公認心理師 2018追加-148

幼児を対象とした怒りのコントロール法として、新しい方法Xと従来の方法Yの効果を、置換ブロック法による無作為化比較試験によって検証することとなった。

(1)ブロックサイズを6とし、84名の実験参加者を乱数によって A 群:新しい方法X、B 群:従来の方法Y の群に割り付ける。
(2)各群にそれぞれXとYを実施する。
(3)遊び場面で怒りについての観察によるアセスメントを行う。

この計画において注意すべきことについて、正しいものを1つ選ぶ問題です。

本問の要点は「無作為化の方法」についての把握です。
こうした研究において実際に扱うのは大きな集団から抽出した少数のデータになります。
この少数のデータが、大きな集団と見なしてその結果を扱うわけです。

この元々の大きな集団を「母集団」と呼び、そこから抽出した少数のデータを「標本」と呼びます。
実際の大きな集団(母集団)のデータを全て集めることは大抵のばあい不可能であるため、そこから抽出したデータ(標本)が母集団と同様の性質を持っていると捉え、標本から得られた結果を母集団にも適用できると見なすわけです。

母集団から標本を取り出すときに重要なのは、母集団の特徴がよく反映されるように偏りのない無作為な方法で抽出されることです。
ですが、実際には完全にランダムな標本を得ることは難しいです。

例えば、公認心理師2018-136の問題のように、標本の募集の時点ですでに偏っている場合もあるわけです(2018-136は英語の勉強法についての募集ですから、英語に興味がある人、得意な人が集まりやすい可能性がある)。
ですから、集まった標本をできるだけランダム(無作為)に各群に割り当てられるような手法が求められ、その手法を「無作為化」と呼びます。
募集時の偏りが無くても、比較する群の性別、年齢、重症度などの既知の因子(こういう因子のことを「交絡因子」と呼びます)の分布を均等にすること、未知の交絡因子の影響を低減させるためにも無作為化は重要です。

以下では、本問で示されている「置換ブロック法」について説明して、各選択肢の解説に入っていきます。

解答のポイント

置換ブロック法のやり方についてイメージできていること。
実験において研究者の操作が入らないようにすることが重要であると認識していること。

無作為化の方法について

まず無作為化の手法で最も単純なのは、A群とB群に実験参加者を同じ確率で割り付けることです。
例えばコイントスをして表ならA群、裏ならB群のように割り当てていきます(群が多ければトランプをめくる等)。
こうしたやり方のことを「単純法」と呼びます。

ただし、単純法では比較群間で実験参加者に(交絡因子の)偏りが生じる可能性が出てきてしまいます。
こうした欠点を補う方法として「置換ブロック法」があります。

置換ブロック法では、ブロック単位に割り付け数が均衡するように順番付けします。
各群に割り付けられる例数が同じになるように、群の数の整数倍をブロック数としてランダムに割り付けます
A群とB群の2つをブロックサイズ6で割り付けする場合(つまり、本問の状況)は下記のパターンだけあります。
「AAABBB」「AABABB」「AABBAB」「AABBBA」「ABAABB」「ABABAB」「ABABBA」「ABBABA」「ABBBAA」「ABBAAB」「BAAABB」「BAABAB」「BAABBA」「BABABA」「BABBAA」「BABAAB」「BBABAA」「BBBAAA」「BBAABA」「BBAAAB」

このパターンをランダムに並べることで、どのタイミングで研究をとめても割り付け数がある程度均衡するようにしているのが置換ブロック法です
実験参加者をブロックに入れていき、その数を揃えることができます。

置換ブロック法の欠点として、実験実施者がブロックサイズを知ってしまうことで、ブロック内の最後の実験参加者がどちらの群に割り付けられるかが実験実施者に事前に知れてしまうことです。
次に実験参加者がどの群に割り付けられるか知っていると、ついつい「期待した効果が出そうな人」を意図的に割り付けるなどの問題が生じやすくなります。

こうしたことを防ぐため、本来はブロックサイズを一定の範囲で変動させることが一般的です(本問ではしていませんが)。
これでも同じ群が続くと次の対象者の反対の群への割り付け確率が上がるので、完全な解決にはなりません(それを解決する方法も考えられていますが、ここでは割愛)。

選択肢の解説

『①(2)と(3)は同一人物が行う』

この選択肢において重要な認識は、研究において避けねばならないのは「実験実施者の操作が入ること」だと知っていることです
これを専門用語で「バイアス」と言います。

バイアスの種類には、選択バイアス(母集団から対象を選ぶときと,実験的研究であれば群を割り付けるときに生じる)、情報バイアス(調査や測定によってデータを収集するときに生じる)、交絡バイアス(原因と結果を検証する際に、その背後に隠れて存在する交絡因子が存在すること)などがあり、研究のいくつかの場面で起こりやすいとされています。
本問では、前提条件として置換ブロック法という選択バイアスを避ける手法を取っているわけですね。

情報バイアスを少なくするためには、対象者、治療者、評価者に研究の情報を伏せる盲検法(ブラインディング)という手法がよく使われます。
どのレベルで知らないかによって、一重盲検~四重盲検に分けられています。
参加者だけに伏せれば一重盲検、参加者と実験者に伏せれば二重盲検となります
さらに、参加者と実験者だけでなく結果の評価者にも情報を伏せれば三重盲検、参加者と実験者と評価者だけでなくデータの解析者にも伏せれば四重盲検です。

本選択肢の状況は、実験参加者がある方法(XもしくはY)を行って、そのまま遊び場面で観察およびアセスメントを行うということですね。
すなわち、三重盲検を行うか否かを問うているわけです。
現在のままでは三重盲検は行われていない、つまり実験実施者と評価者が同じであるということですね

この実験状況では実験実施者と評価者をイコールにすることで、さまざまな問題が生じることがわかります
例えば以下の通りです。

  • 実験者が「自分が新しい方法Xを行った」という自覚がある場合、評価をするときに自覚・無自覚の操作として、実際よりも怒りを低く見積もる可能性がある。
  • 実験者が「自分が従来の方法Yを行った」という自覚がある場合、評価をするときに自覚・無自覚の操作として、実際よりも怒りを高く見積もる可能性がある。
  • 実験者が各方法を実施する場合、実験参加者である幼児との関係性ができてしまい、その関係性が評価場面に影響を及ぼす可能性がある。すなわち、関係によっては怒りの生じやすい・生じにくいが出てきてしまう

これらを踏まえると、実験実施者(=(2)を行う人)と評価者(=(3)を行う人)を分けるのが適切であることがわかります。
よって、選択肢①は誤りと判断できます。

『②(1)の結果を(3)の実施者に伝えない』

こちらの選択肢についても、選択肢①と同じ論理で解説が可能だと思われます。
やはり、研究において避けねばならないのは「実験実施者の操作が入ること」です

選択肢②では、もしも(1)の結果、すなわち実験参加者をどのように割り付けたかを実験実施者が知っていると、目の前にいる実験参加者を評価する際、何らかの操作が入る可能性が出てきます
実験実施者の心理として「自分の仮説を証明したい」「研究がうまくいってほしい」という思いがあるわけです。
より具体的に言えば「新しい方法Xを行っている群の方が、怒りのコントロールが上手であってほしい」と思っているわけです

そうした思いがあるときに、目の前に「新しい方法Xを実施した参加者」がいたときに、実際よりも参加者の怒りを低く見積もったアセスメントをしてしまう可能性が出ます。
これは意識的なものだけとは限りません。
こうした操作は無意識的にも生じることが証明されていますから、大切なのは「実験実施者が目の前にいる参加者がどちらの群か知らないこと」なのです
こういうことを専門的に言えば「情報バイアス」を防止すると表現します。

先述の通り、バイアスの種類には、選択バイアス(母集団から対象を選ぶときと,実験的研究であれば群を割り付けるときに生じる)、情報バイアス(調査や測定によってデータを収集するときに生じる)、交絡バイアス(原因と結果を検証する際に、その背後に隠れて存在する交絡因子が存在すること)などがあり、対象の選択、データの収集、結果の分析などで起こりやすいとされています。

情報バイアスを少なくするためには、対象者、治療者、評価者に研究の情報を伏せる盲検法(ブラインディング)という手法がよく使われます
どのレベルで知らないかによって、一重盲検~四重盲検に分けられています。
参加者だけに伏せれば一重盲検、参加者と実験者に伏せれば二重盲検となります。
さらに、参加者と実験者だけでなく結果の評価者にも情報を伏せれば三重盲検、参加者と実験者と評価者だけでなくデータの解析者にも伏せれば四重盲検です。

選択肢①も選択肢②も三重盲検の必要性を問うている内容と言えますね。
以上より、選択肢②が正しいと判断できます。

『③ブロックサイズを4とし、実験参加者を90名にする』

置換ブロック法ではブロックサイズを群数の整倍数にすると好ましいのですが、元々の研究ではブロックサイズ6、本選択肢も4なので2群の整倍数にはなっています。
しかし本選択肢を解くのに重要なのは、実験参加者の数です。

問題ではブロックサイズ6、実験参加者84名ですので、16ブロック並べることできっちりと84名を割り付けることが可能であることがわかります(6ブロック×16=84名)

これに対して選択肢のように、ブロックサイズ4、実験参加者を90名にすると、どうやっても途中でブロックのサイズ数を変えざるを得ません(要は90名を4では割り切れない)

もう少し細かく説明しましょう。
ブロックサイズ4の場合、以下のパターンが考えられます。
「AABB」「ABAB」「ABBA」「BBAA」「BABA」「BAAB」

このブロック自体はランダムに割り付ければ良いのですが、人数が90名になってしまうと、どんなふうに並べようと最後のブロックサイズが2にならざるを得ませんよね
88名割り付けるまではブロックサイズ4だとできるのですが、どうしても2名余るのでブロックサイズを2に変えなくてはならなくなります。

もちろんよくある研究手法として、ブロックサイズをランダムに設定するという「置換ブロック法」もあります。
しかし、本問ではそのような前提に立っておらず、一定のブロックサイズでやっていくことを踏まえた内容になっていますので、その論理を採用することは不適切でしょう

以上より、選択肢③は誤りと判断できます。

『④割り付けでA群が5回続いた場合、乱数による割り付け結果にかかわらずB群にする』

これはどういう状況を指しているかをまず理解しておくことです。
すでに述べたようにブロックサイズ6の場合、以下のパターンが考えられるわけです。
「AAABBB」「AABABB」「AABBAB」「AABBBA」「ABAABB」「ABABAB」「ABABBA」「ABBABA」「ABBBAA」「ABBAAB」「BAAABB」「BAABAB」「BAABBA」「BABABA」「BABBAA」「BABAAB」「BBABAA」「BBBAAA」「BBAABA」「BBAAAB」

これらをランダム(乱数による割り付け)に並べていけば、本問で言えば16ブロックを並べれば84名という実験参加者を割り付けることができるわけですね。
そしてその組み合わせによって、上記の下線部の組み合わせになったと仮定しましょう。
すると「BBBAAAAAABBB」というA群が6回続く割り付けになります

これは「BBBAAA」「AAABBB」という2つのブロックがくっついて割り付けられた結果でたまたま生じたものであって、この割り付け通りに行うことで実験参加者が均等に割り付けられることになります
よって、選択肢の「乱数による割り付け結果にかかわらずB群にする」というやり方は、置換ブロック法の利点を崩すやり方であり、せっかくの均等割り付けがなされなくなってしまいます

よって、選択肢④は誤りと判断できます。

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