公認心理師 2019-130

問130は田中ビネーⅤに関する問題です。
田中ビネーは療育手帳の判定を行っていた頃に、毎日のように取っていた、私にとって思い出深い検査です(好きとかそういうんじゃないんですけど)。

問130 田中ビネー知能検査Vの実施と解釈について、正しいものを2つ選べ。
①2歳から18歳11か月まで適用が可能である。
②生活年齢〈CA〉より1歳低い年齢級の課題から検査を始める。
③13歳以下では、精神年齢〈MA〉から知能指数〈IQ〉を算出する。
④各年齢級の問題で1つでも合格できない問題があれば、下の年齢級に下がる。
⑤14歳以上では「言語理解」、「作動記憶」、「知覚統合」及び「処理速度」の4分野について、偏差知能指数〈DIQ〉を算出する。

こういう知能検査の実施手順は、文字で書くとややこしいのですが、実施してみると簡便であることが多いです。
身近にある人は、良い機会ですから手に触れてみることをお勧めします。

解答のポイント

田中ビネー知能検査Ⅴの概要と実施手順について把握している。

選択肢の解説

①2歳から18歳11か月まで適用が可能である。

ビネー式知能検査はフランスのビネーとその弟子であるシモンが作成した世界で初めての知能検査法です(この点については、2019-4で出題がありますね)。
その後、アメリカにおいては、ターマンがビネーの方法論を継承し、スタンフォード改定案を公刊しました。
日本では1947年に田中寛一が、このスタンフォード改定案をもとに「田中ビネー知能検査」を発刊しました。
その後、改訂を重ね、現在の田中ビネー知能検査Ⅴに至っています。

ビネー法は、通常「一般知能」を測定しているとされています。
つまり、知能を各因子に分かれた個々別々の能力の寄せ集めと考えるのではなく、1つの総合体として捉えており、言い換えるならば、記憶力、弁別力、推理力などさまざまな能力の基礎となる精神機能が存在し、それが一般知能とされます。
ビネーは、人が何かの問題に直面したとき、共通に作用する力が働くのではないかと考えていたらしく、その共通する能力とは、方向性、目的性、自己批判性であり、知能とは、この3側面を持った心的能力であると考えられます。

田中ビネー知能検査はウェクスラー式知能検査と並んで、日本でよく用いられる個別式知能検査であり、子どもの知的側面の発達状態を客観的に示す指標の1つとして、さまざまな場面で使用されています。

検査対象が2歳から成人と幅広く、問題が年齢尺度によって構成されているため、通常の発達レベルと比較することが容易になっています(下記にもありますが、成人の問題が設定されている)
また、実施の手順が簡便であり、被検査者に精神的・身体的負担がかからないことが大きな特徴となっています。

以上より、選択肢①は誤りと判断できます。

②生活年齢〈CA〉より1歳低い年齢級の課題から検査を始める。
④各年齢級の問題で1つでも合格できない問題があれば、下の年齢級に下がる。

田中ビネー知能検査の特徴として「年齢尺度」が導入されており、1歳級から13歳級までの問題(96問)、成人の問題(17問)が難易度別に並べられています。
各年齢級の問題は、言語・記憶・動作・数量・知覚・推理・構成などさまざまな内容からなり、1歳~3歳級は12問ずつ、4歳~13歳級は6問ずつ、成人は17問が配置されています。
また、1歳級の下に「発達チェック」(S1~S11の11問)という項目があり、1歳級の問題を実施して未発達なところが予測された被検査者について、発達の目安をチェックすることができます。

基本的には子どもの生活年齢(CA)と等しい年齢級の課題から検査を始めていきます。
その年齢級で1つでも間違えた課題があった場合には年齢級を下げて実施していき、その年齢級における全問題が合格できる年齢級を特定します。
次に上の年齢級に進んでいき、すべての問題が不合格になる上限の年齢級を特定します。
各年齢級の問題は原則として問題順に実施することが求められます。

13歳11か月までは精神年齢は基底年齢(全ての問題に合格した年齢級の1つ上の年齢:下記の加算法でいくので、全問正解すれば「12か月」となり、その年齢級には達していると見なされる)をもとに算出します。
まず、基底年齢の年齢級より上の年齢級で合格した問題数に、それぞれ与えられた加算月数(1歳~3歳であれば1問につき1か月、4歳~13歳級は1問につき2か月)をかけます。
次に基底年齢に月数合計をプラスし、精神年齢を算出します。
1歳級にも不合格があった場合の基底年齢は、1歳級の12問中6問以上が合格であったら基底年齢を1歳として計算します。

上記に、「基本的には子どもの生活年齢(CA)と等しい年齢級の課題から検査を始める」とありますが、場合によっては低い年齢級から始めることもあるでしょう。
例えば、療育手帳を発行する際に明らかに生活年齢よりも低い年齢級から始めた方が良いだろうという場合もあります。
そういう場合には、複数の年齢級に渡って実施されている問題を用いるのが便利です。
例えば、2歳級~4歳級に渡っている語彙(絵)などは正解数の基準が各年齢によって異なるだけで問題は同じですから、こういうものを活用していくことができるでしょう。

と言っても、田中ビネー知能検査の基本として「子どもの生活年齢(CA)と等しい年齢級の課題から検査を始める」ことには変わりません。

以上より、選択肢②は誤りと判断でき、選択肢④は正しいと判断できます。

③13歳以下では、精神年齢〈MA〉から知能指数〈IQ〉を算出する。
⑤14歳以上では「言語理解」、「作動記憶」、「知覚統合」及び「処理速度」の4分野について、偏差知能指数〈DIQ〉を算出する。

現在の田中ビネー知能検査Ⅴにおいては、2歳~13歳は従来通り精神年齢(MA)から知能指数(IQ)を算出し、14歳以上は原則として精神年齢を算出せず、偏差知能指数(DIQ)を算出する方法を取っています

成人後は知能の発達が緩やかになり、老年になると下降していくため、精神年齢の概念は成人後にはあまり有用ではないという議論から、偏差知能指数との併用がなされるようになりました。
精神年齢は知能の発達を簡便に把握することができ、偏差知能指数は同年齢グループの中でどの程度の発達レベルに位置するのかを把握することができます

また、14歳以上では「結晶性」「流動性」「記憶」「論理推理」の4分野についてそれぞれ偏差知能指数を出すことができ、知能の特徴を捉えることができるため、支援の手がかりを得やすくなっています
選択肢⑤にある「言語理解」「作動記憶」「知覚統合」「処理速度」は、田中ビネーの項目ではなくWAIS-Ⅲの群指数ですね

以上より、選択肢③は正しいと判断でき、選択肢⑤は誤りと判断できます。

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