公認心理師 2021-101

ストレスチェック制度に関する問題です。

ストレスチェックに関する問題は頻出ですが、今回はより詳しい内容について問うてきていますね。

問101 ストレスチェック制度について、最も適切なものを1つ選べ。
① 産業医は、ストレスチェックの実施責任を負う。
② 派遣労働者のストレスチェックの実施義務は、派遣元事業者にある。
③ ストレスチェックの実施に当たり、事前に労働者全員から同意をとる。
④ ストレスチェックは、2年ごとに1回実施することが定められている。
⑤ ストレスチェックの対象は、ストレスチェックを希望した労働者である。

解答のポイント

心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」を中心にストレスチェック制度の具体的な規定を把握している。

選択肢の解説

① 産業医は、ストレスチェックの実施責任を負う。

こちらについては「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」を見ていきましょう。


ストレスチェック制度は事業者の責任において実施するものであり、事業者は、実施に当たって、実施計画の策定、当該事業場の実施者又は委託先の外部機関との連絡調整及び実施計画に基づく実施の管理等の実務を担当する者を指名する等、実施体制を整備することが望ましい。

当該実務担当者には、衛生管理者又は事業場内メンタルヘルス推進担当者を指名することが望ましいが、ストレスチェック結果等の個人情報を取り扱わないため、労働者の解雇等に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者を指名することもできる。


このようにストレスチェック制度は事業者の責任において実施することが示されています。

念のため、それぞれの担当者の役割を示すと…

  • 事業者:ストレスチェック制度の実施責任、方針の決定
  • ストレスチェック制度担当者(衛生管理者、事業場内メンタルヘルス推進担当者など):ストレスチェック制度の実施計画の策定、実施の管理 等
  • 実施者(産業医など):ストレスチェックの実施(企画及び結果の評価)
  • 実施事務従事者(産業保健スタッフ、事務職員など):実施者からの指示を受けて実施者の補助(調査票の回収、データ入力等)を行う。
    ※実施者及び実施事務従事者が実施する内容は、ストレスチェックの「実施の事務」に該当し、個人情報を扱うため守秘義務が生じる。

…という感じになります。

以上より、ストレスチェックの実施者は事業者になります。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② 派遣労働者のストレスチェックの実施義務は、派遣元事業者にある。

こちらについてはまず「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」を見ていきましょう。


(2)派遣労働者に関する留意事項

ア 派遣元事業者と派遣先事業者の役割

派遣労働者に対するストレスチェック及び面接指導については、法第66 条の10第1項から第6項までの規定に基づき、派遣元事業者がこれらを実施することとされている。派遣労働者に対するストレスチェック及び面接指導の実施に当たって、派遣先事業者は、派遣元事業者が実施するストレスチェック及び面接指導を受けることができるよう、派遣労働者に対し、必要な配慮をすることが適当である。また、努力義務となっている集団ごとの集計・分析については、職場単位で実施することが重要であることから、派遣先事業者においては、派遣先事業場における派遣労働者も含めた一定規模の集団ごとにストレスチェック結果を集計・分析するとともに、その結果に基づく措置を実施することが望ましい。


このように、派遣労働者に対するストレスチェックは派遣元事業者が実施することになっています。

同様の内容は「労働安全衛生法の一部を改正する法律の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備に関する省令等の施行について(心理的な負担の程度を把握するための検査等関係)」の通達にも示されております。


法第66条の10に基づくストレスチェック及び面接指導については、派遣中の労働者に関し、派遣元事業者が事業者としての責務を負うものとされたこと。

ストレスチェック結果の集団ごとの集計・分析は、職場単位で実施する必要があることから、派遣労働者も含めた一定規模ごとに、派遣先事業者において集計・分析することが適当である。そのためには、派遣先事業者においても派遣労働者に対してストレスチェックを実施することが望ましいこと。

面接指導の結果に基づき、派遣元事業主が派遣中の労働者に就業上の措置を講ずる場合には、労働者派遣契約の変更が必要となること等も考えられることから、必要に応じて、派遣先事業主と連携し、適切に対応することが望ましいこと。


このことからも派遣元事業者にストレスチェックの実施義務があることがわかりますね。

以上より、選択肢②は適切と判断できます。

③ ストレスチェックの実施に当たり、事前に労働者全員から同意をとる。
⑤ ストレスチェックの対象は、ストレスチェックを希望した労働者である。

こちらについてはまず「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」を見ていきましょう。


事業者は、ストレスチェック及び法第66条第1項の規定による健康診断の自覚症状及び他覚症状の有無の検査(問診)を同時に実施することができるものとする。ただし、この場合において、事業者は、ストレスチェックの調査票及び健康診断の問診票を区別する等、労働者が受検・受診義務の有無及び結果の取扱いがそれぞれ異なることを認識できるよう必要な措置を講じなければならないものとする。

事業者は、実施者からストレスチェックを受けた労働者のリストを入手する等の方法により、労働者の受検の有無を把握し、ストレスチェックを受けていない労働者に対して、ストレスチェックの受検を勧奨することができるものとする。


このように事業者に求められているのは「受検の勧奨」であることがわかりますね。

また、ストレスチェックの実施にあたっての留意事項としては以下のように定められています(同じく指針より)。


3 ストレスチェック制度の実施に当たっての留意事項

ストレスチェック制度を円滑に実施するためには、事業者、労働者及び産業保健スタッフ等の関係者が、次に掲げる事項を含め、制度の趣旨を正しく理解した上で、本指針に定める内容を踏まえ、衛生委員会又は安全衛生委員会(以下「衛生委員会等」という)の場を活用し、互いに協力・連携しつつ、ストレスチェック制度をより効果的なものにするよう努力していくことが重要である。

ストレスチェックに関して、労働者に対して受検を義務付ける規定が置かれていないのは、メンタルヘルス不調で治療中のため受検の負担が大きい等の特別の理由がある労働者にまで受検を強要する必要はないためであり、本制度を効果的なものとするためにも、全ての労働者がストレスチェックを受検することが望ましい。

② 面接指導は、ストレスチェックの結果、高ストレス者として選定され、面接指導を受ける必要があると実施者が認めた労働者に対して、医師が面接を行い、ストレスその他の心身及び勤務の状況等を確認することにより、当該労働者のメンタルヘルス不調のリスクを評価し、本人に指導を行うとともに、必要に応じて、事業者による適切な措置につなげるためのものである。このため、面接指導を受ける必要があると認められた労働者は、できるだけ申出を行い、医師による面接指導を受けることが望ましい。

③ ストレスチェック結果の集団ごとの集計・分析及びその結果を踏まえた必要な措置は、労働安全衛生規則第52条の14の規定に基づく努力義務であるが、事業者は、職場環境におけるストレスの有無及びその原因を把握し、必要に応じて、職場環境の改善を行うことの重要性に留意し、できるだけ実施することが望ましい。


このように、ストレスチェックについては労働者に受験を義務付ける規定は定められていないことがわかります。

これは「受検自体が負担になる人のために規定が定められていない」のであり、ストレスチェック自体は全労働者が受検することが望まれています。

ですから、ストレスチェックは負担のある人を除き、全労働者が受けることが前提とされており、ストレスチェック自体に同意を取ることや希望を募って行うという形にはなっていません。

なお、ストレスチェック自体の同意は不要ですが、検査結果は検査を実施した医師および保健師等から直接本人に通知され、本人の同意なく事業者に提供することは禁止されます。

これは労働安全衛生法の第66条の10の2に「事業者は、前項の規定により行う検査を受けた労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、当該検査を行った医師等から当該検査の結果が通知されるようにしなければならない。この場合において、当該医師等は、あらかじめ当該検査を受けた労働者の同意を得ないで、当該労働者の検査の結果を事業者に提供してはならない」が根拠となっています。

なお、事業者は、ストレスチェックの実施前又は実施時に労働者の同意を取得してはならない(本人にストレスチェック結果を通知した後に同意を取得しなければならない)ことになっています。

労働者は自身の結果が出たときに、その内容を踏まえて開示するか否かを決めていいということですね。

このように、同意を得る必要があるのはストレスチェック自体ではなく、ストレスチェックの結果を事業者に提供することに関してということになるわけですね。

また、ストレスチェックは労働者全員が受けることが勧奨されており、特に労働者が拒否の意向を示さなければ全員に実施することになっています。

ストレスチェックをするのは事業者の義務ですが、労働者もできる限りストレスチェックを受けて自身の健康に気を配ることが求められるわけです。

以上より、選択肢③および選択肢⑤は不適切と判断できます。

④ ストレスチェックは、2年ごとに1回実施することが定められている。

こちらについては労働安全衛生規則を見ていきましょう。


第五十二条の九(心理的な負担の程度を把握するための検査の実施方法) 事業者は、常時使用する労働者に対し、一年以内ごとに一回、定期に、次に掲げる事項について法第六十六条の十第一項に規定する心理的な負担の程度を把握するための検査(以下この節において「検査」という。)を行わなければならない
一 職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目
二 当該労働者の心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目
三 職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目


上記の「法第六十六条の十第一項に規定する心理的な負担の程度を把握するための検査」とはストレスチェックのことを指していますから、「一年以内ごとに一回、定期に」と定められているわけですね。

よって、本選択肢の「2年ごとに1回実施することが定められている」というのは間違った記述であると言えますね。

以上より、選択肢④は不適切と判断できます。

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