公認心理師 2022-93

各質問紙法に関する問題です。

正答となる選択肢もちょっと凝っていますし、それ以外の選択肢の解説も「どこから引っ張ってきたのか」が難しかったですね。

問93 質問紙法による心理検査の説明として、最も適切なものを1つ選べ。
① CAARSは、自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害の重症度を測定する。
② GHQは、心理的ウェルビーイングを測定する。
③ IES-Rは、ストレッサーを測定する。
④ MASは、特性不安を測定する。
⑤ POMSは、認知特性を測定する。

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解答のポイント

各検査の概要・目的を把握している。

選択肢の解説

① CAARSは、自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害の重症度を測定する。

Conners’ Adult ADHD Rating Scalesの略で「CAARS」という呼称になります。

アメリカの著名なADHDの研究者であるキーズ・コナーズ博士が開発した、成人ADHDの症状の重症度を把握するための評価尺度であり、日本語版は18歳以上の成人を対象にしていますね。

なお、DSM-IVによるADHD診断基準と整合性のある尺度になっています。

「自己記入式」66項目と「観察者評価式」66項目から成っており、複数の回答者からの情報をもとに包括的に評価を行います。

以下の通り、構成されています。

  • 注意不足/記憶の問題
  • 多動性/落ち着きのなさ
  • 衝動性/情緒不安定
  • 自己概念の問題
  • DSM-IV不注意型症状
  • DSM-IV多動性-衝動性型症状
  • DSM-IV総合ADHD症状
  • ADHD指標

回答に一貫性があるか判別する指標(矛盾指標)も設けられております。

このようにCAARSは「自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害の重症度を測定する」ではなく、成人ADHDの症状の重症度を把握するための評価尺度ということになりますね。

「自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害の重症度を測定する」という目的に近い検査としては、AQ-Jが該当すると考えられます(他にもM-CHATがありますね)。

ASDでは、社会的なコミュニケーションの取り方の困難さ、こだわりの強さを大きな特徴とされており、このような特徴や傾向をスクリーニングするため、Simon Baron-Cohen&Sally Wheelwrightたちによって考案されたのがAQ-Jです(語尾のJはJapanを意味します)。

AQ-Jでは、「社会的スキル」「注意の切り替え」「細部への注意」「コミュニケーション」「想像力」の5つの項目があり、50問4択で解答していきますが、これらはすべてASD傾向を知るために重要な項目となります。

得点による判断は以下の通りです。

  • 33点以上:発達障害の診断がつく可能性が高いといえます。日常生活に差し障りがあると思われます。
  • 27~32点:発達障害の傾向がある程度あるといえます。日常生活に差し障りはないと思われますが、一部の人は何らかの差し障りがあるかもしれません。
  • 26点以下:発達障害の傾向はあまりありません。日常生活にも差し障りなく過ごせていると思われます。

AQ-Jはスクリーニングテストという面が強いので、本選択肢の「自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害の重症度を測定する」という目的には若干合致しない面もあることも理解しておきましょう。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

② GHQは、心理的ウェルビーイングを測定する。

健康心理学のアセスメントでは、健康度や身体疾患を尋ねるための質問紙が良く用いられています。

代表的なものとして、CMIや精神健康調査(GHQ)などがあります。

GHQ(The General Health Questionnaire)はGoldbergによって1972年に開発された精神障害のスクリーニングを目的とした質問紙検査法です。

一般的な対象から、神経症、抑うつ、不安などの不調を訴える者を検出できるよう、精神症状や身体症状、睡眠状態などに関して具体的な質問項目が設けられています。

各国で使用されており、対象年齢は質問内容が理解できる12歳以上で、通常の60項目版に加え、短縮版として30項目版、28項目版、12項目版も作成されています。

一般的には「主として神経症者の症状把握、評価および発見に有効なスクリーニング・テスト」と見なしておいて問題ないと思います。

ですから、「GHQは、心理的ウェルビーイングを測定する」というのは適切とは言えないわけですね。

心理的ウェルビーイングと聞くと「公認心理師 2021-38」を連想しますが、これを測定する尺度があるとすれば、それが本選択肢の「心理的ウェルビーイングを測定する」に合致するかもしません。

こちらのサイトでPERMAに基づいた検査を公開していますね(この検査がどの程度一般的なものなのかによって、本選択肢がこちらの検査を指しているか否かが変わりそうです。一大学の取り組みに過ぎず、一般的に広がっていないのであれば国家試験の項目に採用されるというのは考えにくいと思いますが…)。

上記以外にも「精神的幸福度」という枠組みで検索をすれば、いくつかの検査がヒットします(本選択肢がどの検査を指して述べているかは不明です)。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

③ IES-Rは、ストレッサーを測定する。

IES-R (Impact of Event Scale-Revised)とは、 改訂出来事インパクト尺度日本語版です。

IES-Rは、PTSDの症状評価尺度として国際的に評価が高く、国内の数多くの研究で使用されています。

信頼性と妥当性を検証し、心理検査法として保険診療報酬対象の認可を得ているものです。

自由にダウンロードしてよいので、興味のある方は検索されて実際の検査項目をご覧になると良いでしょう(例えば、文部科学省のこちらのページにもあります)。

IES-Rは、PTSDの診断基準に則しており、ほとんどの外傷的出来事について、使用可能な心的外傷ストレス症状尺度です。

旧IESは侵入症状7項目、回避症状8項目の計15項目より構成されているが、IES-Rは過覚醒症状6項目を追加し、さらに旧版の睡眠障害を入眠困難と中途覚醒の2項目に分け、計22項目より構成されています。

IES-Rは災害から個別被害まで、幅広い種類の心的外傷体験者のPTSD関連症状の測定が簡便にでき、横断調査、症状経過観察、スクリーニング目的など、すでに我が国でも広く活用されています。

PTSDの高危険者をスクリーニング目的では、24/25のカットオフポイントが推奨されていますね。

上記の通り、IES-Rは「ストレッサーを測定する」という検査ではないことがわかりますね。

PTSDは乱暴に言えば「大きなストレスを引き起こす出来事によって生じる疾患」ですから、ストレッサーとの関連がないとは言えませんが、IES-R自体は「PTSDの症状のスクリーニングや状態像の把握」に用いられているので「ストレスとなる出来事(ストレッサー)の測定」ではありませんね。

「ストレッサーを測定する」という目的だけで見ていけば、そういう検査は無数にあると思われるので、本選択肢において「ストレッサーを測定する」という内容を設けた目的は「IES-RはPTSDの検査なのは知っていると思うけど、ストレス出来事(ストレッサー)を把握する検査?それともPTSDの状態を把握する検査?」という点での判断が可能か否かを測るためと思われます。

当然、後者が正しい認識になりますので、「ストレッサーを測定する」という捉え方では間違いになるということです。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

④ MASは、特性不安を測定する。

MAS:Manifest Anxiety Scale(顕在性不安尺度)は1953年にテイラーが、キャメロンの慢性不安反応に関する理論を基にMMPIから選出された不安尺度50項目に、妥当性尺度15項目を加えた65項目で構成・作成しました(妥当性尺度15項目を加えたのは日本語版。ちなみに、この妥当性尺度はMMPIのL尺度を使っている。ここ重要)。

それまで面接や行動観察から主観的印象的に捉えられることが多かった不安を客観的に測定することを可能にしました。

顕在性不安とは、自分自身で、精神的身体的な不安の徴候が意識化できたものであり、MASはある期間かなりの頻度で現れる不安の全体的水準を測定します。

すなわち、MASで測定されるのは1種類のものではなく様々な不安を含んだ多次元的なものと言えます。

ポイントなのが、MASで測定している「顕在性不安」が「特性不安」であるか否かですね。

顕在性不安とは「自分自身で身体的・精神的な不安の症候が意識化できたもの」を指しますが、それとは別にMASで調べようとしている不安が特性によるものか否かを知っておくことが重要になります。

重要なのがMASの作成経緯であり、その一つとして「MMPI」の検査項目から作成しているというのがあったと思います。

詳しく言うと、MMPIの中から、5人の臨床家に妥当と思われる質問項目を選んでもらい、65項目を抽出し、この内の50項目を用いることになったということです。

MMPIは一般的な不安を測定する尺度としてよく用いられるようになりましたが、状態不安を測定するためには作られていませんでした。

そのためSpielbergerらは、特性不安だけではなく状態不安も測定する必要があると考え、後述するSTAIを作成したという経緯があります。

このことから、MMPIは特性不安を測定するものであり、MMPIから抽出されて作成されたMASも当然同様の傾向、すなわち特性不安を測定する検査ということになるわけですね。

なお、こうしたMAS以外で「特性不安」という表現で思い浮かぶべきはSTAIになりますね。

State-Trait Anxiety Inventory;STAI(状態ー特性不安検査)は、スピルバーガー(Spielberger)が作成した検査で、状態不安と特性不安に分けているのが特徴です。

STAIを用いる場合、事例で示されている種々の問題が不安によって生じているという見立てが必要であること、特性不安と状態不安を見ることがクライエントの問題を把握しやすくするという見通しが必要になります。

以上より、MASが測定している不安は「特性不安」であると考えられます。

よって、選択肢④が適切と判断できます。

⑤ POMSは、認知特性を測定する。

POMS(Profile of Mood States)はアメリカで開発された気分状態を評価する質問紙検査で、日本語版は1994年に作成されています。

65項目の質問から過去1週間の気分を評価し、緊張‐不安、抑うつ‐落ち込み、怒り‐敵意、活気、疲労、混乱の6尺度によるプロフィールを産出します。

2015年には改訂版のPOMS2日本語版が発表され、質問項目の変更がなされました。

活気、疲労、混乱はそれぞれ、活気‐活力、疲労‐無気力、混乱‐当惑へ変更され、友好尺度が追加されています(つまり、POMS2は7尺度)。

ネガティブな気分状態を総合的に表す「TMD得点」から所定の時間枠における気分状態を評価する検査になります。

なお、成人用(18歳以上)に加え、青少年用(13~17歳)があります。

このように、POMSは「所定の時間枠における気分状態を評価する検査」になりますから、「認知特性を測定する」というのは不適切と言えますね。

本選択肢のニュアンスとして、ここでの「認知特性」というのは知覚心理学的なものではなく、認知行動療法的なものを指していると考えられます(認知機能の検査は、それこそごまんとありますからね)。

検索するとこういったサイトがヒットしますが、本選択肢の「認知特性を測定する」というのが具体的に何という検査を指しているかは不明です。

少なくともPOMSが該当しないことはわかりますね。

以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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