公認心理師 2018追加-123

J.T.Reasonが提唱している安全文化の構成要素として、正しいものを1つ選ぶ問題です。

「安全文化」という考え方が安全対策や事故の問題の中で語られるようになったきっかけは、チェルノブイリ原子力発電所事故です。
1996年にIAEA(国際原子力機関)がASCOTガイドラインを示し、安全文化の定義や組織の安全文化の測定法が提案されました。

IAEAによると安全文化とは「安全にかかわる諸問題に対して最優先で臨み、その重要性に応じた注意や気配りを払うという組織や関係者個人の態度、特性の集合体」とされています。
こうした定義のみでは具体的な対策がわからないでいたところ、ヒューマンエラー研究の草分け的存在だったジェームズ・リーズンが「安全文化はエンジニアリングできる」とし、下記の4つの文化それぞれについて仕組みをきちんとできるようにすれば安全文化が育っていくはずだと考えました。

解答のポイント

リーズンの安全文化の4要素について把握していること。

選択肢の解説

『①組織の命令形態を維持する』

リーズンの安全文化の4要素は以下の通りです。

  1. 報告する文化:
    自己のエラーやニアミスを率直に報告しようとする文化。
  2. 正義の分化:
    不可欠な安全関連情報の提供を奨励し、そうでない場合を制裁する信頼関係に基づく文化。
  3. 柔軟な文化:
    状況に応じて組織形態を変化させるなど組織自身を再構成できる文化
  4. 学習する文化:
    安全情報システムから正しい結論を導き出す意思と能力、大きな改革を実施する意思をもつ文化。
選択肢の内容は、上記の第3項を問うているものと思われます。
ここで言う「柔軟な文化」とは、変化する要求に効率的に適応できる文化のことを指します
例えば、緊急時における第一線への権限移譲などが、柔軟な文化のポイントとされています。
すなわち、選択肢にあるような命令形態の維持ではなく、状況に応じてそれを変化させることができる文化が安全であると示されているわけです
よって、選択肢①は誤りと判断できます。

『②エラーやミスは影響度の高いものを報告する』

リーズンの安全文化の4要素は以下の通りです。

  1. 報告する文化:
    自己のエラーやニアミスを率直に報告しようとする文化
  2. 正義の分化:
    不可欠な安全関連情報の提供を奨励し、そうでない場合を制裁する信頼関係に基づく文化。
  3. 柔軟な文化:
    状況に応じて組織形態を変化させるなど組織自身を再構成できる文化。
  4. 学習する文化:
    安全情報システムから正しい結論を導き出す意思と能力、大きな改革を実施する意思をもつ文化。

上記の第1項は、情報に立脚した文化の醸成のためには、自らのエラーやインシデントを報告する組織の雰囲気が重要であることを示しています。

これはミスやエラーの影響度の高さに左右されるのではなく、どのような場合であっても報告するということになります
なぜなら「影響度の高さ」という条件を付けることで「これは影響度が高くはないだろう」と見積もってしまう可能性があること、それ一つでは影響度が低いものでもそれをきっかけとして大きな誤りにつながることなどがあります。

以上より、選択肢②は誤りと判断できます。

『③過去に起こったエラーやミスから学ぶことを重視する』

リーズンの安全文化の4要素は以下の通りです。

  1. 報告する文化:
    自己のエラーやニアミスを率直に報告しようとする文化。
  2. 正義の分化:
    不可欠な安全関連情報の提供を奨励し、そうでない場合を制裁する信頼関係に基づく文化。
  3. 柔軟な文化:
    状況に応じて組織形態を変化させるなど組織自身を再構成できる文化。
  4. 学習する文化:
    安全情報システムから正しい結論を導き出す意思と能力、大きな改革を実施する意思をもつ文化

選択肢は上記の第4項について問うているものと思われます。

学習する文化とは、ミスやルール違反を繰り返さないよう教訓としていくことであり、安全情報から積極的に対応を検討することが出来る、また、大きな変化を成し遂げようとすることを指します
このことは選択肢の内容と矛盾しません。

よって、選択肢③が正しいと判断できます。

『④安全に関する規則違反や不安全行動については処罰しない』

リーズンの安全文化の4要素は以下の通りです。

  1. 報告する文化:
    自己のエラーやニアミスを率直に報告しようとする文化。
  2. 正義の分化:
    不可欠な安全関連情報の提供を奨励し、そうでない場合を制裁する信頼関係に基づく文化
  3. 柔軟な文化:
    状況に応じて組織形態を変化させるなど組織自身を再構成できる文化。
  4. 学習する文化:
    安全情報システムから正しい結論を導き出す意思と能力、大きな改革を実施する意思をもつ文化。

上記の第2項正義の文化について、リーズンは以下のように記しています。
正義の文化をエンジニアリングするための前提条件は、受けいれることのできる行為と受け入れることのできない行為の双方の間に線引きをするための、皆が合意できる一種の法則である

すなわち「罰せられる」「非難される」という葛藤を超えて、正義に立脚した組織風土を創っていくこと、起きた事実を報告して、それを組織で共有するという文化を育むことが大切であると示されています。

以上より、安全に関して受けいれることができない行為については、きちんと処罰されることが重要ということが示されています
よって、選択肢④は誤りと判断できます。

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