タイトルの臨床的妥当性と内的整合性という組み合わせで、MMPIとYG性格検査を思い浮かべられることが大切です。
実はこの組み合わせ、臨床心理士資格試験で何度も問われているだけでなく、公認心理師試験でも出題されています。
臨床心理士試験では、以下で出題されています。
- H5-44AおよびE
- H6-44aおよびb
- H7-45A
- H10-42b
臨床心理士試験ではかつて出題されることが多かったのですが、近年は中身について、例えば妥当性尺度の解釈等について問うことが多くなっています。
公認心理師ではどうかな…と思っていましたが、しっかりと出題されていました。
「質問項目は、患者群と非患者群との間の統計的有意差を基に作られている」という内容に対する正誤を求める内容でしたね。
理解すればそれほど難しくはないのですが、それ故にしっかりと押さえておかねばならないポイントです。
以下に、臨床的妥当性と内的整合性について述べていきます。
臨床的妥当性
臨床的妥当性とは、その名の通り「臨床的に妥当であるかどうか」で質問項目が作られています。
そして、臨床的妥当性を用いて構成されている代表がMMPIなのです。
臨床的妥当性では、その質問項目の選定に「患者群と非患者群を見極める力があるか否か」を基準にします。
すなわち、患者と非患者を弁別できる質問であれば、それは質問項目として採用されるわけです。
例えば「あなたは遊園地が好きですか?」という質問。
一見、病理の弁別に何の意味もなさそうではありますが、これが患者と非患者群を弁別できれば「それでOK」なのです。
うつ病患者群50人、健常者群50人がいて、この質問をしてみます。
- うつ病患者群:10人がYes
- 健常者群:40人がYes
だった場合、この人数の偏りが統計的に有意であるか否かを、統計手法を用いて証明します。
質問に弁別する力がなければ、この群間の差は統計的に有意にならないはずですよね。
統計的に有意であることが証明された、すなわち、この質問によって患者群と非患者群を弁別できることがわかれば、MMPIの質問項目としてその質問は採用されるわけです。
それがどのような質問内容であろうが。
内的整合性
臨床的妥当性と対比させられるのが内的整合性であり、内的整合性を使って質問項目を選定しているのがYG性格検査です。
そもそも内的整合性とは、信頼性係数の一つです。
信頼性・妥当性とよく言いますが、信頼性とは「何度やっても同じ」という指標であり、妥当性とは「測りたいものを測れている」という指標です。
信頼性を示す概念として信頼性係数があり、それは以下の3つによって表現されます。
- 再現性(安定性):
検査結果の再現性が高く、同一の検査対象であるなら何度測定を繰り返しても同じような測定値が得られるほど、安定しており信頼性が高いとする概念のこと。 - 等価性:
検査が測ろうとしている構成概念と同じ、あるいは似通った概念を測る他検査と一定の関係が認められれば、信頼性が高いとする考え方の概念のこと。 - 内的整合性(内的一貫性):
検査の尺度内部で回答のバラツキがないことを意味する。
尺度内の各項目が構成概念を同じように測ることができて、バラツキがなく、一貫していることを信頼性が高いとする考え方の概念のこと。
上記からもわかるとおり、内的整合性は「尺度内部で回答のバラツキがないこと」を意味します。
もう少し砕いて言うと「内的整合性によって作成された検査(YG性格検査など)は、質問項目の重みが一定である」ということになります。
図にすると以下のようなイメージです(不安の質問紙という設定です)。
このように、内的整合性を用いていない場合は質問項目一つひとつの重みが異なるわけです。
それに対して内的整合性を用いている場合は、どの質問に答えようが価値は同じ、すなわち質問項目に意味を持たせているわけですね。
これを保証するために、例えば、ある質問紙の質問項目番号の奇数と偶数で分け、それらに統計手法(主に相関係数)を用いて有意であるかどうかを調べます(こういうのを奇偶法と言います)。
当然ですが、相関が高い場合に内的整合性が高いと言えるわけですね。
こうして内的整合性が高いと判断されれば、その質問項目群が採用されることになるわけです。
なぜ臨床的妥当性と内的整合性が対比的に出題されるのか?
ここから先は臨床心理士資格試験向けです(公認心理師が関係ないというわけでもないですが)。
臨床心理士資格試験では、臨床的妥当性と内的整合性が対比的に出題されます。
「MMPIは内的整合性を用いて作成された」などの設問は、明らかにこれらをごっちゃにさせ、混乱を狙っているように見えます。
なぜわざわざそんなことをするのか?
臨床的妥当性と内的整合性の違いは「質問項目に意味を持たせているか否か」です。
臨床的妥当性は、患者群と非患者群の弁別ができればそれでよいのですから、当然、質問項目に意味などありません。
だから質問項目が「遊園地が好きですか?」でも「妻(夫)の前でもオナラができますか?」でも「二重飛びができますか?」でも、何でも良いわけです。
ただ、患者と非患者を「弁別する力」が重要なのです。
質問項目の内容は問わず、ただ弁別力に優れた質問項目だけが集まっているというイメージです。
それに対して内的整合性は、その質問項目の内容が等価でなくてはいけません。
一つの質問項目がある特徴を見極めるのに優れていても、他の質問項目と足並みが揃っていなければ外されるわけです。
すなわち、質問項目にはみんな同じような価値が付与されており、その点で臨床的妥当性とは異なるわけです。
臨床心理士試験でこれらが対比的に出題されるのは、こうした背景があるからです。
こうした背景をしっかりと理解しているかを問うているわけですね。