公認心理師 2024-111

心理教育的援助サービスにおける一次的援助サービスに関する問題です。

一次的援助サービス~三次的援助サービスまで説明できることが重要ですね。

問111 心理教育的援助サービスにおける、一次的援助サービスとして、最も適切なものを1つ選べ。
① 開発的カウンセリング
② 行動的カウンセリング
③ 折衷的カウンセリング
④ 治療的カウンセリング
⑤ 問題解決的カウンセリング

選択肢の解説

① 開発的カウンセリング

心理教育的援助サービスには以下の3段階があるとされています。

  • 一次的援助サービス:
    「すべての子ども」を対象に行われる発達促進的、予防的援助サービスを指します。
    予防的援助サービスは、ある場面で多くの生徒が出会う問題を予測して前もって援助することを指し、発達促進的サービスは、生徒の一般的な適応能力(学習スキル、対人関係能力等)野発達を促進するサービスを指します。
  • 二次的援助サービス:
    登校しぶり、学習意欲の低下、孤立など、学校生活で苦戦している、もしくは転校生などの苦戦する可能性が高い「一部の子ども」を対象に行います。
    早期発見、早期対応が鍵となります。
  • 三次的援助サービス:
    不登校、いじめ、非行、虐待などの問題状況によって特別な援助ニーズを持つ「特定の子ども」を対象に行われます。
    一人ひとりの子どもの問題状況は異なるため、それぞれの子どもの状況について心理アセスメントを行い、具体的な援助を組み立てながら問題の解決にあたります。
    教育・援助目標(長期の目標、短期の目標)を立ててそれを達成するための教育計画を作り実践していきます。

このように、心理教育的援助サービスにおける一次的援助サービスとは、すべての子どもを対象として行われる、発達促進的・予防的援助サービスを指すわけですね。

続いて、学校における開発的カウンセリングについては、文部科学省のホームページに説明が載っています。

「将来、児童生徒が自立して豊かな社会生活が送られるように、児童生徒の心身の発達を促進し、社会生活で必要なライフスキルを育てるなどの人間教育活動を行う」

「全ての児童生徒を対象とし、教科学習や特別活動、総合的な学習など、学級、学校全体の教育活動を通して、児童生徒の成長を促進する」

「開発的カウンセリングは、児童生徒の心理的な発達を促進し、社会生活で必要なライフスキルを育て、困難な問題に対処する力やストレス耐性を高める活動である」

活動の視点として「人権教育」「ライフスキル教育」「キャリア教育」などがありますが、特に「ライフスキル教育」の項目の中で具体的な事項が以下の通り述べられています。

WHO(世界保健機関)は、どの時代、どの文化社会においても、人間として生きていくために必要な力があるとし、それをライフスキルと定義しました。
ライフスキルには、次の10のスキルがあるとされています。

  1. 意思決定(Decision making):
    生活に関する決定を建設的に行う力。様々な選択肢と各決定がもたらす影響を評価し、主体的な意思決定を行うことにより望ましい結果を得る。
  2. 問題解決(Problem solving):
    日常の問題を建設的に処理する力。
  3. 創造的思考(Creative thinking):
    どんな選択肢があるのか、行動の結果がもたらす様々な結果について考えることを可能にし、意思決定と問題解決を助ける。直接経験しないことを考える、アイデアを生み出す力。
  4. 批判的思考(Critical thinking):
    情報や経験を客観的に分析する能力。価値観、集団の圧力、メディアなど、人々の態度や行動に影響する要因を認識し、評価する力。
  5. 効果的コミュニケーション(Effective communication):
    文化や状況に応じた方法で、言語的または非言語的に自分を表現する能力。意見・要望・欲求・恐れの表明やアドバイス・援助を求めることができる。
  6. 対人関係スキル(Interpersonal relationship skills):
    好ましい方法で人と接触・関係の構築・関係の維持・関係の解消をすることができる。
  7. 自己認識(Self-awareness):
    自分自身の性格、長所と短所、欲求などを知ること。
  8. 共感性(Empathy):
    自分が知らない状況に置かれている人の生き方であっても、それを心に描くことができる能力。共感性を持つことで、人々を支え勇気づけることができる。
  9. 情動への対処(Coping with emotions):
    自分や他者の情動を認識し、情動が行動にどのように影響するかを知り、情動に適切に対処する能力。
  10. ストレス・コントロール(Coping with stress):
    生活上のストレッサーを認識し、ストレスの影響を知り、ストレスレベルをコントロールする。ストレッサーに適切に対処し、リラックスすることができる。

これらを踏まえれば、「すべての子どもを対象として行われる、発達促進的・予防的援助サービス」として、開発的カウンセリングは適切であることがわかると思います。

「将来、児童生徒が自立して豊かな社会生活が送られるように、児童生徒の心身の発達を促進し、社会生活で必要なライフスキルを育てるなどの人間教育活動を行う」「全ての児童生徒を対象とし、教科学習や特別活動、総合的な学習など、学級、学校全体の教育活動を通して、児童生徒の成長を促進する」「開発的カウンセリングは、児童生徒の心理的な発達を促進し、社会生活で必要なライフスキルを育て、困難な問題に対処する力やストレス耐性を高める活動である」といった開発的カウンセリングの内容は、まさに一次的援助サービスに該当しますね。

よって、選択肢①が適切と判断できます。

④ 治療的カウンセリング
⑤ 問題解決的カウンセリング

文部科学省は「スクールカウンセリングは、原因を追及し病気を治療する治療モデルではなく、問題を抱えている児童生徒と関わり、児童生徒の問題を解決する力を引き出すことを援助する教育モデルによる活動である」としています。

もちろん、精神的な障害がある場合には専門的な治療が必要になることもあるが、その様な場合においても、医師やなどと連携し、教育領域においては、児童生徒の持つリソースを見出し、対処スキルを高め、心理的混乱を解決することなどのストレス耐性を向上させる教育モデルによる援助が重要になるわけです。

このように、スクールカウンセリングは「治療モデル」と分けて考えているというのが行政上の考え方になりますから、選択肢④の「治療的カウンセリング」はその考え方と合致しないことになりますね。

もちろん、上記にもあるように、実態としては治療モデルの考え方も充分に備えていることが、適切な教育モデルのカウンセリングの実施に欠かせないのは間違いありません。

あくまでも説明の都合上の方便という感じだと思っておいてもらって良いのですが、一応こうした線引きに基づいた選択肢④であったと思っておきましょう。

更に、文部科学省はスクールカウンセリングを、開発的カウンセリング・予防的カウンセリング・問題解決的カウンセリングの3つの援助段階に分けて考えています。

  1. 開発的カウンセリング:
    将来、児童生徒が自立して豊かな社会生活が送られるように、児童生徒の心身の発達を促進し、社会生活で必要なライフスキルを育てるなどの人間教育活動を行う。全ての児童生徒を対象とし、教科学習や特別活動、総合的な学習など、学級、学校全体の教育活動を通して、児童生徒の成長を促進する。
  2. 予防的カウンセリング:
    児童生徒一人ひとりについて、性格、現在の状況、ストレス、悩み、問題などを把握し、問題が発生しそうな児童生徒に予防的に働きかけ、本人が主体的に自らの力で解決できるよう支援する活動を行う。
  3. 問題解決的カウンセリング:
    問題の発生は、開発的、予防的カウンセリングを行うことで低減されることになるが、人生を生きていく上では、様々な問題に直面する。このような問題については、カウンセリング的アプローチにより問題の解決や不適応状態からの回復を援助する。

これらを選択肢①の解説中にあった心理教育的援助サービスに当てはめて考えると、一次的援助サービス=開発的カウンセリング、二次的援助サービス=予防的カウンセリング、三次的援助サービス=問題解決的カウンセリングということになるわけです。

ですから、本選択肢の「問題解決的カウンセリング」という、問題や不適応を示している子どもへのカウンセリング的アプローチは、一次的援助サービスには該当しません。

よって、選択肢④および選択肢⑤は不適切と判断できます。

② 行動的カウンセリング
③ 折衷的カウンセリング

さて、これら2つは先の文部科学省のページにも言及がないものなので、まとめて解説していきましょう(だから、勉強している人は、開発的カウンセリングと問題解決的カウンセリングで迷ってほしい。この2つで迷える人ならば、治療的カウンセリングは真っ先に外せる)。

行動的カウンセリングとは、行動療法や認知行動療法の文脈のアプローチを指すと捉えて解説していきましょう。

行動的アプローチの基本的立場は「カウンセラーが対象とするのは行動である。感情や認知は、行動から推測されるに過ぎない」として、この背景には「人間のパーソナリティの変容は、環境の影響、それに対する個人の反応、及び個人に対する報酬と罰によってによって説明できる」という考え方があります。

上記は行動療法の背景にある考え方になりますが、幅広い展開を見せる行動療法の共通点として、①人間を理解し、変えようとするものであること、②その方法として、科学的な方法を用いるものであり、対象を観察できない内的世界を、観察・客観的検証が可能な行動に移しており、③科学の対象となった行動の法則を見つけるために人や動物を対象とした実験的研究を行っている、④実験から得られた理論や体系を人間に応用して治療を行うことを目指している、などになります。

こうした行動療法の考え方に、社会的学習理論、認知療法の登場などにより、認知行動療法への統合が行われています。

折衷的カウンセリングとは、おそらく折衷的・統合的介入法のことを指していると思いますので、その線で説明していきましょう。

これは複数の理論を統合して新しい理論体系をつくるアプローチ、理論的背景にはこだわらずクライエントに応じた技法を適用するアプローチ、異なる学派・技法の共通要因を探ることでその本質を検討し適用しようとするアプローチ等が挙げられます。

実際の心理臨床の場面では、折衷的・統合的なアプローチを採ることも多いが、クライエントに役立つ実践に重点が置かれている立場と言えます。

既に述べた通り、こうした行動的カウンセリングや折衷的カウンセリングは、心理教育的援助サービスに含まれていません。

もちろん、心理教育的援助サービスを実践する際に、行動的カウンセリングおよび折衷的カウンセリングの学派で臨むということはあり得ます。

ただ、本問で求められている「心理教育的援助サービスにおける、一次的援助サービス」に該当しないということですね。

よって、選択肢②および選択肢③は不適切と判断できます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です