公認心理師 2022-16

SCTの歴史に関する問題です。

過去問で解説したことがある内容ではありますが、「エビングハウスでそこ出すんかい。忘却曲線出したりーな」というのが正直な印象でした。

しかしまぁ、「今、役立つこと」だけではなく、「今、使われているものがどのような経緯を経てそこに在るのか」に関して理解しておくことは確かに大切ですね。

問16 H.Ebbinghausが文章完成法を開発した際に、測定しようとした対象として、最も適切なものを1つ選べ。
① 性格
② 病態
③ 対人知覚
④ 知的統合能力
⑤ 欲求不満耐性

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解答のポイント

SCTの歴史を把握している。

選択肢の解説

④ 知的統合能力

こちらはSCTの歴史に関する理解が問われています。

SCTは一般に言語連想テストから派生したと考えられており、この両テストは共通点は多いのですが、その目的においては次元が異なっています。

言語連想テストは無意識にあるコンプレックスを探るのが目的ですが、SCTはより広範な情報収集が目的です。

つまり、単語刺激に単語で答える言語連想テストでは、パーソナリティ全般を把握するためには無駄が多くなってしまうので、刺激を文章にして、被検査者に関する情報を効率的かつ豊富に得られるようにしたのがSCTということになります。

文章完成法という形式自体は古くから存在が認められており、記憶研究で有名なエビングハウスも1879年にこの形式をもって知能を測定しています。

ただし、エビングハウスの検査は、文章を完成させるという方法は同じでも、「反応の適切さ」が問題とされていた点(なぜなら知能を測ろうとしていたから)で大きく異なっており、どちらかというと現在の穴埋め問題に近いものでした。

現在のようにSCTをパーソナリティと関連させた最初の試みは、ペインがキャリア・ガイダンスの領域において用いた50項目からなる検査の作成です。

隠された反応を引き出すことで人格特性を明らかにする検査として考案され、大学生の職業相談に広く用いられました。

また、テンドラーの「情緒洞察検査」は、パーソナリティ検査として心理学の領域にSCTを導入した最初の研究であるとされています。

この検査では情緒表出に関連した20項目の刺激文が用いられています。

SCTが採用された理由としては、情動反応が直接的に引き出すことができ、しかも、質問紙法などの選択肢による回答と異なり、被検査者の反応に自由性が保持できることが挙げられています。

この後、1940年代には集中してSCTの研究報告がありました。

この背景には、第二次世界大戦における軍人動員のためのスクリーニング検査としてSCTが採用されたことと関連しています。

このように他の検査と違ってSCTは特定の理論的背景のもとで作成されたものではなく、多くの文章完成法という方法を活用した研究の蓄積によって広まっていきました。

ちなみに現在のSCTでも知的側面の評価は行っていくことがあります。

特定の刺激語からというよりも、文章全体から知的分化度、思考の客観性、判断力、現実感覚、興味関心の幅を評価して判断していくことになります。

具体的な視点としては、記述された文章に漢字が使用される頻度(クライエントの名前を聞くときに「どんな漢字ですか?」と問い、どのような説明を行うかで知的分化度が想定できるのに似ています)、文法的な誤りの有無、文章の構成から評価していきます。

思考の客観性・判断力は自己の状況をどの程度客観的に評価できているか、主観的で感情に左右された判断が行われていないか、誤った判断や妄想的思考の直接的表現がないか評価します。

興味関心の幅は、一部の領域で精神的視野狭窄が認められるのか、多くの領域で精神的視野狭窄が認められるかを評価していきます。

もちろん、こういう視点をエビングハウスが示したわけではありませんが、SCTだからと言って知的側面はあり得ないというわけでもないわけですね。

上記の通り、エビングハウスは文章完成法の形式をもって知能の測定を行おうとした(よって、学力検査の問題作成法の一つである完成法:穴埋め問題に近い内容だった)という経緯があります。

エビングハウス=記憶研究というところから、「SCTは性格を見るものだけど、もしかしたら記憶…知的能力ではないか」と連想できた人はラッキーだったかもしれないですね。

よって、選択肢④が適切と判断できます。

① 性格
② 病態
③ 対人知覚
⑤ 欲求不満耐性

上記で述べた通り、エビングハウスが測定しようとしたのは「知的統合能力」になります。

ここでは、他の選択肢に関する印象・感想を述べるに留めておきましょう。

まず選択肢①の「性格」については、おそらく「SCTがより広範な人格に関する情報収集を行っている」というSCTに関する基本的な知識がある人を引っかけるためだろうと思います。

SCTという検査=性格を査定するというのは、ある程度学んでいる人なら理解していることでしょうからこちらを選んでしまった人も多いのではないかなと思います。

続いて選択肢②の「病態」ですが、これは「除外できるかどうか」が重要だと思います。

SCTの基本的な理解として「人格を広範に情報収集する」ということが挙げられます。

これはSCTは投影法ではあっても「言語という刺激」を使っていることから、人格の深層というよりも人格を「浅く広く」把握するということに長けています。

ですから「病態」というかなり特定的な側面について理解する検査ではないというのが前提です。

これは歴史を知らなくてもSCTという検査の特性上、外すことができる選択肢と言えます(ある程度研究が進んできた現在でも不可能なものは、過去でも不可能と捉えてよい)。

また、選択肢③の「対人知覚」については、現在のSCTにその側面を評価する刺激語があります。

例えば「友達」「私が嫌いなのは」「私が好きなのは」「争い」などの刺激語では、対人イメージが反映されることが多いとされています。

こうした事実を把握していると迷ってしまいますから、こちらの選択肢は「勉強している人を迷わせるもの」だったのかもしれません。

最後に選択肢⑤の「欲求不満耐性」ですが、これはP-Fスタディから引っ張ってきていると考えられます。

P-Fスタディは、刺激項目を日常ごく普通に経験する比較的軽い欲求不満場面で統一し、それに対する被験者の反応を、独自の分類概念を設定して、それに基づいて分類し、その被験者の示す反応模様から、その背景にひそむ被験者の人格の独自性を明らかにしようとするものです。

このように欲求不満耐性と関連が深そうなのはP-Fスタディであることから、選択肢⑤はP-Fスタディを思い浮かべることができれば除外しやすい選択肢だったのではないかなと思います。

以上より、選択肢①、選択肢②、選択肢③および選択肢⑤は不適切と判断できます。

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