公認心理師 2019-60

問60は事例の状況から適切な検査を選択する問題です。
事例を見立てる力と、それに合う検査を選択する(ために各検査の把握をしている)力が求められます。

問60 21歳の女性A、会社員。伝えたいことを言葉で表現することが苦手で、不安が高まるとますますコミュニケーションが困難となる。職場では、苦手な電話対応を担当業務から除き、作業の指示にあたってもメモを活用するなど、十分な配慮を受けており、職場の居心地は良く、仕事にもやりがいを感じている。他方、自宅から職場が遠く、また自立したいという希望もあるが、親元を離れて一人暮らしを始めることに不安を感じている。Aはその相談のため会社が契約する心理相談室に来室した。
 心理相談室の公認心理師がAの支援をするにあたり、Aに実施するテストバッテリーに含める心理検査として、最も適切なものを1つ選べ。
①CBCL
②Conners3
③IES-R
④Vineland-Ⅱ
⑤VRT

本事例のアセスメントにおいて、どういった点の評価が重要になるか考えてみましょう。
事例の前半部分からは、コミュニケーション領域に関する課題がありそうであることが窺えます。
もちろん、現在は環境調整等で安定しているようですが、安定時のコミュニケーションの評価は継続的に状態を把握する上では大切になりますね。

そして事例の後半部分からは、自立に関する能力についての評価が必要であることが窺えます。
一人暮らしをするにあたって、自立にまつわるアセスメントを行うことは重要となるでしょう。

これらに関してのアセスメントが可能な検査をバッテリーとして組み込むことが求められますね。

解答のポイント

各検査の目的、構成尺度、適用年齢を把握していること。

選択肢の解説

①CBCL

CBCLはASEBA(Achenbach System of Empirically Based Assessment)という評価システムにおける調査票の一つとなります。
これはAchenbachらが開発した、心理社会的な適応/不適応状態を包括的に評価するシステムです。
情緒と行動の問題に関して、多面的・包括的に捉えることが可能です。

こちらでは不安、抑うつといった内在化される問題、攻撃性や非行といった外在化される問題など、子どもの情緒や行動面を広く捉えることができます。
現在、6~18歳を対象としたCBCL/6-18、1歳半~5歳を対象としたCBCL/11/2-5などがあります

CBCLは、親またはそれに準ずる養育者に、現在から過去6か月間の子どもの状態について回答を求める、全部で4ページからなる調査票です
1ページ目の最初に子どもの年齢、記入者の職業、子どもとの関係を記入する欄があります。
2ページ目には親しい友人やきょうだい・親との関係、学業成績や学校生活の様子を尋ねる項目があります。
また、子どもについて記入者が最も心配していること、長所と思うことを自由記述する欄が設けられています。
3~4ページ目には行動、情緒、社会性に関する問題行動が118項目挙げられており、3件法で回答を求めます。

特にCBCL/4-18では、上位尺度として外向尺度と内向尺度、下位尺度として8つの症状群尺度(ひきこもり尺度、身体的訴え尺度、不安/抑うつ尺度社会性の問題尺度、思考の問題尺度、注意の問題尺度、非行動的行動尺度、攻撃的行動尺度)が設けられています。
また社会的適応を見る尺度を持っており、家庭での手伝いにどのくらい関わっているかといった活動に関する側面、友人や家族や所属するグループでどのくらい対人関係が持てているかといった社会性に関する側面、学校での授業や取組に関する学校での適応の3つの尺度得点が算出されます。

本事例にマッチしそうな印象を受けますが、やはり情緒と行動面で問題を呈している人が対象であることや、本事例の女性は21歳であり適用範囲ではないことなどから、CBCLは適用できないことがわかりますね
以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

②Conners3

こちらはADHDの症状の特定、行為障害、反抗挑戦性障害、不安、抑うつなどの鑑別診断または共存診断、影響のある機能領域の説明、介入の方針の提案といったADHD評価で主要な局面にてその有用性を発揮するとされています
6つの主要因スケール(不注意、多動性/衝動性、学習の問題、実行機能、攻撃性、友人/家族関係)によって構成されています。

このようにADHDを中心としつつ、それと関連が深い問題(行為障害など)についての評価を行うことも可能です。
この検査の特徴は、本事例でアセスメントしたい事項とは齟齬があることがわかりますね。
また適用年齢も6歳~18歳ですから、この面からも本検査を組み込むことは否定されます

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③IES-R

IES-R (Impact of Event Scale-Revised)とは、 改訂出来事インパクト尺度日本語版です。
IES-Rは、PTSDの症状評価尺度として国際的に評価が高く、国内の数多くの研究で使用されています
信頼性と妥当性を検証し、心理検査法として保険診療報酬対象の認可を得ているものです。

2018追加-72の選択肢②で出題されておりますので、きちんと把握しておきたいところです。
自由にダウンロードしてよいので、興味のある方は検索されて実際の検査項目をご覧になると良いでしょう(例えば、文部科学省のこちらのページにもあります)。

IES-Rは、PTSDの診断基準に則しており、再体験症状、回避症状、覚醒亢進症状から構成されています。
ほとんどの外傷的出来事について、使用可能な心的外傷ストレス症状尺度です。
PTSDの高危険者をスクリーニング目的では、24/25のカットオフポイントが推奨されていますね。

こうした検査の目的は、事例の内容と明らかに齟齬があるものですね。
事例ではPTSDの要素は示されておりません

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

④Vineland-Ⅱ

こちらはアメリカで開発された適応行動尺度です。
2018追加-11の選択肢④で出題されていますね。

適応行動全般を検査する標準化尺度としては最も国際的に用いられているものの1つとされています。
近年は特に、ASDをはじめとする発達障害(知的障害を含む)のアセスメントの一環として診断検査(ADOS、ADI-Rなど)、認知検査(ウェクスラー式知能検査など)とともに用いられることが多いです

日本版のVineland-Ⅱでは、適応行動を個人的・社会的充足を満たすのに必要な日常生活における行動と定義しています。
このような定義がされる行動は以下の4点によって決定されます。

  1. 適応行動は、それぞれの年齢が重要となるものが異なる。
  2. 適応行動の評価は、個人がかかわる環境の期待や基準によって変化する。
  3. 適応行動は、環境の影響および支援効果などによって変容する。
  4. 適応行動の評価は、行動そのものを評価するものであり、個人の可能性を評価しない。
これによって得られる適応行動評価の情報は、主に診断や特別支援教育等の教育的措置、支援計画の策定および支援経過評価などに利用することが可能とされています。
日本版Vineland-Ⅱは5つの領域で構成され、それぞれの領域には下位領域があります。
  1. コミュニケーション領域:
    受容言語・表出言語・読み書き
  2. 日常生活スキル領域:
    身辺自立・家事・地域生活
  3. 社会性領域:
    対人関係・遊びと余暇・コーピングスキル
  4. 運動スキル領域:
    粗大運動・微細運動
  5. 不適応行動領域:
    内在化問題・外在化問題・その他・不適応行動重要事項
なお日本版では、発達障害のある人々のアセスメントにおいて重要となる場合が多い不適応行動領域の評価は、実施手続き上ではオプションであり、回答者の許可を事前に得る必要があります。
その他の特徴としては…
  • 適用年齢:0歳~92歳
  • 回答者:保護者・近親者および評価対象者をよく知る人
  • 実施時間:20分~60分
  • 状態把握のための複数回の実施:可能
…などとなります。

さて、本事例に必要なコミュニケーション領域の評価、自立機能の評価については、Vineland-Ⅱにおいて「コミュニケーション領域」「日常生活スキル領域」として構成されていますね

以上より、選択肢④が適切と判断できます。

⑤VRT

VRT(Vocational Readiness Test)とは、職業レディネス・テストのことです。
ホランド理論に基づく6つの興味領域(現実的、研究的、芸術的、社会的、企業的、慣習的)に対する興味の程度と自信度がプロフィールで表示し、基礎的志向性(対情報、対人、対物)も測定します。

基礎的志向性と職業志向性を測ることにより、生徒の職業に対する準備度(レディネス)を把握し、生徒が職業に関する自分のイメージをチェックしたり、進路選択への動機付けを促すことができます
「結果の見方・生かし方」は、ワークシート形式を採用しており、生徒自身が結果の整理をしながら解釈を深めることができ、検査の結果を最大限に生かせるよう工夫されています。

主たる特性は以下の通りです。

  • 対象者:中学生・高校生。場合によっては大学生でも可
  • 所要時間:40~45分(実施のみ)。採点も含めると1時間。
  • 特徴:各回答者の自己ペースで実施させる紙筆検査。若年者に対し、自己理解を深めさせ、職業選択に対する考え方を学習させる教材としても有効。

このように、事例の年齢を踏まえると採用できるテストではありませんね。

また事例では職場で配慮されていて今から職場を変えることを考えているのではなく、職場の近くに一人暮らしをするという前提でテストを組むことを考える必要があります。
今から「どの職業に向いているのか」を測る必要性はありませんね

以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。

1件のコメント

  1. ていねいな解説をありがとうございます。
    現任者なので、とても助かります。

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