人事考課において事業者が労働者を評価する指標に関する問題…と思いきや、ほぼストレスチェックに関する知識の問題です。
比較的解きやすいですが、人事考課に詳しい人だと迷うような選択肢も設定されていますね。
問46 昇進や配置などの人的資源管理で行われる人事考課において、事業者が労働者を評価する指標として、誤っているものを1つ選べ。
① 業績
② 態度
③ 能力
④ パーソナリティ
⑤ ストレスチェックの結果
解答のポイント
労働安全衛生規則に定められたストレスチェックに関する事項を把握している。
選択肢の解説
① 業績
② 態度
③ 能力
④ パーソナリティ
人事考課において、何を以て評価を行うかに関してですが、まずは厚生労働省が示している人事考課表を参照にしてみましょう。
本問は「事業者が労働者を評価する指標」ですから、社員用の表から基準を抜粋していきます。
考課項目は「態度考課」「能力考課」「成績考課」に分かれており、それぞれの評価項目は以下の通りです。
【態度考課】
規律性:
・就業規則など、会社の諸規則・規定をよく守ったか
・上司の指示命令、方針を遵守しているか
・勤務中の態度は良好か、
協調性:
・組織全体の立場に立ち、上司、同僚との人間関係、各部署間とのつながりを良く理解しているか
・マイペースで仕事を進めていないか
積極性:
・仕事の改善工夫、提案を意欲的に行ったか
・仕事の質的向上、量的拡大に意欲的に取り組んだか
・常に新しい知識、情報を吸収し、仕事に活かそうとしたか
責任性:
・仕事上の報告、連絡、相談は迅速正確に行っているか
・仕事上のミスを他人に転嫁し、責任回避することはなかったか
・与えられた仕事に対する責任感が感じられるか
【能力考課】
知識・技能:
・職務を遂行する上で必要な専門的知識は充分か
・関連する部門についてもある程度の知識を習得しているか
理解力:
・上司の方針、仕事の目的、自己の役割を理解下上で、適合する手段・方法を選択できるか
・理解不十分で仕事のミスを犯す事はないか
表現力:
・思いや考えを相手に的確に説明し、説得することが可能か
・一方的にならずに相手の主張も充分傾聴し、相手の立場や考えを把握した上で、目的に対して協力を得られるようできるか
判断力:
・その場の状況や仕事の内容に応じて的確な判断ができるか。
・優先順位をつけて、判断の遅れや早すぎを回避できるか
【成績考課】
業務の遂行度:
・与えられた仕事量を迅速かつ正確に能率よく処理できるか
・必要に応じて、情報収集・調査・状況の把握ができていたか
業務の質:
・仕事の内容は正確で、ミスを犯す事はなかったか
上記の内容は、本問の選択肢①業績=成績考課、選択肢②態度=態度考課、選択肢③能力=能力考課に該当すると言えますね。
最近は、態度・能力評価の替わりにコンピテンシー評価を取り入れる企業も増えてきましたが、コンピテンシーは態度・能力と深く関連がありますので、基本的に中心となっているのはこの3つと言えるでしょう。
上記と重なるところは多いですが、一般的な人事考課の内容についても見ていきましょう。
人事考課は「業績考課」「能力考課」「情意考課」の3つの基準で評価するのが基本です。
3つの基準のバランスを保ちつつ、「営業等事業部門の社員は業績考課を重視」「管理部門の社員は能力考課を重視」「若手社員は情意考課を重視」など職務内容により考課基準の重視ポイントを変えることで適正な考課が可能になります。
具体的な考課基準の概要は次の通りです(こちらのサイトの内容がわかりやすかったので引用します)。
【業績考課】
業績評価は、期待される役割・仕事レベルに対してどれだけの実績を示したかを評価します。具体的な項目としては、仕事の量、仕事の質、売上高、利益、生産高、コスト削減額等が挙げられます。また、これらを含めて、目標管理上の目標達成度を、業績評価の項目に設定する企業も多いです。
業績評価は、具体例を見てわかるとおり、一定期間の仕事の結果を評価するものです。よい結果を出すには、能力があり、努力をし、外的な条件に恵まれることが必要ですが、業績評価にあたっては、通常、このような諸要素は考慮せず、あくまで残された実績のみで評価することになります。
業績評価はこのように結果の評価ですので、一定の数値を基準に評価することが多くなります。その方が客観的で評価しやすいからです。ただ、管理部門など、数値化しづらい部門もたくさんありますので、定性的な基準も用いられます。
【能力考課】
能力評価は、担当職務を遂行するにあたって必要な能力をどれだけ有しているかを評価します。具体的には、知識・技術、理解力、判断力、企画力、指導力、交渉力等です。
能力には、仕事で顕在化した「発揮能力」と、顕在化したかどうかはともかく社員が持っている「保有能力」とがあります。保有していない能力が発揮されるとは考えられませんので、発揮能力は保有能力の一部分ということになります。保有はしていても、担当業務で使う場面がなかったり、使う意欲が不足していて、発揮されない能力もあるわけです。かつては、能力評価といえば、そのような保有能力も評価対象としていましたが、最近は、発揮能力のみを評価対象とすることが多いようです。その背景としては、かつての評価が、保有能力という目に見えないものを評価するのは困難なため、結局、年功的なあたりさわりのない評価に流れてしまったことや、社員へのフィードバックが行われるようになり、事実に即した説得力のある評価が必要となったことが考えられます。
能力評価の能力は、習得能力と習熟能力とに分けることもできます。習得能力とは、担当職務に関する知識や技能のことで、仕事を通じてだけでなく、仕事外の学習や練習によって高められる能力です。具体例は、専門知識や技術等です。習熟能力は、職務経験を通じて高められる能力で、具体例としては理解力、判断力、企画力等です。
【情意考課】
情意評価は、業績を上げるためにどのような態度や姿勢で仕事に取り組んだかを評価します。具体的には、責任性、積極性、協調性、規律性等です。ときどき、情意評価イコール人格評価とする文献を見かけますが、これには賛同しかねます。確かに、人格の一部分を評価する側面がないともいえませんが、そのように大げさに考えるのではなく、あくまで仕事に対する取り組み姿勢のことと限定的にとらえる必要があります。ただ、情意評価の項目は、性格や性質と関わってくる部分が多いのは確かです。性格はなかなか変えられないといわれるように、能力に比べて伸長しにくいのも事実です。採用段階で企業が求める情意を備えた人を見極めることや、社員の情意に合った職務を割り当てることなども大切です。
ポイントなのが、情意考課をパーソナリティと捉えるか否かです。
上記にもあるように「情意考課=人格評価ではない」とされており、人事考課は「性格、人柄、人格、性別、年齢、容姿、適性、潜在能力など」を評価するものではありません。
そうしたパーソナリティを含めた諸要因の影響を受けて実際に現れた「仕事上の行動と結果」を評価するものであると考えておきましょう。
このように、従来の人事考課では選択肢④の「パーソナリティ」に関しては怪しい選択肢ということになります。
そこで近年取り入れられている「コンピテンシー評価:仕事で優れた成果を上げる人に共通する行動特性をモデル化し、仕事の場における行動を評価する方法」を踏まえて考えてみましょう。
あくまでも行動特性ということになりますが、パーソナリティとも関連することも多く、例えば、ヴァイタリティ(活動性、競争性)、人あたり(社会性、面倒み)、チームワーク(社会性、協議性)、創造的思考力(創造性、概念性)、問題解決力(データへの関心、概念性)、状況適応力(社会性、人間への関心)、プレッシャーへの耐力(余裕、タフさ)、オーガナイズ能力(先見性、緻密さ)、統率力(指導性、協議性)などがあります。
これらを踏まえれば、あくまでも「仕事と関連のある範囲でのパーソナリティ」については、人事考課でも評価していくということになりますね。
上記を踏まえると、選択肢①、選択肢②、選択肢③および選択肢④は、人事考課において事業者が労働者を評価する指標として正しいものであると判断できます。
⑤ ストレスチェックの結果
本問においては、この選択肢を見たときに真っ先に選択できることが求められています。
ストレスチェックは労働安全衛生法(労働安全衛生法第66条の10)を根拠とするものですが、ストレスチェックの個人結果は、本人の同意なくして上司見られることはありません。
ストレスチェックの個人結果は、検査を実施した医師、保健師等の実施者から直接本人に通知され、本人の同意なく企業側に提供することは禁止されています。
そして、労働安全衛生規則には以下のような条項が定められています。
(心理的な負担の程度を把握するための検査の実施方法)
第五十二条の九 事業者は、常時使用する労働者に対し、一年以内ごとに一回、定期に、次に掲げる事項について法第六十六条の十第一項に規定する心理的な負担の程度を把握するための検査(以下この節において「検査」という。)を行わなければならない。
一 職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目
二 当該労働者の心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目
三 職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目
(検査の実施者等)
第五十二条の十 法第六十六条の十第一項の厚生労働省令で定める者は、次に掲げる者(以下この節において「医師等」という。)とする。
一 医師
二 保健師
三 検査を行うために必要な知識についての研修であつて厚生労働大臣が定めるものを修了した歯科医師、看護師、精神保健福祉士又は公認心理師
2 検査を受ける労働者について解雇、昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者は、検査の実施の事務に従事してはならない。
最初の条項はストレスチェック自体の中身に関するものですが、後半の条項では人事権を持つ人がストレスチェックの事務に従事してはならないことが明記されていますね(ちなみに、労働安全衛生法において実施者は、「医師」「保健師」または、厚生労働大臣が定める研修を修了した「看護師」「精神保健福祉士」「公認心理師」と定められています)。
ストレスチェックの実施事務に人事権を持つ者は携わることができないのは、ストレスチェック結果が受検者の意に反して人事上の不利益な取扱いに利用されることがないようにするためです。
ストレスチェックの目的は、従業員のメンタルヘルス不調の未然防止(一次予防)であり、実施にあたっては全ての段階において、受検者にとって不利益な取扱いは禁じられています。
このことから、人事考課において事業者が労働者を評価する指標としてストレスチェックの結果を採用するのは法令に違反していると言えます。
よって、選択肢⑤が誤っていると判断できます。