特別支援教育に関する問題です。
過去問でも問われている内容が含まれていましたね。
問93 特別支援教育に関する説明として、最も適切なものを1つ選べ。
① 通級による指導は、高等学校では行わない。
② 特別支援学校などの特別な教育機関で取り組まれるものである。
③ 就学先として特別支援学校を選択した場合は、高等部まで持続する。
④ 通級による指導は、毎日2時間から4時間、通級指導教室で特別な指導を行うものである。
⑤ 特別支援学校、特別支援学級及び通級による指導では、個別の指導計画を作成しなければならない。
解答のポイント
特別支援教育にまつわる概要を把握している。
選択肢の解説
① 通級による指導は、高等学校では行わない。
④ 通級による指導は、毎日2時間から4時間、通級指導教室で特別な指導を行うものである。
これらは通級による指導に関する基本的な知識が問われています。
「通級による指導」の制度上の位置づけとして、学校教育法第81 条第1項においては、幼・小・中・高等学校において障害による学習上又は生活上の困難を克服するための教育を行うことを定めており、すべての学校において特別支援教育が実施されることとされています。
その上で、通級による指導は、学校教育法施行規則第140 条及び第141条に基づき行われています。
第140 条 小学校、中学校、義務教育学校、高等学校又は中等教育学校において、次の各号のいずれかに該当する児童又は生徒(特別支援学級の児童及び生徒を除く。)のうち当該障害に応じた特別の指導を行う必要があるものを教育する場合には、文部科学大臣が別に定めるところにより、第50 条第1 項(第79 条の6 第1 項において準用する場合を含む。)、第51 条、第52 条(第79 条の6 第1 項において準用する場合を含む。)、第52 条の3、第72 条(第79 条の6 第2 項及び第108 条第1 項において準用する場合を含む。)、第73 条、第74 条(第79 条の6 第2 項及び第108 条第1 項において準用する場合を含む。)、第74 条の3、第76 条、第79 条の5(第79 条の12 において準用する場合を含む。)、第83 条及び第84 条(第108 条第2 項において準用する場合を含む。)並びに第107 条(第117 条において準用する場合を含む。)の規定にかかわらず、特別の教育課程によることができる。
一 言語障害者
二 自閉症者
三 情緒障害者
四 弱視者
五 難聴者
六 学習障害者
七 注意欠陥多動性障害者
八 その他障害のある者で、この条の規定により特別の教育課程による教育を行うことが適当なもの
上記の通り、通級による指導は、障害に応じた特別の指導を通常の教育課程に加え、又はその一部に替えて行うものであり、通級による指導を受ける児童生徒については、特別の教育課程を編成する必要があります。
上記の140条で「…の規定にかかわらず」とされている学校教育法施行規則の各条文には、小・中・高等学校の教育課程を編成する教科等や授業時数、教育課程の基準が各学習指導要領に基づくことが定められています。
通級による指導のために特別の教育課程を編成するには、これらの規定の適用を外しておく必要があることから、このように規定されているわけです。
また、第八号で定められている「その他」に該当する障害は、肢体不自由、病弱及び身体虚弱であることが、「障害のある児童生徒等に対する早期からの一貫した支援について」(平成25 年10月4日付け25文科初第756号初等中等教育局長通知)において明らかにされています。
なお、知的障害者については、知的障害者に対する学習上又は生活上の困難の改善・克服に必要な指導は、生活に結びつく実際的・具体的な内容を継続して指導することが必要であることから、一定の時間のみ取り出して行うことにはなじまないことを踏まえ、現在、通級による指導の対象とはなっていません。
上記の通り、学校教育法施行規則第140条において、通級による指導を行う場合には特別の教育課程を編成することができ、その場合には、文部科学大臣が別に定めるところによることとされており、この規定に基づき、平成5年の文部省告示第7号が定められ、障害に応じた特別の指導の具体的内容及び通級による指導を行う際の授業時数等が規定されています。
告示の第2項においては、小・中学校における障害に応じた特別の指導の授業時数について規定されています。
具体的には、年間35単位時間から280単位時間以内範囲で行うことを標準とすることとされています(週当たりに換算すると、1単位時間から8単位時間程度までとなります)。
ただし、学習障害及び注意欠陥多動性障害のある児童生徒については、年間授業時数の上限については他の障害種別と同じにするものの、月1単位時間程度でも指導上の効果が期待できる場合があることから、年間10単位時間(月1単位時間程度)が下限となっています。
告示の第3項においては、高等学校における障害に応じた特別の指導の授業時数について規定されています。
具体的には、年間7単位を超えない範囲で在学する高等学校等が定めた全課程の修了を認めるに必要な単位数のうちに加えることができることとされています。
年間7単位を上限としているのは、中学校と同じ総授業時数に占める割合で通級による指導を可能としたことによります。
本規定は、教育課程内で通級による指導を実施するという性質や生徒の負担軽減等の観点から、特別の教育課程として障害に応じた特別の指導を実施する場合には、当該指導に係る修得単位数を、全課程の修了に必要な単位数のうちに加えることができることとするものです。
また、選択肢⑤の「特別支援学校、特別支援学級及び通級による指導では、個別の指導計画を作成しなければならない」について、通級による指導に関する内容だけ述べておきましょう。
早期からの一貫した支援のためには、障害のある児童生徒等の成長記録や指導内容等に関する情報について、本人・保護者の了解を得た上で、その扱いに留意しつつ、必要に応じて関係機関が共有し活用していくことが求められます。教育委員会においては、幼稚園・保育所・認定こども園や障害児相談支援事業所等で作成されている個別の支援計画等を有効に活用しつつ、障害のある幼児に関する情報を一元化し、小学校へ引き継ぐなどの取組を進めていくことが適当です。
また、通級による指導の対象となる児童生徒の個別の教育支援計画や個別の指導計画の作成や進学先等への引継ぎを促進するための体制を構築することが重要です(H25.10.4 通知、H28.12.9 通知参照)。
そもそも「通級による指導」の担当教師は、当該学校の教員免許状を有する者である必要があり、加えて、特別支援教育に関する知識を有し、障害による学習上又は生活上の困難を改善し、又は克服することを目的とする指導に専門性や経験を有する教師であることが必要ですが、特定の教科の免許状を保有している必要はありません。
ただし、各教科の内容を取り扱いながら障害に応じた特別の指導を行う場合には、当該教科の免許状を有する教師も参画して、個別の指導計画の作成や指導を行うことが望ましいとされています(H5.1.28 通知、H18.3.31 通知、H25.10.4 通知、H28.12.9 通知参照)。
高等学校における通級による指導の単位認定の在り方については、生徒が高等学校の定める個別の指導計画に従って通級による指導を履修し、その成果が個別に設定された目標からみて満足できると認められる場合には、当該高等学校の単位を修得したことを認定しなければならないものとされています(H28.12.9 通知参照)。
このように「通級による指導」であっても個別の指導計画を作成することが定められています。
そして、「通級による指導」であっても個別の指導計画を作成せねばならないのであれば、特別支援学校や特別支援学級でも作成するのは当然と言えますが、この点については以下で述べていくことにしましょう。
以上のように、高校であっても「通級による指導」は行われますし、時間については「週当たりに換算すると、1単位時間から8単位時間程度まで」となっています(選択肢④の「毎日2時間から4時間」はこの規定を超える時間数になりますね)。
よって、選択肢①および選択肢④は不適切と判断できます。
② 特別支援学校などの特別な教育機関で取り組まれるものである。
③ 就学先として特別支援学校を選択した場合は、高等部まで持続する。
障害のある子供の学びの場については、障害者の権利に関する条約に基づく「インクルーシブ教育システム」の理念の実現に向け、障害のある子供と障害のない子供が可能な限り共に教育を受けられるように条件整備を行うとともに、障害のある子供の自立と社会参加を見据え、一人一人の教育的ニーズに最も的確に応える指導を提供できるよう、通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校といった、連続性のある多様な学びの場の整備が行われているところです。
特別支援教育が行われているのは、以下のような場になります。
- 特別支援学校:
障害のある幼児児童生徒に対して、幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に準ずる教育を施すとともに、障害による学習上又は生活上の困難を克服し自立を図るために必要な知識技能を授けること目的とする学校。
【対象障害種】視覚障害者、聴覚障害者、知的障害者、肢体不自由者又は病弱者(身体虚弱者を含む) - 特別支援学級
小学校、中学校等において以下に示す障害のある児童生徒に対し、障害による学習上又は生活上の困難を克服するために設置される学級。
【対象障害種】知的障害者、肢体不自由者、病弱者及び身体虚弱者、弱視者、難聴者、言語障害者、自閉症者・情緒障害者 - 通級による指導
小学校、中学校、高等学校等において、通常の学級に在籍し、通常の学級での学習におおむね参加でき、一部特別な指導を必要とする児童生徒に対して、障害に応じた特別の指導を行う指導形態。
【対象障害種】言語障害者、自閉症者、情緒障害者、弱視者、難聴者、学習障害者、注意欠陥多動性障害者、肢体不自由者、病弱者及び身体虚弱者 - 通常の学級
小学校、中学校、高等学校等にも障害のある児童生徒が在籍しており、個々の障害に配慮しつつ通常の教育課程に基づく指導を行っています。なお、小学校、中学校における、学習障害、注意欠陥多動性障害、高度自閉症等の発達障害の可能性がある児童生徒は6.5%程度の在籍率となっている(平成24年に文部科学省が行った調査において、学級担任を含む複数の教員により判断された回答に基づくものであり、医師の判断によるものではない点に留意が必要)。
私のイメージですが、元々「特別支援教育」は特別支援学校や特別支援学級でなされているのが一般的でした。
それが発達障害などのように、いわゆる5障害(視覚障害者、聴覚障害者、知的障害者、肢体不自由者又は病弱者)に該当せず、通常学級においても何らかの困難を抱える子どもたちが増加してきたことにより、特別支援学級・特別支援学校で培われてきたノウハウが「逆輸入」される形で通常学級に入ってきたという印象を持っています。
一斉授業をしつつ特別支援教育のノウハウを活用するのは、ある意味、特別支援学級・特別支援学校で授業を行うよりも困難な面はありますが(設備等が整っていない、他の児童生徒への教育機会も保つなど)、インクルーシブ教育の名のもとに広がってきているわけです。
いずれにせよ、特別支援教育とは「特別支援学校などの特別な教育機関で取り組まれるもの」ではないことがわかりますね。
続いて選択肢③の、いったん特別支援学級や特別支援学校に就学した場合に、高校などでも特別支援学校に行かねばならないのか、について述べていきましょう。
まずはわかりやすい特別支援学級を例にとると、特別支援学級の対象障害種が「知的障害者、肢体不自由者、病弱者及び身体虚弱者、弱視者、難聴者、言語障害者、自閉症者・情緒障害者」となっており、分類としては知的学級・情緒学級というものになります。
たいていの肢体不自由、病弱、聾唖者に関しては、専門的な設備や蓄積のある特別支援学校に進級することがほとんどですが、知的障害者やいわゆる発達障害については、特別支援学級で対応することも多くなります。
その場合、知的障害者は「知的学級」に、発達障害者は「情緒学級」にというのが大まかな弁別になります(本人の状態等や学校の事情などによって、この辺は変わってくるので絶対ではない)。
ポイントになってくるのが、特別支援学級では発達障害を対象とした「情緒学級」がありますが、特別支援学校の障害種は5障害(視覚障害者、聴覚障害者、知的障害者、肢体不自由者又は病弱者)であり、発達障害が含まれていないという点です。
つまり、知的に大きな問題のない発達障害の場合、高校以降では特別支援学校の対象にはなっていないということです。
もちろん、知的発達に遅れがなく、発達障害のみがある場合でも、「就学相談」の結果によっては特別支援学校へ入学することもあり得ますが、その地域や障害の具合等によって差があるので、「入れることが前提にはなっていない」という認識でいた方が良いでしょう。
こうした状況ですから、当然、発達障害によって特別支援学級(情緒)に在籍していた子どもが高校へ進学するときには、普通高校を選択することになります。
そもそも論ですが、個々人がどこに就学するかは個々人の自由です。
ですから、障害があろうとも、特別支援学校に在籍していようとも、基本的には普通高校への進学などは選択肢として存在し続けます。
実際に、文部科学省の高等学校入学資格Q&Aの「特別支援学校の高等部2年を修了後に、普通科の高等学校の3年次に編入学することはできますか」への回答では「可能です。校長が、相当年齢に達し、当該学年に在学する者と同等以上の学力があると認める場合には、編入学を許可することとなります。具体的な手続きは、編入学を希望する学校にお問い合わせください」となっています(編入学に関する内容ですが、進学時の選択肢としてもあり得ると読み替えて良いでしょう)。
実際には、肢体不自由や聾唖者に対する設備や教育方法が培われていない等、受け容れられない場合は多いのが一般的ですが、あくまでも「高校の判断次第」であると言えます。
ただ、知的障害の程度が軽微な場合には、特別支援学校に通っていた生徒が普通高校へ進学するということはあり得ることでしょうね。
その場合には、その子どもにとって何が大切なのか(進学すること、安定した職に就くこと、自立した生活を営めることなど)、その子どもの希望なのか(親の希望を汲み取っていないか)などを見極めながら対応していくことになるでしょう。
以上より、選択肢②および選択肢③は不適切と判断できます。
⑤ 特別支援学校、特別支援学級及び通級による指導では、個別の指導計画を作成しなければならない。
2003年、文部科学省は、「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」で、障害のある幼児児童生徒の多様なニーズに適切に対応する仕組みの一つとして、「個別の教育支援計画」というツールの作成を提示しました。
また、小学校・中学校・高等学校の学習指導要領では、特別支援学級や通級による指導において、「個別の教育支援計画」や「個別の指導計画」を作成することが義務付けられています。
「個別の指導計画」とは、個々の児童の実態に応じて適切な指導を行うために学校で作成されるものであり、教育課程を具体化し、障害のある児童など一人一人の指導目標、指導内容及び指導方法を明確にして、きめ細やかに指導するために作成するものです。
似たようなものとして「個別の教育支援計画」がありますが、こちらは平成15年度から実施された障害者基本計画においては、教育、医療、福祉、労働等の関係機関が連携・協力を図り、障害のある児童の生涯にわたる継続的な支援体制を整え、それぞれの年代における児童の望ましい成長を促すため、個別の支援計画を作成することが示されました。
この個別の支援計画のうち、幼児児童生徒に対して、教育機関が中心となって作成するものを、個別の教育支援計画と呼びます。
要するに、「個別の教育支援計画」とは「願い、障害による困難な状況、支援の内容、生育歴、相談歴など、子供に関する事項について、本人・保護者も含めた関係者で情報共有するためのツール」であり、「個別の指導計画」とは「子どもの実態に応じて適切な指導を行えるよう、一人一人の指導目標、指導内容及び指導方法を明確にしたもの」になります。
こちらのサイトに上記のようなイメージ図があり、わかりやすかったです。
上記にある通り、小学校・中学校・高等学校の学習指導要領では、特別支援学級や通級による指導において、「個別の教育支援計画」や「個別の指導計画」を作成することが義務付けられています
特別支援学校に関しても同様で、学習指導要領では、「通級による指導、特別支援学級、特別支援学校において指導を受けている児童生徒については、「個別の指導計画」を全員作成すると(小学校学習指導要領解説 中学校学習指導要領解説)されています。
以上より、選択肢⑤が適切と判断できます。