知的障害児の適応行動の評価で使用する心理検査を選択する問題です。
「適応行動の評価と言えばこの検査」という感じで浮かびやすい問題だったように思います。
問99 知的障害児の適応行動の評価で使用する心理検査として、最も適切なものを1つ選べ。
① CDR
② WISC-Ⅳ
③ Vineland-Ⅱ
④ 田中ビネー知能検査V
⑤ グッドイナフ人物画検査
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解答のポイント
各心理検査の特徴を把握している。
選択肢の解説
① CDR
CDRは1982年にHughesらによって報告され、認知症の重症度を判定するために国際的に広く活用されている検査です。
CDRでは、家族や介護者からの情報を得た後に、本人への問診を行って評価します。
認知症が重度になって本人からの協力が得られない場合もあり得るので、そういった場合に認知症にみられる臨床症状を専門家が全般的に評価することによって重症度を判定することができる点に有用性があると言えます。
ただし、上記の通り、家族からの聞き取りだけで評価するのではなく、本人への問診を行うことになっていますから、完全なる他者評価というわけではありません(どうしても本人からの聞き取りができないという状況は症状によってあり得る。ただし、聞き取りができないほどであるなら、かなり症状が進んでいると言えますね)。
チェック項目は、記憶・見当識・判断力と問題解決・社会適応・家族状況および趣味への関心・介護状況の6項目で、それぞれを5段階評価し6項目すべてに見られる評価点をもって、健康(CDR0)、認知症の疑い(CDR0.5)、軽度認知症(CDR1)、中等度認知症(CDR2)、重度認知症(CDR3)などとします(一般に、CDR=0.5を軽度認知障害(MCI)、CDR=1以降を認知症として捉えることが多い)。
この評価尺度はテストの点数による評価ではなく、あくまでも臨床的な観察にもとづくものです。
単に抽象的で量的な評価基準にとどまらず、例えば、見当識に関しては、時間、場所、人物に関する障害といった症状の進行に伴って加わってゆく質的変化を基準としており、使いやすいものとなっています。
ただし、評価が主観的なものであるだけに、評価者間に評点の差を生ずる可能性があるのが欠点と言えますね。
以上のように、CDRは本問の「知的障害児の適応行動の評価で使用する心理検査」に該当しないことがわかりますね。
よって、選択肢①は不適切と判断できます。
② WISC-Ⅳ
④ 田中ビネー知能検査V
ふだん、これらの検査は別々に解説することが多いのですが、両方とも「臨床的評価および個別化、標準化された知能検査」という点で共通しています。
両者の違いも含めて簡単に解説していくことにしましょう。
こうした知能検査が作る際、その作成者の「知能の捉え方」が反映されることになります。
ビネー法は、通常「一般知能」を測定しているとされていて、すなわち、知能を各因子に分かれた個々別々の能力の寄せ集めと考えるのではなく、1つの総合体として捉えています。
言い換えるならば、記憶力、弁別力、推理力などさまざまな能力の基礎となる精神機能が存在し、それが一般知能とされます。
ビネーは、人が何かの問題に直面したとき、共通に作用する力が働くのではないかと考えていたらしく、その共通する能力とは、方向性、目的性、自己批判性であり、知能とは、この3側面を持った心的能力であると捉えていました。
こうしたビネーの考え方に対し、ウェクスラーは知能を「目的に行動し、合理的に思考し、環境を効果的に処理するための、個人の集合的ないしは全体的能力」と定義し、様々な能力の合算として知能を捉えていました。
ウェクスラー式知能検査は、ウェクスラーが個人の知能構造を診断する目的で開発した知能検査ということになるわけですね。
こうした知能観の違いはありますが、いずれもが「臨床的評価および個別化、標準化された知能検査」として活用されております。
もちろん、知能を測定する検査になりますから、本問の「知的障害児」であったとしても被検査者として実施することは可能と言えます。
しかし、「適応行動の評価で使用する心理検査」と見なせるかに関しては、当然疑問が出てくることになります。
WISC-Ⅳも田中ビネーⅤも、検査作成者(ウェクスラーおよびビネー)が定めている知能を測定する目的で作成されており、「適応行動」を評価するという目的で作成されているわけではありません。
もちろん、特にWISC-Ⅳの場合には、様々な知的機能やそれらのバランスを見ることができるため、それらの数値やその差からいくらかは「適応行動の評価」が可能と言えるかもしれませんが、解釈する者の習熟度によって精度が変わってくるレベルの領域と言えます。
やはり、「適応行動」をピンポイントで評価したいのであれば、それに合致した検査を選択するのが適当であると言え、本問で挙げられた選択肢の中にそういった検査があるのであれば、ここで挙げた選択肢は除外するのが妥当でしょう(後述しますが、適応行動を評価する検査と、ここで挙げた知能検査でバッテリーを組むことも多いです)。
以上より、選択肢②および選択肢④は不適切と判断できます。
③ Vineland-Ⅱ
Vineland-Ⅱは、アメリカで開発された適応行動尺度です。
適応行動全般を検査する標準化尺度としては最も国際的に用いられているものの1つとされています。
近年は特に、ASDをはじめとする発達障害(知的障害を含む)のアセスメントの一環として診断検査(ADOS、ADI-Rなど)、認知検査(ウェクスラー式知能検査など)とともに用いられることが多いです。
日本版のVineland-Ⅱでは、適応行動を個人的・社会的充足を満たすのに必要な日常生活における行動と定義しています。
このような定義がされる行動は以下の4点によって決定されます。
- 適応行動は、それぞれの年齢が重要となるものが異なる。
- 適応行動の評価は、個人がかかわる環境の期待や基準によって変化する。
- 適応行動は、環境の影響および支援効果などによって変容する。
- 適応行動の評価は、行動そのものを評価するものであり、個人の可能性を評価しない。
これによって得られる適応行動評価の情報は、主に診断や特別支援教育等の教育的措置、支援計画の策定および支援経過評価などに利用することが可能とされています。
日本版Vineland-Ⅱは以下の5つの領域で構成され、それぞれの領域には下位領域があります。
- コミュニケーション領域:受容言語・表出言語・読み書き
- 日常生活スキル領域:身辺自立・家事・地域生活
- 社会性領域:対人関係・遊びと余暇・コーピングスキル
- 運動スキル領域:粗大運動・微細運動
- 不適応行動領域:内在化問題・外在化問題・その他・不適応行動重要事項
なお日本版では、発達障害のある人々のアセスメントにおいて重要となる場合が多い不適応行動領域の評価は、実施手続き上ではオプションであり、回答者の許可を事前に得る必要があります。
その他の特徴としては…
- 適用年齢:0歳~92歳
- 回答者:保護者・近親者および評価対象者をよく知る人
- 実施時間:20分~60分
- 状態把握のための複数回の実施:可能
…などとなります。
以上のように、本問の「知的障害児の適応行動の評価で使用する心理検査」という要件に、Vineland-Ⅱは合致することがわかりますね。
よって、選択肢③が適切と判断できます。
⑤ グッドイナフ人物画検査
人物画検査には大きく2つあります。
一つはDAP(Draw a Person)であり、もう一つはDAM(Draw a Man)です。
両方を簡単に解説しておきましょう。
DAPはMachover(マッコーバー)が作成した「パーソナリティ検査」になります。
性別の異なる1人の人物をそれぞれ1枚ずつ描き、それらの人物を描く過程での内容や順序、その他さまざまな要素(動態分析や形態分析という表現は使ってないけど、そういうもの)を解釈し、被検査者の人格特徴を査定します。
「Macを食べすぎて(マックをオーバー=マッコーバー)、お腹がダップダップ(DAP)」と覚えておきましょう。
こうしたDAPに対して、DAMはGoodenough(グッドイナフ)が開発した「動作性知能検査」になります(本選択肢で問われているのはこちらのことですね)。
1926年にグッドイナフが最初に知能を測定する簡便な方法として報告し、世界各地で広範囲に施行されています。
DAMの特徴は、「人を一人描いてください(頭の先から足の先まで全部です)」という教示をするため特に子どもが好んで積極的に実施すること、言語や聴覚に問題のある被検査者にも適用できること、採点が容易であることなどが挙げられます。
女性が描かれた場合は、更に男性を描いてもらい、男性像のみを採点の対象とします。
からだの各パーツごとに設けられた採点基準があり(こういう風に手を描くのは〇歳〇カ月みたいな感じで)、それに従って採点を行い評価と検討を行うことになります。
ちなみに適用年齢は健常児の場合、3歳~8歳半までになります。
このように、グッドイナフ人物画検査は動作性知能検査であり、「知的障害児」にも適用は可能になりますが、「適応行動の評価」という細かい点について評価できる検査にはなっておりません。
よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。