公認心理師 2022-75

情状鑑定で検討する事項に関する問題です。

この問題、実は事例の内容は全く見る必要はなく、完全な知識問題であると言っても良いです。

最後の「情状鑑定で検討する事項として、誤っているものを1つ選べ」だけ読めばノータイムで正答を導くことができます。

問75 22歳の男性A。Aは、同居している父親を台所にあった果物ナイフで切りつけ、全治1か月の怪我を負わせた傷害事件で逮捕された。Aに犯罪歴はない。Aの弁護人によると、Aは一人っ子で、両親との三人暮らしである。中学校入学直後から不登校になり、これまで短期のアルバイト経験はあったものの、本件当時は無職であった。動機についてAは、「近所の人たちが自分の秘密を全て知っているのは、親父が言っているからだ。昔から殴られていたことの恨みもあった。だから刺した」と述べている。
 Aの情状鑑定で検討する事項として、誤っているものを1つ選べ。
① 性格の特性
② 認知の特性
③ 家族の関係性
④ 心神喪失状態の有無
⑤ 犯行当時の生活状況

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解答のポイント

情状鑑定と精神鑑定の違いを把握している。

選択肢の解説

① 性格の特性
② 認知の特性
③ 家族の関係性
④ 心神喪失状態の有無
⑤ 犯行当時の生活状況

鑑定については刑事訴訟法において定められており、起訴前の鑑定(第223条:検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者以外の者の出頭を求め、これを取り調べ、又はこれに鑑定、通訳若しくは翻訳を嘱託することができる)と起訴後の鑑定(第165条:裁判所は、学識経験のある者に鑑定を命ずることができる)があります。

ここでいう鑑定には、DNA鑑定や筆跡鑑定などさまざまなものが含まれており、主として被告人の精神状態(心神喪失・心神耗弱)を鑑定事項とするものが実務上「精神鑑定」と呼ばれています。

精神鑑定を担当するのは医師であり、その内容は狭くは心神喪失・心神耗弱の判断になりますが、情状鑑定については医師に限らず心理学者などの専門家も担当しています。

刑事精神鑑定とは、刑法に触れる行為のために勾留されている被鑑定人(被疑者/被告人)が対象になる精神鑑定であり、実質的な運用は刑事訴訟法(第十二章 鑑定:第165条以降)に規定されています。

刑法第39条における「心神喪失(責任無能力:精神の障害により物事の理非善悪を弁識する能力(事理弁識能力)がない状態orその弁識に従って行動する能力(行動制御能力)のない状態)」および「心神耗弱(部分責任能力:心神喪失ほど能力が欠如する程度には達しないが、著しく減退している状態)」の状態であるか否かを鑑定するのが刑事責任能力鑑定=刑事精神鑑定ということになります。

刑事精神鑑定の主目的は犯行時の責任能力を解明することであるが、時には訴訟能力が争点となることもあります。

刑事訴訟法によれば、刑事精神鑑定は、裁判官の命令による「正式鑑定」(起訴後の被告人を対象とする)と、検察官の判断による「起訴前鑑定」(起訴前の被疑者を対象とする)に分類され、さらに起訴前鑑定は嘱託鑑定と簡易鑑定を含んでいます。

正式鑑定と起訴前鑑定の類似点は、被鑑定人が被疑者であること、鑑定結果が検察官の起訴/不起訴の重要な資料となること等に対し、相違点は裁判官の許可、被疑者の同意、鑑定に費やすことのできる日時などになります。

本問の選択肢④「心神喪失状態の有無」については、この精神鑑定で行っていく事項になりますから、事例の状況がどのようなものであれ、心神喪失状態の有無を情状鑑定で検討していくことはありません。

すなわち、この問題は事例問題という体ではありますが、実際は情状鑑定と精神鑑定の違いという法律の一般知識問題であると見て良いわけですね。

加害者の量刑判断では行為者事情が考慮されますが、量刑に酌むべき被告人の心理的背景を主張するために用いられるのが情状鑑定です。

すなわち「情状鑑定」の定義としては「訴因事実以外の情状を対象とし、裁判所が刑の量定、すなわち被告人に対する処遇方法を決定するために必要な知識の提供を目的とする鑑定」となります(情状鑑定は、裁判の中で裁判所が刑の量定を判断する際に行うものということになるわけですね)。

いわゆる「情状酌量」の余地について検討するのが情状鑑定であり、精神科医や公認心理師・臨床心理士が行い、犯罪の動機や原因を本人の性格や知能、生い立ちにまで遡って分析していくことになります。

情状鑑定は、精神鑑定とは異なり、心理学等によって被告人の背景へアプローチするという手法を取り、生育歴や家庭環境、反省悔悟の情なども検討する必要が出てきます。

情状鑑定ではいわば酌むべき事情や更正可能性が検討されるため、その実証性や科学性をどのように担保すべきかが問題となるわけですね。

情状鑑定における鑑定事項としては、人格調査・環境調査・犯行動機・再犯予測ないし予後判定・処遇意見があり、これらはまた、①被告人個人の資質や環境などに関する事項(事件とは直接関係しない事項も含む)、②犯行の動機・原因に関する心理学的あるいは社会学的分析、③今後の処遇や更生上で参考となる事項、に大別されます。

これら鑑定事項は、大きく「犯情」と「一般情状」に分けられます。

「犯情」は直接または間接に犯罪事実の内容に属する事情であり、例えば、犯行の動機・目的、手段方法、計画性の有無などがこれに含まれます。

他方で「一般情状」は、被告人の家庭環境、被告人の反省程度、更生可能性、処遇上の留意点なども加わってきます。

量刑判断に大きく影響してくるのは犯情であり、一般情状は量刑の微調整要素とされるのが現在の基本的な考え方です。

主たる鑑定の方法としては、面接(被告人面接、家族面接、関係人面接)・社会調査(犯行場面の調査、生活環境の調査、学校職業状況、友人等対人関係についての調査、行動観察(鑑定期間中の行動)が挙げられます。

これらを踏まえれば、性格の特性(選択肢①)、認知の特性(選択肢②)、家族の関係性(選択肢③)、犯行当時の生活状況(選択肢⑤)などは、まさにこの情状鑑定で検討する事項であると言えますね。

以上より、選択肢①、選択肢②、選択肢③および選択肢⑤は適切と判断でき、除外することになります。

また、選択肢④が不適切と判断でき、こちらを選択することになります。。

なお、本問では「刑事責任能力鑑定=刑事精神鑑定」「情状鑑定」の違いに関する理解が求められていると言えますが、鑑定には他にも「医療観察法鑑定」や「成年後見鑑定」などがあります。

医療観察法鑑定は、その名の通り医療観察法を根拠としており、その審判のために行われる鑑定で、医療観察法の処遇の3要件(疾病性・治療反応性(可能性)・社会復帰要因)について検討されます。

成年後見鑑定は、成年後見制度を利用する際に、家庭裁判所が判断能力の判定のために行われる鑑定ですね。

こうした各種鑑定の違いを理解しておくと、今後出題される問題にも対応しやすいかと思います。

2件のコメント

  1. いつもありがたく拝見させていただいております。
    あの、、、僭越ながら申し上げます。単純な表記ミスだと思いますが、本問が、誤っているものを一つ選ぶ、とありますので、解説の、「以上より」のところは、適切と不適切が入れ替わっているように思いました。

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