公認心理師 2021-100

情状鑑定に関する問題です。

刑事責任能力鑑定(いわゆる精神鑑定)やその種類についても理解しておくことが求められています。

これらすべてをひっくるめて「鑑定」と呼びます。

問100 情状鑑定に関する説明として、最も適切なものを1つ選べ。
① 簡易鑑定として実施される。
② 行動制御能力の有無や程度を評価する。
③ 理非善悪の弁識能力の有無や程度を評価する。
④ 量刑判断を行う上で考慮すべき事項について評価する。
⑤ 裁判所から依頼されることはなく、被告人の弁護人からの依頼による私的鑑定として実施される。

解答のポイント

情状鑑定と刑事責任能力鑑定の違いを理解している。

選択肢の解説

④ 量刑判断を行う上で考慮すべき事項について評価する。
⑤ 裁判所から依頼されることはなく、被告人の弁護人からの依頼による私的鑑定として実施される。

鑑定については刑事訴訟法において定められており、起訴前の鑑定(第223条:検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者以外の者の出頭を求め、これを取り調べ、又はこれに鑑定、通訳若しくは翻訳を嘱託することができる)と起訴後の鑑定(第165条:裁判所は、学識経験のある者に鑑定を命ずることができる)があります(この辺については別選択肢でも詳しく述べます)。

ここでいう鑑定には、DNA鑑定や筆跡鑑定などさまざまなものが含まれており、主として被告人の精神状態(心神喪失・心神耗弱)を鑑定事項とするものが実務上「精神鑑定」と呼ばれています。

精神鑑定を担当するのは医師であり、その内容は狭くは心神喪失・心神耗弱の判断になりますが、情状鑑定については医師に限らず心理学者などの専門家も担当しています。

加害者の量刑判断では、行為者事情が考慮されますが、量刑に酌むべき被告人の心理的背景を主張するために用いられるのが情状鑑定です。

すなわち「情状鑑定」の定義としては「訴因事実以外の情状を対象とし、裁判所が刑の量定、すなわち被告人に対する処遇方法を決定するために必要な知識の提供を目的とする鑑定」となります。

いわゆる「情状酌量」の余地について検討するのが、情状鑑定ということですね。

情状鑑定は、精神鑑定とは異なり、心理学によって被告人の背景へアプローチするという手法を取り、生育歴や家庭環境、反省悔悟の情なども検討する必要が出てきます。

情状鑑定ではいわば酌むべき事情や更正可能性が検討されるため、その実証性や科学性をどのように担保すべきかが問題となるわけですね。

情状鑑定における鑑定事項としては、人格調査・環境調査・犯行動機・再犯予測ないし予後判定・処遇意見があり、これらはまた、①被告人個人の資質や環境などに関する事項(事件とは直接関係しない事項も含む)、②犯行の動機・原因に関する心理学的あるいは社会学的分析、③今後の処遇や更生上で参考となる事項、に大別されます。

これら鑑定事項は、大きく「犯情」と「一般情状」に分けられます。

「犯情」は直接または間接に犯罪事実の内容に属する事情であり、例えば、犯行の動機・目的、手段方法、計画性の有無などがこれに含まれます。

他方で「一般情状」は、被告人の家庭環境、被告人の反省程度、更生可能性、処遇上の留意点なども加わってきます。

量刑判断に大きく影響してくるのは犯情であり、一般情状は量刑の微調整要素とされるのが現在の基本的な考え方です。

主たる鑑定の方法としては、面接(被告人面接、家族面接、関係人面接)・社会調査(犯行場面の調査、生活環境の調査、学校職業状況、友人等対人関係についての調査、行動観察(鑑定期間中の行動)が挙げられます。

なお、法律用語ではありませんが一般的に、弁護人から請け負う鑑定を私的鑑定、裁判所から受命するものを本鑑定と呼びます。

鑑定の費用については、本鑑定は費用は不明(裁判所が費用を支払うため)ですが、弁護士が依頼した私的鑑定では、5万円~50万円とかなり開きがあるという調査結果があります。

以上のように、情状鑑定は「訴因事実以外の情状を対象とし、裁判所が刑の量定、すなわち被告人に対する処遇方法を決定するために必要な知識の提供を目的とする鑑定」であり、裁判所から受命するものを本鑑定、弁護人から請け負うものを私的鑑定と呼びます。

よって、選択肢④が適切と判断でき、選択肢⑤が不適切と判断できます。

さて、情状鑑定について出たので、そこからの連想を一つ述べておきましょう。

よく子どもを叱るときに「子どもの言い分も聞いて」とか「頭ごなしはダメ」という考えを聞きます。

私は保護者と話すときに、子どもを叱るときの順序として、①まずダメであることを伝える、②その上で、その時の気持ちや理由を聞く、という流れを勧めています。

つまり、頭ごなしに叱ることを勧めているわけですが、実はこれは裁判の流れ、すなわち、①判決文を読み上げる、②情状酌量の部分(執行猶予を付けるとかの理由)について述べる、と同じにした方がいいと考えているからです。

そもそも「叱る」という行為の第一義的な目的は、その行為がダメなことであると伝えることであり、その行為を今後しないようにするためにしているのだと考えます。

もちろん、子どもの気持ちも考慮せねばなりませんが、子どもの不快感を慮るばかりに、上記の第一義的な目的が失われてしまっては、叱るという行為自体の価値が失われてしまいます。

子どもの発達において「周囲からの押し返し」は必要不可欠なものであり、幼いころから「周囲からの押し返し」を経験することで、現実感覚を身につけたり、万能感を現実に合わせて修正するなどの精神発達上欠かせない効果があります。

近年の「子どもを傷つけないように」という価値観が、子どもの精神発達を著しく阻害していること、それが顕在化しているのが親が「叱る」という行為の変化にあること、などを鑑みて、もちろん効果的な事例であるという見立てのもと上記のような「叱り方の勧め」をしているわけです。

① 簡易鑑定として実施される。

簡易鑑定は精神鑑定の枠組みに類するものです。

まず刑事精神鑑定とは、刑法に触れる行為のために勾留されている被鑑定人(被疑者/被告人)が対象になる精神鑑定であり、実質的な運用は刑事訴訟法(第十二章 鑑定:第165条以降)に規定されています。

刑事精神鑑定の主目的は、犯行時の責任能力を解明することであるが、時には訴訟能力が争点となることもあります。

刑事訴訟法によれば、刑事精神鑑定は、裁判官の命令による「正式鑑定」(起訴後の被告人を対象とする)と、検察官の判断による「起訴前鑑定」(起訴前の被疑者を対象とする)に分類され、さらに起訴前鑑定は嘱託鑑定と簡易鑑定を含んでいます。

正式鑑定と起訴前鑑定の類似点は、被鑑定人が被疑者であること、鑑定結果が検察官の起訴/不起訴の重要な資料となること等に対し、相違点は裁判官の許可、被疑者の同意、鑑定に費やすことのできる日時などになります。

これらの概観を踏まえた上で、簡易鑑定について述べていきましょう。

検察官は逮捕された被疑者を最長23日間にわたって勾留でき、その間に実施される捜査結果に基づいて、期限内に被疑者に対する処分(起訴ないし不起訴)を決定しなければなりません。

簡易鑑定とは、最長23日間の勾留期間中に検察官の判断によって実施される刑事責任能力鑑定(刑事精神鑑定)であり、鑑定に要する時間も勾留期間に含まれます。

検察官が事件の記録を見たり、被疑者の取調べをするなかで、被疑者の言動に理解できないところがあり、責任能力に問題があるかもしれないと判断すれば、被疑者を簡易鑑定にかけるわけです。

簡易鑑定の実施に際しては、被疑者の同意が必要とされていますが、裁判官の認可は不必要です(ここが嘱託鑑定との主要な相違点:嘱託鑑定は、検察官の嘱託によって実施される精神鑑定だが、その実務は裁判官の命令によって実施される正式鑑定に近似している。嘱託鑑定の実施に際して、被疑者の同意は必要とされていないが、検察官は裁判官が発行する鑑定処分許可状を取得しなければならない。嘱託鑑定に要する時間は最長23日間の勾留期間から除外される)。

簡易鑑定を実施しているのは、検察官の依頼を受けた鑑定人(大多数は精神科医)になります。

鑑定のための診察は通常1回(実際の所要時間は面接と検査を含めて1~3時間程度)に過ぎず、鑑定結果は数日以内に文書(鑑定書)で提出されます。

このような簡便性のために「簡易鑑定」と呼ばれていますが、このような鑑定書の結果が検察官による被疑者の処分に重大な影響を及ぼします。

さて、これらを踏まえて情状鑑定との関連を考えてみましょう。

そもそも情状鑑定とは「訴因事実以外の情状を対象とし、裁判所が刑の量定、すなわち被告人に対する処遇方法を決定するために必要な知識の提供を目的とする鑑定」ですから、簡易鑑定が行われるタイミングが異なることがわかるはずです。

情状鑑定は、裁判の中で裁判所が刑の量定を判断する際に行うものですから、拘留中に行われる簡易鑑定とは別物であると見なすことができるはずですね。

以上より、情状鑑定は簡易鑑定として行われるものではありません。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② 行動制御能力の有無や程度を評価する。
③ 理非善悪の弁識能力の有無や程度を評価する。

刑法第39条1項では「心神喪失者の行為は、罰しない」とされており、これは責任無能力者、すなわち心神喪失者に関する規定です。

そして、刑法第39条2項には「心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する」とあり、これは限定責任能力者すなわち心神耗弱者に関する規定です。

上記の心神喪失や心神耗弱における「責任能力」とは「事理弁識能力」と「行動制御能力」を有しているか否かで判断されます(判例の「精神の障礙に因り事物の理非善悪を弁識する能力なく、又は、此の弁識に従って行動する能力なき状態」(大判昭6.12.3)より)。

事理弁識能力とは「行為の是非善悪を弁識する能力」であり、行動制御能力とは「判断に従って行動する能力」のことです。

責任能力が不完全である状況は、刑法上「心神喪失」および「心神耗弱」という状態になります。

心神喪失は「事理弁識能力・行動制御能力のいずれかが失われた状態」であり(責任阻却→無罪となる ※刑法39条1項)、心神耗弱は「事理弁識能力・行動制御能力のいずれかが著しく減退した状態」(刑の減軽→法定刑よりも軽減される ※刑法39条2項)とされます。

こうした心神喪失や心神耗弱を判断するのが鑑定になります。

刑事責任能力は、起訴前であれば検察官、公判では裁判官(と裁判員)が判断するものですが、その判断をするときに精神医学的な知識や経験が不足していて難しいことが多いので、そのような場合に、精神科医の力を借り、知識と経験を補充するのが、刑事責任能力鑑定です。

刑事責任能力鑑定には、上記のような実施形態があります。

検察官は、被疑者の言動等から責任能力に問題があると思われるケースでは、まず簡易鑑定を実施し、そこで診断がつかない場合は、起訴前本鑑定に回されることが多いです。

起訴前本鑑定により、医師は、被疑者の責任能力にかかわる精神状態について意見を述べ、責任能力がない場合を心神喪失、責任能力が限定されている場合を心神耗弱とするわけです(起訴前本鑑定では、被疑者は、医師の継続的な診察を受けるため、2、3か月にわたって、病院や拘置所に収容される=鑑定留置)。

すなわち、検察官は起訴前の時点で、被疑者の責任能力に問題があると思われるケースでは、精神科医に鑑定してもらい、その結果をふまえて、心神喪失や心神耗弱の状態にあるか否かを判断し、起訴するか不起訴にするかを決めます。

ちなみに「公判鑑定」は裁判官の命令によって公判の過程で実施される精神鑑定です(正式鑑定などとも呼ばれます)。

一般的な正式鑑定の手続きは、弁護人が被告人の精神鑑定の実施を要望する文書を裁判所に提出することから開始され、裁判官が弁護人の依頼を容認するという経緯で決定されます。

裁判官は、事前に検察官の意見も聴取するが、検察官は精神鑑定の必要性を否定することが多いです(検察官は被疑者の責任能力を認めて起訴したので、精神鑑定の必要性を肯定することは例外的。責任能力が怪しいと思えば、起訴前本鑑定を行うはずですよね)。

最近では公判前整理手続きのなかで行われることも多く(つまり、起訴前本鑑定で行われることが多い)です。

これに対して、本問の情状鑑定とは「訴因事実以外の情状を対象とし、裁判所が刑の量定、すなわち被告人に対する処遇方法を決定するために必要な知識の提供を目的とする鑑定」ですから、量刑を決めるための鑑定=責任能力の有無が問題となっているわけではない、ということになります。

ここで挙げた選択肢については、責任能力の有無すなわち心神喪失や心神耗弱と係る事項であると言え、情状鑑定とは同じ「鑑定」であっても性質が異なるものであると言えます。

よって、選択肢②および選択肢③は不適切と判断できます。

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