公認心理師 2019-16(修正・最終版)

 第2回公認心理師試験の問16が長く間違ったままにしてありますね。

タイトルには「解説に誤りがあります」とあるのですが、なかなか正答に理由をつけることが難しいというのが正直なところでした。

第3回が間近に迫っていますので、現時点で書けそうなことを書いていこうと思います。

まず、選択肢①②⑤についてはそのままで良いだろうと思っています。

問題は選択肢③と選択肢④です。

まずは解説しやすい選択肢④から行きましょう。

④多くのテストを含む固定的なバッテリーが仮説を検証するために用いられる。

既に他のページで述べていますが、選択肢④の解説は「多くのテストを含む固定的なバッテリーは、仮説の検証ではなく、仮説の創出のために用いるものである。すなわち、目の前の患者の脳機能のどこに問題があるかが明確でない時に、それを検証する(≒見立てをたてる)ために固定的なバッテリーを実施し、その見立てに応じて可変的なバッテリー(≒ある特定の問題に特化した下位尺度)を実施する」ということで良いだろうと思っています。

「多くのテストを含む」という点から、何かを検証するために用いるというよりも広範に問題を把握するために用いると見なすことができますね。

「仮説を検証するため」であれば、もっと焦点を絞った、すなわち「多くのテストを含む」のではなくて「仮説に沿った項目のみを扱ったテスト」が妥当になると思われます。

以上より、選択肢④は誤りと判断できます。

③固定的なバッテリーの補完としてウェクスラー式知能検査が用いられる。

本選択肢の固定的とは「一つの検査をフルで固定して行うこと」とすると、本選択肢は「一つの検査をフルで固定して行うことの補完として、ウェクスラー式知能検査が用いられる」となりますね。

かつて解説をした時には見落としていたのですが、本問は「神経心理学的テストバッテリーについて」問うたものですね。

以前の解説でも述べている通り、高次脳機能には以下のようなものがあります。

高次脳機能の機能としては以下のようなものが挙げられます。

  1. 意識(覚醒):
    認知活動の基底部でありこここが機能しない場合には、他の階層の評価は意味をなさない。
  2. 全般的注意・作業記憶:
    覚醒状態が前提となって様々な認知活動が行われるが、その舞台となるのが全般的注意あるいは作業記憶の水準である。
    特定の機能にスポットライトを当てたり、複数の機能を同時並行的に動かすことができる。
  3. 記憶:
    覚醒と注意の機能を前提として初めて成立する。
  4. 認知・行為・言語:
    これらは人間の知能を支える機能のうち、道具的機能と言われるものであり、障害された状態は、それぞれ失認・失行・失語と呼ばれる。
    高次脳機能の中で脳内基盤の解明が進んでいる領域であり、病巣からの病状予測も可能。
  5. 遂行機能:
    何らかの目的の達成のために、認知・行為・言語などの道具的な機能の使用計画を立案し、計画に沿ってペース配分を考え、効率的に運用する。
    前頭葉が関与する重要な機能であり、Goldbergはこの機能をオーケストラの指揮者と見立てている。
  6. 自発性:
    種々の道具的機能を動かす原動力。

このように高次脳機能には様々な機能があるわけですが、この中でウェクスラー式知能検査がカバーできる範囲は比較的広いとは言え限られています。

知能や記憶関係の認知機能を中心に評価できるのがウェクスラー式知能検査ですから、それ以外の機能を調べることは困難なわけです。

よって、ある検査の補完として、すなわち、ある検査に加えて知能や記憶関係の認知機能を詳しく調べるのにウェクスラー式知能検査を用いるということはあり得るということですね。

よって選択肢③は正しいと判断できます。

振り返ってみて、私が本問の解説を間違えたのは「ウェクスラー式知能検査を中心としつつ、他の検査を加える」というやり方を日常的に行っていたためだと思います。

ウェクスラーという比較的広範な検査を「固定的」に行い、その上で他の検査を「補完的」に行っていたわけです。

その習慣によって「ウェクスラー≠補完」というルートができあがっていたのだと思います。

思い込みは怖いものですね。

しかし、問題文にあるとおり「神経心理学的」なテストという前提に立てば、ウェクスラーはその一領域をカバーしているにすぎないことは明白です。

その視点から捉えれば「ウェクスラー=補完的に用いる」ということがすんなりと納得できました。

もしかしたら私のような思い込みによって本問に納得感が訪れていない人がいるかもしれませんので、参考にしてみてください。

6件のコメント

  1. 間違った回答に至る思考過程まで記述を残されており、興味深く読ませていただいたとともに、設問を読み解く難解さを改めて感じています。ところで、テストバッテリーとして主流のウェクスラー式ですが、KーABCⅡなどはそれに取って代わることはナビのでしょうか?認知機能の検査ですのでどちらかになると思いますが、保護者も子どもの特性をより掴みやすいので、実施しているところがあれば受けさせてみたいと思うのですが、どこで採用されているのかの情報が得られないのです。

    1. コメントありがとうございます。

      >テストバッテリーとして主流のウェクスラー式ですが、KーABCⅡなどはそれに取って代わることはナビのでしょうか?
      取って代わるということは無いでしょう。
      理想は「子どもの状態をより正しく反映される検査を行う」ことでしょうから、子どもによって適切な検査は変わってきますし、ウェクスラー式が有効な場面があればK-ABCが有効な場面もあるはずです。
      ですから、本来はどちらかが中心になるということは無いはずですね。

      ですが、児童相談所などで出している療育手帳の発行のための検査として、多くの場合ビネー式かウェクスラー式を用いているという状態があります。
      確かに「知能」を示すという意味ではこれらは有効ですね。
      あり得るのが、こうした「日常的に使う人が多い検査」が、どうしても使用頻度が高いのと、「どっちでもいいな」という状況では人は慣れている方を選択するということです。
      ですから、必然としてウェクスラー式の方が使用される頻度が高くなると思っています。
      もちろん、理想は「子どもの状態を正しく反映する検査を行う」ということなんですけどね。

      >保護者も子どもの特性をより掴みやすいので、実施しているところがあれば受けさせてみたいと思うのですが、どこで採用されているのかの情報が得られないのです
      こちらについてはわかりかねます。
      ですが、K-ABCの方が「子どもの状態を正しく反映するに違いない」と思われるのであれば、それを病院等の検査をしてくれる場所に言ってみると良いと思います。
      向こうがウェクスラー式の方が良いという根拠を示してくれて納得できればウェクスラー式で良いでしょうし、K-ABCが望ましいと意見の一致を見たならばそちらを実施してもらえばよいでしょう。

      以上、お返事になっていれば幸いです。

  2. こんにちわ。
    第5回公認心理師試験を受験予定のものです。いつもわからなくなった時にはとても参考にさせていただいています。

    ウェクスラーは神経心理学的テストバッデリーにおける、固定的なバッデリーの補完として用いられる、とのことですが、

    某模試を受けると、

    神経心理学テストバッテリーでは、ウェクスラーは可変的なテストバッデリーとして用いられるとのことでした。

    過去問の解説を読み漁っても、やはり、ウェクスラーは固定的なバッテリーの補完として使われるというのがほとんどで、非常に混乱しました。

    その模試に問い合わせてみても、可変的なテストバッテリーだそうですが、

    私はやはり、ウェクスラーは、神経心理学的テストバッテリーには、固定的なバッテリーの補完として扱われるということで記憶したいと思います。

    なぜ可変的となるのかは全く納得できませんが…

    1. コメントありがとうございます。
      その模試の内容や解説についてコメントする立場にないのでちょっとお返事が難しいです。

      ですが、本問で用いられている「固定的」「可変的」というのが、知能検査等を学んでいる時に聞く言葉ではないので、その辺の定義次第だなと思っています。
      誰が言ったのか、そしてどうしてそれを採用したのかわかりませんが、もっと一般的な用語を使って問題は作るべきと思っています。
      (もしも、問題作成者の近くに「固定的」「可変的」という表現があったのかもしれませんが、全国的にはどうなのか、自分の世界が世界の中心となっていないかという確認は、今回のような試験を作成する上で絶対にやっておくべきことと思います)

      いずれにせよ「固定的なバッテリーの補完としてウェクスラー式知能検査が用いられる」というのは、公式見解として認められています。
      記述のように、そのまま覚えておけばよろしいかと思いますよ。
      それでは。

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