公認心理師 2022-76

限局性学習障害の診断がなされている事例への対応に関する問題です。

ポイントは「診断」と「担任の気がかりとなっている事象」に矛盾がないことであり、それを前提にして選択肢を検証することが大切です。

問76 10歳の女児A、小学4年生。小学3年生の3月に限局性学習症/限局性学習障害〈SLD〉と診断された。新学期が始まり、スクールカウンセラーBはAの担任教師Cから、A に対する支援について相談を受けた。Cの情報によると、Aはおとなしく穏やかな性格であり、他の児童との交流は良好である。一方で、語彙が乏しいため、自分の気持ちを適切に表現できない様子がみられる。授業中は、板書をノートに書き写すことに時間がかかっている。結果として、学習に遅れが生じている。
 Bの最初の対応として、最も適切なものを1つ選べ。
① 個別の指導の時間をとるようCに助言する。
② Aの感情の言語化を促すようにCに助言する。
③ Aに知能検査を実施して、認知機能の偏りを把握する。
④ 授業中の学習活動を観察して、Aの学習方略とつまずきを把握する。

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解答のポイント

診断と生じている問題が合致しているという前提で事例を捉えていく。

選択肢の解説

① 個別の指導の時間をとるようCに助言する。
② Aの感情の言語化を促すようにCに助言する。
③ Aに知能検査を実施して、認知機能の偏りを把握する。
④ 授業中の学習活動を観察して、Aの学習方略とつまずきを把握する。

本問に関しては、一括して解説した方が理解しやすいと思います。

まず事例の特徴について書き出してみましょう。

  1. 10歳の女児A、小学4年生。
  2. 小学3年生の3月に限局性学習症/限局性学習障害〈SLD〉と診断された。
  3. 担任の情報によると、Aはおとなしく穏やかな性格であり、他の児童との交流は良好である。
  4. 語彙が乏しいため、自分の気持ちを適切に表現できない様子がみられる。
  5. 授業中は、板書をノートに書き写すことに時間がかかっている。結果として、学習に遅れが生じている。

まず重要なのがSLDと診断されているという情報になり(上記の2)、加えてSLDの傾向が校内で見られる心配なポイントとして挙げられています(上記の4および5)。

「自分の気持ちを適切に表現できない」といういくつかの見立てが浮かぶような情報に対しては(コミュニケーション関連の問題と見なすこともできなくはないですよね)、「語彙が乏しいため」とわざわざ理由付けをしてあり、「SLDによって起こっている問題なんですよー」という出題者からのメッセージがあります。

一応、SLDの診断基準を引用しておきましょう。


A.学習や学業的技能の使用に困難があり、その困難を対象とした介入が提供されているにもかかわらず、以下の症状の少なくとも1つが存在し、少なくとも6カ月間持続していることで明らかになる:

  1. 不的確または速度が遅く、努力を要する読字(例:単語を間違ってまたゆっくりとためらいがちに音読する、しばしば言葉を当てずっぽうに言う、言葉を発音することの困難さをもつ)
  2. 読んでいるものの意味を理解することの困難さ(例:文章を正確に読む場合があるが、読んでいるもののつながり、関係、意味するもの、またはより深い意味を理解していないかもしれない)
  3. 綴字の困難さ(例:母音や子因を付け加えたり、入れ忘れたり、置き換えたりするかもしれない)
  4. 書字表出の困難さ(例:文章の中で複数の文法または句読点の間違いをする、段落のまとめ方が下手、思考の書字表出に明確さがない)
  5. 数字の概念、数値、または計算を習得することの困難さ(例:数字、その大小、および関係の理解に乏しい、1桁の足し算を行うのに同級生がやるように数字的事実を思い浮かべるのではなく指を折って数える、算術計算の途中で迷ってしまい方法を変更するかもしれない)
  6. 数学的推論の困難さ(例:定量的問題を解くために、数学的概念、数学的事実、または数学的方法を適用することが非常に困難である)

「授業中は、板書をノートに書き写すことに時間がかかっている。結果として、学習に遅れが生じている」といった点から、Aにはディスグラフィア(書字表出障害)という字を書くことの障害が存在している可能性が読み取れます。

文字の形を適切に認識することが困難で、視覚から得る情報処理に困難を抱くことが特徴で、字を書く課題である漢字の書き取りや作文を苦手とする可能性は高いとされていますが、現時点ではAについてその辺の詳しい情報は認められません。

また、こうした傾向により「語彙が乏しいため、自分の気持ちを適切に表現できない様子がみられる」ということが生じている可能性も考えられますね。

なお、それ以外の問題は示されておらず、対人関係上の問題がないことは明記されていますね。

つまり、この事例の表記からは「Aに起こっているのは、元々診断されているSLDによって生じた問題なんですよ」ということが示されており、その一方でSLDに関する詳しい苦手領域については明示されていない状態ですね。

ですから、本事例においては何か新しい問題を探索する必要は現時点ではないので、選択肢③の「Aに知能検査を実施して、認知機能の偏りを把握する」は棄却されることになります。

もしも事例において「SLDでは説明がつかない問題(SLDで説明できない認知機能の問題など)」が生じているならSLD以外の問題を見立てる上で知能検査を実施するということはあり得るのですが、事例の時点ではそういった対応が必要であるとは言えません(それに、前年度の末にSLDと診断されているということは、その時点で確実に知能検査を実施していますので(こちらのページを参照に)、改めて行うのは適切か怪しいところです。現時点が何月か表記がないので明確にはできませんが)。

本事例の時点においては、より具体的にAのつまづきを理解する必要があり、選択肢④の「授業中の学習活動を観察して、Aの学習方略とつまずきを把握する」ということが大切になってきます。

Aがどのような学習方略を行っているのか、それを実践する上でどのようなつまづき方をしているのか、を理解することでAに対して行える支援を検討することが可能になりますね。

文部科学省も示している通り、学習障害とは別の理由により教科学習に遅れが見られる児童生徒に対する指導内容・方法と重複する部分も少なくないので、教室内での工夫によって対応することが重要になってきます。

ですから、本事例の時点でいきなり選択肢①の「個別の指導の時間をとる」という対応は、そうした文部科学省の方針と逆行するものと言えます。

個別指導を行うにしても、Aの状態が「教室での全体指導が入りにくく、合理的配慮等を行ったとしてもその範囲を超えている」と見なされる場合になるのが一般的ですから、まずは選択肢④の「学習方略のつまづきを把握する」ことが優先され、その上で個別指導の必要性を検討することになりますね。

最後に、選択肢②の「感情の言語化を促す」という対応ですが、こちらについても、まずはAの学習方略とつまづきの検証が重要になってきます。

なぜなら、Aの学習方略及びつまづきによって学習が遅れており、それが語彙の乏しさに繋がっているとしたら、まずは学習方略の修正や元々の学習方略をやり易くする工夫が重要になってきますね。

また、Aの「自分の気持ちを適切に表現できない」のは「語彙の乏しさ」に由来していると明記してありますが、この「語彙の乏しさ」と選択肢②の「感情と言語のつながりの脆弱さ」とはイコール関係で単純に結んでよいとは言えないです。

「語彙の乏しさ」によって気持ちの表現が適切にできないのであれば、考えるべきは「どうやったらAの語彙が増えるか」であり、「感情と言語をつなげる」ということではないはずです(そもそも、つなげるための「言語」が乏しいと言っているわけですからね)。

というわけで、選択肢②の内容は見立てと対応の整合性が取れていないと言えますね。

以上より、本事例においてはAの学習方略とそのつまづきを把握し、教室内での支援方略を探っていくことが重要になります。

学習方略に問題があれば適切な方略の提示が行えますし、教授方法を修正すればAが理解できる箇所が想定されるのであれば担任Bにそのことを伝えていくことになるでしょう。

また、そのつまづきの大きさから、個別指導の必要性(選択肢①)や認知機能の偏りの査定(選択肢③)が必要だと判断されれば、それらを行っていくことになりますね。

よって、選択肢①、選択肢②および選択肢③は不適切と判断でき、選択肢④が適切と判断できます。

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