公認心理師 2018-111

リーダーシップについて、誤っているものを1つ選ぶ問題です。

あまり聞きなれないような理論も出ていますね。
PM理論や状況適合的モデル、変革型リーダーシップなどは臨床心理士の過去問題にも出題されていました。

解答のポイント

リーダーシップ研究の流れを把握していること。
最近の社会情勢の変化に伴う、新しいタイプのリーダーシップ論を把握していること。

選択肢の解説

『①PM理論のM機能とは、部下への配慮やメンバー間の人間関係に関心が高いリーダーのスタイルである』

PM理論は、いわゆる「リーダーシップ行動論」による理論で、リーダーシップとは後天的に学習された行動スタイルと考えます。
誰でも身につけられるものであり、優秀なリーダーという存在を規定する考え方です。

PM理論は、三隅二不二(みすみ・じゅうじ)が提唱しました。
Pとは、Performance機能を指し、集団目標達成や課題遂行を重視するスタイルのことです。
Mとは、Maintenance機能を指し、対人関係の緊張を和らげ、集団を維持強化するスタイルのことです。

三隅は、両機能の強弱の組み合わせから4つのリーダーシップスタイル(PM型、P型、M型、pm型)を示しました。

選択肢①にある「部下への配慮やメンバー間の人間関係に関心が高いリーダーのスタイル」はM機能と考えて相違ありません
よって、選択肢①は正しいと言え、除外する必要があります。

『②リーダーシップはリーダーの中に存在するのではなく、リーダーとフォロワーの間で形成される過程である』

リーダーシップ理論にもさまざまな変遷がありました。
古い順に示すと以下の通りです。

1.リーダーシップ資質論
優れたリーダーは何か共通の個人的資質や特性を持っているという考え方に立脚した最も古くから行われている研究です。
リーダーとなる人間は一般の人とは異なる特殊で生まれながらにして持つ身体的や人格的な特性を有しており、その特性ゆえに他人に影響力を行使できると考えます。

組織集団を率いることに成功するリーダーとそうでない人との間には、個人的資質や特性の違いがあることを明らかにすることが研究目的の立場です(偉人説などがこれにあたる)。

2.行動記述的アプローチ
リーダーシップとは後天的に学習された行動スタイルと考えます。
誰でも身につけられるものであり、優秀なリーダーという存在を規定する考え方です。

3.状況適合的アプローチ
1950年代までのリーダーシップ研究(PM理論など)は、「普遍的に有効なリーダーの特性」も「普遍的に有効なリーダーの行動」も定義しきれませんでした。
そこで、優れたリーダーは、リーダー側の条件だけでなく、メンバー側の特性や、集団をとりまく条件等を考慮しながら、リーダーとメンバーの相互作用によって生じるという「状況適合的(即応的)アプローチ」の考え方が生まれました。

4.最近の理論
上記のリーダーシップ観とは異なった、近年の社会情勢の変化に伴うリーダーシップスタイルについて記述したものになります。
変革型リーダーシップなどがこれにあたります。

選択肢②にある「リーダーシップはリーダーの中に存在するのではなく、リーダーとフォロワーの間で形成される過程である」という考えは、上記の状況適合的アプローチに該当すると思われます。

選択肢②の記述は、すべてのリーダーシップ理論に該当する考え方ではありませんが、リーダーとフォロワーの関係性からリーダーシップスタイルを捉えていくということ自体は行われていることなので、矛盾はないと考えてよいでしょう。
よって、選択肢②は正しいと言え、除外することが求められます。

『③オーセンティックリーダーシップとは、自分の信条や価値を知り、その信条や価値のままに行動するリーダーのスタイルである』

最近のリーダーシップ研究に影響を与えている主な要因は3つあるとされており、モラル、ITの著しい発達、組織のグローバル化です。

  • モラル:モラルの欠如から起こった事件により企業におけるモラルに注目が集まり、人々の意識の高まりにより企業の社会的責任が言われるようになったのを背景に、モラルを取り入れた新しいリーダーシップが提唱されるようになってきた。
  • ITの著しい発達:ITの著しい発達は働き方や働く形態を変え、バーチャルなチームなどを出現させている。これらをどのようにマネジメントするか、ということが大きな課題になっている。
  • 異なる文化にいるメンバーに対してマネジャーはいかにリーダーシップを発揮すればよいかという問題が発生している。
上記のうち、特にモラルに注目したリーダーシップスタイルが提唱されるようになってきています。

オーセンティック・リーダーシップ、スピリチュアル・リーダーシップ、サーバント・リーダーシップなどがそれに該当します。

選択肢③にあるオーセンティックリーダーシップとは、いわば「本物のリーダーシップ」であり、初期の定義としては「自分がどのように考え行動するかについて深く気づき、リーダー自身と他の人々の価値観/モラル的視点、知識と強さに気づいていると他の人々によって知覚される人:彼らが処理する状況に気づき、自信があって希望に満ち、楽観的で、快活かつ高いモラルを持つ人々」とされています。
オーセンティックリーダーシップの特徴として、以下のことが示されております。
  • 問題を見るユニークな視点を発達させ、それによってモラルジレンマを認識し、オープンな方法でそれらを述べることができる
  • オーセンティック・リーダー「本物、真正さ」というものの重要な点は、自己を知り、受け入れて、自己に対して忠実であること
  • 自分の人生経験に与える自己関連的な意味付けに深く基礎を置く
  • オーセンティックリーダーとフォロワーの関係は、フォロワーのリーダーに対する高いレベルの信頼、約束、職場の繁栄と真の持続するパフォーマンスが結果としてもたらされると仮定されている。
上記の点は、選択肢③にある「自分の信条や価値を知り、その信条や価値のままに行動する」という点と合致しますね。
よって、選択肢③は正しいと言え、除外する必要があります。

『④サーバントリーダーシップとは、リーダーが自らの私欲を捨て、フォロワーが成長することに注力するリーダーのスタイルである』

社会状況の中で新たなリーダーシップのスタイルが出てきたことは、選択肢③の解説の通りです。

選択肢④のサーバントリーダーシップは、利害関係者の要求に注意を向け、モラル的な要素を持ち、自己犠牲的であることを特徴とします。
他者への多大なサービス、仕事への全体論的アプローチ、コミュニティへの感覚の促進、意思決定への力の共有を強調するリーダーシップのスタイルです。

その行動を定義すると「耳を傾けること、共感、癒すこと、気づいていること、説得、概念化すること、洞察、奉仕する心、人々の成長へのコミットメント、コミュニティを築くこと」とされています。
サーバント型のリーダーの焦点はフォロワーであり、組織目標の達成は副次的な結果とされています。

上記の点は、選択肢④にある「リーダーが自らの私欲を捨て、フォロワーが成長することに注力」という点と合致しますね。

よって、選択肢④は正しいと言え、除外する必要があります。

『⑤変革型リーダーシップとは、部下に成果を出すように求め、生産性向上や組織目標達成に向けて強力に推進するリーダーのスタイルである』

「従来の組織を効率的に管理する人がリーダーであり、マネジャーである」という暗黙の前提と一線を画するものとして「変革(革新)型リーダーシップ論」があります。
この立場では、従来の研究が想定していたリーダーシップを「交流型(取引型)リーダーシップ」と位置づけ、変革型リーダーシップと対比しています。

変革型リーダーシップでは、フォロワーが得る報酬はリーダー及び組織の使命が実現できたという集団的、精神的報酬が主になります。

変革型リーダーシップの特徴としては以下の通りです。

  • 魅力あるビジョンを作りだし、それを明確にフォロワーに伝えることができる
  • ビジョンを実現化する戦略を構築し、それが現実に達成できる期待をフォロワーに抱かせることができる
  • フォロワーとの間に人間的ないし感情的な絆を結んで、彼らからより多くの貢献を引き出す
  • フォロワーにとって理想の役割を演じることができる
カリスマ経営者という印象ですね。
選択肢⑤の内容は、変革型リーダーシップの特徴を捉えているとは言えません

選択肢⑤の内容は、例えばPM理論におけるP型リーダーシップスタイル(集団目標達成や課題遂行を重視する)、SLモデルの指示的行動、などが近いように思います。
よって、選択肢⑤は誤りであり、こちらを選択することが求められます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です