公認心理師 2019-69

問69は見立てを行ったうえで、その見立てに沿った検査を選択する問題です。
まずは事例の状態をどのように見立てるかですね。

問69 17歳の男子A、高校2年生。Aは、無遅刻無欠席で、いつもきちんとした身なりをしており真面目と評されていた。ところが、先日、クラスメイトの女子Bの自宅を突然訪ね、「デートに誘っても、いつも『今日は用事があるから、今度またね』と言っているけど、その今度はいつなんだ」と、Bに対して激昂して大声で怒鳴りつけた。この経緯を知ったAの両親がAの心理を理解したいとAを連れて心理相談室に訪ねてきた。
 Aの心理特性について見立てるためのテストバッテリーに加えるものとして、最も適切なものを1つ選べ。
①AQ-J
②MPI
③SDS
④STAI
⑤TEG

よく勘違いされている方がおりますが、検査選択は「とりあえず色々見れそうなのをやっといて、どういう特徴があるか見てみよう」という考え方で行ってはいけません。
たとえ本人と会えていなくても、大まかな主訴や様子から見立てを行い、それに基づいた検査を選択することが大切です。

と言っても、Drからオーダーされたり、その機関で実施する検査が決まっているということも少なからずあるでしょう。
それでもカウンセラーとして、そのクライエントにその検査をする意義をきちんと考えておくことが必要ですね。

さて、本問ではまず事例内容から見立てられる事柄を述べ、その後各選択肢の解説に入っていきます。

解答のポイント

まず見立てを行い、その見立てに沿った検査を選択できること。
各検査の特徴を把握しておくこと。

事例の見立て

この事例においてまず注目すべきは、「デートに誘っても、いつも『今日は用事があるから、今度またね』と言っているけど、その今度はいつなんだ」と、Bに対して激昂して大声で怒鳴りつけた、という部分です。
社会の暗黙のルールとして『今日は用事があるから、今度またね』というのは、相手を傷つけないように断るときの方便です(よね?)。

それにも関らず、Aの「いつも」という言葉から、何度断られても繰り返し誘っているということが推測されます。
1回くらいは「もしかしたら本当に用事があるからかもしれない」と希望を込めて自分に言い聞かせることはあるでしょうが、何回もとなるとunusualですね。

Aには、Bの言葉を字義通りに受け取っていることなどの語用論的なコミュニケーションの困難さがあることが見て取れます。
ちなみに語用論とは、話し手と聞き手(ないし書き手と読み手)を想定した場合、聞き手が「話し手が伝えたいと思っている意味」を理解できるのはどうしてか、を研究する学問です。
語用論の課題は、言語の社会的使用の異常さとして特徴づけられており、これは自閉症スペクトラムの鍵徴候でもあるとされています

と言っても、この状況(やんわり断るときのマナーを把握してない、言葉通りに取っている)だけでは、即座にASDであると見なして検査を決めていくには拙速です
事実「相手が自分に対して好意が無い」ということを否認するために、何度も相手を誘うという人もおります。
とあるストーカー加害者は、誰がどう見ても嫌われているし、そのことを周囲が本人に伝えているのに「本人から言われていないからわからない」と繰り返しました(もちろん、この人に語用論の問題が無いとは言い切れませんけど)。

ある問題や障害の可能性を考えていくときには、複数のベクトルが同じ方向を向いていることが求められます
よって、上記以外のAの特徴も見ていきましょう。

まずは「無遅刻無欠席で、いつもきちんとした身なりをしており真面目と評されていた」という情報です。
もちろんこういう人はままいるものですから、この情報によって即座に何かしらの問題・障害が規定されるものではありませんが、ASDの診断基準にある「同一性への固執」「習慣への頑ななこだわり」「非言語的な儀式的行動様式」という枠組みで捉えることも可能です

また、Bの『今日は用事があるから、今度またね』という返事から、おそらくは当日いきなりデートに誘っているということが窺えます。
更に、Bへの強度で限定された興味も特徴的です。
こうした、相手の都合を考慮していないコミュニケーションの在り方や、対象への強い興味もASDを否定するものではありません

このように複数の事象がASDの可能性を否定していませんので、それを検査の中で検証していくというのは合理的な判断としてあってよいことだと言えるでしょう
よって、検査の選択ではそうしたASD特徴を測れるものを入れ込むことを考えていくことが重要になります。

選択肢の解説

①AQ-J

AQとは、Autism(自閉症)-Spectrum Quotient(指数)の略です(Jは日本版ということです)。
ASDのスクリーニングテストとして使われている検査になります

ASDでは、社会的なコミュニケーションの取り方の困難さ、こだわりの強さを大きな特徴とされています
このような特徴や傾向をスクリーニングするため、Simon Baron-Cohen&Sally Wheelwrightたちによって考案されたのがAQです。

AQ-Jでは、「社会的スキル」「注意の切り替え」「細部への注意」「コミュニケーション」「想像力」の5つの項目がありますが、これらはすべてASD傾向を知るために重要な項目となります

問題は50問4択で解答していきます。
得点による判断は以下の通りです。

  • 33点以上:発達障害の診断がつく可能性が高いといえます。日常生活に差し障りがあると思われます。
  • 27~32点:発達障害の傾向がある程度あるといえます。日常生活に差し障りはないと思われますが、一部の人は何らかの差し障りがあるかもしれません。
  • 26点以下:発達障害の傾向はあまりありません。日常生活にも差し障りなく過ごせていると思われます。

ただし、この検査で33点以上だからといって、すぐにASDと診断されるわけではありません。
傾向があるかないかなど、その人の特性を知るためを目的とした検査と言えます。

このように、本選択肢の検査は、事例の見立てを検証する上で有用であることが見て取れます。
よって、選択肢①が適切と判断できます。

②MPI

モーズレイ人格目録を指します。
Maudsley Personality Inventoryの略で、Eysenckの考案による性格検査です。
2次元(外向・内向、神経症的傾向)で性格類型を想定しており、虚偽発見尺度が含まれています。

神経症的傾向(N尺度)および外向性(E尺度)を測るための2つの尺度があり、それぞれの項目は24ずつで構成されています
このほかに虚偽発見尺度(L尺度:Lie Scale)20項目が含まれています。

MPIでは、外向性‐内向性と神経症的傾向が取り上げられているので、これらについて詳しく示しましょう。

  • 外向性性格:社交的・開放的で、動作や感情の表現にためらいの無い、いわゆる人付きの良い陽気な性格を言い、時のはずみで行動する衝動的な側面も有する。
  • 内向性性格:物静かで内省的な傾向を示し、落ち着いて秩序だった生活を好み、引っ込み思案で、人付き合いを避けたがるといった傾向を示す。
  • 神経症的傾向:情緒が過敏で、わずかなストレスに対しても容易に動揺を示す傾向を言い、いわゆる神経質で落ち着きがなく、いつも緊張している人柄や、情緒不安定な性格特徴を表す。
このような特徴について把握していく検査となります。
事例を単なる内向的性格・外向的性格として認識するのは妥当ではありません。
なぜなら、Aは明確に対人関係上の問題を示しており、年齢を考えてもAにどのような課題があるのかをしっかりと把握することが専門家にとってもAやその家族にとっても重要な事柄であると言えるためです
事例の内容のように、ある特定の特徴を仮説として立てることができる状態であれば、その後の支援の具体案が浮かぶような方向性で検査の選択も行うことが重要になります
以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

③SDS

SDSの目的は、抑うつ傾向の度合いを数値化することによって客観的に判断することです。
SDSを選択するには、事例Aの示している種々の事象が「抑うつ状態によって生じた可能性がある」と見立てられる必要があります

例えば、「真面目」という特徴は古くからのうつ病によく見られた特徴ではありますが、語用論的な問題については明らかに抑うつと無関係のところで生じるものです

このように「発達的要因で生じ得ること」と「心理的要因で生じ得ること」について、自分なりの枠組みを構築していくことが大切です。
これらを分けたのは説明のための方便であり、実際は両者が深く絡み合いながら実際の問題を示します。
ですが、この両者の絡み合いの「ニュアンス」「味わい」「雰囲気」「色つや」「波長」を掴んでおくことが臨床実践では大切になります。

いずれにせよ、本事例の状態を抑うつ状態と見立て、しかもその言動も抑うつ状態に起因すると考えるのは困難であると考えられます
よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④STAI

State-Trait Anxiety Inventory;STAI(状態ー特性不安検査)は、スピルバーガー(Spielberger)が作成した検査で、状態不安と特性不安に分けているのが特徴です。
STAIを用いる場合、事例で示されている種々の問題が不安によって生じているという見立てが必要であること、特性不安と状態不安を見ることがクライエントの問題を把握しやすくするという見通しが必要になります

まず事例Aの言動が不安を背景に生じていると見立てることは難しいと考えられます。
デートの誘いを断られているのに何度も誘うというのは、不安を中核とした問題を示す人には見られ難いパターンであると言えるでしょう。

また、事例Aの状況からは、状態不安と特性不安を見極めることの必然性が感じられません。
「もともと不安がちであった」「デートを断られてから急に不安が強くなった」といったことが見られるなら検討の余地もありますが、現状では特性・状態を見ていくことの理由が見当たらないと言えます。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤TEG

TEGは公認心理師初登場ですね。
少し詳しく述べていきましょう。

TEGはTokyo University Egogramの略で、質問紙法による性格検査の一つです。
アメリカの精神科医E.Berneが創始した交流分析理論を基礎としています。
バーンの弟子、J.M.Dusayがエゴグラムを考案しました。

TEGの基礎となる交流分析理論の概略は以下の通りです。
人の内部には、親の自我状態(Parent:Pと略す)、成人の自我状態(Adult:Aと略す)、子どもの自我状態(Child:Cと略す)の3つの自我状態があると考えます
このP・A・Cのバランスを知ることで性格特性を知ることができるというものです。

このような構造をより深く理解するため、PをCP(Critical Parent:CP;批判的な親)とNP(Nurturing Parent:NP;養育的な親)に分け、CをFC(Free Child:FC;自由な子ども)とAC(Adapted Child:AC;順応な子ども)に分け、全部で5つの機能側面としてこれらがどう機能しているかを分析します。

この表が簡単にまとめてくれています。

もちろんこれがすべてではありませんが、一般的にこのような特徴を持つとされています。

上記でも述べているように、TEGの目的はP・A・Cのバランスを知り性格特性を把握しようとすることです。
TEGの検査結果は正常~異常の判別をすることを目的としておらず、自己分析・自己成長の為に役立てられるように工夫されたものです
CP~ACの5尺度の高低をパターンとして類型化し、各尺度の高低の示す意味と各尺度の相互関係からエゴグラムを把握します。
それにより、性格特性、行動パターンや交流パターンが理解できるということです

適用範囲は非常に広く、教育、産業において、健常者の性格傾向や対人関係における行動様式を捉え、自己啓発や職場研修、教育相談に役立てることも可能です。
TEGの特徴の一つは、検査結果のフィードバックがしやすく被験者自身が問題点に気づいたり内省したりする助けになるよう配慮されているということがあります。
ただし、医療などの鑑別診断には適しておらず、むしろ健常者から軽度な不適応状態においてより有効とされています。

本事例において、CP~ACの自我状態のバランスを見ることにどれほど価値があるのかを考えていくことが重要です。
Bに大声で怒鳴りつけるという明確な問題を示している事例ですから、そうした性格傾向の把握という広い理解よりも、何がAの問題行動を生じさせているのかという明確にアプローチしていくポイントを探っていくことが重要になります
このような状況で必要なことと、TEGの測れるものとでは齟齬があると考えるのが妥当です。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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