公認心理師 2018追加-106

非行少年の処遇について、正しいものを1つ選ぶ問題です。

非行少年の処遇については色んなルートがあるように見えて、実はそれほど複雑ではありません。
それぞれの機関や専門家の役割と責任の範囲をきちんと把握しておきましょう。

本問では、他の問題でも論点となっていた「家庭裁判所による送致」と「福祉機関(児童相談所)による措置」の違いが重要になっていました。
大切なことなので、きちんと押さえておきましょう。

解答のポイント

児童福祉法、少年院法、更生保護法などに定められている非行少年の処遇について把握していること。

選択肢の解説

『①少年院を仮退院した少年は保護観察に付されない』

更生保護法第48条に「保護観察の対象者」について以下のように定めています。

  1. 少年法第二十四条第一項第一号の保護処分に付されている者
  2. 少年院からの仮退院を許されて第四十二条において準用する第四十条の規定により保護観察に付されている者(以下「少年院仮退院者」という)
  3. 仮釈放を許されて第四十条の規定により保護観察に付されている者(以下「仮釈放者」という。)
  4. 刑法第二十五条の二第一項若しくは第二十七条の三第一項又は薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律第四条第一項の規定により保護観察に付されている者(以下「保護観察付執行猶予者」という。)

上記の第2号に少年院からの仮退院者について規定があります。

そこに記載のある「第四十二条において準用する第四十条の規定」とは以下の通りです。
更生保護法第40条に「仮釈放を許された者は、仮釈放の期間中、保護観察に付する」とあり、保護観察に付されることが定められております
ちなみに第42条では、第40条を「少年院からの仮退院について準用する」と規定されています
よって、仮釈放は仮退院と読み替えれば良いわけです

少年院は「保護処分」のひとつであり、刑罰ではなく教育的な措置となります。
よって、少年院にいるよりも社会の中で更生をはかる方が適切であると考えられれば仮退院が検討されるということになります。
もちろん、定められた期間よりも早く少年院を出ることになりますから、「仮退院」としてその間を保護観察をつけることが定められているということですね。

以上より、選択肢①は誤りと判断できます。

『②家庭裁判所の処分として児童自立支援施設に入所することはない』

こちらは少年法第24条の中で、保護処分の決定について「家庭裁判所は、前条の場合を除いて、審判を開始した事件につき、決定をもつて、次に掲げる保護処分をしなければならない。ただし、決定の時に十四歳に満たない少年に係る事件については、特に必要と認める場合に限り、第三号の保護処分をすることができる」と規定されています。

  1. 保護観察所の保護観察に付すること。
  2. 児童自立支援施設又は児童養護施設に送致すること。
  3. 少年院に送致すること。

上記のように、家庭裁判所の処分として児童自立支援施設への送致は規定されています。

よって、選択肢②は誤りと判断できます。

『③保護観察では心理学の専門的知識を有する保護司が担当しなければならない』

保護司法第3条に「保護司は、左の各号に掲げるすべての条件を具備する者のうちから、法務大臣が、委嘱する」と以下の各号が定められています。

  1. 人格及び行動について、社会的信望を有すること。
  2. 職務の遂行に必要な熱意及び時間的余裕を有すること。
  3. 生活が安定していること。
  4. 健康で活動力を有すること。

保護司の条件としては上記が定められており、専門的知識を有しているか否か等は必要事項とはなっておりません

保護司の役割については、以下の条項が重要です。
更生保護法第31条には、「地方委員会の事務局及び保護観察所に、保護観察官を置く」ことと「保護観察官は、医学、心理学、教育学、社会学その他の更生保護に関する専門的知識に基づき、保護観察、調査、生活環境の調整その他犯罪をした者及び非行のある少年の更生保護並びに犯罪の予防に関する事務に従事する」と定められております。

これに対して保護司については、同条32条に「保護司は、保護観察官で十分でないところを補い、地方委員会又は保護観察所の長の指揮監督を受けて、保護司法の定めるところに従い、それぞれ地方委員会又は保護観察所の所掌事務に従事するものとする」と定められております。

これらより、選択肢の内容は保護司に関するものではなく、保護観察官に関する内容になっていると思われます
よって、選択肢③は誤りと判断できます。

『④児童相談所は親権者又は未成年後見人の意に反して児童自立支援施設への入所措置はできない』

この選択肢については、公認心理師2018追加-20の選択肢④で少し触れている内容になっております。
非行少年が児童自立支援施設に入所するルートは2つあります。

  1. 児童自立支援施設または児童養護施設送致決定による保護処分:家庭裁判所が最終決定を行っている
  2. 都道府県知事または児童相談所長送致決定による児童福祉法上の措置:児童福祉機関(この場合は児童相談所)が最終決定を行っている

これらは児童自立支援施設に送られるという結果は同じですが、ルートが違うことによって法律上の在り方が異なります。

家庭裁判所の決定として児童自立支援施設に送致する場合、親権者等の意思に関係なく行うことができます。
それに対して、児童相談所が行う場合は「福祉的措置」となりますので、親権者等の意に反してまで実行することはできません
この問題の要点は、児童自立支援施設への入所措置を行う主体が「児童相談所」になっている点であり、だからこそ親権者等の意思に反した入所はできないということになります

この点は、法律的には、児童福祉法第27条(都道府県は、前条第一項第一号の規定による報告又は少年法第十八条第二項の規定による送致のあつた児童につき、次の各号のいずれかの措置を採らなければならない)に規定されています。
※少年法第18条は「児童福祉法上の措置」について定めており、その第2項では児童相談所送致についてが規定されています。

  • 児童福祉法第27条第1項第3号:
    児童を小規模住居型児童養育事業を行う者若しくは里親に委託し、又は乳児院、児童養護施設、障害児入所施設、児童心理治療施設若しくは児童自立支援施設に入所させること。
  • 児童福祉法第27条第4項:
    第一項第三号又は第二項の措置は、児童に親権を行う者(第四十七条第一項の規定により親権を行う児童福祉施設の長を除く)又は未成年後見人があるときは、前項の場合を除いては、その親権を行う者又は未成年後見人の意に反して、これを採ることができない。

上記の通り、選択肢にあるように親権者又は未成年後見人の意に反して児童自立支援施設への入所措置はできないことがわかります。

よって、選択肢④が正しいと判断できます。

『⑤矯正教育のために、少年鑑別所に収容されている時から各種心理的な治療プログラムを導入している』

矯正教育とは少年院の中で行われるものですが、この内容の決め方は少年院法第33条に定められております。

  1. 少年院の長は、在院者がその少年院に入院したときは、できる限り速やかに、家庭裁判所及び少年鑑別所の長の意見を踏まえ、その在院者が履修すべき矯正教育課程を指定するものとする
  2. 少年院の長は、必要があると認めるときは、少年鑑別所の長の意見を聴いて、在院者に係る前項の矯正教育課程を変更するものとする

すなわち、少年院で行われる矯正教育の内容は、少年鑑別所の鑑別を通して定められるということになります
その矯正教育の変更等が行われる時には、同法第36条に「鑑別のための少年鑑別所への収容」が定められております。

ちなみに矯正教育の実施については、少年院法第37条に以下のように定められております。

  1. 少年院の長は、法務省令で定めるところにより、在院者の日課(食事、就寝その他の起居動作をすべき時間帯、矯正教育の時間帯及び余暇に充てられるべき時間帯を定めたものをいう)を定め、これを在院者に励行させるものとする。
  2. 少年院の長は、必要と認めるときは、日課に定められた矯正教育の時間帯以外の時間帯においても、矯正教育を行うことができる。
  3. 少年院の長は、法務省令で定めるところにより、在院者に対し、学習、娯楽、運動競技その他の余暇に充てられるべき時間帯における活動について、援助を与えるものとする。

このことからも少年院の中で矯正教育が行われることがわかりますね。

以上より、選択肢⑤は誤りと判断できます。

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