公認心理師 2018-137

26歳の男性A、会社員の事例です。
Aに実施するテストバッテリーに含めるものとして、最も適切なものを1つ選ぶ問題になっております。

事例の詳細は以下の通りです。

  • Aは仕事上のストレスが原因で心理相談室に来室した。
  • 子どもの頃から忘れ物が多く、頑固だと叱られることが多かった。
  • 学業の問題は特になかった。
  • 友人はほとんどいなかったが、独りの方が楽だと思っていた。
  • 就職した当初はシステムエンジニアとして働いており、大きな問題はなかった。
  • 今年に入って営業部に異動してからミスが増え、上司から叱責されることが多くなった。
  • 「皆がもう少しゆっくりやってくれたら」と職場への不満を口にするが、「減給されるので仕事を休む気はない」と言う。
これらの点を踏まえ、各選択肢の検証を行っていきます。

解答のポイント

Aの状態を見立てること。
見立てに準じたテストを選択できること(各テストがどういった対象に用いられることが多いかを把握していること)。

Aの見立て

まずはAの状態をどう見立てるかが重要になります。
上記の内容を踏まえると「自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害」が浮かびます。
事例の「友人はほとんどいなかったが、独りの方が楽だと思っていた」については、ASDの診断基準(DSM-5)のAー(3)にある「…友人を作ることの困難さ、または仲間に対する興味の欠如に及ぶ」という点が該当します。
そして、こうした対人関係の困難さが、「営業部に異動してからミスが増え」というところにつながっていると推測できます。
対人関係が絡むことが少ない(あくまでも営業部に比べて、ですが)システムエンジニアとしてであれば、適応できていた点も重要です。
「頑固だと叱られることが多かった」については、ASDの診断基準(DSM-5)のB-(2)に記載が見られます。
加えて、「忘れ物が多く」などADHDの不注意症状が浮かびます。
以上より、事例の内容から断定することはできませんが、ASDを筆頭とした神経発達障害群を念頭に置く必要があると考えることができます。

選択肢の解説

『①BACS』

統合失調症認知機能簡易評価尺度(The Brief Assessment of Cognition in Schizophrenia;BACS)は最近Keefeらによって開発されたもので、言語性記憶、ワーキング・メモリ(作動記憶)、運動機能、注意、言語流暢性、遂行機能を評価する6つの検査で構成され、所要時間約30分と実用的な認知機能評価尺度です。
事例の内容から統合失調症を疑うような記述は見られません。
よって、選択肢①は不適切と言えます。

『②MMSE』

Mini Mental State Examination;MMSEは、認知症の診断用に米国で1975年、フォルスタインらが開発した質問セットです。
30点満点の11の質問からなり、見当識、記憶力、計算力、言語的能力、図形的能力などを評価します。
24点以上で正常と判断、10点未満では高度な知能低下、20点未満では中等度の知能低下と診断する。
事例の内容から認知症を疑うような記述は見られません。
「子どもの頃から忘れ物が多く」とありますが、あくまでも子どもの頃からなので認知症を疑うことはしなくてよいと考えられます。
よって、選択肢②は不適切と言えます。

『③STAI』

State-Trait Anxiety Inventory;STAI(状態ー特性不安検査)のことを指します。
スピルバーガー(Spielberger)が作成した検査で、状態不安と特性不安に分けているのが特徴です
状態不安検査20項目、特性不安検査20項目で構成されている。
カットオフポイント(高不安群のライン)は、特性不安・状態不安、そして男女によって異なります。
 特性不安:男性44点、女性45点以上
 状態不安:男性41点、女性42点以上
STAIを用いる場合、事例で示されている種々の問題(「子どもの頃から忘れ物が多く、頑固だと叱られることが多かった」「友人はほとんどいなかったが、独りの方が楽だと思っていた」「就職した当初はシステムエンジニアとして働いており、大きな問題はなかった」「今年に入って営業部に異動してからミスが増え、上司から叱責されることが多くなった」)が、不安によって生じているという見立てが必要です
異動による状態不安の高まりと考えてみた場合でも、それ以外の事例の記述(幼い頃からの特性)に対して論理的な説明を行うことが難しいと言えます。
特性不安であれば「就職した当初はシステムエンジニアとして働いており、大きな問題はなかった」という点と矛盾が生じます。
A本人から不安な内面を吐露するような描写もなく、現状で不安を中核とした問題であると捉えるのは困難と判断できます。
よって、選択肢③は不適切と判断できます。

『④WAIS-Ⅲ』

WAIS-Ⅲでは、言語性IQ(VIQ)、動作性IQ(PIQ)、全検査IQ(FIQ)の3つのIQに加え、「言語理解(VC)」、「知覚統合(PO)」、「作動記憶(WM)」、「処理速度(PS)」の4つの群指数も測定でき、多面的な把握や解釈が可能になっています。
結果の処理に際して、各下位項目の得点を年齢基準によって換算した評価点を求め、それらをプロフィール票に記入していくことで、グラフィカルに「個人内差」という観点から子どもの知能発達を把握し分析できることが利点となっています。
前述の通り、ASDを代表とする神経発達障害群の可能性が読み取れる事例ですので、Aの能力のバラつき、凸凹などの程度を把握することが重要と考えられます。
Aに実施するテストバッテリーに含めるものの重要な要件として、WAIS-Ⅲのような「個人内差」について把握できることが挙げられます。
そうした得られたAの発達状態から、心理相談室の心理師として支援法を考えていくことが求められます。
以上より、選択肢④が最も適切と判断できます。

『⑤田中ビネー知能検査Ⅴ』

フランスのビネーが開発し発展させてきた知能検査を基に、日本での使用を目的として内容の改訂が進められてきた知能検査です。
ビネーは知能の知能観は検査の特徴にも現れています。
田中ビネー式知能検査は、多角的な総合検査であり、知能を各因子に分かれた個々の能力の寄せ集めと考えるのではなく統一体として捉えます
知的障害児のスクリーニングが主な目的として作成された検査であり、そのため「個人間差」については見ることができますが「個人内差」については検証ができません
認識能力や全体能力を測定するための「総括的検査」であるので、事例Aに関する「学業の問題は特になかった」という記述から田中ビネー知能検査Ⅴを組み込む価値はそれほど高くないと判断できます。
事例で求められるのは、Aの能力のバラつき、凸凹の把握と、それを踏まえた支援法の模索だと言えます。
よって、「個人内差」の検証ができない田中ビネー知能検査Ⅴを活用するのは適切とは言えないと考えられます。
よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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