公認心理師 2023-31

医療観察法における医療観察制度に関する問題です。

過去問をやっておけば解きやすい問題だったと言えますね。

問31 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律〈医療観察法〉における医療観察制度について、正しいものを1つ選べ。
① 審判は、公開で行われる。
② 公認心理師は、精神保健審判員を務める。
③ 社会復帰調整官は、地方裁判所に配置される。
④ 対象者は、審判において弁護士を付添人に選任することができる。
⑤ 処遇事件に係る審判手続は、精神保健参与員の申立てにより開始される。

解答のポイント

医療観察制度に関する諸点を把握している。

選択肢の解説

① 審判は、公開で行われる。

こちらについては医療観察法第31条を見ていきましょう。


(審判期日)
第三十一条 審判のため必要があると認めるときは、審判期日を開くことができる。
2 審判期日における審判の指揮は、裁判官が行う。
3 審判期日における審判は、公開しない。
4 審判期日における審判においては、精神障害者の精神障害の状態に応じ、必要な配慮をしなければならない。
5 裁判所は、検察官、指定医療機関(病院又は診療所に限る。)の管理者又はその指定する医師及び保護観察所の長又はその指定する社会復帰調整官に対し、審判期日に出席することを求めることができる。
6 保護者(第二十三条の三の規定により保護者となる市町村長については、その指定する職員を含む。)及び付添人は、審判期日に出席することができる。
7 審判期日には、対象者を呼び出し、又はその出頭を命じなければならない。
8 対象者が審判期日に出席しないときは、審判を行うことができない。ただし、対象者が心身の障害のため、若しくは正当な理由がなく審判期日に出席しない場合、又は許可を受けないで退席し、若しくは秩序維持のために退席を命ぜられた場合において、付添人が出席しているときは、この限りでない。
9 審判期日は、裁判所外においても開くことができる。


上記の通り、審判は非公開で行われます。

ただし、被害者やその遺族等に対しては、審判の傍聴を認めたり、決定内容を通知することができます(同法47条、48条)。

さらに、被害者等に対し、希望すれば加害者である対象者の処遇段階(入院処遇、地域社会における処遇、処遇終了)に関する事項、地域社会における処遇中の状況に関する情報の提供を受けることができる制度があります。

提供される情報は、①加害者の氏名、②加害者の処遇段階(入院処遇、地域社会における処遇、処遇終了)及びその開始又は終了年月日、③加害者の事件が係属している(係属していた)保護観察所の名称、所在地及び連絡先、④地域社会における処遇中の保護観察所による加害者との接触状況(直近 6ヶ月間における面接等の回数)になります。

被害者側の被害感情を含む被害回復の機会の確保という観点からは評価されるべき制度ではありますが、加害者の社会復帰という観点からすると、場合によりその社会復帰の阻害要因足り得るので、この辺のバランスが難しいところなのでしょう。

対象者の出席が審判の条件となりますが、心身の障害のため、若しくは正当な理由がなく出席しない場合、許可を受けないで退席し、若しくは秩序維持のために退席を命ぜられた場合において、付添人が出席している時はこの限りではない(31条7~8項) とされており、対象者本人が不在のまま処遇が決定されることも予定されています。

以上より、選択肢①は誤りと判断できます。

② 公認心理師は、精神保健審判員を務める。

精神保健審判員については、第6条に規定があります。


(精神保健審判員)
第六条 精神保健審判員は、次項に規定する名簿に記載された者のうち、最高裁判所規則で定めるところにより地方裁判所が毎年あらかじめ選任したものの中から、処遇事件ごとに地方裁判所が任命する。
2 厚生労働大臣は、精神保健審判員として任命すべき者の選任に資するため、毎年、政令で定めるところにより、この法律に定める精神保健審判員の職務を行うのに必要な学識経験を有する医師(以下「精神保健判定医」という。)の名簿を最高裁判所に送付しなければならない。
3 精神保健審判員には、別に法律で定めるところにより手当を支給し、並びに最高裁判所規則で定めるところにより旅費、日当及び宿泊料を支給する。


上記の通り、精神保健審判員は医師であることが定められていますね。

ですから、精神保健審判員とは「心神喪失・心神耗弱の状態で重大な他害行為を行い、不起訴処分または無罪が確定した人に対して、医療観察法に基づく医療・観察の要否を、検察官と合議して決定する精神科医」ということになります。

審判の過程では、合議体の精神科医(精神保健審判員)とは別の精神科医による詳しい鑑定が行われるほか、必要に応じて保護観察所による生活環境(居住地や家族の状況,利用可能な精神保健福祉サービスなどその人を取り巻く環境)の調査が行われます。

裁判所では、この鑑定の結果を基礎とし、生活環境を考慮して、更に、必要に応じ精神保健福祉の専門家(精神保健参与員)の意見も聴いた上で、この制度による医療の必要性について判断することになります。

現時点では、少なくとも「公認心理師」という資格が、医療観察法の規定に基づいて運用されると思しき記述は見当たりません。

もちろん、医療観察法病棟などで公認心理師が関わることはあるでしょうが。

以上より、選択肢②は誤りと判断できます。

③ 社会復帰調整官は、地方裁判所に配置される。

こちらについては、医療観察法第20条を見ていきましょう。


(社会復帰調整官)
第二十条 保護観察所に、社会復帰調整官を置く。
2 社会復帰調整官は、精神障害者の保健及び福祉その他のこの法律に基づく対象者の処遇に関する専門的知識に基づき、前条各号に掲げる事務に従事する。
3 社会復帰調整官は、精神保健福祉士その他の精神障害者の保健及び福祉に関する専門的知識を有する者として政令で定めるものでなければならない。


上記の通り、社会復帰調整官は保護観察所に置かれています。

社会復帰調整官は、精神障害者の保健及び福祉等に関する専門的知識に基づき、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った人の社会復帰を促進するため、生活環境の調査、生活環境の調整、、精神保健観察等の業務に従事します(こちらのパンフレットを参照すると良いでしょう)。

このことからもわかる通り(そして、その名称の通り)、社会復帰調整官は対象者の社会復帰を促進するのが役割ですから、司法の場である地方裁判所ではなく、保護観察所に置かれるのはごく自然なことだと言えますね。

以上より、選択肢③は誤りと判断できます。

④ 対象者は、審判において弁護士を付添人に選任することができる。

付添人については、医療観察法第30条に規定されていますね。


(付添人)
第三十条 対象者及び保護者は、弁護士を付添人に選任することができる。
2 裁判所は、特別の事情があるときは、最高裁判所規則で定めるところにより、付添人の数を制限することができる。
3 裁判所は、対象者に付添人がない場合であって、その精神障害の状態その他の事情を考慮し、必要があると認めるときは、職権で、弁護士である付添人を付することができる。
4 前項の規定により裁判所が付すべき付添人は、最高裁判所規則で定めるところにより、選任するものとする。
5 前項の規定により選任された付添人は、旅費、日当、宿泊料及び報酬を請求することができる。


このように、対象者(要するに事件を起こした人)は、弁護士を付添人として選任することができるとされています(付添人に関しては、こちらのパンフレットがわかりやすいです)。

医療観察法の審判において、刑事訴訟でいう「弁護人」のような役割を担うのが「付添人」だと認識しておくとわかりやすいかもしれません。

審判において、付添人・保護者には出席する権利があります(医療観察法31条6項)。

審判期日において裁判所は、対象者の供述を求めることができ(医療観察法43条1項)、精神保健審判員、検察官、付添人なども、供述を求めることができます(医療観察法43条2項)。

これは普通の刑事訴訟でいう被告人質問に似ており、質問をする人の順番は、とくに法定されていないようですが、付添人が最初に質問をするのが通常のようです(刑事訴訟の被告人質問でも、普通は弁護人が最初に質問をします)。

以上のように、対象者は審判において弁護士を付添人として選任することができます。

よって、選択肢④が正しいと判断できます。

⑤ 処遇事件に係る審判手続は、精神保健参与員の申立てにより開始される。

精神保健参与員については医療観察法第15条を見ていきましょう。


(精神保健参与員)
第十五条 精神保健参与員は、次項に規定する名簿に記載された者のうち、地方裁判所が毎年あらかじめ選任したものの中から、処遇事件ごとに裁判所が指定する。
2 厚生労働大臣は、政令で定めるところにより、毎年、各地方裁判所ごとに、精神保健福祉士その他の精神障害者の保健及び福祉に関する専門的知識及び技術を有する者の名簿を作成し、当該地方裁判所に送付しなければならない。
3 精神保健参与員の員数は、各事件について一人以上とする。
4 第六条第三項の規定は、精神保健参与員について準用する。


上記からは審判手続の開始に絡むことは触れられていませんね。

そもそも精神保健参与員とは何ぞや?という話だと思うので、その辺を簡単に述べておきましょう。

精神保健参与員とは「審判において精神保健福祉の観点から必要な意見を述べる者」であり、推薦基準として「精神保健福祉士として5年以上の実務経験を有する者」があります(こちらを参照)。

医療観察法の目的である社会復帰の促進を果たす上において、精神障害者の保健及び福祉の専門家である精神保健参与員は重要な役割を担うものであり、その処遇に関して精神保健福祉の観点に基づく専門的かつ慎重な判断・意見を述べる立場にあるわけです。

ですが、上記の通り、審判開始の手続に関係してくることはなく、審判が始まった後に出番があるということですね。

では、審判開始の手続の開始に絡んでくるのは誰になるのかを知っておくことが大切になります。

この点については以下のように規定されています。


(検察官による申立て)
第三十三条 検察官は、被疑者が対象行為を行ったこと及び心神喪失者若しくは心神耗弱者であることを認めて公訴を提起しない処分をしたとき、又は第二条第二項第二号に規定する確定裁判があったときは、当該処分をされ、又は当該確定裁判を受けた対象者について、対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するためにこの法律による医療を受けさせる必要が明らかにないと認める場合を除き、地方裁判所に対し、第四十二条第一項の決定をすることを申し立てなければならない。ただし、当該対象者について刑事事件若しくは少年の保護事件の処理又は外国人の退去強制に関する法令の規定による手続が行われている場合は、当該手続が終了するまで、申立てをしないことができる。
2 前項本文の規定にかかわらず、検察官は、当該対象者が刑若しくは保護処分の執行のため刑務所、少年刑務所、拘置所若しくは少年院に収容されており引き続き収容されることとなるとき、又は新たに収容されるときは、同項の申立てをすることができない。当該対象者が外国人であって出国したときも、同様とする。
3 検察官は、刑法第二百四条に規定する行為を行った対象者については、傷害が軽い場合であって、当該行為の内容、当該対象者による過去の他害行為の有無及び内容並びに当該対象者の現在の病状、性格及び生活環境を考慮し、その必要がないと認めるときは、第一項の申立てをしないことができる。ただし、他の対象行為をも行った者については、この限りでない。


上記の通り、医療観察制度では、心神喪失又は心神耗弱の状態で重大な他害行為を行い、不起訴処分となるか無罪等が確定した人に対して、検察官が、医療観察法による医療及び観察を受けさせるべきかどうかを地方裁判所に申立てを行います。

検察官からの申立てがなされると、鑑定を行う医療機関での入院等が行われるとともに、裁判官と精神保健審判員(必要な学識経験を有する医師)の各1名からなる合議体による審判で、本制度による処遇の要否と内容の決定が行われます。

審判の結果、医療観察法の入院による医療の決定を受けた人に対しては、厚生労働大臣が指定した医療機関(指定入院医療機関)において、手厚い専門的な医療の提供が行われるとともに、この入院期間中から、法務省所管の保護観察所に配置されている社会復帰調整官により、退院後の生活環境の調整が実施されます。

このように、処遇事件に係る審判手続は、精神保健審判員ではなく検察官の申立てによって開始されることがわかりますね。

以上より、選択肢⑤は誤りと判断できます。

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