公認心理師 2018追加-63

こちらは警察署に勤務する公認心理師の対応に関する問題になりますね。

事例の詳細は以下の通りです。

  • 小学校で原因不明の爆発事故が起こり、多数の負傷者がいると通報があった。
  • 所轄警察署に勤務する公認心理師は事故発生後、他の署員とともに直ちに事故現場において被害者支援を行った。

事故の連絡を受けて駆け付けた保護者への公認心理師の優先される対応として、適切なものを1つ選ぶ問題です。

緊急事態において、公認心理師に限らず多くの人に求められる力は「通常状態から危機状態へのシフトチェンジができること」だと思います。
少し古い話ですが、土俵上で倒れた人に駆け寄ろうとした看護師に対して「女性は土俵に上がらないでください」とアナウンスされたということがありました。
あれは、そのアナウンスをした人(指示した人?)が、人の命に関わる場面という「危機状態」において、「通常状態」の対応に執着していたことが大きな問題だと言えます。

危機状態ではいつもの臨床活動はできないのが自然です。
そんな中でも、自分の立場としてどこまでできるのかをきちんと把握しながら動くことが重要になります。
大人とは、自分の責任の範囲を理解し、自分の責任が取れる範囲で行動し、もしも失敗すればその責任をきちんと取ろうとする人だと思います。

本問では、こうした自分の責任の理解・その範囲での行動について問われていると考えられます。

解答のポイント

事例の状況で保護者の状態や求める情報について考えることができる。
警察署所属の公認心理師にできることとできないことの境界線を把握していること。

選択肢の解説

『①報道機関の取材に応じる』

学校で起こった事件・事故のメディア対応では、学校側にメディア対応の窓口を担うメンバーを決定し、その窓口担当者を通じて対応することが徹底されます
教頭や、市町村教育委員会の指導主事がそれを担う場合が多いです。

今回の公認心理師は警察に所属していますので、当然ですが上記の枠組みには入りません
また、警察からの事故の詳細に関する記者発表などはあるかもしれませんが、「事故発生後、他の署員とともに直ちに事故現場において被害者支援を行った」という段階なので事故原因等について答えられるだけの情報を有しているはずもありません

こうした状態で不正確な情報を流すことは、保護者をはじめ多くの人の不安を喚起する危険が高く、行われるべきではないと考えられます。
報道機関に情報を提供することの支援的な意味としては、誤った情報が広がることで不安を喚起し、パニック等の危険を鎮めるという点にあります
「何が起こったのか?」がわからない状態では、憶測により被害状況が実際よりも大きく捉えられてしまうことも少なくないので、正確な情報を提供することで集団の安定度を保つことが重要になります

選択肢の対応はいずれ行われる可能性はありますが、やはり事例の時点で行われる可能性は低いでしょうし、また、この時点で求められているのは事故原因等の情報になるので公認心理師という「心理支援者」が真っ先に出てくるのは不適切と考えるのが妥当です。
以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

『③学校教職員から保護者に説明する場を設定する』

こういった状況での緊急保護者会については、学校内緊急支援チームで協議を行います。
緊急保護者会の目的は、以下のようにまとめることが可能です。

  1. 学校が把握している公表可能な事実の報告と共有。
  2. 現在および今後予定している学校の取り組みの報告。
  3. 今回の事故によって児童に生じ得る反応の説明と、それへの家庭内の対応方法に関する情報提供。
こうした報告・共有を通して、学校と保護者が一体となって児童を守っていく体制を作ることが重要になります。
一方で、こうした緊急保護者会の実施は、選択肢①でも述べたように正確な情報がつかめてからということになりますし、事例のような事故直後の状況で行われるべきものではありません
そもそも、今回の公認心理師は警察署に勤務しているので、学校側の対応について口を出すのは明らかな越権行為です
自身の置かれた立場と、その責任を範囲を自覚しておくことが重要です。
以上より、選択肢③は不適切と判断されます。

『④免許証などにより保護者を確認し、部外者の侵入を防ぐ』

事故の連絡を聞いて駆け付けた保護者の中には、何も持たずに駆けつけたという人もいるでしょう。
また、「事故発生後、他の署員とともに直ちに」学校に到着した警察所属の公認心理師に、児童名簿、その親の氏名等を確認する術は無いと考えるのが自然です。
そのような状況で、免許証などにより保護者確認をするというのは現実的ではありません

むしろ、こうした対応は学校側の方がスムーズに行えるのは想像し易いと思います。
学校、特に担任は保護者の名前だけでなく顔も一致しているでしょうし、そちらの方が駆け付けた保護者も多少安心するかもしれません。

確かに部外者の侵入を防ぐことは重要ですが、本事例のような緊急時において、その点に固執することで支援全体の進行を歪めてしまう可能性があります
今回のような事例で、保護者を学校に入れる・入れないの段階でもたつくことは、保護者の不安を高めるだけでなく、対応した公認心理師への不信感を根付かせることにもなりかねません。

保護者をスムーズに誘導するという役割は学校が主になって行うほうが適切と言え、警察署所属の公認心理師はその立場を活かした対応に従事することが重要です
以上より、選択肢④は不適切と判断できます。

『②保護者が希望しない限り、情報提供を控える』

「原因不明の爆発事故」「多数の負傷者がいる」といった情報のみがある状態で、保護者がどのような状態かは容易に想像ができると思います。
自分の子どもが無事か否か、そこがわからず混乱している状態ですし、そういった保護者が集まるわけですからパニックになる可能性も考えねばなりません

この際に大切な情報は、

  • 何年何組の誰が負傷しているのか。
  • 負傷した児童がどこにいるのか。

などになると思われます。
負傷の度合いなどは、大きな混乱を招いたり、不正確になりがちだったりするので、提供すべきか否かは慎重を期する必要があるでしょう。

こうした情報を速やかに提供することは不要な混乱を防ぐことになりますので、「保護者が希望しない限り、情報提供を控える」ということはあり得ません

また、緊急状態において「向こうが求めないから」という自由意思を尊重しているかのような通常状態の対応は誤りと言えます
大きな混乱により何をしてよいかわからず呆然としている場合もあり得ますし、こちらから積極的に必要な情報を提供するような姿勢が求められます。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

『⑤関係者と協力して児童の状況について情報を集め、保護者に提供する』

選択肢②の解説にもあるように、来校した保護者が最も求めているのは「我が子の安全」「我が子が負傷したなら、その状態と居場所」ということだと思われます
こうした情報を速やかに提供することで、保護者の不要な混乱を防ぐことが可能です

こうした情報を可能な限り早く提供できるよう、警察署所属の公認心理師は警察関係者と協力して情報を集めることが求められます。
警察署に所属しているならば、事故内容や負傷の程度、救急車がどこの病院に向かったか等の情報は、学校関係者よりも得やすいと言えるでしょう。

もちろん、情報を不用意に提供しないように、学校関係者とも連携して負傷した児童の保護者が誰かを特定できるようにしておくことも重要です。
選択肢内の「関係者」とは、警察関係者・学校関係者の両方を指す言葉と捉えてよいでしょう。

保護者の中には何を求めたらよいのか、混乱してわからなくなっている場合もあります。
緊急時には、支援者側から必要と判断される情報を見定めて、適切な形で速やかに伝えるという、通常とは異なる対応を採ることも大切になります

児童の状況を伝えられた保護者の中には、大きく混乱を示す方もおられるかもしれません。
そういったことも視野に入れ、その場で可能な限りの配慮を含む対応を採っていく必要があります。

以上より、選択肢⑤は適切と判断できます。

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