公認心理師 2021-3

学生相談室を舞台とした問題ですが、中身はクライエントの個人情報の取扱に関する内容であり、初歩的な事柄について問うています。

感覚的に正答を選択してしまいがちですが(そして、それでも正解できる問題でしょうが)、学ぶ上では各選択肢に対する〇×の根拠を明確に示すことが重要です。

問3 大学の学生相談室のカウンセラーである公認心理師が、学内の保健管理センターの精神科医、障害のある学生を支援するコーディネーター、ハラスメント相談員やクライエントの所属学部の指導教員などと連携して行う支援について、最も適切なものを1つ選べ。
① 相談の秘密を守るため、できるだけ連携せずにすむ支援方法を工夫する。
② 情報の取扱方法について、情報共有する関係者の間で合意形成の必要はない。
③ 支援に関わる関係者と情報共有することをクライエントに説明し、同意を得る。
④ 個人情報保護の観点から、情報共有する関係者は学校に雇用された教職員である必要がある。
⑤ 説明し同意が得られた後は、情報共有の在り方に関するクライエントの要望は受け付けない。

解答のポイント

情報共有の在り方に関する基本的な理解を有している。

基本となる知識・選択肢の解説

本問は学生相談室という状況設定なので、それにまつわる基本的な事項を確認しておきましょう。

そもそも「学生相談」とは、大学でのスクールカウンセラーのような役割ですが、歴史はもっと古く、大学教育の一環として大学内に深く入っています。

スクールカウンセラー(小学校~高校までの学校に設置されているSC)との違いは様々ですが、①対象者の発達課題(児童期~思春期‐青年期)、②コミュニティの規模(数十人~数百人‐数千人~数万人)、③教職員による支援機能(学級担任や教育相談担当、生徒指導主任‐自主的活動支援)、④地域社会の支援力(地域住民との結びつきや公立教育相談の存在‐独立した教育研究コミュニティ)などが挙げられるでしょう。

もっとも、最近は学生相談でも高校生以前のような手厚い支援が求められるようになっていますから、スクールカウンセラーの活動内容が学生相談に入ってくるということも考えられるでしょうね。

学生相談室のカウンセラーには、上記のような特徴を踏まえて、より広い知見が必要となることが多いです。

具体的には、青年期前後は精神疾患の好発年齢であるためその対応が求められること、独立した教育機関内での各専門家や関係者を繋ぐ力量が求められること、大学全体を視野に入れた支援を行うことができること、などです(もっと沢山ありますけど)。

従来の治療カウンセリングだけでなく、厚生補導(正課外で学生のニーズに応じて個別に利便を図ることで成長や適応を援助する。主に事務職員によって支えられてきたが、その事務職員への助言なども学生相談室カウンセラーの役割として挙げられる)、心理教育プログラムの実施なども必要になってきます。

多くの大学で学生相談室は、大学内の「保健管理センター」に所属しています。

保健管理センターでは、大学における保健管理に関する専門的業務を一体的に行い、学生及び教職員の心身の健康の保持増進を図ります。

ただし、保健管理センターという名称自体は国公立大学で使われていることが多く、私立大学では置いていない場合もありますので、学生相談室のカウンセラーは学生相談室がどこの所属になっているか把握しておくことが大切です(SCなら教育相談であり、教育相談は生徒指導に属する、みたいな感じの理解を大学でしておくことが重要)。

本問でもあるように、保健管理センターでは専任のスタッフを置いており、その中に精神科医がいてメンタル相談を受け付けています。

また、障害のある学生を支援するコーディネーターを置く大学も増えており、役割としては、障害内容に合わせた修学支援、課外支援など障害学生を対象にした業務から、障害学生を支援する周囲の学生に対して知識やノウハウの提供、さらには職員に対する配慮の依頼や相談業務など幅広いです。

障害学生支援コーディネーターとして、臨床心理士や公認心理師を要件にしている場合も少なくありません。

更に、大学ではハラスメント相談員を置いており、被害者の救済にあたっております。

大学でのハラスメントは、勉学、課外活動、教育、研究、就労等の権利と自由を侵害し、修学意欲、教育意欲、研究意欲、労働意欲を損ない、大学の活力ある活動に重大な影響を及ぼします。

私自身も大学教員として(学生相談室長として)いくつかの事例を見ておりますが、ひどいことをする人というのはいるものです(例えば、卒業論文提出1週間前に「そこを指摘したら、研究の根本がひっくり返っちゃうだろう」という箇所の修正を求めるとか。ひどいもんです)。

本問では、ここで挙げたような専門家や教職員との連携について問われています。

上記を基礎知識として、各選択肢の解説に入っていきましょう。

① 相談の秘密を守るため、できるだけ連携せずにすむ支援方法を工夫する。

守秘義務を重視するあまり結果として支援が滞るという状況は、実は臨床実践で少なくありません。

その代表が「相談の秘密を守るために、できるだけ情報を言わないようにする」という対応で、まだスクールカウンセラーが小中学校に入ったばかりのころに未熟なカウンセラーによって行われ、教職員からの苦情として多いものでした。

この状況は、本来ならばその情報を教職員が知っていることによってクライエントに利益があることでも、カウンセラーが守秘義務を優先したために、クライエントに損害が出るという典型的なものです。

本選択肢の対応も、それに類するものですね。

本選択肢の状況は、守秘義務を守るためというもっともらしい理由は付けていますが、内実は「連携をしない」と言っているわけで、大袈裟に言えば公認心理師法第42条(公認心理師は、その業務を行うに当たっては、その担当する者に対し、保健医療、福祉、教育等が密接な連携の下で総合的かつ適切に提供されるよう、これらを提供する者その他の関係者等との連携を保たなければならない)に抵触する内容ですね。

支援において重要なのは、クライエントに守秘義務の範囲を確認し(これが選択肢③の手続き)、その範囲内での連携を中心としつつも、その範囲外の情報を提供することがクライエントの利益になると見立てたならば、それをクライエントに情理を尽くして伝えて承諾を得る努力をすることです。

決して、本選択肢のように「できるだけ連携せずにすむ支援方法を工夫する」といった連携の価値を低く見積もるような対応を取ってはいけません。

特に学生相談の事例では、学内外の専門家や関係者と協働して支援にあたらないと対応できない場合も多く見られます。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

② 情報の取扱方法について、情報共有する関係者の間で合意形成の必要はない。
③ 支援に関わる関係者と情報共有することをクライエントに説明し、同意を得る。
⑤ 説明し同意が得られた後は、情報共有の在り方に関するクライエントの要望は受け付けない。

ここで挙げた選択肢は、情報の取扱についてクライエントとやり取りする時に明確にしておかねばならない事柄になります。

まず選択肢③ですが、選択肢①の解説でも述べた通り、心理支援における情報の取扱として、クライエントに守秘義務の範囲を確認し、その範囲内での連携を中心としつつも、その範囲外の情報を提供することがクライエントの利益になると見立てたならば、それをクライエントに情理を尽くして伝えて承諾を得る努力をすることです。

上記の「クライエントに守秘義務の範囲を確認する」という行為には、「クライエントが語った内容をどこまで関係者に伝えて良いか」や「どこまでをクライエントの支援にあたる関係者と見なして良いか」が含まれます。

クライエントに「あなたの支援に関わる関係者はこの範囲になる」ということを伝え、その関係者にクライエントの語った内容を伝えることがクライエントの利益になることを共有し、情報提供の同意を得ることが、本問のような学生相談室の事例に限らず重要な手続きと言えます。

こうしたクライエントに同意を得るために伝える内容として、選択肢②が挙げられます。

すなわち、クライエントに対して「支援にあたる各関係者が、クライエントの情報をどのように扱うのか」について説明し、その上で情報提供の同意を得るという手続きがあり得るわけです。

選択肢②の内容は、一見すると「関係者間で行うこと」だと考えがちですが、それは誤りで、実際には「クライエントが安心して情報提供に同意するために、関係者間で話し合っておくことが重要な事柄」と考えておくのが妥当です。

カウンセラーが「各関係者がクライエントの情報をどのように取り扱うのか」という点まで理解し、状況によってはクライエントにその点を伝えることで安心感をもたらすことが可能になります。

不思議なもので、ここまでカウンセラーがクライエントの情報の取扱について配慮していると、クライエントは「各関係者が情報をどのように扱うのか?」とは聞いてきません。

おそらく、そこまで配慮できるカウンセラーの普段のやり取りから、そういった安心感・信頼感が常に伝わっているのでしょう。

いずれにせよ、選択肢②の情報共有する関係者の間で合意形成はクライエントの支援のために非常に重要な手続きと言えます。

続いて、選択肢⑤ですが、こちらは情報の取扱に関する基本的な考え違いがあります。

こういうご時世ですから、多くの機関でインテーク時にクライエントの情報の取扱について確認なり契約なりを結ぶ場合が多いです。

そして、そうした確認や契約の中には必ず「一度同意したとしても、後になって覆すことができます」といった類の文言が付されているはずです。

クライエントの情報はどこまでいってもクライエントのものです。

ですから、一度契約した場合であっても、合意できない面が出てきたら、その点について話し合うことがカウンセラーとしての責務となります。

選択肢⑤のように、同意が得られた後であっても、クライエントの情報についての取扱(情報共有の仕方なども含む)は、クライエントの意思が最も尊重されるべきであり、要望があればその都度伝えてもらうというのが適切な支援関係であると言えます。

以上が、ここで挙げた選択肢の適否判断の根拠となります。

概して言えば、「クライエントが語った情報を、クライエント自身と見なして関わっていく」ということを地でいくことができれば、ここで挙げた選択肢の判断はそう難しくないだろうと思います。

余談ですが「クライエントが語った情報を、クライエント自身と見なして関わっていく」という精神が根付いている人は、クライエントの情報を「取り扱う」という表現がしにくくなってきます。

人に対して「取り扱う」と表現しないのと同様に、クライエントの情報をクライエント自身だと思っていると「取り扱う」とは言いたくない気持ちになるものなのです(情報に対して擬人的に関わるのが自然となる)。

その辺の機微は、クライエントの情報とどのように関わってきたのか、そして関わっていくのかというカウンセラーの基本的態度によって培われるのでしょうね。

よって、選択肢②および選択肢⑤は不適切と判断でき、選択肢③が適切と判断できます。

④ 個人情報保護の観点から、情報共有する関係者は学校に雇用された教職員である必要がある。

「個人情報保護の観点から」とあるので、一応、個人情報保護法を確認しておきましょう。

個人情報保護法第23条には第三者提供の制限が規定されており、個人データの本人、提供元の個人情報取扱事業者以外の主体は、原則として第三者に該当します。

正直なところ、どこまでが第三者であるかは難しいところで、本選択肢の学校に雇用されている教職員であっても第三者だろうと思います。

クライエントの状態がわからない以上、第三者の範囲という基準を本選択肢の適否基準と見なすのは困難と言えますから、別の視点で解説していきましょう。

第三者であろうとなかろうと、カウンセリングで扱われる情報を他者に提供する場合には、クライエントの同意が必須です。

もちろん例外はあって、「直接ケアにあたる専門家間の情報共有」に関しては秘密保持義務の例外状況とされていますが、それでも「直接ケアにあたる専門家間で情報共有することへの同意を得る」という手順を取るのは大切なことです(この辺はYoutube版でも述べています)。

そして、クライエントの同意を得るうえで大切なのは「その情報を提供することで、クライエントの利益になる」という見立てを背景にしていることです。

すなわち、本選択肢の「学校に雇用された教職員」という枠組みだけでは、情報提供の基準にはなり得ないということになります。

もちろん、「学校に雇用された教職員」はクライエントの支援者に該当する割合は高くなるので、必然的に「学校に雇用された教職員」との情報共有が多くはなるのですが、それは「学校に雇用された教職員だから情報共有している」のではありませんよね。

また、情報提供の基準となるのは、先述の通り「その情報を提供することで、クライエントの利益になる」ということであり、その範囲には当然学外の人間も含まれてくる場合があります。

本問では保健管理センターの精神科医がメンバーに含まれていますが、クライエントが学外の医療機関を受診している等の状況はままあることであり、そうなれば学外の主治医との連携も重要な事項になってきますね。

ですから、本選択肢にある「情報共有する関係者は学校に雇用された教職員である必要がある」というのは、クライエントの支援の上では不利益の方が多くなることが想定されます。

以上より、選択肢④は不適切と判断できます。

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