24歳の女性Aの事例です。
事例の内容は以下の通りです。
- Aは最近、職場で不安や緊張を感じるようになった。
- 子どもの頃から成績は平均より上だったが、おとなしく内気な性格で友人は少なかった。
- 就職した当初は単独作業が多かったが、配置転換により年上の先輩との協働作業が増えた。
- 先輩の前では会議資料の準備をするときに緊張が高まり発汗し、ハンカチが手放せなくなった。
- 変な人に思われるのではないかと思うと手が震え、視線を避けようとすると奇異に思われるのではないかと不安が高まるようになった。
- Aは出勤が負担に感じられるようになり心理相談室を訪れた。
解答のポイント
選択肢の解説
『①CAARS』
こちらは、成人に見られるADHD関連の症状を評価する目的で作成された検査です。
DSM-IVによるADHD診断基準と整合性のある尺度になっています。
「自己記入式」66項目と「観察者評価式」66項目から成っており、複数の回答者からの情報をもとに包括的に評価を行います。
以下の通り、構成されています。
- 注意不足/記憶の問題
- 多動性/落ち着きのなさ
- 衝動性/情緒不安定
- 自己概念の問題
- DSM-IV不注意型症状
- DSM-IV多動性-衝動性型症状
- DSM-IV総合ADHD症状
- ADHD指標
回答に一貫性があるか判別する指標(矛盾指標)も設けられております。
事例AはADHDを疑う情報は見られませんので、本検査をテストバッテリーに組み込むことは適切ではありません。
よって、選択肢①は不適切と判断できます。
『②IES-R』
米国のWeissらが開発した心的外傷性ストレス症状を測定するための自記式質問紙です。
こちらのページに実物がありますので、ご参照ください。
旧IESは侵入症状7項目、回避症状8項目の計15項目より構成されているが、IES-Rは過覚醒症状6項目を追加し、さらに旧版の睡眠障害を入眠困難と中途覚醒の2項目に分け、計22項目より構成されています。
IES-Rは災害から個別被害まで、幅広い種類の心的外傷体験者のPTSD関連症状の測定が簡便にでき、横断調査、症状経過観察、スクリーニング目的など、すでに我が国でも広く活用されています。
また心理検査法として医療保険適用を認可されています(80点)。
事例AはPTSDを疑う情報(例えば、先輩から何かしらのインパクトのある扱いを受けたなど)は見られませんので、本検査をテストバッテリーに組み込むことは適切ではありません。
よって、選択肢②は不適切と判断できます。
『③KABC-Ⅱ』
この内容で十分でした。
Kaufman Assessment Battery for Children をK-ABCと略して呼んでいます。
Kaufman, A.S. & Kaufman, N.L.(1983)により作成されました。
認知処理過程尺度における問題解決と、習得度尺度のある事実に対する知識を明確に区別して、前者の一連の技能を知能と解釈しています。
その改訂版であるKABC-Ⅱは2004年に刊行されました。
日本版KABC-Ⅱは、日本版K-ABCを継承・発展させた新機軸の心理・教育アセスメント手段であり、認知尺度のみならず、基礎学力を測定できる個別式習得尺度を備えています。
また、認知処理を、継次処理と同時処理だけでなく、学習能力、計画能力の4つの能力から測定していることも特徴です。
継時処理能力、同時処理能力、計画能力、学習能力、流動性推理や結晶性能力など幅広い能力を測定でき、検査結果を教育的働きかけに結び付けて活用しやすいとされています。
漢字や文章作成などの書き課題や算数課題などが取り入れられているので、検査結果そのものが学習の見立てや支援に生かすことがしやすいです。
非言語尺度には、模倣の構成、視覚類推、位置探し、手の動作などを設けてあり、聴力障害や言語障害などで不利にならないよう評価可能です。
プロフィール分析では、複数の下位検査から考えられる能力のみならず、それに影響を与える環境因の可能性なども吟味していきます。
事例Aは同時処理、継時処理等の認知的問題を有しているとは見られませんので、本検査をテストバッテリーに組み込むことは適切ではありません。
よって、選択肢③は不適切と判断できます。
『④LSAS-J』
質問は24項目で、対人場面や人前で何かをするときの恐怖感、あるいはそういった場面の回避の程度など、両方を分けて測ることができます。
24の状況は行為状況と社交状況の2種類に分かれており、ランダムに混ざっています。
24項目の質問について、0~3の4段階評価した後、合算した得点によって、以下の4段階で重症度の評価を行います(総得点0~144点)。
- 約30点:境界域
- 50~70点:中等度
- 80~90点:さらに症状が顕著;苦痛を感じるだけでなく、実際に社交面や仕事などの日常生活に障害が認められる
- 95~100点以上:重度;働くことができない、会社に行けないなど社会的機能を果たすことができなくなり、活動能力がきわめて低下した状態に陥っている
こうした重症度の評価を行うことができるという点から、臨床効果の尺度としても用いられています。
事例Aは社交不安障害が疑われるので、本検査をテストバッテリーとして組み込むことは適切と考えられます。
よって、選択肢④は適切と判断できます。
『⑤Y-BOCS』
厚生労働省が出している「強迫性障害(強迫症)の認知行動療法マニュアル (治療者用)」にも本検査の記載があります。
研究レベルではY-BOCS総得点が治療前より25-35%減、総得点16以下と言われています。
寛解レベルは12点以下に下がることであり、治療者と患者の事情が許すならば改善するところまで治療続ける方が望ましいとされています。
よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。
資料までつけていただきありがとうございます。
どういたしまして!