公認心理師 2022-60

乳児期における視覚認知機能の実験に関する問題です。

事例で示されているのが何という方法か読んでわかることが大切ですね。

問60 乳児50名を対象として、視覚認知機能を調べる実験を行った。まず、実験画面上に図形Aを繰り返し提示したところ、乳児は最初は画面を長く注視したが、その後、注視時間は減っていった。注視時間が半減したところで、画面上に図形Bを提示したところ、乳児の画面の注視時間が回復して長くなった。一方、異なる乳児50名を対象として、同様に画面上に図形Aを繰り返し提示し、注視時間が半減したところで、画面上に図形 C を提示した場合は、乳児の画面の注視時間は回復しなかった。
 この2つの実験結果から解釈される乳児期の視覚認知機能の性質として、最も適切なものを1つ選べ。
① 図形Cよりも図形Bを選好注視する。
② 図形Bには馴化し、図形Cには脱馴化する。
③ 図形Bよりも図形Cに強い親近性選好を示す。
④ 図形Aの後に、図形Cよりも図形Bの出現を期待する。
⑤ 図形Aと図形Bは区別するが、図形Aと図形Cは区別しない。

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解答のポイント

馴化‐脱馴化法に関する基本的な理解を有している。

選択肢の解説

① 図形Cよりも図形Bを選好注視する。
② 図形Bには馴化し、図形Cには脱馴化する。
③ 図形Bよりも図形Cに強い親近性選好を示す。
④ 図形Aの後に、図形Cよりも図形Bの出現を期待する。
⑤ 図形Aと図形Bは区別するが、図形Aと図形Cは区別しない。

まず本問を解く上では、事例の研究法が「馴化‐脱馴化法」であることを理解しておくことが重要です。

馴化‐脱馴化法は、乳児の知覚能力や視覚認知機能を調べる方法の一つであり、乳児の飽きやすい性質と、新奇な対象を好むという性質を利用します。

すなわち、乳幼児に同一の視覚刺激を反復呈示すると刺激に対する注視時間が減少(=馴化)するが、新奇が刺激が呈示されることによって注視時間が回復する(=脱馴化)という一般的法則(Fantz,1964)を利用しています。

例えば、乳児がA・Bの2つの刺激を弁別可能か調べる場合には、まず一方の刺激Aを参加児に繰り返し呈示して、Aに対する馴化を形成します。

この際、選好注視法と同様の方法(本問のように注視時間が半分になったら、など)で参加児の各試行における刺激注視時間を測定し、注視時間の減少があらかじめ定められた基準に達した時点で馴化が生じたと判断し、テスト試行へと移行するという手続きが一般的です。

テスト試行では、馴化刺激(A)と新奇刺激(B)が刺激の呈示位置や呈示順のカウンターバランスを取りながら系列的(同時の場合もある)に呈示され、複数回のテスト試行が実施されることになります。

乳幼児は特定の刺激に馴化した後に新奇刺激が呈示されると(新奇刺激を馴化刺激と弁別可能な限りは)、新奇刺激を注視する傾向にあります。

従って、テスト試行で新奇刺激に対する有意な選好(新奇性選好)が認められれば、参加児は2つの刺激の弁別が可能であったと結論付けることができます。

こうした「乳幼児を対象とする知覚研究法としての馴化‐脱馴化法」を理解しておくと、本問の各選択肢が解きやすかろうと思います。

では、以下で選択肢一つずつみていきましょう。

まず基本的な間違いがある選択肢として、選択肢②の「図形Bには馴化し、図形Cには脱馴化する」について考えていきましょう。

既に述べた通り、馴化‐脱馴化法は「乳幼児に同一の視覚刺激を反復呈示すると刺激に対する注視時間が減少(=馴化)するが、新奇が刺激が呈示されることによって注視時間が回復する(=脱馴化)という一般的法則」を利用した方法になります。

本問の状況で言えば、まず図形Aを繰り返し呈示して注視時間が減った、すなわちここで「馴化」が起こったわけですね。

そこで図形Bを呈示したら注視時間が戻ったということですから(つまり、ここで脱馴化が起こっている)、図形Bという新奇刺激に対して有意な選好(新奇性選好)が認められたことになり、乳児は図形Aと図形Bの弁別が可能であったと結論づけることになります。

これに対して、図形Cを呈示しても注視時間が回復しなかったわけですから(つまり、ここでは脱馴化が起こっていない)、図形Cという新奇刺激に対して有意な選好(新奇性選好)が認められなかったことになり、乳児は図形Aと図形Cの弁別ができなかったと結論づけることになります。

これらを踏まえれば、選択肢②の「図形Bには馴化し、図形Cには脱馴化する」という表現は、馴化および脱馴化という言葉の使い方を根本的に間違えていると言えます。

馴化試行で用いた図形Aに対して「馴化:画面の注視の減少」が起こり、図形Bによって「脱馴化:画面の注視の回復」が生じ、図形Cでは「脱馴化」が生じていないと見なすのが妥当なわけです。

ここまでで選択肢②が不適切なことが理解できたと思います。

本当は上記の解説で、他選択肢の解説にもなっているのですが、丁寧に見ていくことにしましょう。

続いては「生じた選好をどう解釈しているか?」という観点で、選択肢③および選択肢④を見ていきます。

選択肢③では「図形Bよりも図形Cに強い親近性選好を示す」とありますが、これは「馴化‐脱馴化法」で生じた結果の捉え方として間違いになります。

上述の通り、「馴化‐脱馴化法」で生じた結果の捉え方として妥当なのは「新奇刺激に対する有意な選好(新奇性選好)が認められれば、参加児は2つの刺激の弁別が可能であったと結論付ける」というものですから、選択肢③のように「親近性選好」と見なすのは不適切と言えます。

そもそも「親近性選好」は親しみのあるものを好む傾向のことを指す言葉ですから、もしも選択肢③で示されているように本事例の図形Cで「親近性選好」が生じたのであれば、むしろ図形Cで注視時間が短くなるとは限りません。

一般に、風景画像は新奇性選好となり、顔画像は親近性選好となる傾向がありますから、例えば図形Cが顔に近い丸の図形だったとすれば、図形Cで「親近性選好」が生じたなら注視時間が回復する方が自然です。

いずれにせよ「馴化‐脱馴化法」の基本的な考え方について間違った捉え方をしているという点で、選択肢③は不適切となるわけです。

続いて、選択肢④の「図形Aの後に、図形Cよりも図形Bの出現を期待する」ですが、こちらも「新奇刺激に対する有意な選好(新奇性選好)が認められれば、参加児は2つの刺激の弁別が可能であったと結論付ける」という馴化‐脱馴化法の考え方に反する内容ですね。

本事例で生じた結果を「図形Bでは新奇性選好が認められ、図形Cでは認められなかったことから、図形Aと図形Bを弁別でき、図形Aと図形Cは弁別できない」と捉える以外の「勝手な解釈=出現を期待する」を入れるのは不適切です(この辺は乳児の時間感覚や文脈を読む力に関する理解があれば、誤った考え方だと理解しやすいでしょう)。

すなわち、選択肢④も選択肢③同様に「馴化‐脱馴化法」の基本的な考え方について間違った捉え方をしているという点で不適切となるわけですね。

上記の内容を踏まえれば、選択肢⑤の「図形Aと図形Bは区別するが、図形Aと図形Cは区別しない」というのが最も妥当な結果考察であると言えますね。

図形Aに馴化が生じた後、図形Bだと脱馴化が生じましたから(有意な新奇性選好が生じたから)、本研究の乳児は図形Aと図形Bを区別できていると結論づけられます。

対して、図形Cには脱馴化が生じませんでしたから(有意な新奇性選好が生じなかったから)、本研究の乳児は図形Aと図形Cを区別できていないと結論づけられます。

ですから、この「図形Aと図形B」および「図形Aと図形C」の関係をまとめて述べると、選択肢⑤の「図形Aと図形Bは区別するが、図形Aと図形Cは区別しない」ということになるわけです。

なお、選択肢①の「図形Cよりも図形Bを選好注視する」は何となく間違っていないように見えるかもしれませんが、本問の研究はあくまでも図形Aと図形B、図形Aと図形Cという関係の中で行っており、図形Bと図形Cとの関係について直接的に調べていませんよね。

選択肢①の「図形Cよりも図形Bを選好注視する」という表現だと、図形Aとの関係が全く語られておらず(あくまでも図形Aとの関連性で選好注視を捉えているので、図形Bおよび図形C単体での選好注視はわからんはず)、本事例の研究の目的を正しく認識できていないということになります。

以上より、選択肢①、選択肢②、選択肢③および選択肢④は不適切と判断でき、選択肢⑤が適切と判断できます。

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