公認心理師 2021-24

保護観察所において生活環境の調整が開始される時期に関する問題です。

法律や規則を少し読み込まないといけない問題でしたね。

問24 保護観察所において生活環境の調整が開始される時期として、正しいものを1つ選べ。
① 家庭裁判所の審判が開始される時点
② 医療及び観察等の審判が開始される時点
③ 矯正施設から身上調査書を受理した時点
④ 矯正施設において、仮釈放(仮退院)の審査を始めた時点
⑤ 矯正施設から仮釈放(仮退院)を許すべき旨の申出が行われた時点

解答のポイント

保護観察所において生活環境の調整が開始される時期を把握している。

選択肢の解説

③ 矯正施設から身上調査書を受理した時点

まずこちらは適切な選択肢の解説から入っていきましょう。

まずは身上調査書に関してですが、こちらは「犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則」に詳しい記載があります。


第七条(身上関係事項の通知等) 刑事施設の長又は少年院の長は、懲役若しくは禁錮の刑に処せられた者又は少年法第二十四条第一項第三号の保護処分を受けた者を収容したときは、速やかに、当該刑事施設又は少年院の所在地を管轄する地方委員会及び刑事施設又は少年院に収容された者に係る帰住予定地を管轄する保護観察所の長に対し、書面により、次に掲げる事項を通知しなければならない。これらの事項に変動が生じた場合における当該変動に係る事項についても、同様とする。
一 刑事施設等被収容者の氏名、生年月日及び本籍
二 懲役又は禁錮の刑に処せられた者についてはその刑の言渡しをした裁判所の名称、言渡し及び確定の年月日並びに罪名、刑名及び刑期、少年法第二十四条第一項第三号の保護処分を受けた者についてはその保護処分をした家庭裁判所の名称、その年月日及び非行名
三 懲役又は禁錮の刑に処せられた者については収容した日、刑期の起算日及び終了日並びに刑法第二十八条又は少年法第五十八条第一項に規定する期間の末日、少年法第二十四条第一項第三号の保護処分を受けた者については収容した日及び収容すべき期間の終了日
四 犯罪又は非行の概要、動機及び原因
五 共犯者の状況
六 被害者等の状況
七 生活歴
八 心身の状況
九 懲役又は禁錮の刑の執行のため刑事施設に収容された者については刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律第百三条の規定による指導の区分、懲役若しくは禁錮の刑又は保護処分の執行のため少年院に収容された者については個人別矯正教育計画
十 帰住予定地
十一 引受人又は引受人以外の者であって矯正施設被収容者が釈放された後にその者の改善更生のために協力する者の状況
十二 釈放後の生活の計画
十三 その他参考となる事項


これが身上調査書の中身に関する規定になります。

保護観察所では、刑事施設又は少年院における収容者の入所時等の情報について、各刑事施設からは「身上調査書」及び「身上変動通知書」、各少年院から「身上調査書」及び「身上変動通知書」により情報提供を受けています。

刑事施設の長又は少年院の長は、これを送ることが定められているわけです。

本問で問われているのは、こちらが矯正施設から送られてくる段階で「生活環境の調整」が開始されるか否かですね。

まず、生活環境の調整は「刑事施設や少年院などの矯正施設に収容されている人の釈放後の住居や就業先などの帰住環境を調査し、改善更生と社会復帰にふさわしい生活環境を整えることによって、仮釈放等の審理の資料等にするとともに円滑な社会復帰を目指すもの」になります。

生活環境の調整については、「犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則」に詳しく述べてありますが、ちょっとややこしいです。


第百十一条(生活環境の調整の計画並びに保護観察官及び保護司の指名) 第四十二条及び第四十三条の規定は、法第八十二条第一項、法第八十三条及び売春防止法第二十四条第一項の規定による生活環境の調整について準用する。この場合において、第四十二条第一項中「犯罪又は非行の要因及び改善更生に資する事項について分析し、指導監督及び補導援護の方法、保護観察を実施する上での留意事項等」とあるのは「調整を要する事項及び行うべき調整の内容」と、第四十三条第一項中「分析並びに実施計画」とあるのは「実施計画」と、同条第一項、第二項及び第四項中「指導監督及び補導援護」とあるのは「生活環境の調整」と読み替えるものとする


上記の太字の部分の読み替えを見てみると、以下のようになります(読み替えも行っておきます)。


第四十三条(保護観察官及び保護司の指名) 保護観察所の長は、保護観察を実施するときは、当該保護観察を担当する保護観察官を指名し、その者に前条第一項本文及び第二項の規定による分析並びに実施計画の作成及び見直し並びに指導監督及び補導援護【生活環境の調整】を行わせるものとする。

2 保護観察所の長は、前項の場合において、必要があると認めるときは、保護観察官と協働して指導監督及び補導援護【生活環境の調整】を行う保護司を指名するものとする。

3 保護観察所の長は、前二項の場合において、特に必要があると認めるときは、複数の保護観察官又は保護司を指名することができる。

4 保護観察所の長は、前二項の規定により保護司を指名したときは、指導監督及び補導援護【生活環境の調整】を行うことに関し、保護司に過重な負担とならないよう、保護司に対して十分に指導及び助言を行うとともに、第一項の保護観察官をして保護司との緊密な連絡を保たせるものとする。


つまり、保護観察を開始する時に合わせて「生活環境の調整」も開始になるということですね。

先述のように、刑事施設の長又は少年院の長は新たに刑事施設等被収容者を収容した場合、当該刑事施設等の所在地を管轄する地方更生保護委員会及び刑事施設等被収容者にかかる帰住予定地を管轄する保護観察所の等に対し、身上調査書を送ることが定められています。

そして、保護観察所において保護観察を開始する段階で、同時に「生活環境の調整」も行うことになるわけですね。

本選択肢にあるように「矯正施設」の場合、仮釈放から保護観察までの流れは、①刑事施設等の長から収容中の者の身上関係事項の通知を受け、②保護観察所の長が「生活環境の調整」を行う中で、③「法定期間」が経過し、④調査を行って「申出によらない審理」を行い又は矯正施設の長からの申し出に基づき「審理」を開始し、⑤調査を行って、⑥仮釈放を許す旨の決定を行う手続きとなります(こちらの資料を参考にしました)。

以上より、保護観察所において生活環境の調整が開始されるのは、刑事施設等の長から収容中の者の身上関係事項の通知を受けた直後になりますね。

よって、選択肢③が正しいと判断できます。

① 家庭裁判所の審判が開始される時点

そもそもとして、保護観察は何を行うかを理解しておくことが大切です。

保護観察は、国が犯罪をした者及び非行のある少年に対し、強制的に施設の中に収容又は拘禁することなく、通常の社会生活を営ませながら、遵守事項という一定の条件を課したうえで、これらが守られるように継続的かつ個別的な処遇を行い、その再犯防止と改善更生を図ろうとするものです。

保護観察には指導監督と補導援護があり、以下の図がわかりやすいです。

なお、保護観察対象者としては、①保護観察処分少年、②少年院仮退院者、③仮釈放者、④保護観察付執行猶予者、⑤婦人補導院仮退院者の5種類が挙げられます。

対象者が再び社会に戻った場合、犯罪や非行に至った際の生活環境が改善されていない又は適切な生活環境が準備されていない場合には、再び犯罪や非行に至る要因ともなり得ます。

そこで、対象者の社会復帰を円滑にするためには、保護観察の段階から保護観察後の生活環境を整えておくことが必要となるわけですね。

上記を踏まえれば、本選択肢の内容は明らかに間違いであることがわかるはずです。

「家庭裁判所の審判が開始される時点」というのは、対象者の少年院送致や保護観察処分になったことも決定されていない段階ですから、この段階で生活環境の調整が開始されることはあり得ませんね。

以上より、選択肢①は誤りと判断できます。

④ 矯正施設において、仮釈放(仮退院)の審査を始めた時点
⑤ 矯正施設から仮釈放(仮退院)を許すべき旨の申出が行われた時点

まず、これらの選択肢の「矯正施設」とは、犯罪を行った者や非行のある少年を収容し、改善更生のための処遇を行う施設を指し、狭義では、法務省所管の刑務所、少年刑務所、拘置所、少年院、少年鑑別所及び婦人補導院のことになります。

選択肢①の家庭裁判所もしくは裁判所において「全部執行猶予」や「保護観察処分」ではない限り、この矯正施設に送られることになり、こちらを何らかの形で出た後が保護観察所になります。

つまり、ざっくりとした流れで言うと、①家庭裁判所や裁判所→②矯正施設→③保護観察所、になるわけです。

これを踏まえて、選択肢④および選択肢⑤を見ていきましょう。

上記の審査に関しては「犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則」にて以下のように規定されています。


第九条(審査) 矯正施設の長は、次に掲げる者について、仮釈放、仮出場、少年院からの仮退院又は婦人補導院からの仮退院を許すべき旨の申出をするか否かに関する審査を行わなければならない。
一 刑の執行のため収容している者
二 労役場に留置している者
三 保護処分の執行のため収容している者
四 補導処分の執行のため収容している者

第十一条(審査の時期) 懲役又は禁錮の刑の執行のため刑事施設又は少年院に収容している者の審査は、法定期間の末日までに行い、その後の審査は、少なくとも六月ごとに行うものとする。

2 保護処分の執行のため少年院に収容している者の審査は、少年院法第十六条に規定する処遇の段階が最高段階に達したとき又は第三十条に定める基準に該当する見込みがあると認めるときに行うものとする。

3 婦人補導院に収容している者の審査は、その収容の日から二月を経過する日までに行うものとする。


これらの記述を踏まえれば、選択肢④と選択肢⑤では、選択肢⑤が先に行われることがわかります。

そして、こうした申し出を受けて、以下に規定されている審査を行うわけです。


第十七条(仮釈放等の審理開始の判断のための調査) 法第三十六条第一項の規定による調査は、次条各号に掲げる事項について行うものとする。

2 地方委員会は、法第三十六条第一項の規定による調査においては、その対象となる者に対し、釈放後の生活の計画その他の仮釈放等の審理を開始するか否かを判断するために必要な事項を記載した書面の提出を求めることができる。

第十八条(仮釈放等の審理における調査事項) 仮釈放等を許すか否かに関する審理は、次に掲げる事項を調査して行うものとする。
一 犯罪又は非行の内容、動機及び原因並びにこれらについての審理対象者の認識及び心情
二 共犯者の状況
三 被害者等の状況
四 審理対象者の性格、経歴、心身の状況、家庭環境及び交友関係
五 矯正施設における処遇の経過及び審理対象者の生活態度
六 帰住予定地の生活環境
七 引受人等の状況
八 釈放後の生活の計画
九 その他審理のために必要な事項


審査では上記のような事項を調査しますが、ここが本問のひっかけポイントだと思われます。

こちらの事項の内容はあくまでも「仮釈放等の審理における調査事項」ですが、選択肢③の「身上調査書」の内容と類似していますね。

ここがごっちゃになっていると「「矯正施設において、仮釈放(仮退院)の審査を始めた時点」で調べている内容が送られてきてから生活環境の調整が行われるのではないか?」と勘違いしてしまう恐れがあります。

こちらはあくまでも「仮釈放等の審理における調査事項」ですから、生活環境の調整が開始されるに先立って送られる身上調査書とは別物だと考えておきましょう。

さて、こうした審査を経て仮釈放を許す旨の決定がなされるわけですが、大まかにまとめておくと以下の順序になります。

  1. 矯正施設に収容
  2. 委員・保護観察官による調査
  3. 矯正施設長から仮釈放等の申し出を受理
  4. 合議体による審理
  5. 合議体による評議
  6. 仮釈放等を許す旨の決定
  7. 保護観察へ

これらを踏まえれば、選択肢⑤や選択肢④を経て選択肢③になっていくことがわかりますね。

そして、先述の通り、選択肢③の時点で生活環境の調整が開始されることになります。

よって、選択肢④および選択肢⑤は誤りと判断できます。

② 医療及び観察等の審判が開始される時点

こちらは他選択肢とは枠組みが違う内容であり、医療観察に関するものになっています。

「医療観察制度」は、心神喪失又は心神耗弱の状態で(精神の障害のために善悪の区別がつかないなど,通常の刑事責任を問えない状態のことをいいます)、殺人、放火等の重大な他害行為を行った人の社会復帰を促進することを目的とした処遇制度です。

平成15年に成立した「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」に基づき、適切な処遇を決定するための審判手続が設けられたほか、入院決定(医療を受けさせるために入院をさせる旨の決定)を受けた人については、厚生労働省所管の指定入院医療機関による専門的な医療が提供され、その間、保護観察所は、その人について、退院後の生活環境の調整を行います。

また、通院決定(入院によらない医療を受けさせる旨の決定)を受けた人及び退院を許可された人については、原則として3年間、厚生労働省所管の指定通院医療機関による医療が提供されるほか、保護観察所による精神保健観察に付され、必要な医療と援助の確保が図られます。

医療観察法における「審判」とは、心神喪失状態の人が犯罪を犯した際に裁判所が入院や通院を決める制度のことを指します。

この点についてはこちらの資料が詳しいです。

こちらによると、まず対象となる人について「検察官」が、地方裁判所に対して申し立てを行うことによって「審判」が開始されます。

申し立てがなされると、裁判官による鑑定入院命令により、対象者は、原則として裁判官の指定する医療施設に入院することになり、そこで鑑定医による「鑑定」を受けることになります。

鑑定入院の期間は、2か月以内(延長された場合は3か月)とされています。

そして、裁判所の求めにより、保護観察所の社会復帰調査官による「生活環境の調査」が行われます(ここで行われるのは「調査」であり「調整」ではないことに注意)。

その後、入院決定を受けた人は「指定入院医療機関」に入院し、手厚い専門的な医療を受けることになります。

入院中の対象者については、退院後の社会復帰の促進を図るため、保護観察所の社会復帰調査官による「生活環境の調整」が行われます(これが本問で問われているところ)。

こちらの内容に関しては以下の通りです。


第百一条(生活環境の調整) 保護観察所の長は、第四十二条第一項第一号又は第六十一条第一項第一号の決定があったときは、当該決定を受けた者の社会復帰の促進を図るため、当該決定を受けた者及びその家族等の相談に応じ、当該決定を受けた者が、指定入院医療機関の管理者による第九十一条の規定に基づく援助並びに都道府県及び市町村による精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第四十七条又は第四十九条、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律第二十九条その他の精神障害者の保健又は福祉に関する法令の規定に基づく援助を受けることができるようあっせんする等の方法により、退院後の生活環境の調整を行わなければならない。


医療観察法においては、対象者はこのような流れで生活環境の調整に進むことになるわけですね。

以上のように、「生活環境の調査」であれば本選択肢の記述で正しいだろうと思いますが、本問で問われているのは「生活環境の調整が開始される時期」ですから本選択肢の時点は合致しませんね。

よって、選択肢②は誤りと判断できます。

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