公認心理師 2018追加-11

知的な遅れがなく、社会性やコミュニケーションを中心とした発達障害が疑われる児童に対して用いる検査として、最も適切なものを1つ選ぶ問題です。

上記の要件、すなわち以下の全てに該当する検査を選択することが求められています。

  • 知的な遅れの判断ではない。
  • 社会性やコミュニケーションを中心とした発達障害の判定ができる。
  • 「児童」である(一般的には小学生を指すが、児童福祉法では18歳未満を指すのでかなり幅広い。ここでは18歳未満と捉えておくのが安全と思われる)。
各検査の特徴を把握しておき、上記に当てはまるものを選択することが重要です。
個人的な印象としては、ADOS-2かVINELAND-Ⅱの2択までは絞りたい内容です。
M-CHATとWISC-Ⅳは耳にすることが多い検査ですし、ADHD-RSはその名称から除外することを考えておきたいところですから。
(ADOS-2とVINELAND-Ⅱも、もしかしたらメジャーなのかもしれませんが…)

本解説の公開当初、調べが不十分で間違った答えを「正答」として発表していました。
実はあまり公式解答を見ないようにしながら解説を作っています。
解答を見てしまうと答えに導くような解説を作ってしまいがちなので、その辺のバイアスを解消したいと思いまして。
いつもは最後に解答を確認していますが、今回はそれを失念して間違った答えと解説を公開してしまいました。

言い換えれば、受験していれば確実に間違えた問題だと言えますね…。
間違いのご指摘を下さった方、ありがとうございます。

解答のポイント

各検査の特徴を把握していること。

選択肢の解説

『①ADHD-RS』

DSMを基に、全米での大規模な調査の上で開発されたADHDの診断のための検査になります。
ADHDの的確な診断・スクリーニング・重症度評価に役立つとされています
奇数番の項目が「不注意」、偶数番の項目が「多動・衝動性」を反映した質問になっています。
それぞれの領域ごとに得点を合計して判定します。
カットオフ値は性別ごとに設定されています。
以上より、本問で求められている目的に沿わないと考えることができます。
よって、選択肢①は不適切と判断できます。

『②ADOS-2』

Autism Diagnostic Observation Schedule Second EditionでADOS-2(エイドスツー)です。
こちらは自閉症スペクトラム評価のための半構造化観察検査になります。
ASDの包括的な臨床診断の一助、効果的な支援・介入の模索、重症度の判定に役立つとされています。

ADOS-2は本人の直接観察による検査であり、対象は1歳の幼児から成人までで所要時間は40~90分程度です。
年齢と言語水準によって5つのモジュールに分けられ、標準化された検査用具や質問項目を用いて半構造化された場面を設定し、ASDの診断に役立つ対人的スキル、コミュニケーションスキルを最大限に引き出すように意図されており、行動観察の結果を数量的に段階評定できる点に特徴があります
最終的にアルゴリズムを使って「自閉症」「ASD」「非ASD」の3つの分類判定が可能です。

ちなみにスクリーニングには以下のような段階があります。

  • 第1スクリーニング:
    発達障害の特徴があると判断されたケースや療育・医療・福祉機関などにすでにかかっているリスクの高いケースを対象に、ASD、ADHD、LDなどの弁別をするためのアセスメント。
    代表的な検査が、M-CHATでありASDの早期発見においては非常に有用なツール。
  • 第2スクリーニング:
    ハイリスク群に対して弁別的診断の方向性を得ることを目的に行われる。
    代表的なのが、AQ、AQ児童用、PARS、SCQ、CARSなど。
  • 診断・評価:
    代表的なのが、ADOS、ADI-R、CARS2など。
事例の状況においては、最後の「診断・評価」段階にあると思われるので、ADOSは適切なツールだと言えます。

組合せとしては、ADI-Rが効果的とされています。
ADI-Rは過去の特性を主として診断の判定をし、ADOSは現在の特性で判定を行い、診断においては相補的な関係にあると言えます。
また、支援を考えるうえでは、ADI-RによってASD児者に対して周囲の人が感じている困難や課題の情報を得ることができ、ADOSによって専門家からみたASD児者の対人コミュニケーションの特徴に関する情報を得ることができます
これらを総合して、日常で役立つ支援を構築できるとされています。

以上より、本問で求められている目的に沿っていると考えることができます。

よって、選択肢②が適切と判断できます。

『③M-CHAT』

自閉症スペクトラムスクリーニング尺度です。
一部の項目が全国の1歳6ヶ月乳幼児健診で必須チェック項目となっているほか、一部の自治体の健診では悉皆スクリーニングとして活用されています。

18~24ヵ月の幼児が対象なので、保護者が記入し評価者が採点を行うという方式を採用しています。
こちらのページに、実際の物があるのでご参照ください。

内容を見ればわかるとおり、社会性やコミュニケーションに限定した内容になっていませんし、幼児が対象ということもあり社会性やコミュニケーションに関する項目もかなり限定的になっています。
また、選択肢②でも示したように、スクリーニングの段階を考えてもM-CHATは第1段階となるので、本問の状態にはふさわしくないと思われます。


更に、「社会性やコミュニケーションを中心とした発達障害が疑われる児童」を対象に行われますから、「18~24ヵ月の幼児が対象」の本検査は適切ではないように思われます
(法律によっては、18~24カ月の幼児も「児童」なのでこの辺は難しいところですが)

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

『④VINELAND-Ⅱ』

適応行動の発達水準を幅広くとらえ、支援計画作成に役立つ検査です。
標準得点で相対的な評価を行うとともに「強みと弱み」「対比較」等で個人内差を把握できます。
以下の通り、4つの適応行動領域と不適応行動領域(オプショナル)と下位領域から構成されています。
  • コミュニケーション:受容言語/表出言語/読み書き
  • 日常生活スキル:身辺自立/家事/地域生活
  • 社会性:対人関係/遊びと余暇/コーピングスキル
  • 運動スキル:粗大運動/微細運動
  • 不適応行動:不適応行動指標/不適応行動重要事項
これらの領域について、検査者が対象者の様子をよく知っている回答者(保護者や介護者など)に半構造化面接を行います。
適応行動領域とそれを構成する下位領域はプロフィールを描くことができ、視覚的に対象者の特徴を把握することができます。
対象者の年齢ごとに開始項目があり、また上限・下限を設定することにより、実施時間の短縮化が図られています(対象範囲は0歳0カ月~92歳11カ月とかなり広い)。

VINELAND-Ⅱのカタログには「特に知的障害や発達障害の人たちの支援を行うためには、IQによる診断だけでなく、適応行動を把握することが重要になってくるものと思われます。Vineland-IIが個別支援計画の立案はもとより、支援効果の評価など幅広い分野で活用されることを願っています」とあります。
このことからも発達障害の適応行動に関する検査として有効であることが窺えます。
上記の内容は、本問で求められている内容と合致しているように思えます。
しかし、本選択肢は少なくとも「最も適切」ではないとされています(一度はこちらの選択肢が「適切」と考えて公開してしまったくらいです…(ご指摘くださった方、ありがとうございます))

しっかりと検査の内容を精査すると以下の通りでした。
どうやらVINELAND-Ⅱにおける「適応行動」とは、日常生活を安全かつ自立的に送るために必要となる年齢相応のスキル:食事、身だしなみ、掃除、お金の管理、仕事、友人関係、社会的スキルなどを指しているようです。

DSM-5において知的障害が神経発達障害として発達障害と同じ枠組みで整理され、知的障害の診断にIQが必須でなくなったため、適応行動で評価することが重要となり、この検査の有用性が注目されています。
この点からも、発達障害の社会性やコミュニケーションを踏まえた検査というよりも、もっと一般的な「適応行動」としての社会性やコミュニケーションを測る検査と言えます

よって、選択肢④は不適切と判断することができます。

『⑤WISC-Ⅳ』

WISCについては以前の記事でまとめてあるのでご参照ください。
Wechslerは、知能構造の質的な差異を知ることが重要と考え、ウェクスラー式知能検査を創案しました。
全検査IQ(FIQ)と、4つの指標得点の5つの合成得点を算出します。
指標得点は、言語記憶、知覚推理、ワーキングメモリ、処理速度の4つから成っています。

すなわち知能を上記のような要素に分け、それぞれの差異を知ることを重視した内容になっています。
特にコミュニケーションに特化したという内容にはなっていません。
もちろん、それぞれの指標得点から社会性やコミュニケーションの問題を推定することは可能ですが、それが目的というわけではありません
WISC-Ⅳは、より全般的な知能を把握すること、知能の各要素のバランスを見ることなどには長けていますが、本問ではより具体的に「社会性やコミュニケーションの問題」を把握しようとしていますので目的と合致しないと思われます
以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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