公認心理師 2021-20

職場復帰支援に関する基本的な内容について問うた問題です。

過去問と被っている箇所も多いので、比較的解きやすかったと思います。

問20 職場復帰支援について、最も適切なものを1つ選べ。
① 産業医と主治医は、同一人物が望ましい。
② 模擬出勤や通勤訓練は、正式な職場復帰決定前に開始する。
③ 傷病手当金については、職場復帰の見通しが立つまで説明しない。
④ 職場復帰は、以前とは異なる部署に配置転換させることが原則である。
⑤ 産業保健スタッフと主治医の連携においては、当該労働者の同意は不要である。

解答のポイント

心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き~メンタルヘルス対策における職場復帰支援~」の基本的な内容を把握している。

選択肢の解説

① 産業医と主治医は、同一人物が望ましい。
⑤ 産業保健スタッフと主治医の連携においては、当該労働者の同意は不要である。

手引きの「職場復帰の各ステップ 第2ステップ 主治医による職場復帰可能の判断」では、以下のような記載が見られます。

「休業中の労働者から事業者に対し、職場復帰の意思が伝えられると、事業者は労働者に対して主治医による職場復帰が可能という判断が記された診断書の提出を求めます。診断書には就業上の配慮に関する主治医の具体的な意見を記入してもらうようにします。主治医による診断は、日常生活における病状の回復程度によって職場復帰の可能性を判断していることが多く、必ずしも職場で求められる業務遂行能力まで回復しているとの判断とは限りません。このため、主治医の判断と職場で必要とされる業務遂行能力の内容等について、産業医等が精査した上で採るべき対応を判断し、意見を述べることが重要です

これらからもわかる通り、主治医と産業医とは別の視点から意見を述べることが前提となっています。

主治医の役割は上記の通りですが、産業医の役割としては「専門的な立場から、管理監督者及び人事労務管理スタッフへの助言及び指導」「主治医との連携における中心的役割」「就業上の配慮に関する事業者への意見」などとなっております。

すなわち、産業医は労働者だけでなく、管理監督者をはじめとした事業者側とのやり取りも多くなる立場と言えます。

もちろん、労働者を診察するうえでは産業医もきちんと当人の状態を診るわけですが、やはり「就業可能であるか?」という視点を持ちつつ関わることになるのは否めませんし、それが役割でもあります。

ですから、そうしたある種の方向性なしに労働者を診るということがしやすい主治医の存在は、労働者・事業者・産業医にとっても重要になります。

具体的には、産業医とのやり取りでは回復してきているように見えても、主治医からみるとそうでもない場合があり、労働者が復帰を焦る気持ちがそうした見せ方の違いを生じさせている可能性を考えるきっかけになるでしょう(その場合は、焦りとどのように関わっていくかが大切になりますね)。

こうした立場の違いを加味した支援は、職場復帰場面に限らず、あらゆる臨床現場で体験することになるはずです。

カウンセラーであっても、外部のカウンセラーかその組織内のカウンセラーかによってクライエントの心持は違うでしょうし、クライエントと組織との関係性によっては、それぞれのカウンセラーができることが異なってきますね。

カウンセラーがある特定の狭い組織に居続けることのデメリットは、こうした視点への理解が不足していくことが挙げられるかもしれません(もちろん、メリットもあるのですが)。

なお、こうした主治医との連携にあたっては、当該労働者の同意を得ることが手引きに示されております。

主治医との連携にあたっては、事前に当該労働者への説明と同意を得ておきます。主治医に対して、職場復帰支援に関する事業場の制度、労働者本人に求められる業務の状況等について十分な説明を行うことも必要です。主治医と情報交換を行う場合、労働者本人の職場復帰を支援する立場を基本とし、その情報は職場で配慮すべき事項を中心に必要最小限とします。主治医に情報提供を依頼する場合等の費用負担については、あらかじめ主治医との間で取り決めておきましょう」

このように、同意を取ることが求められていますね。

以上より、産業医と主治医にはそれぞれの役割の違いがあることが示唆されており、かつ、主治医との連携には当該労働者の同意が必要になってきます。

よって、選択肢①および選択肢⑤は不適切と判断できます。

② 模擬出勤や通勤訓練は、正式な職場復帰決定前に開始する。

こちらは「試し出勤制度」に関する記載の中に記述があります。

正式な職場復帰決定の前に、社内制度として試し出勤制度等を設けると、より早い段階で職場復帰の試みを開始することができます。休業していた労働者の不安を和らげ、労働者自身が職場の状況を確認しながら、復帰の準備を行うことができます」

なお、上記の試し出勤制度の例としては以下のようなものが挙げられております。

  1. 模擬出勤:勤務時間と同様の時間帯にデイケアなどで模擬的な軽作業を行ったり、図書館などで時間を過ごす。
  2. 通勤訓練:自宅から勤務職場の近くまで通勤経路で移動し、職場付近で一定時間過ごした後に帰宅する。
  3. 試し出勤:職場復帰の判断等を目的として、本来の職場などに試験的に一定期間継続して出勤する。

これらを「正式な職場復帰決定前に開始する」ことが正しい手順と言えますね。

模擬出勤や通勤訓練を「正式な職場復帰決定前に開始する」理由については、言うまでもありあませんね。

それらの試し出勤の在り様という情報は、職場復帰を決定するための重要な情報になり得ますし、復帰後の労働者の姿を想定するのにも役立つことでしょう。

逆に「正式な職場復帰決定後に開始」してしまえば、試し出勤の状態を見て場合によっては決定を取り消すという形になりかねません。

そうした「明らかな後退」と思えるような事態は、労働者の状態を考えれば避けたいのが自然でしょう(もちろん、決定後にやはり出勤が難しいという事例もあるでしょうが、あらかじめ想定できるリスクは回避しておくべきということです)。

以上のように、模擬出勤や通勤訓練は、正式な職場復帰決定前に開始するのが定石と言えます。

よって、選択肢②が適切と判断できます。

③ 傷病手当金については、職場復帰の見通しが立つまで説明しない。

ほぼ同じ内容が「公認心理師 2020-143」でも示されていますね。

こちらは「職場復帰支援の各ステップ 第1ステップ 病気休業開始及び休業中のケア」の中に示されています。

「休業する労働者に対しては、必要な事務手続きや職場復帰支援の手順を説明します。労働者が病気休業期間中に安心して療養に専念できるよう、次のような項目については情報提供等の支援を行いましょう

とあり、その中に「傷病手当金などの経済的な保障」「不安、悩みの相談先の紹介」「公的または民間の職場復帰支援サービス」「休業の最長(保障)期間等」などが含まれていますね。

常識的な観点から言っても、傷病手当金の制度や手続などの経済的な保障に関しては、休業の手続きと同時に行うべきであり、それが無くては労働者が病気休業期間中に安心して療養に専念することができませんね。

海外と違って、日本ではカネの話を大っぴらにしづらいという感覚がありますし、それ自体は仕方のないことです。

だからこそ、事業者側の人間は、労働者から切り出しにくい話を積極的に、当然の権利であるという隠喩を込めて伝えていくことが、実は大きな支援になると理解しておきましょう。

以上より、傷病手当金については、休業に入る段階で労働者に伝えるべき事項であると言えます。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④ 職場復帰は、以前とは異なる部署に配置転換させることが原則である。

こちらについては、職場復帰が可能と判断された後の「職場復帰支援プランの作成」のときに検討される事項として挙げられています。

具体的に決める事項は以下の通りとなります。


以下の項目について検討し、職場復帰支援プランを作成します。
(ア)職場復帰日
(イ)管理監督者による就業上の配慮

業務サポートの内容や方法、業務内容や業務量の変更、段階的な就業上の配慮、治療上必
要な配慮など
(ウ)人事労務管理上の対応等
 配置転換や異動の必要性、勤務制度変更の可否及び必要性
(エ)産業医等による医学的見地からみた意見
 安全配慮義務に関する助言、職場復帰支援に関する意見
(オ)フォローアップ
 管理監督者や産業保健スタッフ等によるフォローアップの方法、就業制限等の見直しを
行うタイミング、全ての就業上の配慮や医学的観察が不要となる時期についての見通し
(カ)その他
 労働者が自ら責任を持って行うべき事項、試し出勤制度の利用、事業場外資源の利用


なお、こうした配置転換の検討については、人事労務管理スタッフが中心となって行われることになります。

職場復帰は元の慣れた職場へ復帰させることが原則です。

これは、たとえより好ましい職場への配置転換や異動であったとしても、新しい環境への適応にはやはりある程度の時間と心理的負担を要するためであり、そこで生じた負担が疾患の再燃・再発に結びつく可能性が指摘されているからです。

これらのことから、職場復帰に関しては「まずは元の職場への復帰」を原則とし、今後配置転換や異動が必要と思われる事例においても、まずは元の慣れた職場で、ある程度のペースがつかめるまで業務負担を軽減しながら経過を観察し、その上で配置転換や異動を考慮した方がよい場合が多いと言えます。

ただし、これはあくまでも原則であり、異動等を誘因として発症したケースにおいては、現在の新しい職場にうまく適応できなかった結果である可能性が高いため、適応できていた以前の職場に戻すか、又は他の適応可能と思われる職場への異動を積極的に考慮した方がよい場合があります。

以上より、職場復帰は原則、元々の職場でなされるのが原則と言えます。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

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