動的リスク要因・静的リスク要因の弁別が求められている問題です。
簡単に言えば「現在から変え得るもの」であるか否かで判断していくことになります。
問154 35歳の男性A。Aは、14歳のときに強制わいせつ事件を起こして以来、性犯罪の事件で3度逮捕されたほか、暴行罪で検挙されたことがあり、これまで2回服役している。Aは、社会復帰してから再び事件を起こさないよう自制した生活を送っていたが、自宅で飲酒をしているうちに、気持ちがいらだって外出し、電車の中で痴漢行為をした。逮捕されたAは、「ちょっと触ったのは事実だが、被害は与えていない」と否認していた。
Aの更生に向けた働きかけの方法を特定するために必要な動的リスク要因として、適切なものを2つ選べ。
① 飲酒
② 暴行罪
③ 初発非行
④ 犯罪に対する認識
⑤ 幼児期の親子関係
解答のポイント
動的リスク要因・静的リスク要因の弁別ができる。
選択肢の解説
① 飲酒
② 暴行罪
③ 初発非行
④ 犯罪に対する認識
⑤ 幼児期の親子関係
犯罪リスク・アセスメントでは、再犯リスクを高める要因のことを犯因論的(=犯罪が引き起こされる原因になるという意味)リスク要因(criminogenic risk factor)と呼びます。
犯因論的リスク要因は、犯罪者処遇において改善の目標にならない静的リスク要因(static risk factor)と、改善の目標になる動的リスク要因(dynamic risk factor)の2種類に分類されます。
「静的リスク要因」は、再犯リスクを高める犯因論的リスク要因の中でも、後から変化させることが不可能な要因のことを指し、過去の犯罪歴、性別、初発犯罪年齢等の要因がこれに該当します。
静的リスク要因は、処遇、教育によって変化させたり、改善させる余地はないが、将来の再犯との関連性が高く、再犯予測においては予測力の高い変数となります。
取り消すことができない要因が、高い予測力を持つとすれば、それだけ犯罪者の再犯防止教育は困難ということが言えますね。
本問の選択肢における、暴行罪(選択肢②:過去の犯罪歴)、初発非行(選択肢③:これも過去の犯罪歴に近い。もしかすると初発犯罪年齢を意識したものかも?)、幼児期の親子関係(選択肢⑤:過去は変えるものではなく受け容れるものなのさ)などは静的リスク要因に該当することになります。
ですから、この時点でこれらの選択肢が除外されるわけですね(残る選択肢は2つ。そして正答も2つだから解けたも同然)。
動的リスク要因は、再犯リスクを高める犯因論的リスク要因の中で、後から変化させることが可能な要因のことを指し、家庭環境の問題や自己統制力の低さ、過去半年の薬物使用、不就労等の要因などが該当します。
動的リスク要因は、処遇によって変化させることが可能であるため、犯罪者に対する処遇・教育においてはこれを低下させることが介入の主な目標となります。
例えば、劣悪な家庭環境が再犯リスクを高める要因になるのであれば、処遇は対象者の家庭環境を改善することを目標にすれば良いということになりますが、動的リスク要因は将来の犯罪との関連の強さや再犯の予測力は、一般的に静的リスク要因に比べて劣っているとされています。
なお、動的リスク要因は、時間的安定性の面から動的・安定的リスク要因(dynamicstable risk factor)と動的・急性的リスク要因(dynamic acute risk factor)に細分されることがあります。
動的・安定的リスク要因は、動的リスク要因の内でも数か月から数年程度に渡って持続する比較的安定したリスク要因とされ、自己統制力の乏しさ、性的暴力への肯定的態度、認知の歪みといったものがそれに該当します。
一方、動的・急性的リスク要因は、先の動的・安定的リスク要因と対比して非安定的な動的リスク要因を意味し、状況に応じて数秒から数週間程度で変化する時間的安定性が低い動的リスク要因であり、否定的な気分や怒り、飲酒による酩酊といったものが該当します。
さて、残る選択肢の飲酒(選択肢①:酒を飲む飲まないは変えることが可能)および犯罪に対する認識(選択肢④:こうした認知の歪みは動的リスクになる)などは動的リスクとなります。
個人的には犯罪に対する認識ってなかなか変わらないなぁと思うことも多いのですが、理論上は動的リスク要因になるわけですね。
内閣府のこちらのサイトでも、以下のように分けられています。
- 固定リスク
ほとんど変化しない。長期的な再犯予測に関連性が高い。
若年、犯罪歴、面識のない被害者、保護観察中再犯歴等 - 可変・安定リスク
数ヶ月~数年持続する性格特徴等の比較的安定した要因。
治療的介入のターゲット。自己統制の弱さ、暴力に肯定的な態度、認知の歪み等 - 可変・急性リスク
状況に応じて数週間~数秒で変化。再発の誘因となりやすいので社会内で要注意。否定的気分、怒り、酩酊、潜在的被害者への接近、社会的サポート喪失等
上記の「固定リスク」が静的リスク要因、「可変リスク」が動的リスク要因で安定・急性で分けてあることからも「犯因論的リスク要因」の考え方を導入していることがわかります。
犯罪に対する認識は、上記の中では「可変・安定リスク=動的・安定的リスク要因」になるのでしょうね。
今現在、備えているものだから「可変」であるということですね。
以上より、選択肢②、選択肢③および選択肢⑤は静的リスク要因なので不適切と判断でき、選択肢①および選択肢④は動的リスク要因として適切と判断できます。