公認心理師 2021-66

クライエントの状態から想定される診断を選択する問題です。

現症歴やクライエントの訴え、検査結果などを総合的に判断することが求められます。

問66 67歳の男性A、税理士。重度認知症の母親Bと二人で暮らしている。Aは、Bの介護をしながら税理士の仕事をしている。Aは、1年前から集中力や思考力が低下して、仕事が捗らなくなった。ミスも増えたため、仕事を辞めようかと悩んでいた。物忘れ、不眠、食欲低下についてもかなり心配していた。Aは、現在の状態がBの初期症状と類似しているのではないかと心配し、医療機関を受診した。Aは、手段的日常生活動作〈IADL〉に問題はなく、HDS-Rは29点、老年期うつ検査-15-日本版〈GDS-15-J〉は13点であった。
 診断として疑われるAの状態として、最も適切なものを1つ選べ。
① うつ病
② パニック症
③ 前頭側頭型認知症
④ Lewy小体型認知症
⑤ 心的外傷後ストレス障害〈PTSD〉

解答のポイント

生活歴、現症歴、Aの主訴、各検査結果を総合して蓋然性の高い選択ができる。

選択肢の解説

① うつ病

まず本問では2つの検査(+1)が示されていますから、そちらの解釈から入っていきましょう。

「HDS-R は29 点」からは、認知機能の問題がないことが示唆されています(得点範囲は0~30点であり、認知症群と非認知症群のcut off値は20/21点が妥当とされています)。

事例の年齢(67歳)を考えると、認知症等の認知機能の問題によって「1年前から集中力や思考力が低下して、仕事が捗らなくなった。ミスも増えたため、仕事を辞めようかと悩んでいた。物忘れ、不眠、食欲低下についてもかなり心配していた」という現症が生じている可能性もあったわけですが、こちらについてはとりあえず否定された形になります。

関連する項目としては手段的日常生活動作〈IADL〉が示されていますね。

日常生活動作(ADL)には、基本的日常生活動作(basic ADL=BADL)と手段的日常生活動作(instrumental ADL=IADL)とがあります。

基本的日常生活動作(BADL)とは、一般的に日常生活動作(ADL)のことを指し、日常生活における基本的な「起居動作・移乗・移動・食事・更衣・排泄・入浴・整容」動作のことを指すのに対して、手段的日常生活動作(IADL)は基本的日常生活動作の次の段階を指します。

IADLは「掃除・料理・洗濯・買い物などの家事や交通機関の利用、電話対応などのコミュニケーション、スケジュール調整、服薬管理、金銭管理、趣味」などの複雑な日常生活動作のことを指し、BADLが食事や更衣そのものの動作を指すことに対して、IADLでは、買い物へ行って食事の準備・調理・配膳を行い、食べて片付けること、季節や場所にふさわしい衣服を選んで、身だしなみを整えて着ることまで含まれます。

こうしたIADLについて、本事例では問題なしとされており、これは上記のHDS-Rの得点を支持するものでもありますね。

続いては「老年期うつ検査-15-日本版〈GDS-15-J〉は13点」の検証になります。

GDSは「Geriatric depression scale」の略であり、15という数字は項目数を表しています。

うつのスクリーニング検査として世界でもっともよく使用されている検査であり、認知症や軽度認知障害に対応しており認知症患者のうつを検出できること、認知症だけでなく身体疾患があっても使用可能であることが特徴です。

項目は以下の通りです。

  1. 毎日の生活に満足していますか
  2. 毎日の活動力や周囲に対する興味が低下したと思いますか
  3. 生活が空虚だと思いますか
  4. 毎日が退屈だと思うことが多いですか
  5. 大抵は機嫌よく過ごすことが多いですか
  6. 将来の漠然とした不安に駆られることが多いですか
  7. 多くの場合は自分が幸福だと思いますか
  8. 自分が無力だなあと思うことが多いですか
  9. 外出したり何か新しいことをするより家にいたいと思いますか
  10. 何よりもまず、もの忘れが気になりますか
  11. いま生きていることが素晴らしいと思いますか
  12. 生きていても仕方がないと思う気持ちになることがありますか
  13. 自分が活気にあふれていると思いますか
  14. 希望がないと思うことがありますか
  15. 周りの人があなたより幸せそうに見えますか

回答について「はい」は0点、「いいえ」には1点で加算していき、5点以上が軽度のうつ状態(うつ傾向、うつを示唆するといった表現に分かれる)、10点以上が重度のうつ状態(単にうつ状態と表記するものもある)と解釈されます。

認知機能に問題があったとしても、うつ状態の有無を判別できるということで、本事例に適した検査であると言えますね。

そして、その結果は13点とありますから、うつ状態であると見なすのが適切ということになります。

クライエントは「現在の状態がBの初期症状と類似しているのではないかと心配し」とあり、本事例のテストバッテリーは、こうしたAのニーズも汲んだものになっていますね。

検査を選択する際には、こうしたクライエントのニーズも汲み取って対応することが大切で、それをしなければAは認知機能の問題について扱われていないと感じてしまう恐れもあり、それが医療や心理支援への不信となる可能性も考えねばなりません。

本事例のように、きちんとクライエントのニーズを聞きつつ、一方で予測される疾患の判断もできるようにしておく形は、心理支援の在り様として適切なものであると言えますね。

上記をまとめると、クライエントはうつ状態であると予測することができます。

それは「重度認知症の母親Bと二人で暮らしている。Aは、Bの介護をしながら税理士の仕事をしている」という状況がAの負担を強め、うつ状態になるとともに「1年前から集中力や思考力が低下して、仕事が捗らなくなった。ミスも増えたため、仕事を辞めようかと悩んでいた。物忘れ、不眠、食欲低下についてもかなり心配していた」といううつ状態でよくみられるような反応を示すようになったと考えられます。

A自身はBの認知症の推移から、自分のその傾向があるのではないかと思い受診したわけですね。

先述のように、そうした流れも踏まえたテストバッテリーの組み方はとても良かったと言えますし、こうした結果をAに適切な価値でフィードバックしていくことが求められます。

以上より、選択肢①が適切と判断できます。

② パニック症

まずはDSM-5のパニック障害の診断基準をみてみましょう。


A.繰り返される予期しないパニック発作。パニック発作とは、突然、激しい恐怖または強烈な不快感の高まりが数分以内でピークに達し、その時間内に、以下の症状のうち4つ(またはそれ以上)が起こる。
注:突然の高まりは、平穏状態、または不安状態から起こりうる。

  1. 動機、心悸亢進、または心拍数の増加
  2. 発汗
  3. 身震いまたは振え
  4. 息切れ感または息苦しさ
  5. 窒息感
  6. 胸痛または胸部の不快感
  7. 嘔気または腹部の不快感
  8. めまい感、ふらつく感じ、頭が軽くなる感じ、または気が遠くなる感じ
  9. 寒気または熱感
  10. 異常感覚(感覚麻痺またはうずき感)
  11. 現実感消失(現実ではない感じ)または離人感(自分自身から離脱している)
  12. 抑制力を失うまたは“どうかなってしまう”ことに対する恐怖
  13. 死ぬことに対する恐怖
    注:文化特有の症状(例:耳鳴り、首の痛み、頭痛、抑制を失っての叫びまたは号泣)がみられることもある。この症状は、必要な4つ異常の1つと数えるべきではない。

B.発作のうちの少なくとも1つは、以下に述べる1つまたは両者が1ヵ月(またはそれ以上)続いている。

  1. さらなるパニック発作またはその結果について持続的な懸念または心配(例:抑制力を失う、心臓発作が起こる、“どうかなってしまう”)。
  2. 発作に関連した行動の意味のある不適応的変化(例:運動や不慣れな状況を回避するといった、パニック発作を避けるような行動)。

C.その障害は、物質の生理学的作用(例:乱用薬物、医薬品)、または他の医学的疾患(例:甲状腺機能亢進症、心肺疾患)によるものではない。

D.その障害は、他の精神疾患によってうまく説明されない(例:パニック発作が生じる状況は、社交不安症の場合のように、恐怖する社交的状況に反応して生じたものではない:限局性恐怖症のように、限定された恐怖対象または状況に反応して生じたものではない:強迫症のように、強迫観念に反応して生じたものではない:心的外傷後ストレス障害のように、外傷的出来事を想起するものに反応して生じたものではない:または、分離不安症のように、愛着対象からの分離に反応して生じたものではない)。


これらの症候が、本事例に合致するかをみていくことになりますね。

まず現症歴の「1年前から集中力や思考力が低下して、仕事が捗らなくなった。ミスも増えたため、仕事を辞めようかと悩んでいた。物忘れ、不眠、食欲低下についてもかなり心配していた」ですが、こちらは確かにパニック障害の可能性もある内容と言えます。

しかし、そうなると「老年期うつ検査-15-日本版〈GDS-15-J〉は13点」という所見と矛盾が生じてしまうことになります。

前述の通り、うつ状態であるという結果が出ている以上、こちらを無視する形で別の疾患を第一選択にすることは難しいでしょう。

もちろん、パニック障害ではうつ状態にならないとは言えないのですが、予期不安やパニック発作を避けるような言動は見られませんし、「重度認知症の母親Bと二人で暮らしている。Aは、Bの介護をしながら税理士の仕事をしている」という生活歴を踏まえれば、やはり負担が高じてのうつ状態と見なす方が適切と考えられます。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

③ 前頭側頭型認知症

プラハ大学の神経科教授だったアーノルド・ピックは、後にピック病とよばれる「葉性委縮による初老期認知症の症例」を報告しました。

今日、前頭側頭型認知症と呼ばれる病態のほとんどはピック病と呼ばれていました。

しかし、次第に前頭葉や側頭葉に限局的な委縮病変がみられる疾患は、稀ではあってもピック病の他にもあることがわかってきました。

そこで、これらの疾患を一括する概念として、それらの共通点に基づいて前頭側頭型認知症という臨床的な疾患名が広く用いられるようになりました。

前頭側頭型認知症の神経精神症状は以下のように分類できます。

  • 軽度神経精神症候群:
    ピック病では、潜行性に発症し緩慢な進行経過をとりますから、症状が明らかになる以前にさまざまな前駆的な精神症状を見ることがあります。
    疲れやすくて集中力や思考力が低下し、どことなく不活発で、まるで抑うつ気分があるように見えることもあります。
    また、頭痛や頭重感の訴えもあります。些細なことで立腹したり(易刺激性)、うつ気分や自己不全感がみられたり、態度にも落ち着きがなくなる(不穏)といったこともしばしば見られます。
  • パーソナリティ変化:
    人柄の変化は、本病に特有のものです。
    共通する特徴は社会的な態度の変化であり、発動性の減退あるいは亢進です。アルツハイマー型認知症では、少なくとも初期には、対人的な態度が保たれているのと比べると、この行動面での変化が際立っています。ときには周囲のことをまったく無視して自分勝手に行動するように見えることがあります。また、異常に見えるほど朗らかになって冗談をいったり、機嫌がよくなったりすることもあります。このようなことが続くと、もともとの性格と比べて人格の変化が生じたと見做されるようになります。
    ただ、このような時期には、まだ新しい事柄を記憶する能力は比較的残っていることがあって、アルツハイマー型認知症とは違った印象を受けることが少なくありません。
    特に、衝動のコントロールの障害は、欲動の制止欠如とか、人格の衝動的なコントロールの欠落などと表現され、思考において独特の投げやりな態度は考え不精と呼ばれます。
  • 滞続症状:
    しばしば、話す内容に同じことの繰り返しがあります。これは特有な常道的言語で、運動促迫が加わっています。まるでレコードが同じことを繰り返すようであることから、グラモフォン症候群と呼ばれたこともあります。
    この症状は側頭型ピック病において特徴的とされています。言語機能の荒廃にはまだ至っていない段階で見られるものですが、次第に言語の内容は乏しくなります。
  • 言語における症状:
    言語の内容が貧困になり言語解体と呼ばれる状態になります。自発語や語彙が少なくなり言語の理解も困難になります。中期になると、話を聞いても了解できなくなりますし、自発言語も乏しくなりますが、文章の模写や口真似は十分にできるといった超皮質性失語のかたちをとります。
    本病では、まず健忘失語や皮質性感覚失語が始まり、そのうち超皮質性感覚失語、超皮質性運動失語などが明らかになり、最も進行した段階では全失語も見られます。この段階になると、認知症に加えて、失書、失読、失行、失認、象徴能力の喪失などが出現します。
    同じことを繰り返す反復言語、それに反響言語、緘黙、無表情の四徴候は本病の特徴とされています。
  • ピック病の認知症状:
    アルツハイマー型と比べると、初期には記憶障害は目立たないことが少なくありません。しかし、抽象的思考や判断力の低下は、最も初期から認められます。また、対人関係において常道的な態度をとることもあって、社会的な活動はもとより、周囲に対して適切な態度をとることができなくなります。
    初期にはそれまで獲得している日常生活上での技能(自動車の運転など)は残っていますが、トラブルを生じたときに自主的な判断で切り抜けるといったことはできなくなります。しだいに記銘力の低下や健忘が、特有な人柄の変化と相まって、認知症の病像を呈するようになります。しかし、注意力や記銘力は後期においてもかなり残っていることが少なくありません。そのため、前頭側頭型認知症は、記憶よりも言語面で目立つ認知症と表現されることもあります
  • 精神病様症状:
    神経衰弱様の症状が前駆期に見られることがあります。また、自閉的で無関心な対人的態度や反社会的と周囲から受けとめられるような行為から、統合失調症を疑われることもあります。ただ幻覚妄想を見ることは多くありません。
    精神病様症状としては、進行麻痺様症状、統合失調症破瓜様症状、衝動行為を伴う妄想状態、不安でうつ気分を帯びた状態、強迫症状、身体的影響感情などが知られます。後期になると、自発性の低下が目立ち横臥がちとなります。末期には精神荒廃状態となり、原始反射をともなって無動無言状態となることもあります。

以上のように、前頭側頭型認知症はパーソナリティ変化を特異的な症状とし、アルツハイマー型認知症に比べて記憶障害は生じにくいといえます。

事例の現症歴では「1年前から集中力や思考力が低下して、仕事が捗らなくなった。ミスも増えたため、仕事を辞めようかと悩んでいた。物忘れ、不眠、食欲低下についてもかなり心配していた」とあり、軽度神経精神症候群を疑うこともできなくありませんが、中核的な症状であるパーソナリティ変化が見られません。

前頭側頭型認知症は記憶障害が生じにくいので、HDS-Rでどこまで判断が可能か難しいところです。

ただ、前頭側頭型認知症であれば、FAB(Frontal Assessment Battery:前頭葉の機能を中心に評価する検査です。言葉の概念化(類似の把握)、言語流暢性、運動プログラミング、干渉への感受性、抑制性制御、理解行動を調べる6つの項目からなっている)などの検査を選択する方が適切ですから、本問でHDS-Rを選択している時点で前頭側頭型認知症の見立てが第一ではなかったのだろうと考えられます。

また、「老年期うつ検査-15-日本版〈GDS-15-J〉は13点」からはうつ状態であることが窺え、これは前頭側頭型認知症で生じないことはないのですが(精神病様症状のところに記載がありますね)、本事例の状況やパーソナリティ変化などが認められないことから、やはり前頭側頭型認知症を第一選択として考えていくのは矛盾があります。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

④ Lewy小体型認知症

Lewy小体型認知症は、認知症と意識障害、それとパーキンソン症状などを特徴とし、大脳においてレビー小体を認める疾患です。

マッキースらによって1996年に「レビー小体をともなう認知症」の臨床的診断基準を提唱したのが注目を集めるきっかけになったのですが、それ以前より、通常はパーキンソン病の脳幹部に限局して見られるレビー小体が大脳皮質にもみられることがあることは知られていました。

老年期の認知症患者において、大脳皮質にレビー小体を認めた報告は、岡崎によってなされましたが、その後、日本を中心に多くの症例が報告されています。

小阪ら(1990)は、このような症例をびまん性レビー小体病と名付けて報告しました。

レビー小体型認知症の診断基準は以下の通りとなります。

Lewy小体型認知症は、進行性の認知機能障害で、正常の社会的、職業的な機能に相当な障害を生ずるものです。

いちじるしい、あるいは持続的な記憶障害は必ずしも初期からみられるとは限らないが、進行するにしたがって明らかになっていきます。

注意、実行機能、視空間機能の障害は特にいちじるしいとされています。

以下が中核症状、示唆する症状、支持する症状、むしろ否定される症状になります。

中核症状:

  • 浮動的に変化する認知機能(ことに注意と活動性においてみられる)
  • くりかえされる幻視(細かい点まで、はっきりしている)
  • パーキソンニズム(特発性)

示唆する症状:

  • レム睡眠期の行動障害
  • 神経遮断薬に重篤な過敏性あり
  • SPECTやPETで基底核にドパミン伝達物質が低値を示す

支持する症状:

  • よくみられるが、診断的な特異性は証明されていない
  • 転倒と卒倒(くりかえされる)
  • 一過性の(説明がつかない)意識の喪失
  • 自律神経障害(重篤、たとえば起立性低血圧、尿失禁)
  • 幻覚(あらゆるかたちのもの)
  • 妄想(系統的)
  • うつ
  • 画像で内側側頭葉が比較的保たれている
  • 画像で後頭部の活動低下
  • MIBG心筋シンチグラフで異常(低値)
  • 脳波で徐波が目立つ(側頭葉に一過性鋭波)

むしろ否定的な症状

  • 脳血管障害がある
  • 身体疾患がある、あるいは臨床症状を説明できるような大脳疾患がある
  • 重篤な認知症で、パーキンソンニズムが初めて出現したとき

上記のように、レビー小体型認知症の中核症状としては浮動する認知機能、幻視、パーキンソン症状が挙げられています。

なお、典型的な幻視は人物、小動物、虫が多いとされています。

人物は家族や親戚であったり、知らない他人の場合もあります。

小さい子供が多いが、大人であることもあり、一人も複数も、生きている人も死んでいる人もあり得ます。

生き物以外では、光、紐、糸などの要素的な幻視も認められます。

患者は幻視の存在を確信して家族に訴えますが、診察時に確認すると幻視であることを自覚していることもあります。

幻視は色彩がないものが多いですが、ぼんやりとした人影のようなもの、明瞭なもの、動きの有無など様々で、その不安感、恐怖感、無関心など感情的反応も様々です。

さて、こうしたLewy小体型認知症の特徴を踏まえ、事例の内容をみていきましょう。

まず現症歴では「1年前から集中力や思考力が低下して、仕事が捗らなくなった。ミスも増えたため、仕事を辞めようかと悩んでいた。物忘れ、不眠、食欲低下についてもかなり心配していた」とありますね。

これを認知機能の低下と見なすこともできなくもありませんが、Lewy小体型認知症の認知機能の問題は、頭がはっきりしている状態とボーとしている状態が1日の間や1週間、または1カ月の中で変動するのが特徴ですから、事例の問題の出方とはニュアンスが異なるのがわかりますね。

また、「HDS-R は29点」からは認知機能の問題は否定されますし(得点範囲は0~30点であり、認知症群と非認知症群のcut off値は20/21点が妥当とされています)、「老年期うつ検査-15-日本版〈GDS-15-J〉は13点」というのも「支持する症状」に合致するものではありますが、中核的な症状がみられませんから、現時点では別の症候を疑う必要がありますね。

以上より、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ 心的外傷後ストレス障害〈PTSD〉

まずPTSDの診断基準について見ていきましょう。


A.実際にまたは危うく死ぬ、重症を負う、性的暴力を受ける出来事への、以下のいずれか1つ(またはそれ以上)の形による曝露:

  1. 心的外傷的出来事を直接体験する。
  2. 他人に起こった出来事を直に目撃する。
  3. 近親者または親しい友人に起こった心的外傷的出来事を耳にする。家族または友人が実際に死んだ出来事または危うく死にそうだった出来事の場合、それは暴力的なものまたは偶発的なものでなくてはならない。
  4. 心的外傷的出来事の強い不快感をいだく細部に、繰り返しまたは極端に曝露される体験をする(例:遺体を収容する緊急対応要員、児童虐待の詳細に繰り返し曝露される警官)。

B.心的外傷的出来事の後に始まる、その心的外傷的出来事に関連した、以下のいずれか1つ(またはそれ以上)の侵入症状の存在。

  1. 心的外傷的出来事の反復的、不随意的、および侵入的で苦痛な記憶
    注:6歳を超える子どもの場合、心的外傷的出来事の主題または側面が表現された遊びを繰り返すことがある。
  2. 夢の内容と情動またはそのいずれかが心的外傷的出来事に関連している、反復的で苦痛な夢
    注:子どもの場合、内容のはっきりしない恐ろしい夢のことがある。
  3. 心的外傷的出来事が再び起こっているように感じる、またはそのように行動する解離症状(例:フラッシュバック)(このような反応は1つの連続体として生じ、非常に極端な場合は現実の状況への認識を完全に喪失するという形で現れる)。
    注:子どもの場合、心的外傷に特異的な再演が遊びの中で起こることがある。
  4. 心的外傷的出来事の側面を象徴するまたはそれに類似する、内的または外的なきっかけに曝露された際の強烈なまたは遷延する心理的苦痛。
  5. 心的外傷的出来事の側面を象徴するまたはそれに類似する、内的または外的なきっかけに対する顕著な生理学的反応。

C.心的外傷的出来事に関連する刺激の持続的回避、心的外傷的出来事の後に始まり、以下のいずれか1つまたは両方で示される。

  1. 心的外傷的出来事についての、または密接に関連する苦痛な記憶、思考、または感情の回避、または回避しようとする努力。
  2. 心的外傷的出来事についての、または密接に関連する苦痛な記憶、思考、または感情を呼び起こすことに結びつくもの(人、場所、会話、行動、物、状況)を回避しようとする努力。

D. 心的外傷的出来事に関連した認知と気分の陰性の変化。心的外傷的出来事の後に発現または悪化し、以下のいずれか2つ(またはそれ以上)で示される。

  1. 心的外傷的出来事の重要な側面の想起不能(通常は解離性健忘によるものであり、頭部外傷やアルコール、または薬物など他の要因によるものではない)。
  2. 自分自身や他者、世界に対する持続的で過剰に否定的な信念や予想(例:「私が悪い」、「誰も信用できない」、「世界は徹底的に危険だ」、「私の全神経系は永久に破壊された」)。
  3. 自分自身や他者への非難につながる、心的外傷的出来事の原因や結果についての持続的でゆがんだ認識。
  4. 持続的な陰性の感情状態(例:恐怖、戦慄、怒り、罪悪感、または恥)。
  5. 重要な活動への関心または参加の著しい減退。
  6. 他者から孤立している、または疎遠になっている感覚。
  7. 陽性の過剰を体験することが持続的にできないこと(例:幸福や満足、愛情を感じることができないこと)。

E. 診断ガイドラインと関連した、覚醒度と反応性の著しい変化。心的外傷的出来事の後に発現または悪化し、以下のいずれか2つ(またはそれ以上)で示される。

  1. 人や物に対する言語的または肉体的な攻撃性で通常示される、(ほとんど挑発なしでの)いらだたしさと激しい怒り。
  2. 無謀なまたは自己破壊的な行動
  3. 過度の警戒心
  4. 過剰な驚愕反応
  5. 集中困難
  6. 睡眠障害(例:入眠や睡眠維持の困難、または浅い眠り)

F. 障害(基準B、C、DおよびE)の持続が1ヵ月以上

G.その障害は、臨床的に意味のある苦痛、または両親や同胞、仲間、他の養育者との関係や学校活動における機能の障害を引き起こしている。

H. その障害は、物質(例:医薬品またはアルコール)または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない。

いずれかを特定せよ

  • 解離症状を伴う:症状が心的外傷後ストレス障害の基準を満たし、次のいずれかの症状を持続的または反復的に体験する。
  • 離人感:自分の精神機能や身体から離脱し、あたかも外部の傍観者であるかのように感じる持続的または反復的な体験(例:夢の中にいるような感じ、自己または身体の非現実感や、時間が進むのが遅い感覚。
  • 現実感消失:周囲の非現実感の持続的または反復的な体験(例:まわりの世界が非現実的で、夢のようで、ぼんやりし、またはゆがんでいるように体験される)。

注:この下位分類を用いるには、解離症状が物質(例:意識喪失)または他の医学的疾患(例:複雑部分発作)の生理学的作用によるものであってはならない。

該当すれば特定せよ

  • 遅延顕症型:その出来事から少なくとも6ヵ月間(いくつかの症状の発症や発現が即時であったとしても)診断基準を完全には満たしていない場合。

事例が上記の基準を満たしているかを考えていきましょう。

まず本事例では、PTSD診断の肝になるであろう出来事基準が見当たりません。

「重度認知症の母親Bと二人で暮らしている。Aは、Bの介護をしながら税理士の仕事をしている」ということではPTSDになるような出来事基準を満たさないのは理解できると思います。

「覚醒度と反応性の著しい変化」がなくはないと言えますが(ミス、不眠)、それでも出来事基準がないことや、それ以外の症状基準がないことを踏まえるとPTSDと見なすのは難しいと言えるでしょう。

なお、PTSDでは抑うつ状態になることもありますから、「老年期うつ検査-15-日本版〈GDS-15-J〉は13点」というのはPTSDを否定するとまでは言えないでしょう。

ただ、いずれにしてもPTSDと判断するだけの情報が見当たらない以上、PTSDという判断は第一選択にはなり得ません。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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