公認心理師 2021-148

裁判員制度に関する問題です。

裁判員制度に関する問題は「公認心理師 2018-53」でも出題がありますね。

本問と関連する内容も含まれていますから、復習しておくと良いでしょう。

問148 35歳の男性A、会社員。Aは、不眠を主訴として勤務する会社の相談室を訪れ、相談室の公認心理師Bが対応した。Aによると、最近、Aはある殺人事件の裁判員となった。裁判は8日間のうちに4回実施される。裁判開始前からAは守秘義務の遵守が負担となっていたが、1回目、2回目の裁判の後はほとんど眠れなかったという。BはAの気持ちを受け止め、不眠に対する助言をしたが、Aは、「裁判は残り2回あるが、どうすればよいか」と、Bにさらに助言を求めた。
 BのAへの助言として、適切なものを1つ選べ。
① 裁判所に連絡するよう伝える。
② 理由や詳細を述べることなく辞任ができることを伝える。
③ 具合の悪い日は、補充裁判員に代理を務めてもらうよう伝える。
④ 評議を含め裁判内容については、親しい友人か家族に話を聞いてもらうよう伝える。
⑤ 評議を含め裁判内容についてのカウンセリングは、裁判終了後に可能になると伝える。

解答のポイント

裁判員制度に関する理解を有している。

選択肢の解説

① 裁判所に連絡するよう伝える。
② 理由や詳細を述べることなく辞任ができることを伝える。

これらの選択肢に関しては、裁判員法(裁判員の参加する刑事裁判に関する法律)における裁判員の辞任についての条項を把握しておきましょう。


第十六条(辞退事由) 次の各号のいずれかに該当する者は、裁判員となることについて辞退の申立てをすることができる。
一 年齢七十年以上の者
二 地方公共団体の議会の議員(会期中の者に限る。)
三 学校教育法第一条、第百二十四条又は第百三十四条の学校の学生又は生徒(常時通学を要する課程に在学する者に限る。)
四 過去五年以内に裁判員又は補充裁判員の職にあった者
五 過去三年以内に選任予定裁判員であった者
六 過去一年以内に裁判員候補者として第二十七条第一項に規定する裁判員等選任手続の期日に出頭したことがある者
七 過去五年以内に検察審査会法の規定による検察審査員又は補充員の職にあった者
八 次に掲げる事由その他政令で定めるやむを得ない事由があり、裁判員の職務を行うこと又は裁判員候補者として第二十七条第一項に規定する裁判員等選任手続の期日に出頭することが困難な者
イ 重い疾病又は傷害により裁判所に出頭することが困難であること。
ロ 介護又は養育が行われなければ日常生活を営むのに支障がある同居の親族の介護又は養育を行う必要があること。
ハ その従事する事業における重要な用務であって自らがこれを処理しなければ当該事業に著しい損害が生じるおそれがあるものがあること。
ニ 父母の葬式への出席その他の社会生活上の重要な用務であって他の期日に行うことができないものがあること。
ホ 重大な災害により生活基盤に著しい被害を受け、その生活の再建のための用務を行う必要があること。


これらが法律で定められている事項になります。

裁判員制度に関するホームページではより具体的に以下の通り記されています(上記と重なる部分はありますが、より読みやすい文章になっていると思います)。

  1. 重い病気又はケガにより裁判に出席することが困難になった場合
  2. 介護又は養育が行われなければ日常生活を営むのに支障がある親族又は同居人の介護又は養育を行う必要が生じた場合
  3. 従事している仕事について、自ら処理しなければ著しい損害が生じるおそれのある重要な用務が生じた場合
  4. 父母の葬式への出席など社会生活上の重要な用務であって他の期日に行うことができないものが生じた場合
  5. 重大な災害で被害を受け、生活再建のための用務を行う必要が生じた場合
  6. 親族又は同居人が重い病気又はケガの治療を受ける場合において、その治療に伴い必要と認められる通院又は入退院に付き添う必要が生じた場合
  7. 妻又は娘が出産する場合において、その出産に伴い必要と認められる入退院に付き添い、又は出産に立ち会う必要が生じた場合

以上の場合において、裁判所に対して裁判員の辞任を申し立てることができるとされています。

このように、ある程度辞任の要件は定められており、選択肢②にあるように「理由や詳細を述べることなく辞任ができる」というのは間違った情報になります。

そして、裁判所が裁判員の辞任を認めない限り、裁判員は裁判に出席する義務があります。

正当な理由がないのに裁判所に出頭しない場合には、10万円以下の過料の制裁を受けることがあります。

なお、裁判員に選ばれると、法令に従い、公平誠実にその職務を行うことを宣誓する義務を負いますので、正当な理由がなくこの宣誓を拒んだ場合にも、10万円以下の過料の制裁を受けることがあります。

ですから、選択肢②のような間違った情報を与えることで、クライエントが損害を被ることは絶対に避ける必要があります。

正しい情報の把握は、心理支援者の重要な責務の一つと言えるでしょう(公認心理師法第43条の「資質向上の責務」に該当すると言えなくもないでしょうね)。

では、本事例のクライエントはどうすれば良いのか考えてみましょう。

まずは裁判員等の申し立てによる解任に関する条項を見ていきましょう。


第四十四条(裁判員等の申立てによる解任) 裁判員又は補充裁判員は、裁判所に対し、その選任の決定がされた後に生じた第十六条第八号に規定する事由により裁判員又は補充裁判員の職務を行うことが困難であることを理由として辞任の申立てをすることができる。

2 裁判所は、前項の申立てを受けた場合において、その理由があると認めるときは、当該裁判員又は補充裁判員を解任する決定をしなければならない。


上記の第16条第8号とは上記にある通りで、本事例の場合「重い疾病又は傷害により裁判所に出頭することが困難であること」に該当する可能性が考えられます。

こちらについては「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第十六条第八号に規定するやむを得ない事由を定める政令」がありますので、この内容を見ていきましょう。


内閣は、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第十六条第八号の規定に基づき、この政令を制定する。

裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第十六条第八号に規定する政令で定めるやむを得ない事由は、次に掲げる事由とする。

一 妊娠中であること又は出産の日から八週間を経過していないこと。

二 介護又は養育が行われなければ日常生活を営むのに支障がある親族(同居の親族を除く。)又は親族以外の同居人であって自らが継続的に介護又は養育を行っているものの介護又は養育を行う必要があること。

三 配偶者(届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)、直系の親族若しくは兄弟姉妹又はこれらの者以外の同居人が重い疾病又は傷害の治療を受ける場合において、その治療に伴い必要と認められる通院、入院又は退院に自らが付き添う必要があること。

四 妻(届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)又は子が出産する場合において、その出産に伴い必要と認められる入院若しくは退院に自らが付き添い、又は出産に自らが立ち会う必要があること。

五 住所又は居所が裁判所の管轄区域外の遠隔地にあり、裁判所に出頭することが困難であること。

六 前各号に掲げるもののほか、裁判員の職務を行い、又は裁判員候補者として法第二十七条第一項に規定する裁判員等選任手続の期日に出頭することにより、自己又は第三者に身体上、精神上又は経済上の重大な不利益が生ずると認めるに足りる相当の理由があること。


上記の第6号が本事例に該当する可能性があると言えそうです。

明確に「自己又は第三者に身体上、精神上又は経済上の重大な不利益が生ずると認めるに足りる相当の理由があること」と精神上の問題も含めて述べていますね。

本事例の「裁判開始前からAは守秘義務の遵守が負担となっていたが、1回目、2回目の裁判の後はほとんど眠れなかった」という状況を踏まえると、このまま状態が悪化していく可能性も考えねばなりません(裁判はまだ半分を終えた段階ですからね)。

ただし、当然ですが一度決まっている裁判員を解任するか否かは公認心理師が決めることではありません。

これは裁判所が決定することですから、この時点で言えることは選択肢①の「裁判所に連絡するよう伝える」ということに留まるだろうと言えます。

以上より、裁判員は理由や詳細を述べずに辞退することはできず(過料もあり得る)、一定の事由により解任はできますが、本事例の状態が解任事由に該当するか否かはあくまでも裁判所の判断ということになります。

よって、選択肢①が適切と判断でき、選択肢②は不適切と判断できます。

③ 具合の悪い日は、補充裁判員に代理を務めてもらうよう伝える。

補充裁判員に関する条項を見ていきましょう。


第十条(補充裁判員) 裁判所は、審判の期間その他の事情を考慮して必要があると認めるときは、補充裁判員を置くことができる。ただし、補充裁判員の員数は、合議体を構成する裁判員の員数を超えることはできない。

2 補充裁判員は、裁判員の関与する判断をするための審理に立ち会い、第二条第一項の合議体を構成する裁判員の員数に不足が生じた場合に、あらかじめ定める順序に従い、これに代わって、裁判員に選任される。

3 補充裁判員は、訴訟に関する書類及び証拠物を閲覧することができる。

4 前条の規定は、補充裁判員について準用する。


上記の通り、補充裁判員は、裁判員と同様に、最初から審理に立ち会い、裁判の途中で裁判員の人数に不足が生じた場合に、裁判員に選ばれます(補充裁判員は1つの事件につき、最大6人まで選任されます。)。

補充裁判員は、訴訟に関する書類や証拠を見ることや、評議を傍聴することなどができ、裁判官から意見を聴かれることもあります。

ただし、裁判員とは異なり、審理で証人や被告人などに直接質問することや、評議で意見を述べることはできませんし(裁判官から意見を求められた場合は可能)、評決に加わることもできません。

また、審理や評議の進行状況やスケジュールなどを考慮した上で、これ以上職務を行っていただく必要がないと認められる場合には、裁判の途中で解任されることがあります(補充裁判員の負担をできるだけ早い段階で解消するため)。

本選択肢のポイントは「具合の悪い日は、補充裁判員に代理を務めてもらう」ということが可能か否かの判断になります。

こちらについては裁判員法の以下の条項を参考にしましょう。


第三十八条(裁判員が不足する場合の措置) 裁判所は、前条第一項の規定により選任された裁判員の員数が選任すべき裁判員の員数に満たないときは、不足する員数の裁判員を選任しなければならない。この場合において、裁判所は、併せて必要と認める員数の補充裁判員を選任することができる。

2 第二十六条(第一項を除く。)から前条までの規定は、前項の規定による裁判員及び補充裁判員の選任について準用する。この場合において、第三十六条第一項中「四人(第二条第三項の決定があった場合は、三人)」とあるのは「選任すべき裁判員の員数が一人又は二人のときは一人、三人又は四人のときは二人、五人又は六人のときは三人」と、前条第一項中「第二条第二項に規定する員数」とあるのは「選任すべき裁判員の員数」と読み替えるものとする。

第四十六条(裁判員の追加選任) 裁判所は、第二条第一項の合議体を構成する裁判員の員数に不足が生じた場合において、補充裁判員があるときは、その補充裁判員の選任の決定において定められた順序に従い、補充裁判員を裁判員に選任する決定をするものとする。

2 前項の場合において、裁判員に選任すべき補充裁判員がないときは、裁判所は、不足する員数の裁判員を選任しなければならない。この場合においては、第三十八条の規定を準用する。


これらの条項からもわかる通り、補充裁判員が「合議体を構成する裁判員」に入るときには、裁判員の員数に不足が生じた場合に限られています。

ですから、本選択肢のような「都合が悪いときには、代わりを補充裁判員に」という活用のされ方はしないものです。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

④ 評議を含め裁判内容については、親しい友人か家族に話を聞いてもらうよう伝える。
⑤ 評議を含め裁判内容についてのカウンセリングは、裁判終了後に可能になると伝える。

これらについては、裁判員の守秘義務について理解しておくことが重要になります。

「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」の関連のある箇所を抜き出しておきましょう。


第九条(裁判員の義務)裁判員は、法令に従い公平誠実にその職務を行わなければならない。

2 裁判員は、第七十条第一項に規定する評議の秘密その他の職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。

3 裁判員は、裁判の公正さに対する信頼を損なうおそれのある行為をしてはならない。

4 裁判員は、その品位を害するような行為をしてはならない。


上記は裁判員の義務について述べたもので、「評議の秘密その他の職務上知り得た秘密を漏らしてはならない」とありますね。

続いては、守秘義務に違反したときの罰則について引用しておきましょう。


第百八条(裁判員等による秘密漏示罪) 裁判員又は補充裁判員が、評議の秘密その他の職務上知り得た秘密を漏らしたときは、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

2 裁判員又は補充裁判員の職にあった者が次の各号のいずれかに該当するときも、前項と同様とする。

一 職務上知り得た秘密(評議の秘密を除く)を漏らしたとき。

二 評議の秘密のうち構成裁判官及び裁判員が行う評議又は構成裁判官のみが行う評議であって裁判員の傍聴が許されたもののそれぞれの裁判官若しくは裁判員の意見又はその多少の数を漏らしたとき。

三 財産上の利益その他の利益を得る目的で、評議の秘密(前号に規定するものを除く)を漏らしたとき。

3 前項第三号の場合を除き、裁判員又は補充裁判員の職にあった者が、評議の秘密(同項第二号に規定するものを除く)を漏らしたときは、五十万円以下の罰金に処する。

4 前三項の規定の適用については、区分事件審判に係る職務を行う裁判員又は補充裁判員の職にあった者で第八十四条の規定によりその任務が終了したものは、併合事件裁判がされるまでの間は、なお裁判員又は補充裁判員であるものとみなす。

5 裁判員又は補充裁判員が、構成裁判官又は現にその被告事件の審判に係る職務を行う他の裁判員若しくは補充裁判員以外の者に対し、当該被告事件において認定すべきであると考える事実若しくは量定すべきであると考える刑を述べたとき、又は当該被告事件において裁判所により認定されると考える事実若しくは量定されると考える刑を述べたときも、第一項と同様とする。

6 裁判員又は補充裁判員の職にあった者が、その職務に係る被告事件の審判における判決に関与した構成裁判官であった者又は他の裁判員若しくは補充裁判員の職にあった者以外の者に対し、当該判決において示された事実の認定又は刑の量定の当否を述べたときも、第一項と同様とする。

7 区分事件審判に係る職務を行う裁判員又は補充裁判員の職にあった者で第八十四条の規定によりその任務が終了したものが、併合事件裁判がされるまでの間に、当該区分事件審判における部分判決に関与した構成裁判官であった者又は他の裁判員若しくは補充裁判員の職にあった者以外の者に対し、併合事件審判において認定すべきであると考える事実若しくは量定すべきであると考える刑を述べたとき、又は併合事件審判において裁判所により認定されると考える事実若しくは量定されると考える刑を述べたときも、第一項と同様とする。


やや長いですが重要な箇所ですので引用しました。

以下により簡略化した形で解説していくことにしましょう。

裁判員ネット」のサイトが分かりやすくまとめられていますから、こちらから引用しながら解説していきましょう。


まず守秘義務が課されるのは「裁判員」および「裁判員であった者」になります。守秘義務が課される事項は「評議の秘密」と「その他の職務上知り得た秘密」に分けられます。

評議の秘密としては、評議がどのような過程を経て結論に至ったのかということや、評議において裁判官や裁判員が表明した意見の内容、評決の際の多数決の数等が挙げられます。評議の過程についても評議の秘密に含まれますので、判決に至るまでに議論された内容であれば、判決の内容とならなかった事項であっても守秘義務の内容となります。

その他の職務上知り得た秘密としては、事件関係者のプライバシーにかかる事項や裁判員の名前などが挙げられます。


これに対して最高裁判所のホームページによれば、公開の法廷で見聞きしたことや裁判員として裁判に参加した感想を話すことは守秘義務の対象外とされています。

公開の法廷で見聞きしたこととしては、事件の内容にわたらないものとして、裁判官の言動や印象、裁判所の施設や雰囲気が、事件に関するものとして、公開の法廷で行われた手続やそこで説明された内容、言い渡された判決の内容となっていることをその限度で述べることが挙げられます。

守秘義務違反をしたらどうなるのかについても理解しておきましょう。

まず、現在裁判員である者が守秘義務に違反すると裁判員を解任されることがあります。

また、それ以外にも守秘義務違反をすることで罰則も設けられております。

現在「裁判員である者」は、「評議の秘密」や「その他の職務上知り得た秘密」を漏らしたときは、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます。

また「裁判員であった者」は、①その他の職務上知り得た秘密」、②「評議の秘密」のうち裁判官若しくは裁判員の意見又はその多少の数を漏らしたときは、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます。

また、③「評議の秘密」のうち、②を除くものについては、財産上の利益その他の利益を得る目的で漏らしたときは、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に、かかる目的がなかったときは、50万円以下の罰金に処せられます。

若干分かりづらい構成となっていますが、①事件関係者のプライバシーや②評決の際の多数決の数を漏らした場合には、それだけで6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられ、③評議がどのような過程を経て結論に至ったのかということを漏らした場合には、何らかの利得目的があれば、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に、何らの利得目的もなければ、50万円以下の罰金に処せられるということになります。

これらを踏まえると、ここで挙げた選択肢内容の瑕疵が見えてくると思います。

ここで挙げた選択肢には「評議を含め」とありますが、この評議内容に関しては守秘義務の事項に該当しますから、これらを家族やカウンセラーとはいえ漏らすことはできません(上記にある通り、営利目的でなくても)。

その範囲は「裁判員でなくなった後」にも及んでいますから、選択肢⑤の「裁判終了後に可能になる」というのも間違った認識であると言えます。

以上より、選択肢④および選択肢⑤は不適切と判断できます。

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