公認心理師 2022-124

いじめ防止対策推進法及びいじめの防止等のための基本的な方針」に関する問題です。

この方針自体を読んでいなくても、いじめに関する基本的な理解があれば正答を選ぶことができると思います。

問124 いじめ防止対策推進法及びいじめの防止等のための基本的な方針(平成29年改定、文部科学省)の内容として、誤っているものを1つ選べ。
① 学校いじめ対策組織に、スクールカウンセラーが参画する。
② 学校は、学校いじめ防止プログラムやいじめの早期発見・事案対処のマニュアルを策定する。
③ いじめの判断には、他の児童生徒からの行為で生じた被害者の心身の苦痛が客観的に認められる必要がある。
④ 教職員がいじめ問題に対して適切な対処ができるよう、スクールカウンセラー等の専門家を活用した校内研修を推進する。

関連する過去問

なし

解答のポイント

いじめ防止対策推進法及びいじめの防止等のための基本的な方針」について把握している。

選択肢の解説

① 学校いじめ対策組織に、スクールカウンセラーが参画する。
④ 教職員がいじめ問題に対して適切な対処ができるよう、スクールカウンセラー等の専門家を活用した校内研修を推進する。

これらの選択肢に関しては、本問で示されている方針の「スクールカウンセラー」の記載のある箇所の主だったところを抜き出しておきましょう。

  1. いじめ防止基本方針の策定と組織等の設置等の「各地域における組織等の設置に対する支援」
    地方公共団体・学校の設置者・学校が組織等を設ける場合、特に各地域における重大事態の調査において、公平・中立な調査組織を立ち上げる場合には、弁護士、医師、心理や福祉の専門家であるスクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカー、学校教育に係る学識経験者などの専門的知識を有する第三者の参画が有効であることから、この人選が適切かつ迅速に行われるに資するよう、文部科学省は、それら専門家の職能団体や大学、学会等の団体との連絡体制を構築する。
  2. いじめの防止等のために国が実施すべき施策の「いじめの防止等のための対策に従事する人材の資質能力向上」
    全ての教職員がいじめ防止対策推進法の内容を理解し、いじめの問題に対して、その態様に応じた適切な対処ができるよう、心理や福祉の専門家であるスクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカー等を活用し、教職員のカウンセリング能力等の向上のための校内研修を推進する。また,独立行政法人教職員支援機構や教育委員会と連携し、教職員研修の充実を図る。
  3. 学校におけるいじめの防止等の対策のための組織
    法第22条は、学校におけるいじめの防止、いじめの早期発見及びいじめへの対処等に関する措置を実効的に行うため、組織的な対応を行うため中核となる常設の組織を置くことを明示的に規定したものであるが、これは、いじめについては、特定の教職員で問題を抱え込まず学校が組織的に対応することにより、複数の目による状況の見立てが可能となること、また、必要に応じて、心理や福祉の専門家であるスクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカー、弁護士、医師、警察官経験者など外部専門家等が参加しながら対応することなどにより、より実効的ないじめの問題の解決に資することが期待されることから、規定されたものである。
    …可能な限り、同条の「心理、福祉等に関する専門的な知識を有する者」として、心理や福祉の専門家であるスクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカー、弁護士、医師、警察官経験者等の外部専門家を当該組織に参画させ、実効性のある人選とする必要がある。これに加え、個々のいじめの防止・早期発見・対処に当たって関係の深い教職員を追加する。
  4. 重大事態への対処の「調査を行うための組織について」
    学校の設置者又は学校は、その事案が重大事態であると判断したときは、当該重大事態に係る調査を行うため、速やかに、その下に組織を設けることとされている。
    この組織の構成については、弁護士や精神科医、学識経験者、心理や福祉の専門家であるスクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカー等の専門的知識及び経験を有する者であって、当該いじめ事案の関係者と直接の人間関係又は特別の利害関係を有しない者(第三者)について、職能団体や大学,学会からの推薦等により参加を図ることにより、当該調査の公平性・中立性を確保するよう努めることが求められる。

上記の3にある「学校におけるいじめの防止等の対策のための組織」とは、選択肢①の「学校いじめ対策組織」のことを指します。

ですから、選択肢①の「学校いじめ対策組織に、スクールカウンセラーが参画する」に関しては、上記の3の通り記載があることがわかりますね。

また、選択肢④のSCらによる研修についても、上記の2の通り記載があることがわかりますね。

SCらによる研修では様々なものが考えられますが、個人的には中井久夫先生の「いじめの政治学」を中心に据えて研修することが多いです。

人間の権力欲求が他者を支配するという過程と、いじめという現象がつながっていることを克明に描き出しています。

「いじめの四層構造」がいじめを客観的に眺めた知見だとすると、「いじめの政治学」はいじめを人間の内側から捉えた知見だと考えられます。

これを読めば、いじめという現象が許さざるものであり、その奥にある権力欲求をどのように認識し、手懐けることが人間にとって重要であるかがわかると思います(この中で中井久夫先生は人類は権力欲をコントロールする道筋を見出しているとは言い難い、と述べていますね)。

いずれにせよ、選択肢①および選択肢④は「いじめ防止対策推進法及びいじめの防止等のための基本的な方針」として正しいと判断でき、除外することになります。

② 学校は、学校いじめ防止プログラムやいじめの早期発見・事案対処のマニュアルを策定する。

こちらは方針の「学校いじめ防止基本方針の策定」で示されている内容になります。

この中では、いじめに向かわない態度・能力の育成等のいじめが起きにくい・いじめを許さない環境づくりのために、年間の学校教育活動全体を通じて、いじめの防止に資する多様な取組が体系的・計画的に行われるよう、包括的な取組の方針を定めたり、その具体的な指導内容のプログラム化を図るものとして「学校いじめ防止プログラムの策定等」が定められている他、「早期発見・事案対処のマニュアルの策定等」についても定められています。

「早期発見・事案対処のマニュアルの策定等」は、アンケート、いじめの通報、情報共有、適切な対処等のあり方についてのマニュアルであり、それを徹底するため「チェックリストを作成・共有して全教職員で実施する」などといったような具体的な取組を盛り込む必要があります。

そして、これらの学校いじめ防止基本方針の中核的な策定事項は、同時に学校いじめ対策組織の取組による未然防止、早期発見及び事案対処の行動計画となるよう、事案対処に関する教職員の資質能力向上を図る校内研修の取組も含めた、年間を通じた当該組織の活動が具体的に記載されるものとされています。

こうした「早期発見・事案対処のマニュアル」については、インターネットで検索してもらえればたくさんヒットしますし、公開している学校も多いです(例えば、こちらなど)。

学校ごとにこうしたマニュアルを策定しなければならない理由として、一番大きいのが学校のサイズの違いがあるのではないかと考えています。

学校のサイズによって教員の人数がかなり異なり(複式が多いなら学校の教職員は10人に満たない)、大規模校で定められたマニュアルを小規模校に適用しづらいことは容易に想像できるでしょう(逆もまた然り)。

ですから、その市の教育委員会が統合的に一つのマニュアルを、というわけにはいかないわけですね。

以上より、選択肢②は「いじめ防止対策推進法及びいじめの防止等のための基本的な方針」として正しいと判断でき、除外することになります。

③ いじめの判断には、他の児童生徒からの行為で生じた被害者の心身の苦痛が客観的に認められる必要がある。

こちらについては、そもそもの「いじめの定義」に関する理解に間違いがあります。

「いじめの定義」に関しては、いじめ防止対策推進法の第2条に定められており、「この法律において「いじめ」とは、児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう」とされています。

当然、「いじめ防止対策推進法及びいじめの防止等のための基本的な方針」に関しても、上記の定義に沿って策定されていますから、選択肢③の「客観的に認められる必要がある」という点が誤りなわけですね。

そして、方針内では、「個々の行為が「いじめ」に当たるか否かの判断は、表面的・形式的にすることなく、いじめられた児童生徒の立場に立つことが必要である」「この際、いじめには、多様な態様があることに鑑み、法の対象となるいじめに該当するか否かを判断するに当たり、「心身の苦痛を感じているもの」との要件が限定して解釈されることのないよう努めることが必要である」とされています。

具体的には、いじめを受けていても本人が否定する可能性も考えて、当該児童生徒の表情や様子をきめ細かく観察するなどして確認する必要があります。

ただし、客観的な判断も不要とはしておらず、「ただし、このことは、いじめられた児童生徒の主観を確認する際に、行為の起こったときのいじめられた児童生徒本人や周辺の状況等を客観的に確認することを排除するものではない」としています(もしかしたら、この箇所の理解の仕方を本選択肢では問うているのかもしれませんね)。

「客観的な確認」とは、そのいじめ状況を正しく認識するために、どこで、誰が、どのように、という形の確認をすることはあり得るということですね。

確かにそれができないと、いじめという事態を正しく把握することさえ困難になります。

もちろん、本人が主観的に苦痛を感じていなければ「いじめではない」というわけでもなく、「行為の対象となる児童生徒本人が心身の苦痛を感じるに至っていないケースについても、加害行為を行った児童生徒に対する指導等については法の趣旨を踏まえた適切な対応が必要である」とされていますね。

この背景には「子どもたちが自身の苦痛を正しく認知できているわけではない」という考え方があろうかと思います。

上記では「苦痛」としていますが、これが「怒り・攻撃性・悪意」と置き換わっても同様だと思います。

すなわち、加害者側が「わざとではない」「そんなつもりはなかった」と述べたとしても、当人が自身の内にある「怒り・攻撃性・悪意」について正しく認識できているとは限らず、その場合は「どう見てもわざとやっていたり、特定の児童生徒に向けているのに、それを認めない」という事態も生じることになります。

ですから、例えば、加害者が故意であったか否かは、本質としていじめの判断とは関係がなく、あくまでも、いじめの定義は「当人が心身の苦痛を感じているもの」とかなり広く取ることになりました。

この辺がまた被害者・加害者間で難しい事態を巻き起こすのですが、そういう事態が予見されたとしても「これはいじめである」という強い姿勢がいじめ被害者を減らす上では欠かせないという判断なのでしょう。

この辺の大変さは学校の外から見ているだけだったり、どちらか一方からの話を聞くだけでは感じられないところかもしれませんね。

いずれにせよ、選択肢③は「いじめ防止対策推進法及びいじめの防止等のための基本的な方針」として誤りと判断でき、こちらを選択することになります。

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