知的な遅れがなく、社会性やコミュニケーションを中心とした発達障害が疑われる児童に対して用いる検査として、最も適切なものを1つ選ぶ問題です。
上記の要件、すなわち以下の全てに該当する検査を選択することが求められています。
- 知的な遅れの判断ではない。
- 社会性やコミュニケーションを中心とした発達障害の判定ができる。
- 「児童」である(一般的には小学生を指すが、児童福祉法では18歳未満を指すのでかなり幅広い。ここでは18歳未満と捉えておくのが安全と思われる)。
本解説の公開当初、調べが不十分で間違った答えを「正答」として発表していました。
実はあまり公式解答を見ないようにしながら解説を作っています。
解答を見てしまうと答えに導くような解説を作ってしまいがちなので、その辺のバイアスを解消したいと思いまして。
いつもは最後に解答を確認していますが、今回はそれを失念して間違った答えと解説を公開してしまいました。
言い換えれば、受験していれば確実に間違えた問題だと言えますね…。
間違いのご指摘を下さった方、ありがとうございます。
解答のポイント
選択肢の解説
『①ADHD-RS』
『②ADOS-2』
ADOS-2は本人の直接観察による検査であり、対象は1歳の幼児から成人までで所要時間は40~90分程度です。
年齢と言語水準によって5つのモジュールに分けられ、標準化された検査用具や質問項目を用いて半構造化された場面を設定し、ASDの診断に役立つ対人的スキル、コミュニケーションスキルを最大限に引き出すように意図されており、行動観察の結果を数量的に段階評定できる点に特徴があります。
最終的にアルゴリズムを使って「自閉症」「ASD」「非ASD」の3つの分類判定が可能です。
ちなみにスクリーニングには以下のような段階があります。
- 第1スクリーニング:
発達障害の特徴があると判断されたケースや療育・医療・福祉機関などにすでにかかっているリスクの高いケースを対象に、ASD、ADHD、LDなどの弁別をするためのアセスメント。
代表的な検査が、M-CHATでありASDの早期発見においては非常に有用なツール。 - 第2スクリーニング:
ハイリスク群に対して弁別的診断の方向性を得ることを目的に行われる。
代表的なのが、AQ、AQ児童用、PARS、SCQ、CARSなど。 - 診断・評価:
代表的なのが、ADOS、ADI-R、CARS2など。
組合せとしては、ADI-Rが効果的とされています。
ADI-Rは過去の特性を主として診断の判定をし、ADOSは現在の特性で判定を行い、診断においては相補的な関係にあると言えます。
また、支援を考えるうえでは、ADI-RによってASD児者に対して周囲の人が感じている困難や課題の情報を得ることができ、ADOSによって専門家からみたASD児者の対人コミュニケーションの特徴に関する情報を得ることができます。
これらを総合して、日常で役立つ支援を構築できるとされています。
以上より、本問で求められている目的に沿っていると考えることができます。
『③M-CHAT』
また、選択肢②でも示したように、スクリーニングの段階を考えてもM-CHATは第1段階となるので、本問の状態にはふさわしくないと思われます。
更に、「社会性やコミュニケーションを中心とした発達障害が疑われる児童」を対象に行われますから、「18~24ヵ月の幼児が対象」の本検査は適切ではないように思われます。
以上より、選択肢③は不適切と判断できます。
『④VINELAND-Ⅱ』
- コミュニケーション:受容言語/表出言語/読み書き
- 日常生活スキル:身辺自立/家事/地域生活
- 社会性:対人関係/遊びと余暇/コーピングスキル
- 運動スキル:粗大運動/微細運動
- 不適応行動:不適応行動指標/不適応行動重要事項
しかし、本選択肢は少なくとも「最も適切」ではないとされています(一度はこちらの選択肢が「適切」と考えて公開してしまったくらいです…(ご指摘くださった方、ありがとうございます))。
しっかりと検査の内容を精査すると以下の通りでした。
どうやらVINELAND-Ⅱにおける「適応行動」とは、日常生活を安全かつ自立的に送るために必要となる年齢相応のスキル:食事、身だしなみ、掃除、お金の管理、仕事、友人関係、社会的スキルなどを指しているようです。
DSM-5において知的障害が神経発達障害として発達障害と同じ枠組みで整理され、知的障害の診断にIQが必須でなくなったため、適応行動で評価することが重要となり、この検査の有用性が注目されています。
この点からも、発達障害の社会性やコミュニケーションを踏まえた検査というよりも、もっと一般的な「適応行動」としての社会性やコミュニケーションを測る検査と言えます。