公認心理師 2019-25

問25はローゼンタールの有名な実験についてです。
「Rosenthal」を「ローゼンタール」と読めればパッと思い浮かぶという人も少なくないでしょう(ローゼンソール、と読む書籍も散見されますが)。

問25 1960年代のR.Rosenthalの実験で、ある検査の結果、学業成績が大きく向上すると予測される児童の氏名が教師に伝えられた。実際には、児童の氏名は無作為に選ばれていた。8か月後、選ばれた児童の学業成績が実際に向上していた。
 このような現象を説明する用語として、正しいものを1つ選べ。
①ハロー効果
②プラセボ効果
③ホーソン研究
④ピグマリオン効果
⑤アンダーマイニング効果

他の問題の解説でも何回も述べていますが、大切なのは「正解を導く力」と併せて「不正解の選択肢に関しても理解していること」です。
これらが揃っていれば何の迷いもなく回答することができます。
そして答えがわからなくても「自分がどこがわかっていないのか」がわかります。
学びの上ではこちらの方が重要です。

解答のポイント

ある説明から該当する概念に思い至ること。
すなわち「概念→説明」だけでなく「説明→概念」というルートでも認識できるようになっていること。

選択肢の解説

①ハロー効果

Halo効果は、光背効果、後光効果とも呼ばれます。
他者がある側面で望ましい(あるいは望ましくない)特徴を持っていると、その評価を当該人物に対する全体的評価に広げてしまう傾向を指します
認知バイアス現象の一つです。

例えば、教師が生徒を見る場合、成績の良い生徒は性格面や行動面でも肯定的に評価されがちであるのに対して、成績の悪い生徒は全ての面で問題があるかのように見なされやすいという説明がなされています
面接などの人物評価に際しては、評価者はこうした認知の歪みに十分に注意を払うことが重要です。
この効果によって、マイノリティの行動が目立ち、実際よりも過大視される(たいていは否定的特徴)誤った関連づけなどが少なくありません。

ハロー効果という言葉が初めて用いられたのは、ソーンダイクが1920年に書いた論文「A Constant Error in Psychological Ratings」です
ちなみに、ハローとは聖人の頭上に描かれる光輪のことですね。

以上より、選択肢①は誤りと判断できます。

②プラセボ効果

Placeboとは「偽薬」という意味です。
本来薬物としての効果が無い錠剤などを「特別な効果を持つ薬である」と伝えて被験者に与えると、暗示的な作用が働いて、説明された通りの効果が得られることがよくあります。
このような効果を「プラセボ効果」と呼び、そのニセ薬のことを「偽薬」と呼びます

新薬の真の効果を調べるためには、このプラセボ効果を統制する必要があります。
心理的介入にもプラセボ効果は生じ得るので、ある操作・介入が実質的な効果を持つか否かを実証するためには、プラセボ効果を排除せねばなりません。
ただし、それはあくまでも「新薬の効果を調べる」といった、こちらが調べたいものの真の価値を検証する際の話であり、臨床実践では倫理に反していなければ、クライエントが改善すればそれで良いわけですので、プラセボ効果を積極的に活用することが重要です。

心理療法は究極、プラセボ効果です。
プラセボ反応は自然治癒力の純粋な表現なわけですから、それを推し進めれば心理療法になると言えます。
この点については「対談 精神科における養生と薬物」で述べられております(古い本なので紹介用のパーツが作れない…)。

また、中井久夫先生は「心に働くくすりは信頼関係があってこそ効く」というエッセイを書かれています。

ここでの記述を引用すると…

  • 医師との信頼関係があって飲めば少量で効くし、量が増えない。不安を抑えるくすりを不安な状況で飲むのが得策でないことはわかっていただけよう。くすりへの信頼は、究極は医師への信頼である。
  • 耐え難い苦痛でなければ、一応服用してから苦情を医師にいうことが一番だろう。私は、患者が苦情をいうことが医師に対する最大の協力の一つであると思っているが、苦情をいうと怒り出す医師もないわけではないのは困ったことである。
  • あえていえば、よく合ったくすりは、淡々とした飲み心地であり、ときには何となく合っている感じが本人にわかる。しかし、これは、処方の巧みさだけではなく、医師と患者の信頼関係の上に成り立つものであり、ここに到達するまでには医師も患者も相当な努力をするのが普通であり自然である。
  • 治療というものは患者と医師の二人旅のようなものである。その中でくすりは、医師・患者間の信頼関係の上に効果を発揮し、医師・患者のコミュニケーションを易しくして、信頼関係の樹立に役立つものでもある。
  • 患者がくすりと闘う姿勢の場合には大量のくすりが必要である。できれば力の立場でくすりを使いたくないのであるが、どうしてもやむをえないときがある。しかし、これはできるだけ短期間にしたいものである。
…といった感じになります。

こうした中井久夫先生の考えの背景には、プラセボ効果に関しての以下のような捉え方があります。
こちらについては「臨床瑣段」所収の「SSM、通称丸山ワクチンについての私見」で示されております。

少し長いですけど、大切なことなので。
「私の考えでは、プラセボー効果は暗示によるものではない。いや、結果的に暗示のようにみえるかも知れないが薬の服用にまつわる不安が薬の効果を減殺しているほうが大きいと私は思う。この不安を最小限にすることが重要であると私は思う。そもそも得体の知れない化学物質を他ならぬ体内にとりこむこと、それも向精神薬、すなわち外界の見え方や自己感覚をどの方向にどれほど変えるかわからないものをとりこむとなれば不安になるのが当然である。薬袋から取り出して初めて薬と対面する時の不安は診察室であらかじめ減殺されていなければならない(不安をつのらせておいて抗不安薬を出すなどしゃれにもならない)。初診時不安の減殺法は特別な才能を要しない。初診時の身体診察、相手に応じた薬の説明、薬の辞書を確かめること、さらに処方箋の渡し方、そして薬物の好ましい効果と好ましくない効果をみるための次回診察日の相談しながらの設定(これを「スペーシング」というがこの能力は精神科医の熟練度をみる最重要な因子の一つである)、そして不測の緊急事態の際の連絡法である」
ちなみに中井先生は「処方箋を渡すときに「効きますように」と祈ることもないではない」と述べておられます。

私はこれがプラセボ効果の核心を突いた捉え方だと考えております。
N.Humphreyが「獲得と喪失-進化心理学から見た心と体」の「希望-信仰療法とプラシーボ効果の進化心理学」で述べている「安心のある状態では自己の免疫力・自己治癒力が最大限に利用される」ということだと思われます。

長々と書きましたが、本選択肢の内容は設問のものとは異なることがわかります。
以上より、選択肢②は誤りと判断できます。

③ホーソン研究

こちらは産業心理学の分野で、Mayoを中心に、1924年~1932年にかけてシカゴのウェスタン・エレクトリック社ホーソン工場で行われた実験的研究を指します
当初は、照明条件や休憩条件、作業時間などの変化が作業能率に与える影響を調べることが目的でした。

しかし、結果的には、これらの条件と生産性との間に有意な関係は見いだせず、むしろ、従業員の生産行動が、集団の一員として認められることや仲間とうまくやっていきたいといった社会的欲求に規定されていること、会社によって作られた公式行動よりも、彼ら自身によって作られた非公式集団の規範に強く影響されていることが明らかになりました。

この研究は、従業員の社会的欲求や非公式集団における規範が、組織の生産性に強い影響力を持つことを明らかにし、産業組織の研究に社会心理学的な視野を組み込んだ点で、経営におけるその後の人間関係論の展開に大きな影響を与えたとされています

テイラーの科学的管理法との関連で覚えておくことが大切な事項です。
過去問でも出題されている内容ですね(2018-100)。
こちらについては過去の記事もご参照ください。

以上より、選択肢③は誤りと判断できます。

④ピグマリオン効果

人は他人に対するいろいろな期待を持っています。
意識するか否かに関わらず、この期待が成就されるように機能することをピグマリオン効果と呼ばれています
ちなみにピグマリオンという名前は、ギリシャ神話から取ったものです。

Rosenthalらは、教師が児童・生徒に対してもっているいろいろな期待が、彼らの学習成績を左右することを実証しました
1964年春に教育現場での実験として、サンフランシスコの小学校においてハーバード式突発性学習能力予測テストと名づけた普通の知能テストを行い、学級担任には、今後数ヶ月の間に成績が伸びてくる学習者を割り出すための検査であると説明しました。
しかし、実際のところ検査には何の意味もなく、実験施行者は、検査の結果と関係なく無作為に選ばれた児童の名簿を学級担任に見せて、この名簿に記載されている児童が、今後数ヶ月の間に成績が伸びる児童だと伝えました。
その後、学級担任は、児童の成績が向上するという期待を込めて、その児童らを見ていたが、確かに成績が向上していったとされています。
報告論文の主張では成績が向上した原因としては、学級担任が児童らに対して、期待のこもった眼差しを向けたこと、児童らも期待されていることを意識するため、成績が向上していったと主張されています

ちなみに、教師が高い期待を持つと、ヒントを与えたり、質問を言い換えたり、回答を待ったりするなどの行動が見られたとされています。
なお、教師が期待しないことによって学習者の成績が下がることはゴーレム効果と呼ばれています。

これらの内容は、問題文のものと一致しているとみて間違いないでしょう。
以上より、選択肢④が正しいと判断できます。

⑤アンダーマイニング効果

一般に報酬を与えることで外発的動機づけを高めることには一定の効果があるとされています(エンハンシング効果)。
しかし、内発的動機づけの高い子どもの場合、報酬を与えることで元々あった内発的動機づけを低下させてしまうことがあります
このように、過剰な外的報酬が内発的動機づけを低下させる現象を「アンダーマイニング効果」「過剰正当化効果」と呼びます
ちなみに、underminingは「弱体化させる」「台無しにする」という意味です。
単純化すればこんな感じです。

その人の意思で始めたことに安易な外的報酬を与えると、意欲の火が消えてしまうということです。
その人の行為が善意で内的なものなら、外的報酬よりも労いやその行為への理解を周囲が示すほうが望ましいでしょう。

当たり前のこととせずに「ありがとうね」と伝えることです(それだけでコストを抑えられるわけです)。

Lepperらの研究が端緒かなと思います
彼らは幼稚園児に絵を描いてもらうことにして、その中で「絵を描いたらご褒美をあげる」と約束する群、そうした約束はせずにただ絵を描いてもらう群(この2群はいずれも絵を描いた後にご褒美をあげる)、そして事前にご褒美の話もしないし、絵を描いた後も特にご褒美をあげない群の3つに分けて実験を行いました。

上記の絵描きの手続きが行われた後、自由時間に幼稚園児たちの様子を観察してみると、あらかじめご褒美を約束されて絵を描いた群では、他の群に比べて自発的に絵を描く時間が短いという結果が得られました。

事前にご褒美があると約束されたわけではなかった2番目の群の子どもたちは、自発的に絵を描く時間が短くなることはなかったようです。
したがって、事前にご褒美が約束されて何かを行うという経験をすると、その後はご褒美がなければ自発的に行動はしなくなる可能性があると示されています
この研究が公表されるまでは、人は報酬があるとやる気が高まるという考えが主流でしたが、そうではないという結果が出て注目を集めました。

以上より、選択肢⑤は誤りと判断できます。

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