公認心理師 2022-73

キャリアカウンセリングの領域で用いられる概念に関する問題です。

正直、キャリアカウンセリング関連の概念に関しては不勉強ですし、あまり資料も持っていないので四苦八苦しながら解説しました。

キャリアカウンセリングに関する重厚な辞書などを一つ持っていると良いだろうなぁと思いますが、解説のために辞書を買うのもな…という感じです。

問73 21歳の女性A、理工系の大学3年生。中学校の理科教科の教師を目指し、専門科目に加えて教員免許取得に関する科目も履修している。しかし、最近アルバイトなどの経験を通して、他者と交流する活動や人に教えることへの興味が低いことに気が付いたため、大学卒業後の職業選択に迷っている。同じ学科の友人や先輩たちと進路について話し合いをするうちに、人と関わる教育などの活動よりも道具や機械を操作する活動に興味が強いことにも気が付いた。そこで、将来の進路として技術職に就くことを考えるようになった。
 Aの興味や適性と考え直した進路との関係を説明する理論として、最も適切なものを1つ選べ。
① D. E. Superのライフ・キャリア・レインボー
② E. H. Scheinの3つのサイクル
③ J. D. Krumboltzの計画された偶発性
④ J. L. Hollandの六角形モデル
⑤ N. K. Schlossbergのトランジション

関連する過去問

公認心理師 2019-99

解答のポイント

キャリアカウンセリングの主要な概念を把握している。

選択肢の解説

④ J. L. Hollandの六角形モデル

ホランドの職業選択理論の基本的前提となるのは、自分の職業の好みというものが、ある意味で根底にある性格のベールに包まれた表現であるということでした。

こうした前提のもと、ホランドはパーソナリティ(個人の職業興味)と環境(職場の環境)のタイプを6つに分類し、個人と職場のマッチングをはかる六角形モデルを提唱しました。

このモデルは、世界で最も権威のある職業興味検査やアメリカ労働省の職務分析に活用されています。

また、主に大学生を対象とした進路選択支援ツールであるVPI職業興味検査のベースとなっています。

ホランドはもともと、彼の6つのタイプを「運動性、知性、審美性、支持性、説得性、適合性」と分類していましたが、彼は後でそれらを発展させ変えていき、以下の6つのタイプに行き着きました。

  1. 現実的タイプ(Realistic):「モノ」を扱うことが好きな人たち。その人達は「自己主張が強く、競争心が強く、協調運動や技術、体力を必要とする活動に興味がある」傾向が見られる。問題解決にあたっては「それについて話したり、座ってそれについて考えるよりも、何かをすることによって」アプローチを行う。また、「抽象的な理論よりも、問題解決への具体的なアプローチ」を好むとされる。そして、その人達の興味は「文化的、美的な分野よりもむしろ科学的、機械的な分野」に焦点を当てる傾向がある。
  2. 研究的タイプ(Investigative):「データ」を使って仕事をすることを好む人たち。その人達は「行動するよりも考えて観察し、説得するよりも情報を整理して理解する」ことを好む。また、「人を中心とした活動よりも個人を中心とした活動」を好む傾向がある。数学、物理、生物などに興味があり、好奇心が強く学者肌。物事の分析、意見を明確に表明する。
  3. 芸術的タイプ(Artistic):「アイデアやモノ」を扱うのが好きな人たち。その人達は「創造的、オープン、創意工夫、独創的、知覚的、敏感、独立、感情的」な傾向が見られる。また、「構造やルール」に反発する傾向があるが、「人や物理的なスキルを伴うタスク」を楽しむ傾向がある。そして他のタイプよりも感情的になる傾向が見られる。創造的な職業を好む。
  4. 社会的タイプ(Social):「人」と一緒に仕事をすることが好きで、「教えたり助けたりする場面では、自分のニーズを満たしているように見える」人たちである。また、「人との親密な関係を求めることに惹かれ、本当に知的な人たちで身体的なことを望む傾向が少ない」傾向が見られる。社会的な活動にも積極的。
  5. 企業的タイプ(Enterprising):「人とデータ」を扱う仕事が好きな人たち。その人達は「話し上手で、自身のスキルを使って人をリードしたり、説得したりする」傾向が見られる。また、「評判、権力、お金、ステータスを重視する」傾向にある。リーダーシップを取り、目標達成を好む。説得を得意とし、野心的な活動を好む。
  6. 慣習タイプ(Conventional):「データ」を扱う仕事を好み、ルールや規則を好み、自制心を重視する人。構造や秩序を好み、構造化されていない、あるいは不明確な仕事や対人関係を嫌う人たちである。また、評判、権力、ステータスに価値を置いている。責任感があり、緻密な活動を好む。

ホランドの6つのカテゴリーは、お互いにある程度の相関関係を示しており、相関性の高い領域を結ぶ円で表現すると、領域の頭文字がR-I-A-S-E-Cと等しくなることから、RIASECモデルや六角形モデルと呼ばれているわけです。

こうした個人のパーソナリティ(性格)と、職業(働く環境)の特徴をかけ合わせて考えることで、職業選択のための適切なマッチングを実現することが六角形モデルの目的と言えます。

この6つのタイプから、個人の興味の強さに応じて3つのタイプを選び出します。

これをスリーレターコードと呼び、六角形モデルの6つの分類の中から3つを使ってパーソナリティを表現したものになります。

スリーレターコードの結果を解釈するのに一貫性と分化という観点が使われます。

  • 一貫性:六角形モデルが有効かどうかを示しています。例えば、六角形モデルを図で示した場合に隣接した3つのタイプ(スリーレターコード)が上位にくると一貫性がある、対角線上にくると一貫性がないことを表します。
    もしもスリーレターコードが対角線上にきていた場合は、その人が職業選択以外にも悩みを抱えており、自身の純粋な職業興味を選択できていない可能性を示している。
  • 分化:検査を受けた人のパーソナリティの発達度を示しています。例えば、ホランドの6つのパーソナリティのうち、特定のタイプの数値が高く、他のタイプの数値が低い状態を分化していることを表します。逆に、全てのタイプのパーソナリティの値が高い、もしくは低いと分化していない=未分化ということになります。この場合、経験や学習が足りないということになるため、様々な活動を行っていく必要があります。

本問では、これらの観点を使って解説していくとわかりやすいと思います。

事例の職業選択の変遷をたどってみましょう。

  1. 中学校の理科教師を目指していた。
  2. 他者と交流する活動や人に教えることへの興味が低いことに気づく。
  3. 道具や機械を操作する活動に興味が強いことに気づき、技術職に就くことを考える。

このように見てみると、Aは当初は中学校教師という「社会的興味」に片寄っていましたが、対人交流への興味の低さに気づき、「現実的興味」に該当する道具や機械を操作する活動への興味があることが示されました。

「社会的興味」と「現実的興味」は対極に位置していることから、Aが職業選択以外にも悩みを抱えており、自身の純粋な職業興味を選択できていない可能性が示唆されています。

少なくとも、Aの興味関心やそれに基づく進路選択には一貫性がなく、それなりに時間をかけつつ進路選択をした方がよさそうな印象を受けますし、少なくとも焦って進路を決めない方が良いだろうと考えられますね(心のテーマが想定される場合には、現実的な決断を保留するのが心理療法のセオリーです。保留するということ自体が重要な決断になってしまう恐れもあるわけですが)。

以上のように、本事例の興味や適正と考え直した進路は、ホランドの六角形モデルと重ねて考えると理解しやすいことがわかりますね。

よって、選択肢④が適切と判断できます。

① D. E. Superのライフ・キャリア・レインボー

ライフ・キャリア・レインボーはSuperによって考え出されたもので、古典的なキャリア理論とされています。

「キャリア」は、特に職業についての実績や経験について指す場合が多いものですが、彼は、キャリアを職業に限定せず、人生における様々な役割のことであるとしました。

人間は、こうしたさまざまなキャリアを虹のように積み重ね、TPOによってそれぞれのキャリアを使い分けながら暮らしているという考え方がライフ・キャリア・レインボーです。

スーパーは、人が人生の様々な時期に果たす役割(ライフロール)の組み合わせこそが「キャリア」であると考えたわけですね。

ライフ・キャリア・レインボー理論では、「キャリアは一生発展し続ける」という理念のもと、このライフキャリアを年齢・役割(ライフロール)・場面(ライフステージ)の組み合わせであると考えます。

人は生涯にわたり、社会生活や家族の中において、経験や役割を積み重ねてゆきます。

そうすることで、人のキャリアは形成されてゆくという考え方です。

この理論で示されている5つのライフステージは以下の通りです。

  1. 成長段階(0-15歳):
    学校生活や家庭における家族との相互関係において、自分自身を形成し知る期間。また、これから迎える「仕事」に対しての関心や積極性を高める時期。
  2. 探索段階(16-25歳):
    引き続き学校生活・家庭生活・そして仕事において、その経験を元にトライ&エラーを繰り返し成長する時期。また、生涯の仕事を模索する時期でもある。
  3. 確立段階(26-45歳):
    生涯の仕事について模索するが、やがてキャリアビジョンが明確となり、その仕事においての専門性を高める時期。
  4. 維持段階(46-65歳):
    これまでに得た経験や地位を守る時期。時には、保守的になる場合もある。
  5. 下降段階(65歳以上):
    仕事をはじめとする活動を、精神的・肉体的な衰えから引退する時期。また、退職後に新しい役割を得るなどして、「セカンドライフ」を謳歌する時期。

これに8種類のライフロール(子ども、学生、職業人、配偶者、家庭人、親、余暇人、市民)が組み合わされるということになります。

人によって、これらの役割全部を経験する人、一部分を経験する人、これ以外の役割を経験する人など様々です。

これらの組み合わせにより、上のような図を描くことから「レインボー」と言われるわけです。

さて、他選択肢でも述べている通り、Aの興味や進路選択の変遷は以下の通りです。

  1. 中学校の理科教師を目指していた。
  2. 他者と交流する活動や人に教えることへの興味が低いことに気づく。
  3. 道具や機械を操作する活動に興味が強いことに気づき、技術職に就くことを考える。

こちらは上記にある「探索段階(16-25歳)」の在り様を示したもののように読み取れますが、そもそもライフ・キャリア・レインボーでは、5つのライフステージと8種類のライフロールを組み合わせてライフ・キャリアを形成していくという考え方ですね。

ですから、単にAのような特定の時期での進路選択について述べた理論ではないことがわかります。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

② E. H. Scheinの3つのサイクル

本選択肢のScheinは「公認心理師 2019-99」のキャリア・アンカーを提唱した人物として示していますね。

シャインは組織心理学という言葉の生みの親であり、組織におけるキャリア開発に焦点をあて、組織内キャリア発達理論を提唱しました。

MITの修了生を対象にインタビューによる縦断調査を行い、キャリア・アンカーの概念を抽出し、キャリアサイクルの段階と課題を示しました。

シャインのキャリア理論の基盤には以下の3つの考え方があります。

  1. 「組織と個人の相互作用の中で、個人がいかにキャリアを形成していくか」といった組織と個人の相互作用という視点から理論を構築している。
  2. キャリアを捉えるときには「外的キャリア」と「内的キャリア」の2つの軸から捉えることができるというキャリアの捉え方。
  3. 人が生きている領域には、「生物学的・社会的」「家族関係」「仕事・キャリア」の3つがあり、それらが相互に影響しあって、人は存在しているという考え方。

これらの理論の基本的な考え方を土台に、「キャリア・アンカー」「キャリア・サバイバル」「キャリア・コーン」「キャリア・サイクル」などの理論を展開されています。

本選択肢で示されているのは、上記の3に該当しますね。

シャインは、組織との関わりのみではなく、人が生きている領域を以下の3つのサイクルに分け、それぞれのサイクルに段階を設けました。

  1. 生物学的・社会的サイクル
  2. 家族関係におけるサイクル
  3. 仕事・キャリア形成におけるサイクル

1は年齢によるサイクルを指し、青年期とか中年期などの段階によるサイクルになります。

2は結婚や出産、子どもの成長によって生じるサイクル、3は就職や昇進、引退などのサイクルになりますね。

この3つのサイクルが相互に影響し合って存在しているとシャインは述べています。

ここでは、上記のサイクルのうちの一つである「キャリア・サイクル・モデル」を示します。

シャインは仕事・キャリアのサイクルにおいて、組織と個人のキャリアの関連性を踏まえ、
9つの発達段階とそれに応じた課題を整理しています。

  1. 成長・空想・探求(0~21歳):職業を選択するために、自分の価値観を見つけ、能力を開発するための教育を受け、体験を重ねる準備段階にあたる時期。
  2. 仕事世界へのエントリー(16~25歳):初めて組織に入り、職業に就く時期。組織における仕事の仕方を学びながら、自分の立ち位置・役割を見出そうとする。
  3. 基本訓練(16~25歳):実際に仕事に取組み、困難に直面しながらも乗り越えながら、徐々に組織メンバーとして定着していく。
  4. キャリア初期の正社員資格(17~30歳):責任のある仕事も徐々に任されるようになる。独立を求める自己と従属させようとする組織の葛藤が生じやすい時期でもある。
  5. キャリア中期の正社員資格(25歳以降):組織の中で明確な立場を確立していく時期。スペシャリストかジェネラリストかの方向性が決まる重要な時期でもある。
  6. キャリア中期危機(35~45歳):仕事を通じて、自分の価値観や能力をより明確に理解する時期。再認識した価値観を重視するか、現状に留まるかの葛藤が生じやすい時期でもある。
  7. キャリア後期(40歳~引退):十分な経験を積み、後輩育成など指導者的立場を担う時期。
    非指導者(非リーダー)と指導者(リーダー)に分かれる。2つに分かれるのは、組織内のキャリアが、マネジメント層となる方向と専門家となる方向に大きく分けることが出来るという考えを反映したものである。
    非リーダーとしてのキャリアの場合は、技術的に有能であり続けるか、あるいは経験に基づく知恵を用いることが求められる。
    リーダーとしてのキャリアの場合は、自分の能力や技術を組織の繁栄に役立て、部下の育成など、組織の将来展望に責任をはたすことを学ぶことになる。
  8. 衰え及び離脱(40歳~引退):能力のミスマッチや体力・影響力の衰えにより、組織から少しずつ距離を置き、引退の準備を考え始める時期。
  9. 引退:後進に道を譲るため引退をする時期。それに伴う様々な変化を受け入れ、新しい生き方を模索する時期。

加えてシャインは、各段階における発達課題を提示しており、それは、①就職活動、②リアリティショック、③組織社会化、④コアキャリア化、⑤中期キャリア危機、⑥キャリアトランジッション、⑦仕事世界からの退出などのキャリア上の重要なテーマが扱われています。

これらのテーマは、時に人生上の大きな問題となることもあり、キャリア発達を支援するためのキャリアカウンセリング、キャリア教育などが展開されています。

シャインは、こうした人のキャリアに影響を与えるものとして、仕事上の事柄だけではなく、結婚や出産などの家族関係や加齢などの生物学的・社会的要因も挙げていて、これら人が生きている3つの領域の影響を受けて、個人のキャリアが形成されると考えているわけですね。

さて、他選択肢でも述べている通り、Aの興味や進路選択の変遷は以下の通りです。

  1. 中学校の理科教師を目指していた。
  2. 他者と交流する活動や人に教えることへの興味が低いことに気づく。
  3. 道具や機械を操作する活動に興味が強いことに気づき、技術職に就くことを考える。

これらとシャインの「3つのサイクル」を重ねて考えても、合致しないことがわかると思います。

「3つのサイクル」とは、①生物学的・社会的サイクル、②家族関係におけるサイクル、③仕事・キャリア形成におけるサイクルが相互に影響し合って存在していると見なす考え方ですが、本事例においては、大学3年生という生物学的・社会的サイクルが示されているとは言えなくもなく、また、仕事・キャリア形成の時期で言えば「成長・空想・探求(0~21歳)」の時期に該当しており、「職業を選択するために、自分の価値観を見つけ、能力を開発するための教育を受け、体験を重ねる準備段階にあたる時期」という説明もAの状態に合致していると言えます。

しかし、「家族関係におけるサイクル」が明示されていない点、3つのサイクルの関係性が示されていない点を踏まえると、シャインの「3つのサイクル」がAの興味や適正と考え直した心理との関係を説明する理論になっているとは言えないと考えるのが妥当です。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③ J. D. Krumboltzの計画された偶発性

計画された偶発性理論とは、スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授らが提案したキャリア論であり、個人のキャリアの8割は予想しない偶発的なことによって決定され、その偶然を計画的に設計し、自分のキャリアを良いものにしていこうという考え方です。

計画的偶発性理論とも呼ばれています。

クランボルツは、バンデューラが指摘した「社会的学習理論」を組み入れながら「キャリア意思決定における社会的学習理論」としてキャリア論を発展させました。

「キャリア意思決定における社会的学習理論」では、以下の4つの要因が、キャリア選択に影響を与えるとしています。

  1. 遺伝的特性・特別な能力(Genetic endownment and special abilities)
    生まれ持った性格や才能。音楽やスポーツに「天賦の才」と呼べる優れた才能があれば、人は自然と「その道」を選びとるようになる。
  2. 環境的状況・環境的出来事(Environmental condition and events)
    「社会的な力(景気が悪化しリストラされた)」「政治的な力(リストラされたが国の雇用対策施策で転職できた)」「経済的な力(転職し給与が安定し、キャリアップのためにセミナーに自費参加できた)」からの影響を指す。
  3. 学習経験(Learning experience)
    過去に学習して得てきた要素がキャリア選択に影響を与える。「学習経験」は、「道具的学習(直接的経験による学習のこと)」と「連合的学習(主として「観察学習」(モデリングによる学習)のこと)」の2つがある。 
    例えば、親が伝統工芸の職人で、幼い頃から仕事場に出入りし、親の働く姿を見たり(観察学習:モデリング)、手伝ったり(直接的経験による学習)して、職人の道を目指すようになる、というもの。
  4. 課題接近スキル(Task approach)
    「課題接近スキル」は、ある仕事に就くことを目標とし、その目標達成に向けた意志の強さや課題に取り組む行動の度合い。「遺伝的特性」「環境的影響力」「学習経験」が相互に作用しあい「課題接近スキル」が形成される。
    例えば、親の血を引き継いで細かい手作業が得意な才能があり(遺伝的特性)、親の仕事場が自宅(環境的影響力)で、小さい頃から親の仕事を見たり手伝ったり(学習経験)があって、「親の仕事を継ぎたい」と意志が生まれて、工業系の高校、大学へと進学した、など。

こうした4つの要因で「過去のキャリア」を分析することはできますが、未来のキャリアを考えるために創案したのが「キャリア・カウンセリングにおける学習理論」になります。

働く人が自分のキャリアを選択しようとする時に、他者や組織や社会の状況など、自分以外の「社会的要因」が大きく影響しますが、「偶然」もその要因の一つと言えます。

そこでクランボルツは「キャリア・カウンセリングにおける学習理論」の核となる概念として「計画された偶発性:計画的偶発性理論」を示しました。

計画された偶発性理論における「キャリアが偶発的な出来事によって決まる」というのは、偶然の出来事によって、自身の現在や中長期的な未来が決まっていくという考え方です。

例えば、私はこのサイトで過去問の解説を周囲から偶々勧められて始めましたが(違うけど。例えばね)、このサイトを通じて知り合いが増えたり、仕事が来たりして、徐々に過去問の解説に関連する仕事が中心になって生計を立てられるようになりました(なってないけど。例えばですからね)。

この例のように、人のキャリアは偶然によって左右されるケースが非常に多く、「将来はこうなりたい」というなんとなくのビジョンを持っていても、実際にキャリアを決定づけていくのは、現在進行形で携わっている仕事であるほうが多かったりするのです。

計画された偶発性理論において、キャリアの8割を決める「偶発」的な出来事は、自ら計画的に行動することで呼び込めるとされており、そして偶発性が起こりやすい行動特性として以下の5つが挙げられています。

  • 好奇心(Curiosity):新しい学びの機会を模索する
  • 持続性(Persistence):たとえ失敗しても努力し続ける
  • 楽観性(Optimism):新しい機会は実行でき達成できるものと考える
  • 柔軟性(Flexibility):姿勢や状況を変えることを進んで取り入れる
  • 冒険心(Risk-taking):結果がどうなる分からない場合でも行動することを恐れない

例えば、知らない仕事もやってみたい(好奇心)、新しいことに挑戦してみよう(冒険心)、自分の担当以外の業務も引き受けるスタンスで働こう(柔軟性)などが重要になるということですね。

こうした行動特性を持っていると、キャリアを展開させる「偶然」に出会いやすいということになりますね。

この5つの行動特性、何となく実感にあっているような気がしています。

私は多くの人に「目の前にあることを、自分がやるべきことと思って取り組むように」と伝えることが多いのですが、そういうスタンスでいる方が「あれは俺とは関係ない」「お金ももらえないのに何でやらないといけないの」というよりもずっとその人の「何か」を引き出すような気がしています。

さて、他選択肢でも述べている通り、Aの興味や進路選択の変遷は以下の通りです。

  1. 中学校の理科教師を目指していた。
  2. 他者と交流する活動や人に教えることへの興味が低いことに気づく。
  3. 道具や機械を操作する活動に興味が強いことに気づき、技術職に就くことを考える。

Aの興味や進路選択の変遷は「計画された偶発性」の考え方、およびその理論で示されている5つの行動特性と絡んでいるようには見えません。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

⑤ N. K. Schlossbergのトランジション

シュロスバーグは、アメリカを代表するキャリアカウンセリングの理論家・実践家であり、トランジションを様々な人生上の出来事として捉え、トランジションへの対処方法として4Sシステムを構築しました。

シュロスバーグの考える発達段階とは、年齢による区別・認識だけではなく、その人に起こる出来事(転機)によって定義され(たとえば、ある人が30歳であろうが40歳であろうが、離婚や引退を控えているとすると、彼らの年齢よりもその出来事によって左右されることの方が重要と考えているということ)、その上で自分の身に起こったことをどのように捉えるのか、対処するのかを考えることで成長すると考えました。

本選択肢で示されている「トランジション」とは「転機」「転換点」「移行期」などを意味する言葉で、キャリアにおける転換期を指し、この転換期をどのように乗り越えるかによって、後に歩むキャリアに大きく影響を与えるとしています。

こうした転機の影響度については、①予期していた転機(結婚、転勤や昇進、子の誕生など)、②予期していなかった転機(事故、死、病気、失業など)、③正常な発達過程の通過点として生じる転機(子供の独立、加齢、退職など)、などの転機の種類によって異なり、これらの深刻さ、タイミング、コントロール、持続性が転機を評価する視点であるとしています。

また、本人の対処する能力の特徴(見通し、コントロール、対処スキル、過去経験)、支援システム(人、物的資源、公的機関や民間団体)の存在によって転機の影響度が決まるとしています。

シュロスバーグは「トランジション:転機」に直面すると、自分の役割(人生の役割がなくなったり変化したりする)、人間関係(大事な人との関係)、日常生活(物事をいつ、どのように行うかの変化)、自己概念(考え方)の1つもしくは2つ以上変化するとしています。

こうしたトランジションを乗り越えるために提唱されたのが「4Sシステム」であり、この4Sとはポイントとなる要素の「Situation (状況)」「Self(自己)」「Support(支援)」「Strategy(戦略)」それぞれの言葉の頭文字をとったものです。

  1. 状況:Situation
    原因:このような状況がおきた原因は何か。何を選択したことで生じたのか。
    予期:現在の状況は社会的に予測することが可能であったか。突然起こったことなのか。
    期間:一時的なことなのか、永続的なことなのか。
    体験:同じような転機を経験したことがあるか。その時の気持ちや状態はどうか。
    ストレス:現在の問題以外に抱えているストレスはあるのか。
    認知:状況をどの様に捉え、受け止めているか。好機なのか、危機なのか。
  2. 自己:Self
    仕事の重要性:仕事はどの程度重要か。どの部分(地位、給与等)に興味があるのか。
    仕事と他のバランス:仕事、家庭、趣味、地域のバランスをどう考えるか。
    変化への対応:変化への対応はどのようにするのか。立ち向かうのか、受容するのか。
    自信:自分に対する自信はあるか。新しいことに挑戦しようとしているか。
    人生の意義:人生にどのような意義を持っているか。
  3. 支援:Support
    良い人間関係:必要とする援助を他人、友人、家族から得られるか。
    励まし:自分の成功を期待し励ましてくれる人はいるか。
    情報:仕事を探す方法、企業や雇用に関する情報などを収集できるか。
    照会:解雇された時の経済的支援制度等に関する知識や情報の提供者はいるか。
    キーパーソン:重要な情報を提供してくれる人はいるか。その人からの支援は望めるか。
    実質的援助:経済的支援など実質的な援助を望めるか。
  4. 戦略:Strategies
    状況を変える対応:職探し、新たなトレーニングを受ける等を実行しているか。
    認知・意味を変える対応:転機の持つ意味をプラス思考に変えようと試みているか。
    ストレスを解消する対応:リラクゼーションや運動等でストレス解消を図っているか。

これら4Sを点検していくことでキャリア危機、キャリア転換を乗り越えることで、より良いキャリア形成に向かうことが可能になるとシュロスバーグは考えました。

さて、これらを踏まえて本選択肢を見ていきましょう。

他選択肢でも述べている通り、Aの興味や進路選択の変遷は以下の通りです。

  1. 中学校の理科教師を目指していた。
  2. 他者と交流する活動や人に教えることへの興味が低いことに気づく。
  3. 道具や機械を操作する活動に興味が強いことに気づき、技術職に就くことを考える。

こうしたAの興味や進路選択は、シュロスバーグのトランジション(転機)についての捉え方や、それを乗り越えるための4Sシステムとの関連は認められません。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です