公認心理師 2021-58

治療と仕事の両立支援に関する問題です。

厚生労働省から出ている資料をもとに作成された内容になっています。

問58 治療と仕事の両立支援について、適切なものを2つ選べ。
① 仕事の繁忙などが理由となる場合には、就業上の措置や配慮は不要である。
② 労働者の個別の特性よりも、疾病の特性に応じた配慮を行う体制を整える。
③ 事業場における基本方針や具体的な対応方法などは、全て労働者に周知する。
④ 労働者本人からの支援を求める申し出がなされたことを端緒に取り組むことを基本とする。
⑤ 労働者が通常勤務に復帰した後に同じ疾病が再発した場合には、両立支援の対象から除外する。

解答のポイント

事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」を把握している。

必要な知識・選択肢の解説

厚生労働省から出ている「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」ですが、かなり長い資料のように見えますが、2/3くらいが資料(様式例や各疾病独自の留意事項など)になっており、本問に係わるのは前半の10ページ分くらいになります。

このガイドラインは、治療が必要な疾病を抱える労働者が、業務によって疾病を増悪させることなどがないよう、事業場において適切な就業上の措置を行いつつ、治療に対する配慮が行われるようにするため、関係者の役割、事業場における環境整備、個別の労働者への支援の進め方を含めた、事業場における取組をまとめたものです。

主に事業者、人事労務担当者及び産業医や保健師、看護師等の産業保健スタッフを対象としているが、労働者本人や、家族、医療機関の関係者などの支援に関わる方にも活用可能なものになっています(雇用形態に関わらず、全ての労働者を対象とするものになっている)。

なお、このガイドラインは、がん、脳卒中、心疾患、糖尿病、肝炎、その他難病など、反復・継続して治療が必要となる疾病を対象としており、短期で治癒する疾病は対象としていません。

① 仕事の繁忙などが理由となる場合には、就業上の措置や配慮は不要である。
② 労働者の個別の特性よりも、疾病の特性に応じた配慮を行う体制を整える。
④ 労働者本人からの支援を求める申し出がなされたことを端緒に取り組むことを基本とする。

こちらについては「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」の「治療と仕事の両立支援を行うに当たっての留意事項」を引用しましょう。


  1. 安全と健康の確保:治療と仕事の両立支援に際しては、就労によって、疾病の増悪、再発や労働災害が生じないよう、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の適切な就業上の措置や治療に対する配慮を行うことが就業の前提となる。従って、仕事の繁忙等を理由に必要な就業上の措置や配慮を行わないことがあってはならないこと。
  2. 労働者本人による取組:治療と仕事の両立に当たっては、疾病を抱える労働者本人が、主治医の指示等に基づき、治療を受けること、服薬すること、適切な生活習慣を守ること等、治療や疾病の増悪防止について適切に取り組むことが重要であること。
  3. 労働者本人の申出:治療と仕事の両立支援は、私傷病である疾病に関わるものであることから、労働者本人から支援を求める申出がなされたことを端緒に取り組むことが基本となること。なお、本人からの申出が円滑に行われるよう、事業場内ルールの作成と周知、労働者や管理職等に対する研修による意識啓発、相談窓口や情報の取扱方法の明確化など、申出が行いやすい環境を整備することも重要であること。
  4. 治療と仕事の両立支援の特徴を踏まえた対応:治療と仕事の両立支援の対象者は、入院や通院、療養のための時間の確保等が必要になるだけでなく、疾病の症状や治療の副作用、障害等によって、労働者自身の業務遂行能力が一時的に低下する場合などがある。このため、育児や介護と仕事の両立支援と異なり、時間的制約に対する配慮だけでなく、労働者本人の健康状態や業務遂行能力も踏まえた就業上の措置等が必要となること。
  5. 個別事例の特性に応じた配慮:症状や治療方法などは個人ごとに大きく異なるため、個人ごとに取るべき対応やその時期等は異なるものであり、個別事例の特性に応じた配慮が必要であること。
  6. 対象者、対応方法の明確化:事業場の状況に応じて、事業場内ルールを労使の理解を得て制定するなど、治療と仕事の両立支援の対象者、対応方法等を明確にしておくことが必要であること。
  7. 個人情報の保護:治療と仕事の両立支援を行うためには、症状、治療の状況等の疾病に関する情報が必要となるが、これらの情報は機微な個人情報であることから、労働安全衛生法に基づく健康診断において把握した場合を除いては、事業者が本人の同意なく取得してはならないこと。また、健康診断又は本人からの申出により事業者が把握した健康情報については、取り扱う者の範囲や第三者への漏洩の防止も含めた適切な情報管理体制の整備が必要であること。
  8. 両立支援にかかわる関係者間の連携の重要性:治療と仕事の両立支援を行うに当たっては、労働者本人以外にも、以下の関係者が必要に応じて連携することで、労働者本人の症状や業務内容に応じた、より適切な両立支援の実施が可能となること。
    ①事業場の関係者(事業者、人事労務担当者、上司・同僚等、労働組合、産業医、保健師、看護師等の産業保健スタッフ等)
    ②医療機関関係者(医師(主治医)、看護師、医療ソーシャルワーカー等)
    ③地域で事業者や労働者を支援する関係機関・関係者(産業保健総合支援センター、労災病院に併設する治療就労両立支援センター、保健所(保健師)、社会保険労務士等)
    また、労働者と直接連絡が取れない場合は、労働者の家族等と連携して、必要な情報の収集等を行う場合があること。特に、治療と仕事の両立支援のためには、医療機関との連携が重要であり、本人を通じた主治医との情報共有や、労働者の同意のもとでの産業医、保健師、看護師等の産業保健スタッフや人事労務担当者と主治医との連携が必要であること。

これを踏まえた上で、各選択肢を見ていきましょう。

まず選択肢①の「仕事の繁忙などが理由となる場合には、就業上の措置や配慮は不要である」についてですが、これは上記の「1.安全と健康の確保」の記述を踏まえた選択肢ですね。

こちらには「治療と仕事の両立支援に際しては、就労によって、疾病の増悪、再発や労働災害が生じないよう、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の適切な就業上の措置や治療に対する配慮を行うことが就業の前提となる。従って、仕事の繁忙等を理由に必要な就業上の措置や配慮を行わないことがあってはならないこと」とありますね。

ですから、仕事の繁忙を理由に必要な措置・配慮を行わないのはあり得ないということになります。

仕事が忙しくなったから治療との両立に関する配慮を行わないというのは、常識で考えて逆の内容であるというのはすぐにわかると思います。

続いて、選択肢②の「労働者の個別の特性よりも、疾病の特性に応じた配慮を行う体制を整える」に関してですが、こちらは上記の「5.個別事例の特性に応じた配慮」の記述を踏まえた選択肢ですね。

こちらには「症状や治療方法などは個人ごとに大きく異なるため、個人ごとに取るべき対応やその時期等は異なるものであり、個別事例の特性に応じた配慮が必要であること」とありますね。

疾病に関しては、ある一定の特徴があるのは事実ですが、そうした疾病の特徴がどのように発現するかは「その人毎の個別の特性」によってかなり色付けされます。

精神的な問題で言うと、その疾病が出るとき(つまりは発病過程)に関しては疾病の特性が色濃く出てくることも多いのですが(多くの人に似たような反応が出る。発病過程でも細かく見ていくと、かなり個別の特性が影響していますが)、回復過程に関しては個別の特性がより強く反映してきます。

本問のような「仕事と治療の両立」という回復の過程に沿って考えていくとき、疾病自体の特性よりも、その人個別の特性を踏まえた配慮体制が重要になります。

そして、選択肢④の「労働者本人からの支援を求める申し出がなされたことを端緒に取り組むことを基本とする」ですが、こちらは上記の「3.労働者本人の申出」を踏まえた選択肢ですね。

こちらには「治療と仕事の両立支援は、私傷病である疾病に関わるものであることから、労働者本人から支援を求める申出がなされたことを端緒に取り組むことが基本となること。なお、本人からの申出が円滑に行われるよう、事業場内ルールの作成と周知、労働者や管理職等に対する研修による意識啓発、相談窓口や情報の取扱方法の明確化など、申出が行いやすい環境を整備することも重要であること」とあります。

この選択肢を選ぶか迷った人は「本人からの申し出の前から取り組むことが必要なのではないか」と考えただろうと思いますが、上記の通り「私傷病である疾病に関わるもの」なので申し出があってから動くのが基本になるということですね。

個人情報というのは様々なものが該当しますが、とりわけ「自分の病気・病名」というのは非常にセンシティブな情報と言えます。

昔、ある医師の勉強会で、教育役のDrが名前を思い出せなかったので「あー、あの、〇〇病の女医さん」という言い方をしたらしく、その女医さんは二度とその勉強会には来なかったそうです。

仕事と治療の両立をする上では、一部の人には疾病のことを知っておいてもらう必要が出てくるわけですが、本人からの申し出があればそうした情報の共有を承諾したという流れになりやすかろうと思います。

本問は「仕事と治療の両立」というテーマですが、例えば、学校でLGBTQ+の生徒がいた場合、その支援というのは本人からの申し出があって始められるという面があり、状況が似ているなと感じます。

以上より、選択肢①および選択肢②は不適切、選択肢④は適切と判断できます。

③ 事業場における基本方針や具体的な対応方法などは、全て労働者に周知する。

こちらについては「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」の「両立支援を行うための環境整備(実施前の準備事項)」を引用しましょう。


  1. 事業者による基本方針等の表明と労働者への周知:衛生委員会等で調査審議を行った上で、事業者として、治療と仕事の両立支援に取り組むに当たっての基本方針や具体的な対応方法等の事業場内ルールを作成し、全ての労働者に周知することで、両立支援の必要性や意義を共有し、治療と仕事の両立を実現しやすい職場風土を醸成すること。
  2. 研修等による両立支援に関する意識啓発:治療と仕事の両立支援を円滑に実施するため、当事者やその同僚となり得る全ての労働者、管理職に対して、治療と仕事の両立に関する研修等を通じた意識啓発を行うこと。
  3. 相談窓口等の明確化:治療と仕事の両立支援は、労働安全衛生法に基づく健康診断において把握した場合を除いては、労働者からの申出を原則とすることから、労働者が安心して相談・申出を行えるよう、相談窓口、申出が行われた場合の当該情報の取扱い等を明確にすること。
  4. 両立支援に関する制度・体制等の整備
    ア 休暇制度、勤務制度の整備:治療と仕事の両立支援においては、短時間の治療が定期的に繰り返される場合、就業時間に一定の制限が必要な場合、通勤による負担軽減のために出勤時間をずらす必要がある場合などがあることから、以下のような休暇制度、勤務制度について、各事業場の実情に応じて検討、導入し、治療のための配慮を行うことが望ましいこと。(以下略)

これらを踏まえて、本選択肢の内容を見ていきましょう。

本選択肢の内容は、上記の「1.事業者による基本方針等の表明と労働者への周知」を踏まえていることがわかりますね。

すなわち「事業者として、治療と仕事の両立支援に取り組むに当たっての基本方針や具体的な対応方法等の事業場内ルールを作成し、全ての労働者に周知すること」を通して、「両立支援の必要性や意義を共有し、治療と仕事の両立を実現しやすい職場風土を醸成する」ことを狙っていくということです。

ですから、本選択肢の「事業場における基本方針や具体的な対応方法などは、全て労働者に周知する」というのは適切であることがわかりますね。

以上より、選択肢③は適切と判断できます。

⑤ 労働者が通常勤務に復帰した後に同じ疾病が再発した場合には、両立支援の対象から除外する。

こちらについては「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」の「特殊な場合の対応」を引用しましょう。


  1. 治療後の経過が悪い場合の対応:労働者の中には、治療後の経過が悪く、病状の悪化により、業務遂行が困難になり、治療と仕事の両立が困難になる場合もある。その場合は、労働者の意向も考慮しつつ、主治医や産業医等の医師の意見を求め、治療や症状の経過に沿って、就業継続の可否について慎重に判断する必要がある。主治医や産業医等の医師が、労働のため病勢が著しく増悪するおそれがあるとして就業継続は困難であると判断した場合には、事業者は、労働安全衛生法第68条に基づき、就業禁止の措置を取る必要がある。
  2. 障害が残る場合の対応:労働者に障害が残ることが判明した場合には、作業転換等の就業上の措置について主治医や産業医等の医師の意見を求め、その意見を勘案し、十分な話合いを通じて労働者本人の了解が得られるよう努めた上で、就業上の措置を実施する。期間の限定なく就業上の措置の継続が必要になる場合もあり、その際には、人事労務担当者や所属長・上司、同僚等の理解・協力が重要である。また、就業上の措置状況について、定期的かつ着実な確認などのフォローが重要である。
  3. 疾病が再発した場合の対応:労働者が通常勤務に復帰した後に、同じ疾病が再発した場合の両立支援も重要である。事業者は、治療と仕事の両立支援を行うに当たっては、あらかじめ疾病が再発することも念頭に置き、再発した際には状況に合わせて改めて検討することが重要である。

上記を踏まえて、本選択肢の解説をしていきましょう。

本選択肢の「労働者が通常勤務に復帰した後に同じ疾病が再発した場合には、両立支援の対象から除外する」ですが、こちらは上記の「3.疾病が再発した場合の対応」と明らかに矛盾しますね。

疾病は、完治が難しいもの、経過が長いもの、改善と増悪を繰り返しやすいものなど様々です。

特に精神的な問題に関しては、繰り返し再発するということも少なくありませんから、本選択肢の内容だと両立支援とはならないと考えられます。

ですから、「あらかじめ疾病が再発することも念頭に置き、再発した際には状況に合わせて改めて検討することが重要」となるわけですね。

以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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