問99はキャリアカウンセリング関係の概念に関する問題になります。
アンカー、プラトーくらいは聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。
問99 E.H.Scheinが提唱した概念で、職務の遂行にあたって、何が得意なのか、何によって動機づけられるのか、及び仕事を進める上で何に価値を置いているのかについての自分自身の認識のパターンのことを何というか、正しいものを1つ選べ。
①キャリア・ラダー
②キャリア・アンカー
③キャリア・プラトー
④キャリア・アダプタビリティ
⑤ライフ・キャリア・レインボー
個人の興味、能力、価値観、その他の特性をもとに、個人にとって望ましいキャリアの選択・開発を支援するのがキャリアカウンセリングで行うことです。
産業カウンセラーや民間の相談機関でも仕事に関する相談を受けると思います。
そういった業務をこなしていく上で、知っておくと良い概念と言えますね。
解答のポイント
キャリアカウンセリングに関連する概念について把握している。
選択肢の解説
①キャリア・ラダー
キャリアラダーとは、キャリアアップのための「はしご(ラダー) 」を意味します。
つまり、 会社や組織で働く従業員が、はしごを一つひとつ登るようにキャリアアップできるようにした、人事制度や能力開発のシステム のことです。
キャリアラダーでは「はしご」のステップ一つひとつに、従事する仕事の内容やスキル、到達すべき目標を定義します。
下から上の階層へ、一歩一歩着実にキャリアアップしていくことを目指し、必要な自己分析や教育研修の機会を提供していきます。
キャリアラダー制度は、看護職や外食産業やアパレル業界など様々な業種で導入されている制度で、優秀な人材を確保するための制度として注目されています。
キャリアラダー制度を導入すると、組織内でどのようにしてキャリアアップしていくのかということをそれぞれの職種ごとに明確に示すことになります。
働いている人にとっては、自分のキャリアを開発していく上で明確なキャリアステップが提示されているので、良い目安となります。
また、キャリアラダー制度では、同一職種内で、求められる能力や技能が各階層ごとに示されているので、キャリアアップする際には明確な指標が存在することになり、公平性が高い制度と言えます。
更に、ステップアップの流れが見えやすくなるので、意欲の向上につながるともされています(先が見えると意欲が向上するというのも安直な気がしないでもないのですけど)。
キャリアラダーの導入のためには、キャリアの階層化、評価システムの構築、キャリア研修導入などが重要になります。
キャリアパスは職種の変更が生じますが、キャリアラダーではそれが生じず、専門職としてステップアップしていくというイメージですね。
以上より、選択肢①は誤りと判断できます。
②キャリア・アンカー
キャリア・アンカーは、アメリカの組織心理学者エドガー・シャインによって提唱された概念です。
ある人物が自らのキャリアを選択する際に、最も大切な(どうしても犠牲にしたくない)価値観や欲求のこと、また、周囲が変化しても自己の内面で不動なもののことを指します。
個人がキャリアを選択していく上で絶対に譲れない軸となる価値観や欲求、能力などを人生の錨(アンカー)に喩えられているわけですね(社会人生活という長い航海を沈没することなく渡り続けるための要という意味を持っています)。
キャリアアンカーは一度形成されると周囲の環境や年齢が変化しても代わりにくいと言われており、生涯にわたってその人のキャリアを決定づける重要なファクターだとされています。
キャリア形成が確立するのは30歳前後と言われておりますが、シャインが提唱する8つのアンカーはキャリアが形成された後は、その後の経験や結婚や出産などの環境の変化があっても生涯にわたって根幹は大きく揺らがないとしています。
キャリア・アンカーは、キャリアの進展により熟成される自己概念を表し、自分は「何が得意か」「何を望むか」「何を大切にするか」という問の答えとなるものです。
キャリア・アンカーは具体的には、キャリアに関する自分自身の志向や「価値観」、「得手・不得手」、「好き嫌い」などについて、自分がどのように認識(理解)しているかということです。
すなわちキャリア・アンカーとは、「自己概念」や「セルフイメージ」のことを指すと言えますね。
自分のキャリア・アンカー=キャリアに関する自己概念(セルフイメージ)がどのようなものであるかは、次の質問に対してどのように答えるかでおおむね分かるとされています。
- 自分の才能、技能、有能な分野は何か。自分の強み、弱みは何か。
- 自分の主な動機、欲求、動因、人生の目標は何か。何を望んでいるのか、または何を望まないのか。
- 自分の価値観、つまり自分がやっていることを判断する主な基準は何か。自分の価値観と一致する組織や職務に就いているか。やっていることをどのくらい望ましいものと感じているのか。自分の仕事やキャリアにどのくらい誇りを持っているのか、または恥ずかしいと感じているのか。
更に、シャインは「どんな風に働きたいか」「どんな生活を送りたいか」「どんな人生にしたいか」といった分析から、以下の8つの価値観に分類して定義しています。
- 管理能力:組織の中で責任ある役割を担うこと(を望むこと)。
- 技術的・機能的能力:自分の専門性や技術が高まること(を望むこと)。
- 安全性:安定的に1つの組織に属すること(を望むこと)。
- 創造性:クリエイティブに新しいことを生み出すこと(を望むこと)。
- 自律と独立:自分で独立すること(を望むこと)。
- 奉仕・社会献身:社会を良くしたり他人に奉仕したりすること(を望むこと)。
- 純粋な挑戦:解決困難な問題に挑戦すること(を望むこと)。
- ワーク・ライフ・バランス:個人的な欲求と、家族と、仕事とのバランス調整をすること(を望むこと)。
シャインは、調査を通じてほとんどの人がこれら8種のアンカーに当てはまることを突き止めました。
以上より、選択肢②が正しいと判断できます。
③キャリア・プラトー
昇進や能力の頭打ち状態をキャリアプラトーと言い、キャリア開発の重要な課題の一つと言えます。
プラトー(plateau)は、直訳すると、「高原状態」となります。
高原には、到達するまでは上に登る必要がありますが、到達してしまうと上は平らで、台形型をしています。
このことから、プラトーは「停滞」を意味するようになりました。
キャリアプラトーは、人生の特定の時期、とくに中年期のキャリアの危機として語られることがあります。
たとえば40歳代になると、社内における自分の位置づけ、すなわち現在の自分の能力や、今後どこまで昇進できるかなどがある程度分かってくることが多いといわれます。
そこで、これ以上自分が昇進できないと判断するだけでなく、新しい仕事に挑戦したり、そのための能力の開発に励むこともできないとなると、キャリアプラトーとなってしまうのです。
キャリアプラトーにも色々あります。
階層プラトーには、ある職位にある人がそれ以上の昇進を望めないというパターン(よくドラマで「○○社の墓場」と呼ばれている部署がありますね。その部署に配属されると昇進はなくなるみたいな)や、個人でもAさんは出世コースに乗っているけどBさんは違うというような場合もあります。
また、長期間同じ仕事を担当しその仕事をマスターしてしまうことなどから、新たな挑戦、わくわく感や学ぶべきことが欠けている状態を内容プラトーといい、仕事のルーティン化とも呼ばれます。
以上より、選択肢③は誤りと判断できます。
④キャリア・アダプタビリティ
キャリア・アダプタビリティという概念は、Super(コロンビア大学名誉教授。カウンセリング心理学の発展に大きな貢献を果した)によるキャリア発達理論をSavickas(スーパーのキャリア発達理論を引き継いで集大成したキャリア構築理論を提唱)が発展させたものです。
サビカスはスーパーらの理論を統合し「キャリア構築理論」を提唱しました。
キャリア構築理論には3つの主要概念があります。
- 職業的パーソナリティー:
個人のキャリアに関連した能力、欲求、価値観、興味と定義される。人と環境がどの程度マッチしそうなのかを示す手がかりとなる。人と環境の適合性は容易に変化しうる動的で主観的なものである。 - キャリア・アダプタビリティ:
現在あるいは直近の職業的発達課題、職業的移行、個人的トラウマなどに対処するための個人のレディネス及びリソースのことを指す。環境変化に対応してどのような職業を選択して適応していくのかということ。人と環境の適合性は完全にあうことはない。継続的に人と環境の意味を考えながら徐々に両者をすり合わせていく。4つの次元(関心、統制、好奇心、自信)がある。 - ライフテーマ:
個人が何のためにその仕事をするのか、行動する意味は何かということを明確にする。個人にとって「重要なこと」そのものである。解釈や人との関わりのプロセスはキャリアストーリーの中で語られる。
サビカスのいうキャリア・アダプタビリティは、4Cと呼ばれる、関心(Concern)、統制(Control)、好奇心(Curiosity)、自信(Confidence)の要素で構成されるとされています。
- 関心(concern):職業上の未来についての関心。過去から未来への経験が連続しているという自信をもたらすもの。
- 統制(control):自分の未来を所有している、または未来を創造すべきであるという信念であり、自らのキャリアに責任を持つこと。
- 好奇心(curiosity):新しい経験を受け入れ、様々な可能性を試す価値があるという信念。自分自身と職業を適合させるために職業に関わる環境を探索すること。
- 自信(confidence):進路選択や職業選択において必要となる一連の行動を適切に行うことができるという自己効力感。
要するに、将来の職業による関心、キャリアについての統制できるといった感覚(自己効力感)、自分の将来を統制できるという自覚、珍しい事や新奇な事に対する好奇心、そして挑戦することへの自信というようなものが、キャリア・アダプタビリティを構成する要素として考えられています。
キャリア・アダプタビリティの4次元を向上させていくということは、自己概念の実現、すなわち「ありたい自分になる」ということを意味しています。
以上より、選択肢④は誤りと判断できます。
⑤ライフ・キャリア・レインボー
ライフ・キャリア・レインボーはSuperによって考え出されたものです。
古典的なキャリア理論とされています。
「キャリア」は、特に職業についての実績や経験について指す場合が多いものですが、彼は、キャリアを職業に限定せず、人生における様々な役割のことであるとしました。
人間は、こうしたさまざまなキャリアを虹のように積み重ね、TPOによってそれぞれのキャリアを使い分けながら暮らしているという考え方がライフ・キャリア・レインボーです。
スーパーは、人が人生の様々な時期に果たす役割(ライフロール)の組み合わせこそが「キャリア」であると考えたわけですね。
ライフ・キャリア・レインボー理論では、「キャリアは一生発展し続ける」という理念のもと、このライフキャリアを年齢・役割(ライフロール)・場面(ライフステージ)の組み合わせであると考えます。
人は生涯にわたり、社会生活や家族の中において、経験や役割を積み重ねてゆきます。
そうすることで、人のキャリアは形成されてゆくという考え方です。
この理論で示されている5つのライフステージは以下の通りです。
- 成長段階(0-15歳):
学校生活や家庭における家族との相互関係において、自分自身を形成し知る期間。また、これから迎える「仕事」に対しての関心や積極性を高める時期。 - 探索段階(16-25歳):
引き続き学校生活・家庭生活・そして仕事において、その経験を元にトライ&エラーを繰り返し成長する時期。また、生涯の仕事を模索する時期でもある。 - 確立段階(26-45歳):
生涯の仕事について模索するが、やがてキャリアビジョンが明確となり、その仕事においての専門性を高める時期。 - 維持段階(46-65歳):
これまでに得た経験や地位を守る時期。時には、保守的になる場合もある。 - 下降段階(65歳以上):
仕事をはじめとする活動を、精神的・肉体的な衰えから引退する時期。また、退職後に新しい役割を得るなどして、「セカンドライフ」を謳歌する時期。
これに8種類のライフロール(子ども、学生、職業人、配偶者、家庭人、親、余暇人、市民)が組み合わされるということになります。
人によって、これらの役割全部を経験する人、一部分を経験する人、これ以外の役割を経験する人など様々です。
これらの組み合わせにより、上のような図を描くことから「レインボー」と言われるわけです。
以上より、選択肢⑤は誤りと判断できます。