公認心理師 2020-72

本問では知能検査・発達検査の数字を解釈できるか問われています。

問題となっているのはいずれも過去問で出題のある内容ですね。

これらさえわかれば、あとは論理的思考で正答まで導くことが可能です。

問72 8歳の男児A、小学2年生。授業についていけないという保護者からの主訴で、児童精神科クリニックを受診した。家庭生活では問題なく、勉強も家で教えればできるとのことだった。田中ビネー知能検査ではIQ69、Vineland-Ⅱでは、各下位領域のv評価点は9~11であった。

 Aの評価として、最も適切なものを1つ選べ。

① 知的機能が低く、適応行動の評価点も低いため、知的能力障害の可能性が高い。

② 知的機能は低いが、適応行動の評価点は平均的であるため、知的能力障害の可能性は低い。

③ 保護者によると、家庭生活では問題ないとのことであるが、授業についていけないため、学習障害の可能性が高い。

④ 保護者によると、勉強も家で教えればできるとのことであるが、授業についていけないため、学校の教授法に問題がある可能性が高い。

解答のポイント

田中ビネー知能検査、Vineland-Ⅱの結果の見方を把握していること。

知的能力障害の診断基準を把握していること。

選択肢の解説

① 知的機能が低く、適応行動の評価点も低いため、知的能力障害の可能性が高い。
② 知的機能は低いが、適応行動の評価点は平均的であるため、知的能力障害の可能性は低い。

これらの選択肢は「知的能力障害であるか否か」を判断するものになります。

知的能力障害の判断基準は「発達期に発症する」を前提としたうえで、以下の2つです。

  1. 臨床的評価および個別化、標準化された知能検査によって確かめられる、論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、学校での学習、および経験からの学習など、知的機能の欠陥。
  2. 個人の自律や社会的責任において発達的および社会文化的な水準を満たすことができなくなるという適応機能の欠陥。継続的な支援がなければ、適応上の欠陥は、家庭、学校、職場および地域社会といった多岐にわたる環境において、コミュニケーション、社会参加、および自立した生活といった複数の日常生活活動における機能を限定する。

平たく言えば、社会的に認められている知能検査でIQが70を超えているか、その年齢に合った機能(幼児であれば自分で排泄ができるか等)が維持できているか、ということになります。

そして、本問で挙げられている「田中ビネー知能検査ではIQ69」「Vineland-Ⅱでは、各下位領域のv評価点は9~11」というのは、これらの判断に使うべき指標と言えます。

まず「田中ビネー知能検査ではIQ69」については、知的機能の欠陥があると判断できる数字です。

もちろん、70以下とはいえ、その付近の数字であることを考えると、適応機能の欠陥の有無が知的能力障害の判断において重要となります。

なお、田中ビネー知能検査は「臨床的評価および個別化、標準化された知能検査」であり、他にはウェクスラー式知能検査などがありますね。

地域によっては、療育手帳の発行判断に使う知能検査を限定していることもありますので、例えば、「私の地域ではWISCでしか療育手帳の判断をしない。だから田中ビネー知能検査の数値で示された本事例では知的機能障害の判断をすることはできない」などのような勘違いをしないようにしましょう。

となると、ここで挙げた選択肢の判断には「Vineland-Ⅱでは、各下位領域のv評価点は9~11」という情報が重要ということになります。

この「各下位領域のv評価点は9~11」を低いと見るか、問題なしと見るかの判断ということですね。

Vineland-Ⅱでは、「コミュニケーション」「日常生活スキル」「社会性」「運動スキル」 の各領域でM=100、SD=15の標準スコアが得られ、また、これらの領域を総合した「適応行動総合点(M=100、SD=15)が算出されます(不適応行動に関する指標もあります)。

そして、各領域を構成する下位領域では、v評価点と呼ばれる標準スコア(M=15、SD=3)がそれぞれで得られることになります。

この「M=15、SD=3」から、この事例のスコアが標準レベルなのか低い数値を示しているのか判断できますね。

SDとは「標準偏差」のことであり、データの散らばり具合を見る指標の一つです。

±1SD内には全体の「68.27%」が含まれ、±2SD内には全体の「95.45%」が含まれることになります。

つまり、本事例の「v評価点は9~11」は、15を基準として11であれば-1SD以下であり(基準である15より1SDである3を超えて低いから)、9であれば-2SDに該当するため、相当低い数字であることがわかるはずです。

よって、本事例Aの適応機能については低いと判断するのが妥当であり、上記の知的能力障害の基準2が該当する(適応機能の欠陥がある)と見なすことができます。

即ち、本事例Aは「知的機能が低く」(田中ビネー知能検査でIQ=69)、「適応行動の評価点も低い」(Vineland-Ⅱ 各下位領域のv評価点が9~11)と判断することになります。

以上より、選択肢①が適切であり、選択肢②は不適切と判断することができます。

なお、「家庭生活では問題ない」「勉強も家で教えればできる」という保護者の話をどう捉えるかは以下の選択肢で解説していきましょう。

③ 保護者によると、家庭生活では問題ないとのことであるが、授業についていけないため、学習障害の可能性が高い。
④ 保護者によると、勉強も家で教えればできるとのことであるが、授業についていけないため、学校の教授法に問題がある可能性が高い。

ここで挙げた「家庭生活では問題ない」「勉強も家で教えればできる」という情報をどのように考えるかが大切です。

なぜなら、これらの情報は上記で述べた「事例Aは知的能力障害の可能性が高い」という判断に反するものですから、これらについて論理的な説明を行う必要があります(これをしないと、支援者が「信じたい情報」「理解しやすい情報」だけを見るということになってしまう)。

まず「家庭生活では問題ない」という点についてです。

Vineland-Ⅱでは「コミュニケーション」「日常生活スキル」「社会性」「運動」に渡ってみることができますが、家庭生活で見ることができる適応行動はそれほど広いものではありません。

他の機能が低くても「日常生活スキル」が保てていれば「家庭生活では問題ない」と感じることも多いでしょうし、長年一緒にいる保護者であれば他の人からすれば「コミュニケーション」であっても「普通だ」と感じていることも少なくありません(言葉が未発達でも、長い時間一緒にいれば聞き取れるということは多いですよね)。

例えば、事例Aが一人っ子である場合、保護者に(少なくとも家庭生活の範囲において)他と比べる基準が少ない状態であることも考える必要があります。

もちろん、保護者の「家庭生活では問題ない」という言葉を軽視してはいけませんが、同様にVinelandという「広く適応行動を評価できる指標の数値」もその子どもの状態を見る上で大切なものです。

保護者から話を聞き、Aの適応行動の範囲を理解することで、よりAの能力の範囲を知ることができ、必要なアプローチを考えることにもつながりますね。

また、選択肢③の「学習障害の可能性が高い」は明らかに間違いですね。

学習障害の診断基準には「学習困難は知的能力障害群、非矯正視力または聴力、他の精神または神経疾患、心理社会的逆境、学業的指導に用いる言語の習熟度不足、または不適切な教育的指導によってはうまく説明されない」とあります。

ですから、田中ビネー知能検査がIQ=69であるなど知的能力障害の可能性が高い以上、学習障害の枠組みで考えることはできませんね。

続いて「勉強も家で教えればできる」という情報の理解についてです。

こちらは知的能力障害の診断基準2である「継続的な支援がなければ、適応上の欠陥は、家庭、学校、職場および地域社会といった多岐にわたる環境において、コミュニケーション、社会参加、および自立した生活といった複数の日常生活活動における機能を限定する」を踏まえれば理解ができると思います。

保護者の語る「勉強も家で教えればできる」は、上記の「継続的な支援」に該当し、これがなければ「勉強がわからない」と言い換えることも可能です。

重要なのは「継続的な支援がない状態であっても適応上の問題がないこと」ですから、「勉強も家で教えればできる」ことを以って知的能力障害の問題を取り下げることはできません。

もちろん、「学校の教授法に問題がある可能性」が無いわけではありませんが、そうなると田中ビネー知能検査やVinelandの数値に矛盾が生じます。

こうした標準化された検査では、単に学校での蓄積された能力以外のものも見ることができますから、事例Aの検査結果すべてを学校の教授法に帰するのは無理があります。

考えるべきは、児童精神科クリニックでの判断を受けて、学校側がどのような配慮をAに対して行うかということでしょう。

以上より、選択肢③および選択肢④は不適切と判断できます。

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