学生相談の基本的な考え方に関する問題です。
学生相談というのは他の臨床とはまた違った世界だなと感じることが多いので、体験できる人はしておくと良いだろうと思います。
問49 学生相談に関する説明として、不適切なものを1つ選べ。
① 学生相談では、カウンセラー、教職員、学生支援組織及び教育組織の連携と協働が重要である。
② 学生相談の対象は、深刻な困難を抱えている一部の学生ではなく、在籍する全ての学生である。
③ 入学してくる多様な学生に対応するために、現在は、医学モデルでの対応が重要視されている。
④ 学生相談では、個別面接のほか、合宿などを含めたグループカウンセリングやメンタルヘルス関係の講演会などが開催されている。
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解答のポイント
学生相談(大学に特化したカウンセリング。大学に付いているスクールカウンセラーのようなイメージ)の業務に関する理解を有する。
選択肢の解説
① 学生相談では、カウンセラー、教職員、学生支援組織及び教育組織の連携と協働が重要である。
② 学生相談の対象は、深刻な困難を抱えている一部の学生ではなく、在籍する全ての学生である。
これらについては「そりゃそうだろう」と思うのですが、しっかりと理論を引きつつ解説できることが大切だと思います。
学生支援は他選択肢の解説でも述べますが、個別支援だけでなく組織的支援が重要になってきます。
2007年に日本学生支援機構から出された報告書「大学における学生相談体制の充実方策について」では、学生支援の3階層モデルが提示され「総合的な学生支援」と「専門的な学生相談」の「連携・協働」についてまとめられています。
学生支援の3階層モデルは、第1層「日常的学生支援」、第2層「制度化された学生支援」、第3層「専門的学生支援」から成っており、それぞれの立場で学生との付き合い方が異なるとともに可能な対処や権限が変わってくるため、学生相談カウンセラーが教職員に対して何らかの助言や支援を行おうとするとき、教職員がどの層の関わりをしているのかに配慮が必要になってきます。
教職員による日常的学生支援(第1層)は、通常の教育活動や事務的業務を行う中で自然な形でなされる学生支援を指します。
授業の質問から始まって個人的な相談を受けることもある、研究室での雑談から発展して相談を受ける場合もある、窓口業務の中で助言や指導を行う場合もあります。
また、あいさつや何気ない声掛け、雑談が支えになることも多いものです。
そもそも、丁寧な研究指導が学生の心理的問題の改善に寄与する場合もあります。
あまりにも日常的・常識的な関わりなため、教職員自身がこうした関わりが支えになっているという自覚がしにくいことも多く、学生相談機関としてはこのような何気ない日頃の学生との交流の大切さを伝えていくことが重要になります。
教職員による制度化された学生支援(第2層)は、クラス担任、チューター、アカデミック・アドバイザー、なんでも相談員などの役割、オフィスアワーを設けて学生の相談に応じる場合など、相談・支援の専門家ではない一般の教職員が学生支援制度を担う場合を指します。
これらの制度がうまく機能すると極めて強力な学生支援資源となります。
多種多様な相談や、事件性のある問題が持ち込まれることもあり、また、学生に対して相談を受けることを明示することになるので相応の責任を伴うことにもなります。
こうした制度化された学生支援の担い手である教職員に対しては、学生相談機関をはじめとする専門的学生支援部署(第3層に該当する支援者)がそれぞれの専門的立場からバックアップすることが必要になります。
第3層は専門的学生支援であり、学生相談機関を始め、キャリア支援、学修支援、保健管理、留学生相談、ハラスメント相談などの専門機関がこれに該当します。
それぞれの領域の専門家を配置した学生支援機関であり、各機関はその専門的な立場から学生支援を立案・実施します。
専門領域について学内で中核的な役割を果たし、第1層・第2層の学生支援では十分な対応ができない困難な課題に対処したり、学内外の連携・協働の核となることが求められます。
上記の通り、学生相談では所属している全学生を対象とするので、専門的な支援だけでなく、日常的な支援も行っていくため組織的な連携・協働が重要となります。
よって、選択肢①および選択肢②は適切と判断でき、除外することになります。
③ 入学してくる多様な学生に対応するために、現在は、医学モデルでの対応が重要視されている。
④ 学生相談では、個別面接のほか、合宿などを含めたグループカウンセリングやメンタルヘルス関係の講演会などが開催されている。
こちらの論文に詳しかったので参考にしつつ解説していきます。
日本の学生相談活動は、1951年以降の厚生補導(大学の正課教育の外において学生の適応や成長を助ける計画的な活動やサービスの総称)研究集会でカウンセリングの必要性が認識されたことから始まりました。
東京大学を皮切りに、国公立大学、その後各地の私立大学に学生相談室が開設されていったという流れであり、学生相談室が立ち上げられた当初は、専任カウンセラーがカウンセリングを行うことは稀で、学生に対する教育的情熱にあふれた教職員が相談業務に携わっていた状態でした。
その後全国的に大学内の相談専門機関ができたことと、カウンセリングが学問的に専門化して発展したこととがあいまって、学生相談は一つの専門分野として確立していきました。
その間、学生相談活動の対応モデルは「医学モデル(病理モデル)」の方向に傾いた時期を経て、現在は「成熟・自己実現モデル」へと変化しつつある。
「医学モデル(病理モデル)」とは、相談者の「疾病」を治療対象とし、疾病を病因との因果関係からとらえて正確に診断し、確立された治療法を順次施行することによって疾病を「治す」という考えかたである。医学モデルによる治療は、効率よく多くの疾病に対して平等な対応を行うことが可能であり、即効性が期待できるという点で必要です。
「医学モデル(病理モデル)」は、19世紀半ば以降の病原細菌学の進歩とそれに基づく特定病因説に負うところが大きく、正確な診断が下されることによって、確立された治療法が順次施行され治癒に至るという考えかたがその背景に存在します。
他方、「成熟・自己実現モデル」においては相談者を疾病や悩みを抱え、社会の中で生きている「一人の人間」として捉え、問題解決の主体は相談者自身だと考えます。
そして、相談者が自分をとりまく環境をうまく生かして、社会の中で生きる術を身につけることを目標とし、治療者は相談者の「治る力」、つまり自己治癒力を支える役割を果たします。
「成熟・自己実現モデル」においてカウンセラーは、相談者という存在に対してできるだけ開いた態度で接し、相談者の心の自由なはたらきを妨害しないと同時に、それによって生じる破壊性があまり強力にならないように関わります。
学生相談では、こうした「成熟・自己実現モデル」による活動が欠かせないものであるにもかかわらず、日本の学生相談は「医学モデル」による関わりに重点を置いてきたという歴史的経緯があります。
こうした経緯をふまえて、現在の学生相談においては「他動的に規定されてきた従来の心理臨床活動を、自主的・主体的に構築」して、個々の大学事情にふさわしい形での学生相談システムを構築するモデルを実現することが求められています。
次に学生相談活動の対象の変化について理解していきましょう。
学生相談は、相談室に自ら足を運んだ来談学生に対する心理面接から始まったため、相談の対象はその個人に絞られることが多かったと言えます。
当時の大学生は、一対一で大人と向き合い自分の思いを言葉にして伝え、悩みを主体的に抱えて葛藤に取り組むことが可能で、このような「悩み方」は従来の心理療法になじみ、カウンセラーが来談者と向き合うことで面接が深まり悩みは解決へと向かっていきました。
ですが、近年になり学生の「悩み方」は大きく変わってきており、具体的には「悩めない学生」が増加しています。
彼らは、かつて心理的問題を示した学生と異なり、一見して適応的で順応性のある平穏な青年期を送ってはいますが、根っこにある「悩みの大きさ」のためか「自我の脆弱性」によるものかは不明ですが、「悩みを悩みとして認識すること自体を避ける」という傾向が見られます。
これに加え、学生数の減少と学生の質的多様化が近年は顕著であり、大学生が大学に求めるものは必ずしも学業のみではなくなり、友人を得ることや、各種資格試験の勉強等をはじめ役に立つ実用的知識を求める傾向へと変化しました。
こうした学生や学生を取り巻く環境の変化に伴い、学生相談が対象とする領域は変化し、一般学生を対象にグループワークを試みたり、学内全体を視野に入れた活動を取り入れる必要が生じてきました。
現在の学生相談室の活動を以下に列挙していきましょう。
- 学生に向けた活動①:授業への取り組み
・カウンセラーが授業を行う
・新入生対象の講義および「心の健康」に関する講義活動
・対話を中心に据えたグループワーク授業 - 学生に向けた活動②:授業以外の取り組み
・新入生対象の活動:オリエンテーションや入学時調査
・媒体を利用した広報と啓発活動:広報活動、媒体による啓発活動、心理テストサービス
・グループを対象にした取り組み:エンカウンター・グループ、心理教育プログラム、人間関係スキルトレーニング、リラクセーション、自己分析・自己表現
・談話室の運営
・ピアサポートへの取り組み - 教職員に向けた活動
・援助活動:教職員へのコンサルテーション、学生をめぐっての教職員との連携・協働
・コミュニティ活動:教職員研修、予防のための活動、全学への情報提供・啓発活動、学内委員会活動、執行部への提言 - 保護者に向けた活動
・保護者への個別相談、個別支援
・来談学生の「親の会」の運営
これらが学生相談におけるカウンセラーの活動の一例になります。
かなり多岐にわたっていることがわかりますね。
上記の通り、学生相談では医学モデルではなく成熟・自己実現モデルが重視されており、そうしたモデルの実践においては個別面接のみならず、グループ活動や講演会などの啓発活動も必要になってきます。
よって、選択肢④は適切と判断でき、除外することになります。
また、選択肢③が不適切と判断でき、こちらを選択することになります。