精神障害の労災認定に関する問題です。
初出の内容になっているので、ざっと全体をさらっておきましょう。
問45 精神障害の労災認定において、認定の対象となる精神障害として、誤っているものを1つ選べ。
① 気分障害
② 適応障害
③ 統合失調症
④ 身体表現性障害
⑤ アルコールや薬物による障害
解答のポイント
精神障害の労災認定基準について把握している。
選択肢の解説
① 気分障害
② 適応障害
③ 統合失調症
④ 身体表現性障害
⑤ アルコールや薬物による障害
本問に関しては、厚生労働省からパンフレット「精神障害の労災認定(令和2年9月改訂)」が公表されています(令和2年10月23日公表)。
こちらの内容を引用しつつ解説していきましょう。
まず精神障害の労災認定要件についてです。
- 認定基準の対象となる精神障害を発病していること。
- 認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること。
- 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと。
「強い心理的負荷」とは、業務による具体的な出来事があり、その出来事とその後の状況が、労働者に強い心理的負荷を与えたか否かということです。
心理的負荷の強度については、主観的なものではなく、同種の労働者(職種、職場における立場や職責、年齢、経験などが類似する人)が一般的にどう受け止めるかという観点から評価します。
本問で問われているのは「1.認定基準の対象となる精神障害を発病していること」という基準についてです。
認定基準の対象となる精神障害は、ICD-10第Ⅴ章「精神および行動の障害」に分類される精神障害であって、認知症や頭部外傷などによる障害(F0)およびアルコールや薬物による障害(F1)は除きます(ICD-10の分類は以下の通り)。
F0 症状性を含む器質性精神障害(アルツハイマー病の認知症など)
F1 精神作用物質使用による精神および行動の障害
F2 統合失調症 統合失調症型障害および妄想性障害
F3 気分[感情]障害
F4 神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害
F5 生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群
F6 成人のパーソナリティおよび行動の障害
F7 精神遅滞〔知的障害〕
F8 心理的発達の障害
F9 小児期および青年期に通常発症する行動および情緒の障害、特定不能の精神障害
業務に関連して発病する可能性のある精神障害の代表的なものは、うつ病(F3)や急性ストレス反応(F4)とされています。
それ以外にも「認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること」「業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと」などに関する基準も細かく設けられています。
ここでは簡単に重要そうなところを述べていきます。
業務による心理的負荷を「強」「中」「弱」の三段階に分類し、 「強」と認められる場合に労災として認定されます。
特に発症前の約6ヶ月の間に、以下のような「特別な出来事」があった場合は、心理的負荷が「強」であったと認定されます。
具体的出来事の例【強】
・ 会社の経営に影響するなどの重大な仕事上のミスをし、事後対応にも当たった
・ 過去に経験したことがない仕事内容に変更となり、常時緊張を強いられる状態となった
・ 発病直前の連続した3ヶ月間に、1月当たりおおむね100時間以上の時間外労働を行った。
具体的出来事の例【中】
・ 配置転換/転勤があった
・ 複数名で担当していた業務を1人で担当するようになった
・ 上司/同僚/部下とのトラブルがあった
複数の原因がある場合は、「中」+「中」=「強」または「中」など、出来事の内容や数を総合的に判断して強度が判定されます。
業務以外の要因については、「業務以外の心理負荷評価表」を用いてⅠ~Ⅲまでの3段階に分類し、発症と関連しているか判断します。
ちなみに、令和3年度の認定率は32.2%となっており、精神障害による労災認定の厳しい状況が伺えます。
例えば、仕事によるストレスが強いケースでも、同時に私生活の面で家族と揉め事を抱えている、借金問題で心身に負担を抱えている、過去に発症した病気やアルコール依存症などを抱えているなどの場合、私生活のストレスが原因で発症した可能性も否定できなくなります。
精神障害発病が仕事によるものなのか、医学の面からも慎重な判断が求められ、こうしたケースにおける判定が難しい点も労災認定を厳しくしているといえます。
業務外での心理的負荷について、次のような例が挙げられます。
- 配偶者と不和が続き、別居または離婚した
- 親や友人が亡くなった
- プライベートで交通事故に遭った
- 親族間で相続問題が発生し、揉めている
- 水害や地震などの天災に見舞われた
- 借金問題を抱え、つねに返済で苦しんでいた
続いて、個体要因による発病については、次のような例が挙げられます
- アルコール依存症や薬物依存がないか
- 過去の精神疾患の既往歴
- 発達障害の有無
これらは一例に過ぎませんが、こうしたストレス要因や個体要因が業務外で発生していた場合、仕事が原因による発症と判断することが難しくなり、慎重な判断を受けることになります。
以上です。
本問で問われているのは、労災認定対象となる精神障害についてですね。
この中に認知症や頭部外傷などによる障害(F0)およびアルコールや薬物による障害(F1)は除かれることになっています。
アルコール依存などは「個人の問題」として扱われているということになりますね。
よって、選択肢①、選択肢②、選択肢③および選択肢④は労災認定の対象となる精神障害として正しいと判断でき、選択肢⑤は誤りと判断できます。