公認心理師 2019-136

問136は実験状況から適切な統計手法を選択する問題です。
ややこしい言葉が入っていますが、実はあまり正誤判断には関係がありません。
大切なのは「要因と水準」「対応の有無」に関する理解です。
とは言え、細かい用語も理解しておくと解きやすいでしょうね。

問136 網膜像差が奥行き知覚手掛かりとして有効であるかを検討する目的で実験を行った。網膜像差が0分、6分、12分、18分の4種類からなるランダムドットステレオグラムを各実験参加者にランダムな順序で呈示した。実験参加者はランダムドットステレオグラムを観察し、実験者から渡されたノギスを用いて見かけの奥行き量を再生した。
この実験データから網膜像差の4つの条件で再生された奥行き量の平均に差があるかを検討するための統計的方法として、最も適切なものを1つ選べ。
①対応のある1要因分散分析
②対応のある4要因分散分析
③対応のない1要因分散分析
④対応のない4要因分散分析
⑤対応のある2標本の平均の差の検定

網膜像差は映画やテレビ、テーマパークのアトラクションなどにおける立体映像表示に幅広く利用されています。

ステレオグラムとは、2次元上で奥行きを感じさせる絵画であり、両眼視差を利用したものです。
ある対象Aを近距離で観察した場合に生じる像差を2次元上に別々に描画し、左右両眼で別々に観察すると、一つの対象Aが、描画平面から浮き出ているように知覚されます。
これは両眼像差という手がかりにおいて、対象Aが実際に近距離で観察された場合と同一の状況を構成するために生じます。

その中でもランダム・ドット・ステレオグラム とは、一見ノイズのようにしか見えない画像だが、うまく焦点を合わせると立体が浮かび上がってくる画像のことを指します。
一見ランダムなドットの集合に見えるが一定のパターンを持ち、視差をもって見ると立体が浮かび上がる画像です(結構前に一度流行った気がしますね)。

ちなみに、ノギスは長さを100分の5ミリメートル単位まで精密に測定する測定器のことです(要はものさし)。

解答のポイント

「要因と水準」「対応の有無」に関する理解がある。

選択肢の解説

⑤対応のある2標本の平均の差の検定

「処理群と非処理群」「被験薬と対照薬」などのように2つの母集団の比較を行う場合、 どちらの群もデータが正規分布に従うとすると、2つの母集団の母平均の差に関する検定を行うことになります。
ですが、本問のデザインは「網膜像差が0分、6分、12分、18分の4種類からなるランダムドットステレオグラムを各実験参加者にランダムな順序で呈示した」とありますから、2標本が存在しているわけではありません

よって、選択肢⑤は誤りと不適切と判断できます。

②対応のある4要因分散分析
④対応のない4要因分散分析

これらの選択肢に関しては「網膜像差が0分、6分、12分、18分の4種類からなるランダムドットステレオグラムを各実験参加者にランダムな順序で呈示した」という状況を「1要因」とみなすか「4要因」と見なすかの判断が求められています。

こちらの理解に関しては「要因」と「水準」について知っておくことが大切ですね
要因とは、実験・観察等において、観測値に影響を与える因子のことを指します。
対して水準とは、要因を質的に分類、あるいは量的に変化させた条件のことを指します。
事例の「網膜像差が0分、6分、12分、18分の4種類からなるランダムドットステレオグラム」とは、網膜像差という「1つの要因」があり、それに「0分、6分、12分、18分のランダムドットステレオグラム」という「4つの水準」が有されているということを示しています

よって本問のデザインは「1要因」と見なすのが妥当です。
また、平均値の差の検定で、本事例のような条件だと分散分析を採用することになりますね(2019-7の選択肢③などをご参照ください)。
以上より、選択肢②および選択肢④は不適切と判断できます。

①対応のある1要因分散分析
③対応のない1要因分散分析

残りはこれらの選択肢の判断になりますね。
求められているのは「対応のある・ない」の違いに関する理解です

対応の有無について判断する時には、まずは被験者内・被験者間という捉え方を理解しておくと便利です。
被験者内という割り当て方をする場合には、必ず「対応のある」になります
対して、被験者間という割り当て方をする場合には、一般的には「対応がない」となります。

被験者内とは「測定対象は同じで、時間などの条件を変えて測定したデータのこと」です。
例えば、10人の心拍数のデータを朝に測定し、また夜に同じ10人の心拍数を測定するとしたら、これは対応のあるデータということになります。
事例の状況は「各実験参加者にランダムな順序で呈示した」とあるわけですから、一人の被験者がすべての水準を実施しているということであり、この条件は「被験者内」と断定することができ、すなわち「対応のある」になると判断できます

これに対して被験者間とは「条件ごとに測定対象が異なる場合」を指します。
本事例の状況はこちらとは合致しませんね。
被験者間で「無作為化」が行われていれば「対応のない」ということになりますが、「ブロック化」されている場合だと「対応のある」になります。
ブロック化とは、調べる要因以外のすべての要因を可能な限り取り除く(少なくする・一定にするということであり、例えば、年齢が影響するようなら年齢の影響を除くために、標本の年齢をできるだけ等しくするということです。

よって、本問のデザインは「対応のある」と判断することができ、他選択肢の解説も踏まえると「対応のある1要因分散分析」であると考えられます
以上より、選択肢③は不適切と判断でき、選択肢①が適切と判断できます。

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