公認心理師 2018追加-12

障害のある児童生徒への合理的配慮に該当する例として、最も適切なものを1つ選ぶ問題です。

合理的配慮については、以前の記事でまとめています。
上記の記事で法律的なところをきちんと押さえたうえで、本問に取り組んでいきます。

関連がある問題としては、公認心理師2018-39などでしょうか。

法律や時代の流れを読めばわかるように、合理的配慮とは発達の凸凹といった「特別支援」の枠組みに単純に納まらない状態像の増加と関連があると思われます。
「特別支援」の枠組みに納まることが難しいため、「通常学級」にいながらの支援を検討する必要が出てきたわけです。
通常学級の中で、その個別性に合わせた支援を行っていきましょうということですね。

もちろん、名目上は特別支援の枠組みの人たちが「障害のない人と同様の教育機会を得る」ということも前提としています。
しかし、これまでそういうことをしていなかったのに、近年になって「合理的配慮」について示され出したのは、そういった社会的事情があると見るのが自然でしょう。

解答のポイント

合理的配慮の基本的な考え方を理解していること。
内閣府や文部科学省が出している「合理的配慮の例」に目を通しておくと良い。

選択肢の解説

『①特別支援学校(視覚障害)の授業で点字を用いる』
『②特別支援教室において個別の取り出し指導を行う』
『④特別支援学校(視覚障害)の授業で音声言語とともに手話も使う』

障害者権利条約第2条によると「「合理的配慮」とは障害のある人が他の人同様の人権と基本的自由を享受できるように、物事の本質を変えてしまったり、多大な負担を強いたりしない限りにおいて、配慮や調整を行うことである」とされています。

そして同条約の第24条「教育」に関しては、教育についての障害者の権利を認め、この権利を差別なしに、かつ、機会の均等を基礎として実現するため、障害者を包容する教育制度等を確保することとし、その権利の実現に当たり確保するものの一つとして、「個人に必要とされる合理的配慮が提供されること」を位置付けています。

すなわち、教育における合理的配慮とは「障害のある人が、他の人と同様の教育の機会を得られるよう、ものごとの本質を変えたり負担を強いたりしない程度で、配慮や調整を行うこと」であるとまとめられます

ここで挙げた3つの選択肢については、すべて「特別支援教育における個別性に合わせた対応」と言えます。
ですが、そもそも合理的配慮とは「障害のある人が、他の人と同様の教育機会を得られるよう」にするためのものですから、3つの選択肢の内容とは合致しないことがわかります。

文部科学省における合理的配慮に関するページにも「障害のある児童生徒等に対する教育を小・中学校等で行う場合の「合理的配慮」は、特別支援学校等で行われているものを参考とする」となっており、合理的配慮≠特別支援ではないことが読み取れます

もちろん、この3つの選択肢の内容が通常学級で行われていたならば、それは合理的配慮と呼ぶことができます
文部科学省が出している「合理的配慮の例」でもこれらの内容は含まれています。

以上より、選択肢①、選択肢②および選択肢④は不適切と判断できます。

『③肢体不自由の児童生徒のために学校にエレベーターを設置する』

障害者差別解消法 第7条第2項には以下のように記載があります。
「行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない」

本選択肢の内容は、障害者に対しての配慮と見做すことが可能ではあります。
一方で上記の下線部にあるとおり、合理的配慮は「その実施に伴う負担が過重でない」ということを前提に行われるものです。

選択肢は「児童生徒」となっているので、小学校~高校までが考えられますが、3年~6年のみ在籍する生徒のために数百万円かかるであろうエレベーターの設置は「負担が過重」と捉えても良いと思われます(上記の「当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて」という箇所とも関連する内容ですね)。

「肢体不自由があるのに、高いところまで登らせるのか!」と言われる方もおられると思いますが、もちろん何もしないわけではありません。
例えば、その児童生徒の学年の教室を低層階にするなどの対応が考えられますね。

学校は既にある教室数を前提に割り振りを行うこと、特殊な教室(音楽室等)については場所を替えることがことができないなどの制約があります(そのため、上記のような低層階に教室を置くことが難しい場合もあるでしょう)。
保護者や障害者本人は、こうした制約と、本人の障害の状態や意思を踏まえて、入学前や転校前に学校側ときちんと協議しておくことが重要です。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

『⑤試験の際、書字障害の児童生徒にパーソナルコンピューターでの答案作成を許可する』

書字障害の児童生徒の場合、普段は何かしらの支援を受けていますが、試験内容については他の児童生徒と同じものを受けるということも少なくないでしょう。
この際、パソコンを用いて答案作成することで、「障害が無い人と同様の教育機会をえる」という取り組みは十分に考えられるものです。

上記については、内閣府が出している「合理的配慮の提供事例集」にも類似の記載が見られます。

現在はパソコンも小型化されていますし、こういう児童生徒の場合はパソコンに慣れていることが多いと思います。
実際に学校でこういう取り組みをする場合は、例えば、テストの回答を口頭で言ってもらい代筆を行ってその効果を検証することもあり得ると思います。

書字障害の有無によって、かなりテストの点数が変わってきます。
単純に字が書けないということよりも、字を書くのに時間がかかってしまうので解答用紙が埋まらない、ということが多いような印象を持っています。

以上より、選択肢⑤は適切と判断できます。

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