公認心理師 2020-36

馴化・脱馴化法が過去問での出題がありますね。

また、解くために必要な他の知識についても過去問で示されていますから、比較的扱いやすい問題だったと言えるでしょう。

問36 乳児期の認知発達に関する研究手法である馴化・脱馴化法について、不適切なものを1つ選べ。

① 乳児の弁別能力の発達を調べることができる。

② 吸てつ〈sucking〉反応の変化を指標とすることができる。

③ 刺激に対する注視時間の回復を指標とすることができる。

④ 乳児の再認記憶の有無を確かめるために使うことができる。

⑤ 実験手法の1つとして、乳児に対して2つの刺激を同時に対呈示することができる。

解答のポイント

馴化・脱馴化法の手続きを理解していること。

選好注視法との違いについても理解していると望ましい。

選択肢の解説

① 乳児の弁別能力の発達を調べることができる。
② 吸てつ〈sucking〉反応の変化を指標とすることができる。
③ 刺激に対する注視時間の回復を指標とすることができる。
④ 乳児の再認記憶の有無を確かめるために使うことができる。

馴化・脱馴化法(単に馴化法と呼ぶこともある)は、乳幼児の刺激弁別を後述する選好注視法よりも敏感に検証可能な手法です。

乳幼児に同一の視覚刺激を反復呈示すると刺激に対する注視時間が減少(つまり馴化、慣れるということ)しますが、新奇な刺激が呈示されることによって注視時間が回復する(これを脱馴化と呼ぶ)という一般的特性を利用した方法です。

例えば、乳児がA・Bの2つの刺激を弁別可能か調べる場合には、まず一方の刺激Aを参加児に繰り返し呈示して、Aに対する馴化を形成します。

この際、選好注視法と同様の方法(後述)で参加児の各試行における刺激注視時間を測定し、注視時間の現象があらかじめ定められた基準に達した時点で馴化が生じたと判断し、テスト試行へと移行するという手続きが一般的です。

テスト試行では、馴化刺激(A)と新奇刺激(B)が刺激の呈示位置や呈示順のカウンターバランスを取りながら系列的に呈示され、複数回のテスト試行が実施されることになります。

乳幼児は特定の刺激に馴化した後に新奇刺激が呈示されると、新奇刺激を注視する傾向にあります。

もしも、乳幼児が2つの異なる刺激を弁別できていないならば、刺激に対する注視時間はそのまま減少していくはずですから、この手続きによって、乳幼児の視覚認知の発達を調べることができるということです。

なお、測度には上記のような注視時間が使われることが多いですが、吸綴の大きさや心拍速度が使われることもあります。

乳幼児の聴覚知覚に関する研究では、おしゃぶりを吸うと音声Aが流れるようにし、乳児を馴化(吸いつき反応低下)させます。

その後、音声Bに変えて脱馴化(吸いつき反応増加)した場合は、音声Aと音声Bを聞き分けていることが推察されるということです。

後述する選好注視法はパターンの複雑さなどを指標として乳児の弁別能力を測定するというメリットがありますが、馴化・脱馴化法では記憶や概念形成などを測定できるというメリットがあります。

コーネル(1979)は、乳幼児に幾何学的な図形の絵や、顔写真を20秒間見せ、その2日後に以前見せた絵と初めて見せる絵(新奇の絵)を乳幼児に見せ、どちらの絵を長く見続けるか調べました。

乳児は新奇の絵の方を長く見つめるという結果になり、乳幼児は2日間絵を記憶し、見たことのある絵かそうでないかを判断できているという結果が示されています。

さらに、初めて見る絵の方を好んで見るということもわかりました。

これが再認記憶の研究であることはわかりますね。

以上より、選択肢①、選択肢②、選択肢③および選択肢④は適切と判断でき、除外することになります。

⑤ 実験手法の1つとして、乳児に対して2つの刺激を同時に対呈示することができる。

こうした手法を採る代表的な方法は選好注視法になります。

乳幼児が異なる図形やパターンを見分けられるかを調べたい場合、2つの視覚刺激を対にして、左右の呈示位置をランダムに変えながら何回か呈示し、乳幼児が左右どちらの図をより注視するかの頻度や時間を測定します。

選好注視法はFantzによって開発された手法であり、彼はこの方法を用いて生後1週間の新生児であっても無地の図形よりもある程度複雑なパターンをより注視することを示しました。

選好注視法は乳幼児の視線を測定するため、新生児を含め幅広い年齢の乳幼児に適用可能な点で有効な手法です。

一方で、特定の刺激間に有意な選好が観察されない場合に、乳幼児がそれらの刺激を弁別できないことを示すのが難しいという特徴もあります。

仮に乳幼児が刺激弁別の能力を有していても、それが選好として表だって観察されないことも十分にあり得るわけです。

つまり、選好注視法による実験結果の解釈においては、乳幼児の弁別能力を過小評価する可能性に留意する必要があるのです。

このように、選好注視法では「乳児に対して2つの刺激を同時に対呈示することができる」ことが成り立ちますが、本問のテーマとなっている馴化・脱馴化法では、すでに馴化を示した刺激と新奇刺激を同時に呈示することはできませんから、本選択肢の内容は合致しないと言えます。

こうした違いは先述の通り、扱える事象の違い(馴化・脱馴化法では記憶や概念形成についても調べることができる)となって現われていますね。

以上より、選択肢⑤が不適切と判断でき、除外することになります。

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