でしたが、1955年に精神分析から離れて行動療法や一般意味論、実存主義などの影響を受けながらABCシェマという独自の理論を構築し、論理情動行動療法を創始しました。
合理情動療法、論理療法など色んな呼び名がありますが、公認心理師試験では「論理情動行動療法」と統一するのかもしれないですね(エリス自身が「行動」という言葉を加えたという経緯があるので、それがよいだろうと個人的には思います)。
ABCシェマが論理情動行動療法の特徴ですが、以下の通りです。
- A:activating event
その後の反応を引き出す原因となる出来事のこと。 - B:belief
信念と訳され、Aについての思考や信念などの認知的変数を指す。 - C:consequence
Bから生じた情動的あるい行動的結果であり、反応を表す。
認知的構えを変更させる手法が主体であり、そのことで行動の変容を図っており、認知行動療法の発展に大きな影響を与えています。
以上より、選択肢③は誤りと判断できます。
『④G.H.Bower ― 感情ネットワークモデル』
うつ病の人では記憶の内容がネガティブなものに偏るという記憶バイアスが強いことが明らかになり、こうした研究成果をもとにしてバウアーは「感情ネットワークモデル」を提出しました。
バウアーは「気分状態依存効果」と「気分一致効果」という現象を見出し、感情と認知の間には相互的な関係があることを実験的に確かめました。
気分状態依存効果とは、気分状態Aで覚えた内容は、気分状態Bでは思い出しにくいが、再び気分状態Aに戻ると思い出しやすいという現象を指します。
うつ状態で覚えたことは、回復すると思い出しにくいが、うつ状態になると思い出しやすくなるという、情報処理のメカニズムが平常状態とうつ状態で異なることを示しています。
気分一致効果とは、楽しい気分のときには楽しい連想が、悲しい気分のときには悲しい連想が浮かぶことを指します。
つまり、気分状態に一致した認知バイアスが生じるということですね。
これは「感情→認知」という順序を前提としていますが、例えばシャクターやラザルスの説は「認知→感情」という順序を前提としているので、その辺に違いがあります。
こうした認知と感情の相互関係については、バウアーは「感情ネットワークモデル」で説明しました。
人間の連想は、脳内の意味記憶がネットワークを成していて、1つの連想がネットワーク上を拡散していくために起こります。
これは記憶における「意味記憶ネットワークモデル」ですが、バウアーはここに「感情」と言う表象を組み込んで、感情と記憶の相互影響関係をモデル化しました。
このモデルによれば、喜びや怒り、悲しみなどの感情はそれに伴う自律的反応や表出行動、その感情を引き起こすできごとなどの知識とリンクしているため、ある感情が生起するとその感情とリンクしている行動や知識が活性化されます。
また、喜びと怒りなどの相反する感情は抑制的なリンクが想定されているため、喜びの感情が活性化されると怒りの感情とリンクしている知識は抑制されるということになります。
感情ネットワークモデルをもとにして、PTSDの治療として考え出されたのがFoa&Kozakによる情動処理理論です。
情動処理理論は、PTSDに対する持続エクスポージャー法の理論的基礎を成しています。
恐怖体験は、恐怖刺激とその反応への脅威的な意味づけが関与していると考え、治療場面で恐怖構造が十分に活性化され、かつそれと矛盾する新しい情報を取り込むことが重要と考えます。
また、感情ネットワークモデルをうつの理解に応用したのが、Teasdaleの「抑うつ処理活性仮説」です。
こちらではベックの認知理論と同じ要素を共有しており、そこに上記のモデルを組み入れた治療法を確立しています。
以上より、選択肢④が正しいと判断できます。
『⑤H.J.Eysenck ― 自己教示訓練法』
アイゼンクは人格心理学、行動療法の基礎研究と臨床研究に従事し、多くの研究業績を残しています。
人間の行為は、生物的要因と社会的要因の双方によって決定されるという生物社会的な視点が、アイゼンクの考えと研究の方向性の基本となっています。
アイゼンクの業績をざっとまとめると以下の通りです。
- 心理療法においてエビデンスが重視されるきっかけとなったのは1952年のアイゼンクの論文に遡る。心理療法の効果研究について主張を行った。
- 人の類型は特性から形成されると考え、類型論と特性論の統合を目指した。
- 因子分析を用いて、性格を「内向-外向」「神経症傾向」「精神病的傾向」に分類した。これらの知見を元に「モーズレイ人格目録- MPI」を考案した。
- 技法の集合体であった行動療法を「人間の行動と情動を行動理論に従って変える試み」と包括的に定義した。
たくさんの業績がありますね。
やはりパーソナリティ研究と行動療法が大きいので、その二つは押さえておきましょう。
先述したとおり、自己教示訓練法はマイケンバウムが提唱したので、アイゼンクとの組合せは誤りと言えますね。
以上より、選択肢⑤は誤りと判断できます。