公認心理師 2018-16

バウムテストに関する問題です。
各心理査定については、どの程度出題されるのか不透明でしたが結構出ましたね。
これは来年度以降の受験においても、一つの指針になるでしょう。

臨床心理士でもバウムテストについては頻出と言ってもよい(平成3年~26年の間で8回出題。公開されていないものを含めれば、2年に1回以上は出ているのでは)でしょうが、公認心理師試験では、より踏み込んだ内容の出題となっていました。

余談ですが、コッホの住んでいたスイスは寒冷地のため、樹木画を描かせると樹形の単純な針葉樹が多くなったようです。
そこで教示を「実のなる木」と工夫しました。
木の種類を限定してでも、ある程度以上、複雑な樹形が描かれることを優先したということですね。

日本において「実のなる木」という教示にそれほどこだわらない方がおられるのは、日本ではそこにこだわる必要がないためかなと思います。

解答のポイント

バウムテストの基本的解釈仮説について把握している。
発達的指標についての把握をしている。
問題文の細かいところに引っかかる。

選択肢の解説

『①K.Kochが精神疾患の診断を目的に開発した』

バウムテストは、元々は職業適性検査(Emil Jucker(エミール・ユッカ?ジャッカ?)が創案)の一つでした。

コッホは元々機械工をしておりましたが、心理学の道に入り、今で言う産業カウンセラーのような仕事をしておりました。

そんな中、コッホはとある会社から依頼をうけ、その流れでバウムテストを開発することになります。
コッホは当初、バウムテストを職業相談の領域から育てていきました。
職業適性を見るために、その人の人格特性を反映するものとしてバウムテストを活用していたということです。

コッホが精神疾患と関連しながらバウムテストを開発したという事実はなく、選択肢①の内容は誤りであると言えます。

『②形状の年齢的変化では、二線幹のバウムは6歳までには減少する』

コッホはバウムテストを発達テストとして捉えていた節があります。
樹木画の形態指標が5歳から16歳までの子どもにどれくらいの割合で出現するかについて50以上の項目を検討し、広範囲にわたる項目の発達的研究を行っています。
発達段階と関連のある項目として「一線幹」「二線幹」「ハンダ付けの幹」「一線枝」等の十数項目を挙げられています。
そして、選択肢②にある「6歳までには減少する」とされているのは、二線幹ではなく一線幹とされています。
よって、この選択肢は誤りと言えます。

『③樹冠の輪郭の有無によって、心理的発達の成熟又は未成熟が把握できる』

樹冠は、4歳より幼いと輪郭が描かれずに塗りつぶされて描かれ、それ以降から輪郭が描かれる様になり、その輪郭の内部を塗りつぶすように描かれるようになります。
5歳以降はほぼすべての事例で樹冠の輪郭が描かれるようになっていきます。

この点は多くの指摘がかねてからされております(例えば、こちら)。

この選択肢に解答するには、輪郭の有無が何を表しているかについての情報が必要です。

この点について中島(2007)は、樹冠が表現され始める時期のバウム画には大きく2つのタイプがあることを指摘しています。
複雑な枝組と葉からなる樹冠部を「まとまり」として表現するタイプと、樹冠部の主たる構成要素である「枝」で表現するタイプです。

この解釈として、前者は部分よりも全体を、後者は全体よりも部分を主とする被験者の「認知パターンの表われ」としています
よって選択肢③については不適切な内容と判断できます。

『④M.Grünwaldの空間象徴理論に基づいて解釈を行うことを基本とする』

こちらはある意味ひっかけ選択肢だと捉えております。
バウムテストについて学んだ人の多くは、グリュンワルドの「空間象徴理論」についても触れていると思われます。
どうしても知っている概念が出てくると引っ張られてしまいがちですが、この選択肢の誤りで、後半の「…解釈を行うことを基本とする」という箇所が問題だと思われます。

バウムテストの解釈では、以下の点を重視しつつ行っていくとされています。

  • 全体的評価:
    細部の特徴にこだわらず、全体としての印象を重視し、描画が全体として調和が取れているか、歪んでいるか、全体として各部分が自然と構成できているか、奇妙な印象を与えないかなどを見ます。
    感覚的・直観的なものではあるが、描かれた絵から被験者の表現しようとしたものに接近しようとする姿勢でじっくりと絵と対面することが重要。
  • 形態的側面の評価:
    描かれた樹木の形を分析することを指します。
    描かれた樹木の形を年齢段階に従って分析していくと、発達とともに形態が変化していくので、発達分析と見る向きもある。
  • 筆蹟学的側面の評価:
    動態分析とも言います。
    鉛筆の動きを観察することを指し、同じ形態の樹木でも、描く人物の性格によって鉛筆の動きが異なり、その相違からその人物の性格を読みとることができるとされています。
  • 空間象徴的側面:
    樹木の紙面における配置の意味を読みとることを指します。
    紙面のどの位置にどのような方向付けをもって描かれたかによって、その人物の生活空間における自らの位置付けおよび対人関係の場におけるその人物のあり方を推測することが可能です。
上記の空間象徴的側面において、グリュンワルドの空間象徴理論を活用していくことになります。
また形態・筆跡・空間の各分析はあくまで全体的評価を補完するものという視点もあります(例えば、こちら)。
これらの点を踏まえると、グリュンワルドの空間象徴理論は解釈の「基本」としてではなく、その理論をバウムテスト解釈に「援用」だったり「一助」としていると捉える方が適切だと見なせます。
よって、選択肢④は適切な内容とは言えないと判断します。
ちなみに臨床心理士資格試験(平成28年 問題50)に、空間象徴に関する問題が出ています。

それによると「空間象徴について、コッホはグリュンワルドから実証された置きテストの空間象徴図式を参考にして、樹木の定位に関する解釈を示している」ということです。

『⑤対人関係や感情表出の特徴を示す指標として、枝の先端の処理に注目する』

この選択肢については、臨床心理士資格試験問題(平成19年 問題70A)を参考にすると良いでしょう。

関連する箇所を抜き出すと「「先端が直線的にちょん切られたような処理がされている」枝は、クライエントの抱えている対人関係や感情表出の問題を示すものと思われる」であり、○となっています。
まさに、この選択肢⑤の内容そのままですね。
この解説部分を抜き出すと以下の通りです。
「「先端が直線的にちょん切られたような処理がされている」枝は、クライエントの抱えている対人関係や感情表出の問題を示すというのは、バウムの「枝」に関する基本的な解釈仮説である」
クライエントの中には、こうした枝自体を描かないという方もおられます。
しかし、それは上記のような意味を含有する枝を「描かない」ということに意味があると捉えて解釈するのがセオリーだと思われるので、枝の解釈仮説自体の否定とはなりません。
以上より、選択肢⑤の内容が適切と判断できます。

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