公認心理師 2022-59

研究結果を踏まえ、求められている内容に適した分析法を選択する問題です。

こういう問題ってどうやって解説しようかなといつも考えるのですが、選択肢をそれぞれ解説するより「対応の有無」や「どの結果を分析するか」という視点で解説した方がわかりやすいかなと思い、そのようにしてみました。

問59 学習方法の違いにより学習内容の習得度に差があるかを検討する研究を行った。まず、参加した80名の生徒を無作為に2群(各40名)に分割して事前テストを行い、両群の能力が同等であることを確認した。そこで、一方を講義形式で学習する群、他方を協同学習で学習する群とし、学習後に事後テストを行った。事後テストの平均値(標準偏差)は、講義形式群67.34(9.12)、協同学習群76.40(8.79)であった。また、事前テストと事後テストの得点間の相関係数は、講義形式群0.66、協同学習群0.54であった。
 学習方法の違いにより習得度に差があるかを検討する分析法として、最も適切なものを1つ選べ。
① 2群の事後テストの平均値を対応のあるt検定で分析する。
② 2群の事後テストの平均値を対応のないt検定で分析する。
③ 2群の事前テストと事後テストの相関係数を対応のあるt検定で分析する。
④ 2群の事前テストと事後テストの相関係数を対応のないt検定で分析する。
⑤ 2群の事後テストの平均値と相関係数を被験者間2要因分散分析で分析する。

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解答のポイント

本問で求められているポイント(学習方法の違いにより習得度に差があるかを検討する)を理解し、その上で最も適切な条件を選択する。

選択肢の解説

① 2群の事後テストの平均値を対応のあるt検定で分析する。
② 2群の事後テストの平均値を対応のないt検定で分析する。
③ 2群の事前テストと事後テストの相関係数を対応のあるt検定で分析する。
④ 2群の事前テストと事後テストの相関係数を対応のないt検定で分析する。
⑤ 2群の事後テストの平均値と相関係数を被験者間2要因分散分析で分析する。

本問では上記の選択肢の特徴を抜き出して、そこから解説に入っていくのがわかりやすいと思います。

ポイントは以下になると考えられます。

  1. 「学習方法の違いにより習得度に差があるかを検討する」場合には、どの条件を分析することが適切か。
  2. 本問の研究手法が「対応あり」か「対応なし」かの判断。

これらについて適切に答えられれば、自ずと正答は導かれることになります。

ちなみに「t検定」と「被験者間2要因分散分析」は要因が増えたことによっての違いですから、この判断については本問においては不要ですね。

まず「2.本問の研究手法が「対応あり」か「対応なし」かの判断」という単純なところから考えていきましょう。

求められているのは「対応のある・ない」の違いに関する理解です。

対応の有無について判断する時には、まずは被験者内・被験者間という捉え方を理解しておくと便利です。

被験者内という割り当て方をする場合には、必ず「対応のある」になります。

対して、被験者間という割り当て方をする場合には、一般的には「対応がない」となります。

被験者内とは「測定対象は同じで、時間などの条件を変えて測定したデータのこと」です。

例えば、10人の心拍数のデータを朝に測定し、また夜に同じ10人の心拍数を測定するとしたら、これは対応のあるデータということになります。

事例の状況は「参加した80名の生徒を無作為に2群(各40名)に分割」してそれぞれの群で別の条件(講義形式群・協同学習群)を実施しているので、同じ被験者がすべての条件を実施していないため、この条件は「被験者内」ではないということが明確です。

これに対して被験者間とは「条件ごとに測定対象が異なる場合」を指し、本事例の状況はこちらと合致します。

被験者間で「無作為化」が行われていれば「対応のない」ということになりますが、「ブロック化」されている場合だと「対応のある」になります(対応のない要因の場合は、その要因の異なる水準に含まれる従属変数の値は互いに独立であるのに対し、対応のある要因の場合は、異なる水準に含まれる従属変数の値に相関がある)。

ブロック化とは、調べる要因以外のすべての要因を可能な限り取り除く(少なくする・一定にするということであり、例えば、年齢が影響するようなら年齢の影響を除くために、標本の年齢をできるだけ等しくするということです。

本事例ではそういったブロック化もされておりませんから、「対応のない」という研究デザインであることが明らかですね。

ですから、各選択肢の中に「対応のある」という文言が入っている、選択肢①および選択肢③に関しては、この時点で除外されることになるわけです。

続いて、他の条件も見ていきましょう。

「1.「学習方法の違いにより習得度に差があるかを検討する」場合には、どの条件を分析することが適切か」を考えていくわけですが、まずはどの条件を分析にかけるのかを考えていくことにしましょう。

問題では「学習方法の違いにより習得度に差があるかを検討する」となっていますから、当然「事後テストの平均値」を分析にかけることが重要になります。

事前テストは単に両群の能力に差がないことやどの程度の得点かというデータを確保しただけですが、事後テストでは「講義形式群」と「協同学習群」の各学習法の平均値が示されており、これを比較することで習得度に差があるかどうかを検証することができるわけですね。

ですから、この時点で選択肢①か選択肢②のいずれかに絞られるわけですね。

上記に加えて、選択肢③や選択肢④に記載のある「事前テストと事後テストの相関係数」とは何かを理解しておくことも大切です(確かめ算みたいなものですね)。

相関係数は、正と負の方向と-1~1までの強さによって2つのデータ群の関係性を表します。

今回の事例ではいずれの結果も0.5~0.7の間(だいたい「相関あり」と見なされる数値ですね)ですが、講義形式の方が相関が高いことが示されていますね。

となると、事前テストと協同学習群の事後テストの方が相関が低いわけですが、これと各群の事後テストの平均値を踏まえて乱暴にまとめると、「講義形式群の事後テストと事前テストは似たような結果だけど、協同学習群の事後テストと事前テストの結果は違うんだよ」ということが言えて、その「協同学習群の事後テストと事前テストの結果の相関の低さ(講義形式群と比べて)は、協同学習群の事後テストの得点結果が高いことから生じたんだよ」ということになるわけです。

ですが、本問で求められているのは、あくまでも「学習方法の違いにより習得度に差があるかを検討する」ということですから、事前テストと事後テストの相関を比較するのは不要であることがわかりますね。

ですから、相関係数を含めている選択肢③、選択肢④および選択肢⑤はこの時点で除外されるわけです。

少し繰り返しになってしまいますが、改めてまとめてみましょう。

本問における「事後テストの講義形式群と協同学習群の平均値の比較」では、学習方法の違いによる習得度を検討することができますね。

これに対して「事前テストと事後テストの相関係数の比較」では、事前テストの得点が変化すれば事後テストの得点も変化するか否か、方向性(例えば、一方が上がると一方は下がる等)、その度合いを検討することができるわけです。

前者を行う目的はわかりやすいと思いますが、後者をなぜ行うかを考えておくことが大切です。

前者だけだと学習方法の違いによる習得度の差は把握することができますが、仮に習得度に差があったとしても「事前テストとの相関が高ければ、対して得点の変化はない」ということを意味しますね。

研究では、こうしたいくつかの視点で分析を行うことで「自分たちが設定した条件によって、この結果の有意な差は生じたんだよ」ということの説得力を高めていくわけですね。

これまでの内容を総合すれば、以下のようになります。

  • 対応の有無→選択肢②か選択肢④か選択肢⑤が正答
  • 事後テストの平均値を比較分析→選択肢①か選択肢②が正答
  • 相関係数の比較は本問では求められていない→選択肢①か選択肢②が正答

ですから、いずれの条件でも正答に入っている選択肢②の「2群の事後テストの平均値を対応のないt検定で分析する」が、「学習方法の違いにより習得度に差があるかを検討する分析法」として最も適切と言えるわけですね。

よって、選択肢①、選択肢③、選択肢④および選択肢⑤は不適切と判断でき、選択肢②が適切と判断できます。

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