公認心理師 2018追加-91

内田クレペリン精神作業検査の実施と解釈について、正しいものを1つ選ぶ問題です。

こちらの検査はエミール・クレペリンが創案した「連続加算法」を内田勇三郎が取り入れ、作業検査法として完成させました。
臨床心理士資格試験では、この点な何度も出題されています。
すなわち、「クレペリンが創案した検査を、内田勇三郎が邦訳した」といった選択肢が出題されています(もちろん、これは×になりますね)。

エミール・クレペリンは、現在の統合失調症概念の提出者のひとりですから、その点も併せて覚えておきましょう。
ちなみにもうひとりはブロイラーですね。
「精神分裂病」から「統合失調症」に変更されるにあたり、さまざまな案があったということです。
そのうちの一案として「ブロイラー症候群」というのがあったらしいですが、鶏肉業界から止めてくれと言われたらしいです(ブロイラーは食用の若鶏を指しますからね)。

内田クレペリン作業検査では、以下のステップで結果の集計が行われます。

  1. 誤謬のチェック:
    誤答の数字を赤○で囲む。
  2. プロフィールを描く:
    各行の最後の答えの右上にある印刷数字をマークして、折れ線グラフで結ぶ。
    飛ばし・抜かしがある場合は、その数だけずらしていく。
  3. 作業量の産出:
    各行の作業量を読み取り、作業量合計を算出、1分ごとの平均作業量を算出し、作業量段階の判定を行う。
  4. 休憩効果率の算出:
    休憩後平均作業量/休憩前平均作業量=休憩効果率となる。
  5. 初頭努力率の算出:
    1分目作業量/平均作業量によって算出。休憩前、休憩後の両方で算出する。
  6. 動揺率の算出:
    休憩前・休憩後のそれぞれで、最高作業量-最低作業量=最大差を算出し、これを平均作業量で割ると「動揺率」となる。
  7. V字落ち込みの算出:
    落ち込み部分の曲線の振れ幅が平均振れ幅の1.5倍以上の場合を指す。
  8. 作業量段階の判定と問題傾向の頻度を組み合わせて曲線傾向を判定する
  9. 曲線類型の判定および作業適応度の判定

上記うち「誤謬率」「休憩効果」「初頭努力」「動揺率」などは、クレペリン検査で使われやすい表現なので、しっかりと押さえておきましょう。
ちなみに「誤謬」は「ごびゅう」と読み、間違いという意味です。

解答のポイント

内田クレペリン作業検査法に関する基本的事項を把握していること。

選択肢の解説

『①練習効果は反映されない』
『⑤被検者は、ランダムに並んだ数字を、1分ごとに行を変え、30分連続して加算する』

クレペリンは連続加算法という作業心理に働く因子として10種類あまりを挙げていますが、重要な作業機能の因子は以下の5つになります。

  1. 意思緊張:加算作業のような何らかの精神作業に臨んで起こる意思の緊張を指す。作業中は緊張と弛緩の小さな波状的繰り返しが見られる。
  2. 興奮:同一作業の進行につれて、その作業に没頭できるようになる状態を表す。
  3. 慣熟:作業の継続に伴い、その作業の遂行に都合がいいように、それに関与する精神諸機能が統合される状態を指す。
  4. 練習:慣熟が作業終了とともに消失するような、時間的に短い慣れであるのに対して、練習はその効果が比較的長時間にわたって続くような慣れである。
  5. 疲労:作業量を減少させるように働く。

これらの因子が複雑に、しかし、かなり法則的な形で働きあっているとしました。

内田クレペリン作業検査は当初「5分作業-5分休憩-5分作業」としていましたが、「10分作業-5分休憩-5分作業」に伸ばしました。
しかしそれでも不十分なので、更に前半・後半で5分ずつ伸ばし「15分作業-5分休憩-10分作業」としました(後述しますが、現在は「15分作業-5分休憩-15分作業」です)。
このことで休憩前後の曲線に以下のような変化が生まれました。

【休憩前曲線】

  1. 初頭努力の現われが顕著になり、そのために初頭の作業量が著しく高くなる。
  2. 初頭努力は永続せず、2分目には弛緩が起こり、6~7分目までには作業量は徐々に低下する。
  3. 6~7分目ころより次第に作業興奮の働きが現われ、疲労に打ち勝って作業量は徐々に増加し、曲線は上昇の傾向を取る。
【休憩後曲線】
  1. 休憩による疲労回復と慣熟の因子が著しく現れて、初頭の作業量は休憩前に比してはるかに高く、かつ全体としての作業量も休憩前に比して著しく多い
  2. その後の経過は休憩前と似ているが、休憩前に比して作業興奮の発現が速く、3~4分目に曲線は一時上昇の傾向を示す。
  3. しかし休憩前に比べて疲労の現われが大きく、作業量はそれに伴ってまもなく低下し、曲線は再び下降傾向を取る。
作業量を「15分作業-5分休憩-10分作業」(いわゆる「25分法」)にしたことで、こうした一般的傾向を見出すようになりました。
現在は「15分作業-5分休憩-15分作業」といういわゆる「30分法」になっています。
1950年により精神特徴を知る上で勝っているという理由から変更されました

一般に内田クレペリン作業検査における「練習効果」とは、1回目よりも2回目の施行の方が全体的に作業量が増加することを指します
第1施行に入る前に練習問題をやりますが、これの効果のことではないので注意しましょう。

以上より、選択肢①および選択肢⑤は誤りと判断できます。

『②作業量の水準ではなく、偏りの有無に注目する』
『③結果は、定型、A型、B型、C型、D型及びE型に分類される』

内田クレペリン作業検査における具体的な判定法は「曲線型」と「作業量の多寡」の二面からなされます
ちなみに内田クレペリン作業検査における「曲線」とは、検査結果の各行における加算作業の最終到達点を線で結ぶと現れる曲線のことを指し、「作業曲線」と表現されます。
「曲線型」と「作業量の多寡」については、以下のように判定が行われます。

【曲線型の種類とその特徴】

  • 定型:
    初頭努力があり、特に休憩後の初頭努力があり、休憩効果があり、自然的調和的な型で、異常傾向がない。
  • 準定型:
    上記に次いで部分的に上記の特徴を欠き、あるいは不足する。異常傾向を含まない。
  • 準々定型:
    上記に次いで部分的にわずかながら異常傾向が見られるが、なお全体としては定型傾向を失わない。
  • 中間疑問型:
    定型とも異なり、異常傾向も強くない型。正常・異常の両特徴が混在している。あるいは曲線理論から見て疑いがあり、再検査が適当と判断できる場合など。
  • 劣等型:
    D級(後述)で誤りも多くなく、型も異常傾向を明らかに示さない場合。
  • 劣等異常型:
    D級で異常傾向を含む。作業量が僅少の場合。
  • 疑異常型:
    尻上がり、下降、中高などの型を示す。平坦、落ち込み、動揺、誤り等の多い場合で、定型の傾向がない場合を指す。
  • 異常型:
    上記の異常型傾向が特に強い場合。

【作業量の多寡】

  • A級:
    休憩前作業量が41以上、休憩後作業量が46以上。
  • B級:
    休憩前作業量が40~26、休憩後作業量が45~31。
  • C級:
    休憩前作業量が25~11、休憩後作業量が30~16。
  • D級:
    休憩前作業量が10以下、休憩後作業量が15以下。
ただし、判定法はいくつか示されており、横田の判定法ではA級の上にAUが新たに加わって5段階分類になっています。
しかし、横田の判定法は25分法のままになっているので、ここでは内田勇三郎の判定法を採用して解説を進めています。

上記より、選択肢②にある「作業量の水準」には注目しない旨の内容は誤りであり、「作業量の水準」と「曲線型(=偏りの有無)」で判断します
また、選択肢③にある内容は「E型」が入っている点、作業量の水準に関する記述と提携判断に関する記述が混在している点で誤りと判断できます

以上より、選択肢②および選択肢③は誤りと判断できます。

『④作業速度の変化を示す作業曲線などから、被検者のパーソナリティを判定する』

内田クレペリン作業検査によってわかることとして、仕事ぶりはもちろんのこと、性格・行動の特徴、癖、偏り、異常、障害などの内容と程度とされています
特におおよその知能、仕事の処理能力、積極性、活動のテンポ、意欲、気働きなどの仕事に関連した適性については妥当性が高いとされています
例えば、内田クレペリン作業検査ではオーバーアチーバー、アンダーアチーバーの査定で有意差を示すとされているなど、学業予測に対しては他の検査にはない高い妥当性があります。

もともとクレペリンは作業曲線から精神病の判定を行おうとしていました
この試みについてはそれほどうまくいかなかったようですが、各種の精神病者、異常性格者、災害頻発者、その他の問題行動者などに実施した場合、以下のような非定型の特徴が見られることが確認されています

  1. 誤謬の多発
  2. 大きい落ち込み
  3. 大きい突出
  4. 激しい動揺
  5. 動揺の欠如
  6. 後期作業量の下落
  7. 後期初頭の著しい出不足
  8. 作業量の著しい不足
先述したとおり、「病理・疾病の判定」には使うことはできませんが、パーソナリティ傾向を判定することは可能とされています
この点は、臨床心理士資格試験でも出題されています(平成4年問29選択肢D)。
内田クレペリン作業検査の実用範囲は広く、当初は精神病院内の研究・使用から始まり、異常性格者や犯罪者への使用、交通事故頻発者の検出、職務適性調べ、非行になりやすい生徒の判定、成績予測などに用いられています。

公務員試験で受けられた方も多いのではないでしょうか。

検査の特性上、パーソナリティ全般というよりも、作業に関連するパーソナリティの判定に優れているという印象が強いですし、実際にそうした方面で使われていることが多いと思われます。

以上より、選択肢④が正しいと判断できます。

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